最近ますます人気のないところに篭る事が増えた。
君の名前が漏れ聞こえると揺らぐ自分を他人に見せたくない。
何も見なければいい、聞かなければいい。
それでも俺の胸の中の君は微笑むことで俺を苦しめるけど・・・
それなのに、上階の人気のないところへ向かっていると、
ピンクツナギの君を遠目で見かけてしまった。
君はいつも通りのくるくる変わる百面相で。
・・・でも様子がおかしい。
いつもよりも数段激しく赤くなったり青くなったり頭を抱えたり。
そしておもむろに君が携帯を取り出してどこかにかけたと思ったら・・・
・・・俺の携帯が鳴っている?
「・・・最上さん、どうしたの?」
「???敦賀さん?どうしてそこに?」
「・・・ちょっと休憩をね。君こそどうした?」
「・・・えーと・・・今敦賀さん忙しいんですよね?
じゃあ今度でいいです。それじゃっ」
逃げていこうとする君の襟首を捕まえて軽く持ち上げる。
足元が定まらないままじたばたともがく君はまるで子猫だ。
「どうしたの?」耳元でささやくと、
君が真っ赤になったのが背後からでもはっきり分った。
とりあえずその辺の人気のない会議室に君を放り込んだ。
座らせて中から鍵を掛ける。
これで人に聞かれる心配はないものの・・・自分の理性が心配だ・・・
君はだんまりを決め込んでいる。言いたくても言えないらしい。
吐かせるか?なんて剣呑なことを考えていると、
彼女がぼそっ・・・と小声でつぶやいた。
「ドラマの準主役を頂いたんです」
「私の役は、援助交際をしている愛を知らない女の子なんです」
「・・・つまり、ベッドシーンが一杯あるんです・・・」
「どーしたらいいんでしょう、敦賀さん??!!何見て何やったら演技できますか??
エッチを見ればいいのかと思って主任にAV持ってたら貸してくださいって言ったら
事務所中の人に固まられちゃうし、それは演技の足しにならないから
頼むから2度と口にするなって主任に注意されちゃうし!
だからって実際に街中でナンパ待ちして援交なんてとてもじゃないけど出来ないし!
でもこれ誰にも相談できないし!何か方法ないものでしょうか??」
襟首を掴まんばかりに俺に泣きつく君。
・・・君は俺を言葉で殺す気か??
この莫迦娘。人の気も知らないで・・・
でもそれは伝えてないから、言えないから、
君が俺を相談相手に思い出してくれたことに安堵するしかなくて。
目を潤ませて上目遣いに錯乱してる彼女も見て、
普段は抑えている黒い気持がむくりと目を覚ました。
「・・・まぁAV見ても、多分君の参考にはならないな。
アレは男を欲情させるためだけの映像だからね。
・・・そういう演技がしたい?」
口の端で笑って見せると、彼女は首をぶんぶんと横に振る。
「援交も薦められないね・・・スクープされたり、病気もらったらどうするの?
そもそも君、男と女がナニをするかってちゃんと分ってる?」
彼女は無言で唇を噛んで俯きっ放しだ。いじめすぎたかな。
「で。なんで俺に電話くれたの?(キュラ☆」
彼女の顔を覗き込むと、彼女は口をぱくぱくさせていた。
「・・・・・・だって・・・・・・敦賀さん演技教えてくれるって言ったじゃないですか・・・」
それって・・・以前の・・・
「ベッドシーンで困ったら、俺が演技教えてあげるって・・・!!」
いやそれ多分意味違う(汗
俺いつかこの娘の言葉で心臓止まって死ぬかもな。
「演技のことだしコレはいくらなんでも光さんには相談できないし、
モー子さんにもなんか相談しにくいし・・・
大先輩に失礼だって分ってはいるんですが、
もう敦賀さんしか私この相談できる人がいなくて・・・(泣」
「・・・光さん・・・?随分親しいトモダチが出来たんだね?彼氏でも出来たの?」
「え?・・・?!?!誤解しないで下さいね?
ブリッジロックさんてみんな苗字が一緒だから、
紛らわしくないよう名前で呼んでるんです。そうしてほしいって言われたし。
バラエティのアシスタントしててお知り合いになったんですけど、
ちょっと出で悩んでいたら、光さんがアドバイスしてくれたんですよ。
それからたまにバラエティの仕事の事を相談するようになったんです。
光さん気さくな人なんでささいな事でも色々話しやすいんです。
男友達、って初めて出来たんですけど、なんかちょっとくすぐったいですね・・・(ニコ」
「男友達、ね・・・んじゃ俺は?君のナニ?」
「・・・?尊敬する大先輩です!(ドキッパリ」
尊敬を勝ち取ってることを喜ぶべきか、
男友達って身近に感じてるみたいでそれうらやましいな、とか、
君の無邪気な笑顔でかき乱されるだけかき乱されて。
可愛すぎて、いっそ君が憎いよ。キョーコちゃん・・・
「・・・あんまり極端に走らないでさ、
とりあえず他の人の演技でも見てみる?
ウチに参考になりそうなドラマや映画のビデオやDVD結構あるし、
貸してあげるから色々見てみて研究するとか・・・どうだろう?」
「・・・私どっちもデッキ持ってないです・・・」
「・・・じゃあウチで見る?」
「へ??」
「へ?って・・・俺は別にかまわないよ。君なら以前も家に入れたことあるし。
俺今日は9時上がりの予定だけど、君は?」
「・・・同じ位ですかね・・・?」
「じゃ、駐車場で待ってて。」
彼女はしばらく考え込んでいたが、
結局承諾して俺の家についてきた。
他に何も解決策を思いつかなかったらしい。
ビデオとDVDの山を引っ張り出して、
なるべく参考になりそうなシーンのある映画やドラマを探していると、
彼女が伏目がちにぽつりとつぶやく。
「・・・どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」
それは下心が・・・じゃない、君がとんでもないことで悩んでるからね。
他の、特に男の所になんて絶対に行かせたくないからだよ、とは言えず。
「どうしてそう思うの?」
「だって・・・敦賀さん忙しい人なのに。なんか申し訳なくて・・・」
「君ね・・・俺が君に色々助けてもらったこと忘れてない?
俺だって借りっぱなしよりは、君の助けになれたら嬉しい。
それじゃ納得いかない?」
・・・まだ悩みがちな彼女に俺は部屋の合鍵を渡した。
「とりあえず役柄がつかめるまで、この部屋自由に使うといいよ。
俺は多分帰りが遅いだろうけど、よかったら
夜食お願いできるかな?君の料理って美味いしさ。
君の為だけじゃなくて、俺だって得するんだけど。」
彼女の表情がぱぁっと明るくなった。
一方的に親切にされるよりも、ギブ&テイクの方が納得いくみたいだ。
甘えベタ・・・というか、他人に甘えたことがほとんどないんだろうな。
当面の食事の材料費もなかなか受け取らなかったし。
距離を保つにはその方が都合がいいんだろうけど、
いっそ彼女を捕まえてしまって、心から甘やかしたい俺もいる。
・・・俺が思いを伝える気がない以上考えてもしょうがない。仕事しよう・・・
彼女に合鍵を渡して3日が経った。
俺も帰りが遅いからあまり彼女と一緒には居ないけれど、
ビデオ・DVDの山を順調にこなしているみたいだ。
でも、彼女の表情はどんどん翳っていくみたいで。・・・何故だろう?
珍しく早く帰れた4日目、彼女は今日の夜食を作っていた。
「あ、お帰りなさい敦賀さん。今日は早いんですね?」
「明日オフだしね。最近キツかったから、社さんが気をつかってくれたのかな」
流れで一緒に食事をした。夜食ももちろん美味いけど、
彼女と一緒に暖かい食事を摂っていると、最近の疲れがふっと消える気がする。
彼女はDVDをセットして、ソファーに座って画面を見つめる。
俺はソファーに寄りかかって床に座り込みながら、
テーブルにおいてあった彼女の脚本をぱらぱらとめくった。
確かに難しいそうな役だな・・・
主役は愛されるのが当たり前の無邪気な女の子。
キョーコちゃんは男性不信でなげやりに生きてる女の子。
正反対で友人な二人とも、「自分から愛する」ことが分らない。
出会いの中で、少しずつ愛を知る・・・というストーリー。
彼女はどうでもいい男との投げやりなベッドシーンと、
「何かこの人は違う?」というシーンと、
「自分は好きなんだけど、態度に出せない」というシーンを、
演技で表現しないといけない。処女になんてことやらすんだ・・・とも思うが
多分監督は彼女の未緒や目の演技を見て採用したんだろう。
あれだけの愛憎を表現できる子が、
実はそこらへんは全くの奥手、なんて思わないよな、普通・・・
TVの画面では濃いラブシーンが繰り広げられている。
私は本当に浮かない気分でそれを見ていて・・・
「・・・私には、分らないです。」
それはほとんど独り言のようで。
「ん?・・・どうした?」
敦賀さんが問いかけてきた。
「分らないってことが、分ったんです」
「だって、好きな人とでも、どうでもいい人とでも、どの位何が違うのか・・・
私に分るのは『私には分らない』ってことだけで・・・
色んな演技の色んなシーンを見て、
そのシーンではこんな演技、って覚えても、
シーンごとの根底にあるモノが分らない・・・
どうしたらいいんだろう・・・やっぱり、体験するしかないのかな・・・
でも体験するっていってもどうしたら・・・うーーー」
「体験したいの?」
「うーん、しなきゃわかんないんですかねー、
でも相手が必要なことだしどーしよーってぐるぐるしちゃって・・・
・・・敦賀さん?なんで怒ってるんですか?」
・・・ふと我に返ると、敦賀さんが無表情で私を見ていた。
私は今一体何を語っちゃったの?
・・・敦賀さんのどこかの逆鱗に触れたの?
煮えてしまっていた自分の独り言を後悔していると、
ソファーに座ってきた敦賀さんが私をひざの上に乗せた。
・・・えええぇえ?!?!?
「相手、ねぇ・・・結構安全な男に一人心当たりがあるけど、どーする?」
「?!?!?」
「今ならタダでレンタル出来るらしいよ?(キュラ☆」
にっこりと微笑まれて、・・・肉食獣に狙われた獲物の気分を久々に思い出した・・・
「敦賀さん・・・そんな破廉恥な人なはず・・・ない、ですよね?・・・」
「・・・破廉恥って、失礼な。
無謀な非行に走りそうな後輩に手を差し伸べてるんだけど?
それって親切って言わない?(キュラリ☆」
・・・顔が熱い。敦賀さんに「ん?」と目で問いかけられて、
腕を廻され胸に包み込むように抱きしめられた。
うわー、堅い胸が・・・あったかいんですけど・・・うひゃーーーー。
「こうされて、どんな感じがする?・・・こうされるのは嫌?」
「・・・えっ!?嫌とかでは・・・チガイマス。いや恐いってのはあるかも・・・
私、人に抱きしめられた事って覚えがなくて・・・」
こんなぬくもり知らない。どうしていいのか分らない。
「俺の背中に手を廻して?俺のこと抱きしめてごらん」
言われるがままに、固まりそうになる腕をそっと背中に廻した。
敦賀さんはかちこちの私の背中をぽんぽんと叩く。
これって・・・ひょっとして赤ちゃん扱い?
「君、こないだのドラマでラブシーンあったんじゃなかったっけ?
よくもまぁこんな固まっててキスシーンなんて出来たね?」
「・・・だって・・・以前敦賀さんとしたキスに比べれば、
台本のキスシーンなんてあっさりしてましたし・・・
結構普通にそういうシーン出来ましたよ。
・・・これってある意味敦賀さんのおかげ・・・?」
今度は俺が真っ赤になる番だった。
少し早くなった俺の心音も聞こえているのだろうか。
彼女の幸せを考えるなら、好きでもない男に抱かれるな、と言うべきで。
でもそれは今今の演技で悩む彼女には何の役にも立たない助言で。
何よりも俺がこんなに可愛い据え膳を逃がす気がない。
今逃がしたら、彼女はどこに・・・誰の所に行ってしまうか分らない。
それだけは絶対に嫌だった。
「どうしていいか分らなくて、本気で困ってます」
「でも、もうすぐ撮影始まっちゃうから、もう時間がないんです」
「敦賀さんに抱きしめられたことは初めてじゃないし、
きっと他の人よりは安心できるんでしょうけど・・・やっぱり恐いです・・・」
「・・・キョーコちゃん、俺に任せて?
恐いことも嫌なこともしないから・・・」
・・・出来るだけ優しく聞こえるように耳元で囁くと、
しばらくして彼女は本当に微かに頷いた。
「・・・今日は泊まっていけばいい」
だるまやに電話を掛けさせ終わると、
彼女はうつむいて真っ赤なままで・・・
背中を撫ぜ、髪を撫でているとふわりと漂う
少女の肌の甘い香りにくらくらする・・・
頬や額にキスを降らしてした後、
少し顎を上げさせ深く口付けた。
少しキツいくらいに、舌をからめて彼女を追い回す。
脱力したところで抱きあげて寝室に連れて行った。
彼女をベッドに横たえると、白い足が無造作に投げ出された。
やばい。恥ずかしさで真っ赤になってる
目をぎゅっと瞑った彼女を見てると、自分が抑えられなくなりそうだ。
落ち着きたくても落ち着けないけど、とにかく彼女を恐がらせないように・・・
深く口付けながら服の釦を外していくと
彼女の手が俺の手に掛かり動きを止めたそうにしている。
・・・今更止まるわけないだろう?
耳たぶから首筋にかけてを軽く舌でなぞったら、
下着だけの彼女の体がぴくり、と震えた。
胸元にもたくさんのキスを落としながら
ブラの上からそっと小ぶりな胸を掬い上げると
彼女が耐え切れずに口を手で覆う。
「・・・声出して?我慢しないで」
ブラを外して、自分の両手で彼女の両手首を掴み
顔の横に止めつけた。
あまり体重をかけないようにのしかかり、
唇へのキスと首筋、胸元へのキスを交互に繰り返す。
時折キスマークをつけながら、小さな乳首を口に含むと
「・・・んぁん!」と彼女が我慢できずに声を上げた。
「可愛いよ」と耳元で囁くといやいやするように体をくねらす。
莫迦だなぁ。その姿じゃ、俺を煽ってるだけだよ?
キスをされて摘まれて吸われて。最初のキスの時と同じ様になすがままになる。
身体も頭の芯も熱いの。これは一体なに?
敦賀さんの唇が体をなぞる度叫びだしそうになる。
抑えている咽の奥からかすれた吐息が漏れる。
その度に敦賀さんの動きがアツくなって、
触れられたところ全てが熱を帯びていく。
さんざん首筋から胸、おへそまで唇でなぞられ・・・
恥ずかしいのと声を抑えたいのとで、
必死で横を向いてシーツに顔を押し付けている私を見て、
敦賀さんは手を開放して私をうつぶせにした。
動かされて足が動いた弾みで、敦賀さんの片足が私のひざの間に入る。
・・・もう、足をぴったり閉じることも出来ない。
後ろからのしかかってきた敦賀さんは、片手で私の胸を愛撫しながら
首筋から背中を丹念に舌でなぞってきた。何度も何度も。
首から敦賀さんに食べられてしまうような感覚に、
舌が動くたびに自分の頭が勝手に反り返る。声が漏れる。
そして敦賀さんの舌がますますねっとりと私を食べていく・・・
もう一方の手は私のわき腹や太もも、お尻を緩やかに往復していたけど、
私が声を抑えきれなくなると、お尻の割れ目にそっとすべりこんできた。
「・・・あっ・・・ぃや・・・」
あそこの周りや突起、周辺を長い指がそっとたどっている。
今まで知らない熱さが下半身に広がり、小さな水音が広がっていく。
やたらと耳につく水音に耳をふさぐと、敦賀さんが「濡れてきたね」と囁いてきた。
甘い低いテノールが耳をくすぐって熱さが全身に広がる。
コレはナニ?ナニが私に起きてるんだろう?
今まで感じたことのない感覚が、後から後から波立ってくる。
分らなくてコワイのに・・・キモチイイの・・・
首と背中を食べ飽きたのか、敦賀さんの体がふっと離れた。
痺れと羞恥から開放されてほっと一息ついたのも一瞬のことで、
私は胡坐を書いた敦賀さんの膝の上で仰向けにされていた。
・・・いやっ・・・とっさに両腕で胸を覆うと、
敦賀さんは私の背に廻した腕で顎を軽く持ち上げ、また深く口付けてきた。
頭の熱さと息苦しさで気が遠くなりかけた時、あそこに指が触れてきた。
・・・え・・・?敦賀さんの長い指がゆっくりと私の中に入ってくる・・・
少しずつ探るように中を撫でながら、根元まで沈められる。
自分の中にこんなに深い場所があるなんて・・・
微かな驚きも、その後の指の動きで・・・何も分らなくなった。
熱い。痺れる感じがあそこから全身に広がっていく。
胸や背中を貪られた時に似ている、でももっと鮮やかな痺れ。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・といやらしい音が響くのが恥ずかしくて
耳と口に手を当てていると、片手を取られて敦賀さんの足の間に持っていかれた。
手に当たった堅い感触に一瞬だけ目を開いた。
・・・ナニコレ?目が合っちゃったんですけど・・・
でも不思議に思ったのは一瞬だけで、敦賀さんの指の動きでまた何も分らなくなる。
熱さと痺れで体の奥から声が漏れる・・・
膝の上にのせた彼女の肢体が弱い照明にほの白く浮かび上がる。
君の堪えてる表情が、それでも漏れる君の声が、俺を煽るだけ煽って止まらなくなる。
俺の指で身悶えしている・・・頭がおかしくなりそうだ。
ふといたずら心で俺のを触らせてみたら、君はコレナニ?な顔をしていて。
本当に何も知らない真っ白なコなんだ・・・
そんなコを俺は優しい先輩のフリをして情欲で引き裂くんだ・・・
・・・背徳感でいっそぞくぞくする。俺はもうとうに狂ってるのかもしれない。
あとで絶対に後悔するぞと心の片隅が警告してるのに・・・
彼女をもう一度仰向けに寝かせると、足の間に顔を寄せた。
太ももの内側をなでて舐め、軽くつねり・・・開きかけた蕾に口付ける。
彼女の背筋が反り返るのにかまわず俺は舌を進め、さらに蕾を解きほぐす。
彼女の小さな悲鳴が聞こえてくる・・・
「・・・ぃやっ・・・お願い、敦賀さん・・・そんなとこ汚い・・・っあ・・・」
信じられない。敦賀さんにあそこを舐められてる・・・
恥ずかしくてたまらないのに・・・キモチイイ・・・
手で敦賀さんの頭を押しやろうとしても、まるで力が入らない。
うんと奥の方まできたり浅くなったり、
その度に背中に何かが波のように這い登ってくる。
一番熱くなってる突起を不意に吸われて、
大波に呑まれるように目の前が真っ白になった。
「・・・あ、あぁ・・・やあっ・・・!!!」
・・・気が付くと、敦賀さんが私の顔を覗き込んでいた。
ちょっと上気した、でもひどく優しいまなざしで・・・
「・・・いっちゃったね?気持ちよくなってくれた?」
微笑んでる彼の言葉で私はまた真っ赤になった・・・
やっぱり意地悪・・・でも、彼の指も動きも、壊れ物を扱うみたいで。
そっと私に覆いかぶさってくると、「少しだけ我慢して?」と囁いた。
彼女がイって放心している間にゴムをつけていると、
徐々に彼女の目に光が戻ってきた。
気持ちよかった?と聞くと真っ赤になっていろ。
可愛いな。本当に可愛い・・・
可愛い、大事にしたいと思う気持と、
その可愛さを引き裂いて汚してしまいたい気持。
今までこんなに自分が自分の気持で揺れ動いたことはなくて、
その度に彼女は俺にとって特別なんだと思い知る。
彼女に覆いかぶさり軽く自分を当てると、
彼女はきゅっと目を閉じた。少しだけ我慢して?
丁寧に解したせいか、多少の抵抗だけでスムーズに侵入できたけど
ううっとうめき声が聞こえて、彼女の気をそらしたくて深く口付けた。
痛いのかな・・・男の俺には分らないけど・・・でももう止まれないよ・・・
キツい中に根元まで入れて口付けたまま動きだすと、
彼女は咽の奥でくぐもった叫び声を上げていた。
でもすこしずつ声に甘さが混ざってきて・・・
一度唇を離すと、紅潮した顔で君は目を堅く閉じている。
甘い声がどんどん高く、締め付けがキツくなってきて、
俺の方が耐えられなくなりそうで・・・
このまま永遠にこうしていたいのに・・・
俺を見ようとしない彼女の濡れた目が見たくて囁いた。
「・・・キョーコ、目を開けて?俺を見て」
何かがあそこに当たってきた。指が入ったときみたいに
ぬるりと押し入ってきたんだけど・・・指とは全然違う大きさで。
比べ物にならない圧迫感と続く痛みでうめいてしまうと、
敦賀さんの口付けも一緒に降ってきた。
舌の動きの翻弄されているうちに、痛いことも忘れてしまいそうで・・・
深い深いところに押し入られて動かれているうちに、
痛みとは違う感覚が沸き起こってきた。
今までの愛撫の痺れに似ている、
でももっと激しい熱さが突き上げられる度に体の芯を貫く。
これはナニ・・・なんなの・・・
今までこんな気持もこんな痺れも知らない。
ただ動かれるままに喘いでいると
「・・・キョーコ、目を開けて?俺を見て」
名前を呼ばれた!?驚いて目を開けると、
・・・すごく切なそうに眉を寄せた敦賀さんがまっすぐ私を見ていて・・・
その瞬間、大波に浚われて何も分らなくなった・・・
「・・・ア・・・や・・・ああああ・・・っ!!」
目を開けて俺を見た後君はいってしまって、
そのキツイ締め付けで俺も自分を解放した。
何もかもが洗われて、押し流されるようで・・・
思わず「愛してる」とつぶやいたけど、
きっと君には届いてない、それでいい・・・
君が静かに眠ってしまったのを見届けると、
俺も彼女を腕に抱きしめ意識を手放した。
あれから何時間経ったのだろう。カーテンの隙間からの光で目を覚ました。
昨日のことが夢じゃない証拠に、君が腕の中で眠っていた。
昨夜の君は俺の行為であんなに乱れていたのに、
今の眠る君は変わらないまま。無邪気な、何も知らないままのようで・・・
一夜の夢は終わってしまった。
あれほど、夜が明けなきゃいいのに、って願ったのにな・・・
君に気づかれないように小さな口付けをして、そっとベッドから降りた。
二人の脱いだ洋服が床に落ちている。
・・・今日はまだ帰したくない。
君が俺を拒否しないと確信できるまで、俺は君を帰せない・・・
服を全部掴むと、俺のパジャマのシャツをベッドにおいて
俺は静かに部屋を出た。
目を覚ますと、見知らぬ部屋の天井が目に入った。
ここ、どこだっけ?
身体を起こすとやけに気だるい。
なぜ全裸で、胸元に紅い華がいくつも散ってて・・・
・・・思い出しちゃった。私は頭を抱えてベッドに突っ伏した。
あーなんて恥ずかしいコトを・・・敦賀さんに顔向けできない・・・
でもでも、ずっとこのままでもいられないし・・・
とりあえずベッドから出ないと・・・
???服がナイ?!?!どうして??
見回すとパジャマのシャツが目に入った。
他に身に付けられそうなものは何もない・・・
なんて大きいシャツなんだろう。
ふともも半分くらいまですっぽり隠れちゃう。
シャツの香りで昨日の敦賀さんを思い出してしばらく固まってたら、
「起きたの?」とドアから顔を覗かせた敦賀さんから声をかけられた。
「?!?!?」
・・・思わずベッドにもぐりこんでしまった・・・
傍にきた敦賀さんが、「おはよう」と頭を撫でてくれた。
恐る恐る顔を上げた私を見て敦賀さんがふわりと微笑っている。
恥ずかしいな・・・きっと今私真っ赤になってる・・・
「シャワーでも浴びておいで?
一応朝ごはんもあるよ。コーヒーとトーストだけだけど・・・」
敦賀さんが朝ごはんって・・・どんな風の吹き回しだろう・・・
でもそれを今聞くのはなんだか恐いから、
「私の服・・・見当たらないんですけど、どこへ?」と聞いたら。
「あ、ブラウスと下着は俺の洗濯のついでに洗っちゃったよ?」
・・・ええぇぇえ???
「ん?どうかした?(キュラ☆」
「お洗濯って・・・敦賀さんが?」
「今日は久々のオフだしね。服はほとんどクリーニングだけど
小物は自分で洗ってるよ。そのついでに、ね。
今日は曇りがちだから、乾くのは午後かな?」
・・・ってことは・・・乾くまで帰れない・・・
こんなに恥ずかしいのに。今すぐ逃げたいのに。いやぁぁあ!!!!
パニックになってる私を見て敦賀さんが苦笑した。
「俺はもう少ししたら用事済ませに外出するから、君はゆっくりしておいで?
今日もう一度台本やビデオ見てみたら、
昨日とはまた違うものが見えてくるかもしれないだろう?
夕方には帰って来るけど、良かったら今日の夕食お願いできないかな。
・・・今日はちゃんと早めに送るから」
服のことやドラマの役作りのコトや・・・
自分の状況を考えると頷くしかなかった。
シャワーを浴びて、パジャマのシャツだけを着た姿でダイニングに行くと、
敦賀さんが甘めのカフェオレとバタートーストをくれた。
お互い昨夜のことには何も触れない。きっと暗黙の了解。
この格好ってすごく恥ずかしいんだけど、
食べているうちになんとなく慣れてきちゃって。
ふと、疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「敦賀さん、家事全部自分でやってるんですか?」
「?」
「だって、あれだけ忙しいヒトなのに・・・
敦賀さんならお手伝いさん雇えばいいコトなのでは?」
「う〜ん・・・俺一人の家事なら大した作業じゃないし、
それで他人が生活に入ってくる方が煩わしいかな・・・」
うー・・・やっぱりこの状況って甘えすぎだよね・・・
私が演技の相談しちゃってパニック起こしたせいで。
せっかくのオフなのに、きっと私がいるせいでゆっくりも出来ない。
ずかずか敦賀さんの生活に踏み込んじゃってる・・・
つい俯いた私を見て、
「・・・君はいいんだよ?俺は君に恩があるし、
君の料理ですごく助かってるって言ったろう?」
敦賀さんは優しく声を掛けてくれるけど、
だからってそれに甘えきるわけには・・・
彼女がトーストを食べ終わった辺りで俺は家を出た。
危なかった・・・わざとパジャマの上だけ着せてたんだけど、
自分だけの余韻を楽しみたかっただけだけど。
女の子だとゆるくなってしまう襟元から覗く鎖骨と胸元と、
昨日俺がつけた紅い華まで微かに見えていて、
俺はもう一度押し倒さないでいるのが精一杯だった。
用事、って言っても特に何もあるわけじゃない。
多少の日用品と、彼女に聞いた今日の夕飯の材料を買うと
後は何もやることがない。
でも、今俺が部屋にいるときっと彼女は落ち着かないだろう。
ほんの少しでも、ゆっくり落ち着いて欲しかった。
・・・俺の目の届くところで。
彼女の悩みに付け込んで、汚い独占欲で彼女を抱いた。
彼女が俺を見る目は決して俺を責めてはいないのだけれど、
何よりも俺が自分がどれだけ卑怯で欲深いかを知っている。
自分の想いを打ち明けるつもりがないのに。
自分を尊敬する先輩としか思っていない彼女に
男なんだと意識して欲しいと。要求する権利もないのに。
こんなずるくて卑怯な自分を本当は知りたくなかった。
でも、君の身体を手放せなかった・・・
「ただいま」
「おかえりなさい、敦賀さん」
「台本進んだ?」
「・・・そうですね、前よりはずっと分ると思いました・・・
ビデオとかで以前気になったとこ見返すと、
前は意味不明だったところも今なら結構納得が行くんです」
「・・・何か分りにくいとこあった?」
「うーん・・・女の人から見て、男の人に抱かれるときに
相手が自分をどう思ってるかって、そんなにはっきり伝わるものですか?」
「・・・伝わると思うよ?だって、男って現金だからね?
愛情がない相手だと、自分の欲を満たすことしか考えてないよ。
力の入れ加減から体重のかけ方、まなざしとか・・・全部が違うだろうね」
「後は、なんでお金に困ってないのに援交するんだろう、とかですかね・・・?」
「俺は男だから、的外れかもしれないけど・・・
自分を認めてもらいたくて必死で周りが見えなくなってるって感じの、
ヤバい雰囲気のファンレターもらう事も多いし、時々考えるよ。
もちろん実際の対応は事務所にまかせっきりだけど、
『自分の事を誰にも見てもらえない』って恐怖。
そんなとき、自分にお金を払ってくれる人がいたら?
お金って分りやすい価値観で、自分に価値があるって思えたら?
・・・そういう気持なら、俺には分らないでもないよ。
俺の仕事も人気商売だからね」
「・・・それならすごく分りやすいです・・・
敦賀さんってやっぱり大人ですよね。」
「・・・そんなことないよ・・・」
敦賀さんが帰ってきてから夕食まで、
台本での疑問とかまだよく分ってないこととか
取りとめもなく色々と教えてもらった。
前は雲を掴むような「分らない」ことが、
自分が行為そのものを知ったことで
ずっと他のヒトの演技の理由が分りやすくなった。
その上で、想像してみればいいんだよ、と敦賀さんが言う。
自分が知ったことから足し算、引き算して
自分ならどう思うか想像してみればいいんだ。
どうしても想像できないところは、人に聞け。
なんならいつでも俺に聞けばいい。答えられれば答えるよ、と。
この人は本当に大人だ。
パニックを起こした私をなだめ、
行為自体も、ひどく優しく扱われていたと思う・・・
あんなことの後でも変わらず優しいまなざしで・・・
他人に踏み込まれるのが好きではないヒトなのに、
ひどく甘えすぎた気がして私は自分を恥じていた。
私が演技に悩んでいても、本当はこのヒトには何にも関係ないのに・・・
下宿先の近くまで送ってくれた敦賀さんにお礼を言って合鍵を返した。
だいぶ役もつかめてきたし、これ以上甘えちゃいけない。
本当にありがとうございました。役柄もだいぶつかめてきたし、
全部あなたのおかげなんです。俳優を目指すのも、
自分を見つけられたのも、演技の幅が広がるのも・・・
だから、あなたに必要以上に甘えたりしません。
どうか今までどおりに、後輩のままでいさせてください。
どうか、この関係をうっとおしいと思わないで下さい・・・
手を振って別れた後、今後彼の態度が変わりませんように、
遠ざけられませんように、と私は心底祈っていた。
適当に時間をつぶして予定よりも早めに戻ると、
彼女は熱心にビデオを見ていた。
台本には付箋がびっしりで・・・
でも、昨日までの表情よりは明るい顔で。
色々な質問に自分なりに答えていると、
もう一度・・・という意地汚い欲望が今だけは薄れていく。
今のこのコは将来有望で熱心な後輩。
今の俺は後輩を気遣う優しい先輩。・・・上辺だけはね・・・
それでも・・・君のそばにいられる距離だから・・・
夕食後、下宿先の近くまで送っていくと、
ひどく丁寧な心のこもったお礼を言って、
彼女が俺に合鍵を返してきた。
『ずっと持っていていいんだよ』
咽元まで出かけた言葉をぐっと押さえ込み、
「またいつでもおいで?君の相談ならいつでもいいよ。
俺だって君のおかげで色々助かってるんだから嬉しいんだよ?」
と、当たり障りのない言葉で返して。
下宿先に向かう彼女が見えなくなると、
俺はハンドルに顔を伏せた。
寂しい。分ってはいたけど、寂しい。
キスしたときだって、後で返って辛くなるって分っていたのに。
あのまま閉じ込めてしまいたかった。
そんな俺の気持を、きっと君は永遠に知らないだろう―――……