しっかりと逃げられないように、私を組み敷いている敦賀さんの視線が痛い。
優しく、そして懇願するような甘みを帯びた声で、私の名前を何度も呼ぶ。
ゆっくりと、的確に私の快楽の中心を射るように、大きな律動で私を犯す。
視線が痛くて、堪えられなくて、私はいつもそれから逃げる。
顔を背けて、声が出ないように自分の拳で口を塞ぐ。
時々こらえきれずに漏れてしまうけれど、きっとそれは気付かれている。
「キョーコ…こっち、向いて?」
毎夜請われるその願いに、私は無言で首を振って応える。
「声…出してくれないの?」
そんなこと言われたら、ますます意識してしまって、声を抑えてしまう。
「どうして…?キョーコの声、聞きたい…」
頬にかかった髪を指でそっとすくう敦賀さん。
やめて…顔が…表情が、見えちゃう。
気持ちよさに抗えなくて、本当は我を忘れて喘いでしまいそうで、叫びたいくらいに好きなことが、バレちゃいそうで怖いのに。
「んっ……だって…」
「恥ずかしいから、ってのはナシだよ?」
ようやく口を開いた私の台詞を先回りして、敦賀さんは意地悪に小さく笑いをこぼしている。
他に言い訳が思い浮かばなくて、困った私は言葉に詰まる。
ピリリリリ…と敦賀さんの携帯電話が枕元で鳴った。
気まずい間が出来て、動きが止まる。
「敦賀さん…電話、鳴ってます」
言わなくてもいいことだけど、胸の奥がもやもやして、つい言ってしまう。
また感じた、突くような視線。
私を味わうように再び腰を動かし始めた敦賀さんは、「社さんだよ」と無機質な声で言った。
「嘘…っ」
最近いつもこの時間に鳴る電話。
敦賀さんはその度に、困った顔で携帯電話を一瞥して放置する。
社さんだったら無視するわけがない。
「だったら、出てください…!」
どうせ、共演した女優さんとかに迫られてるんでしょう?
無視してるってことは、相手にしていないってことで…それはわかっているけれど、悔しくて、それに少し不安。
キッと睨んだ私を見て、敦賀さんは動揺するどころか、嬉しそうな顔をした。
「やっと、こっち向いたね」
「それは…っぁああっ、ゃあ、あ…んんぁっ…!」
「やっと声…出した、ね…」
不意打ちみたいに攻められて、思わず上げてしまった声。
一度零れたそれは堰を切ったように止まらなくて、
気持ちよさに犯されて流されていく理性と共に、電話の音もかき消されていった。