「敦賀さん?敦賀さんってば!」
「あー…なに?」
「もう。私の話、聞いてなかったんですね?」
「ごめん、もう一度言って?」
焦って聞き返すその様子は普段テレビの向こうの「敦賀蓮」とは別人で、
それはそれで嬉しいのだけれど、今日の彼はずっとこの調子。
正直私だって面白くはない。
何を言っても、上の空。
返ってくるのは生返事。
「もういいです、敦賀さんが私のことなんてどうでもいいってこと、よーくわかりましたからっ」
ぷうっと膨れて背中を向ける。
怒ったフリをするだけのつもりが、なんだか本気で腹が立ってきた。
「違うよ!ごめん、そうじゃないんだ」
「いいえ、違いません…私といるのに、敦賀さんはきっと違う人のことでも考えてたんです」
「そんなわけ…」
「そうじゃないなら、きっと私にどうやって別れを切り出そうかとか、そういう…事を考え…っ」
泣くフリでもして困らせてやるんだから。
そう思って俯いて、でも自分で発した台詞に自分で少し傷ついて、
悲しいフリだか本気で落ち込んでるんだか、自分でもわからなくなってきた。
「そうじゃないんだ、本当にごめん…」
本日何度目ともわからない謝罪の言葉をかける敦賀さん。
ソファに私を座らせて隣りに腰を下ろし、大きな腕の中に包み込む。
敦賀さんの胸にしがみついて顔を埋めて、甘えついでに責めてみる。
「今日の敦賀さん、私を避けてます」
「それは…うん、確かに…」
「嫌いになったんですか、私のこと…」
敦賀さんも、私を捨てるの?
ショータローみたいに、ボロ雑巾みたいにポイって捨てる?
胸の奥から喉へと不安が込み上げて押し上げてきて、涙が溢れそうになって敦賀さんを見上げた。
すると敦賀さんは長い長い、そして深いため息をついて、
「あーもう…限界だ」
と言って頭を抱えた。
さっぱり訳がわからない。頭を抱えたいのは私のほう。
「ちゃんと言ってくれないと、わかりません」
「だから……限界だ、抱きたい…」
そう言って私を壊れ物を扱うみたいにそっと抱き包んで、そしてゆっくりとソファに押し倒した。
言われた言葉と避けていた理由が繋がらなくて、キョトンとしたまま見つめていると、
敦賀さんは恥ずかしそうに顔を逸らして理由を話した。
「たまにはキョーコから、誘って欲しくて…」
「それでどうして避けるんですか?」
「キョーコに触れると、我慢できずに襲いたくなるから」
なに子供みたいなことを言ってるんですか、と言いそうになって言葉を飲み込む。
確かに私から誘ったことなんて、一度もない。
というより、たまにそういう気分になったとしても、言葉で告げるなんて恥ずかしくてとてもじゃないけどできなくて、
でもじぃっと敦賀さんを見つめてみると、自然とそういうことになっちゃうから…てっきり伝わっていたと思っていた。
「誘うって…どうしたらいいんでしょうか」
誘い方なんて、わからない。
つい真剣に訊いてしまった私に、敦賀さんも困った顔で考え込んだ。
「う…ん…別にどんな誘い方でもいいんだけど…『襲ってください』とか?」
「もう襲っちゃってます、敦賀さんが」
「確かに…」
私を押し倒した体勢のまま唸って考え込む敦賀さんが可愛くておかしくて、思わずぷっと吹き出した。
「敦賀さん、好きです」
にっこり微笑んでそう言ってみる。
敦賀さんはしばし固まって、そしてみるみる顔を染めていく。
「な、どうしたんだいきなり」
「好きです、愛してます」
「わかった、わかったから…!」
好きの一言で動揺している敦賀さん。
きっとこんな乙女な彼の姿、知っているのは私だけ。
そう思ったら楽しくて、そして愛おしさでいっぱいになってきて、
今まで恥ずかしくて口に出来なかった言葉たちがすらすらと唇から零れ落ちてきた。
「愛してます、だから……しましょう…?」
「まったく君は…」
降参だ、俺の完敗。
敦賀さんはそう呟いて、優しいキスから私を溶かし始めた。
行為の最中の敦賀さんは、悔しいくらいに大人で、男で、
私はいつも翻弄されっぱなしで敵わない。
負けっぱなしなのは、私のほうだ。
その長い指に、絡める舌に、逃れられないその視線に、私の身体は燃えるように熱くなる。
敦賀さんの舌が口の中を這うだけで、「身体が火照る」というその意味を、痛いほどに教えられる。
『京子ちゃん、恋してるの?』
近頃やけに言われる言葉。
まるで敦賀さんとの情事がバレたみたいで恥ずかしいから、私はその度に必死に否定する。
『最近妙に色っぽいから』
そんなこと言われたと知れたら敦賀さんは怒り狂いそうで内緒だけど、これもよく最近言われる台詞だった。
もし…もしも本当にそうだとしたら、私をそうしているのは間違いなくこの人だ。
指先が、そっと胸の尖りに触れる。
それだけで身体中に電気が走ったみたいにぞくぞくして、跳ね上がりそうに反応する。
いつからか、いやらしくなってしまった私の身体。
でもそんな自分が、実は嫌いじゃない。
敦賀さんのために…この人だけのために。
彼が望むなら、なんだってする。
彼の快楽のためになら、羞恥心だって捨てる。
私は意を決して身体を起こし、敦賀さんの服を脱がせていった。
「ん…んっ、んぅ、ん…」
ちゅぱちゅぱと私が敦賀さんのモノを啜る音がリビングに響く。
咥えているそれはすっかり大きく膨らんでいて、頭にはもう恥ずかしさなんかなくて、
ただ必死にもっと気持ちよくしてあげなきゃ、もっと大きくしてあげなきゃ、そればかり考えている。
ソファに座った敦賀さんが、時々気持ち良さそうに吐息を漏らす。
その息に煽られるように、すでに裸になって膝をついた体勢で、私は懸命にしゃぶり続ける。
口じゃ届かないその根元を軽く持って、なるべくいっぱい咥えこんで…
時々苦しくなって、先の方を舌先でくすぐるようにもてあそぶ。
残された手を太ももに這わせながら、ちゅうっと吸い上げる。
「こっち、見てて…」
言われるままに敦賀さんを見上げる。
男の人の色気って、こういう瞳のことを言うんだろうか、
酸欠状態みたいにぼんやりした頭でそんなことを思いながら、またしっかりと口に含む。
「ん、んん、ぅ、ん…」
赤みを帯びて、血管が浮き出てきて…
なんだか私のほうがいやらしい気分になってくる。
見上げながら、しゃぶりつきながら、片手を自分のあそこに伸ばした。
そっと指で触れてみる。
思ったとおりぬるりと液が絡みつく。
やっぱり…すごく、濡れてる。
だって、敦賀さんの表情が色っぽくて…だから…
頭の中で言い訳しながら、それでも指が動いてしまって、絡め取ったその液をクリトリスに塗りつける。
「んっ…んっ、ん…んぁ、ん…」
眼が合っている敦賀さんは、楽しそうに私を見ている。
「キョーコ、自分で触ってるの?いやらしいんだね」
その言葉に忘れかけていた羞恥が引き戻されて、身体の中から熱くなる。
でもその熱すら快感に変わって、自分の行動が制御できなくなっていく。
恥ずかしさに顔を伏せると視線をあげるようにと顔を戻されて、自分の痴態をイヤというほど意識させられる。
「んあ、あ、ん、んっ、んはぁっ、ぁあっ」
クリトリスから押し寄せる快感がたまらなくて、腰を揺らしながら指で擦る。
次第に高まっていく波のせいで、敦賀さんへの愛撫がお留守になってしまう。
敦賀さんはそんな様子に軽く哂って、ソファへと私を座らせその前に膝をついた。
「続けてごらん?」
足を広げたら敦賀さんの顔がその目の前で…でも恥ずかしさも私の自慰を煽るだけ。
「はあっ、あっ…んんーっ…あ、あ、ああぁ…っ」
お願い、見ないで…ううん、もっと、見て…?
そんなこと、口にはできないけれど、恥ずかしさが快感を高めているのは紛れもない事実。
「すごいよ、キョーコ…溢れてきてる…」
「ぁああ、ああんっ…あっ…っちゃう…あっ、ゃあああっ…!」
せり上がってくる痺れに足を閉じようとすると膝を強く掴まれて…
彼の息がかかるほどの至近距離で、私は自らの悪戯で最初の瞬間を迎えた。
そのあと敦賀さんは今度は自分の指で中を散々いじめてから、ゆっくりと味わうように繋がった。
広げた私の膝を支えにしながら、緩い動きで抜き差しを繰り返す。
「あぁ…ん…はぁ…あった、かい…」
「ん…気持ち、いい?」
「…はい…とっても…」
「見てごらん?」
両手首をつかまれて引っぱられて、上半身を起こされる。
照明の下で繋がった部分がはっきりと照らされていて…
抜き出される敦賀さんのモノは潤い溢れた私の愛液がまとわりつくように絡んでいる。
「ん、あ…い、いやっ…はぁあっ…」
「どうなってるか、教えて…」
「つ、敦賀さんの…が…っ、で、出たり入ったり…して…っ、あっ、ああっ」
手を引っぱった状態のまま、敦賀さんは動きを早めていく。
くちゅくちゅと繋がった部分から漏れる音が大きくなる。
「あっああっ、つ、つるがさんっ…はああっ、ぁあああっ…!」
「…っ…ぁあ、もうっ…」
「ぁああっ、い、いいのっ…はああっ、お願い、そのまま…ぁああっ!!」
敦賀さんは激しく何度も突き上げて…
でも、そのまま中に出して欲しいという私の懇願は叶えずに、直前で抜き去ってお腹の上に出してしまった。
なんだか拒まれたみたいでしょんぼりしながら、垂らされた白い液を指でなぞる。
「今日は大丈夫だったのに…」
私の言葉に苦笑いする敦賀さん。
気持ちよさに流されていた私と違って、敦賀さんは常に私の身体を掌握して操っている。
そんな大人な彼は魅力的だけど、でも少し…悔しい。
「敦賀さん、もう一回!」
「ちょ…無理だよ、明日は朝早い…」
「だぁめ。誘って欲しいって言ったくせにっ」
負けてばかりがなんだか癪で、今度は反撃、と敦賀さんに襲い掛かる。
どんどんいやらしい「女」になっていく私。
ダメだと抗う心とは裏腹に、身体は敦賀さんに合わせて熟れていく。
結局敵わないってことくらいはわかっているんだけど、
往生際の悪い私は少しでも大人な彼に追いつきたいと、結果の見えている勝負に必死になってしまうのだった。