昨晩の情事を思い出し、キョーコは顔を赤らめた。授業中だというのに、だ。
仕方ない。それには訳がある。
昨晩の情事が、他でもない、今キョーコが授業を受けているこの教室で行われたからだった。
「へぇ、ここがキョーコの学校?」
校門の前に車を停め、恋人は目を細めた。
「そうですけど、こんな真夜中じゃ、やっぱり閉まってますよね」
仕事終わりに恋仲にある蓮と合流したまではよかった。
蓮の家で先に宿題を済ませようとしたキョーコの鞄の中。宿題のノートがない。
「仕方ないので、明日は先生に怒られます」
と、困ったように笑うキョーコを、
「車で忘れ物取りに行こう?キョーコの学校も見てみたいし」
と蓮が学校まで送ってくれたのだ。
しかし時刻は真夜中。学校の扉が開いている筈がない。そう思っていた。
「とりあえず、見てきます」
外に出ようとドアに手を掛ける。が、鍵が開いていないようだ。
がちゃりと鈍い音がしただけだった。
「……敦賀さん?鍵、開けてくれませんか?」
振り向いたキョーコの唇に、蓮の唇が重なる。
不意をついた唇の温もりに、キョーコは一瞬固まってしまった。
「何ですか、もう」
恥ずかしそうに俯くキョーコが可愛い。
何度も唇を重ね、舌を貪り始める蓮に、キョーコは戸惑いを隠せない。
「……んっ、んん!もう!敦賀さん!」
駄目です、と周りを気にしているキョーコの両手首を掴む。
もう片方の手を、制服のスカートの中に入れて、太ももを撫でた。
キョーコの体がぴくりと跳ねる。
「つ、敦賀さん!何してるんですか!」
「キョーコに触ってる」
さらり、言い放つ。蓮は更に手を奥まで進めた。
「……ちょ!敦賀さっ、何して……」
ショーツの上からキョーコの割れ目を撫で上げる。
布越しに当たる蓮の指。キョーコは焦りを隠せない。
ここは車の中で。学校で。校門前。
真夜中ではあるが、誰か来たらと思うと気が気じゃない。
「敦賀さん、駄目です。後で、んんっ、……お家、帰ってからにしましょう?」
「駄目、じゃないだろう?湿ってきてる」
蓮の指がショーツの上から陰核を捕らえた。
くっ、と爪先で引っかけられて、キョーコはたまらずに小さく吐息をもらした。
「でも、忘れ物……」
「いいから」
「良くないです」
言いながらも、キョーコの体の奥に疼きに似た熱が孕み始めている。
悟られないように、ゆっくりと吐き出した息を、蓮は見逃しはしなかった。
「駄目じゃない癖に。ほら……」
ショーツをずらし、蓮の指が中に入ってくる。
蕩け始めたそこは、すんなり容易く呑み込んでいく。
「……ぁあ、だめ」
奥まで入れた指を手前に曲げ、壁を押し込むように力を込めると、
キョーコは必死に脚を閉じて拒んだ。
駄目と拒絶の言葉を吐くも、体は嫌がってはいない。
蓮の指をくわえ込み、きゅうと締め付けてくる。
「……んんぅ。だめ、ですって……、あぁあ」
溢れ出した愛液はキョーコの臀部まで伝った。
指でゆっくりとかき乱され、次第にキョーコの腰がゆらゆらと揺らつき出す。
奥に。もっと奥に。刺激を求め出している。
しかし、蓮はキョーコを焦らすように、ゆったりとした愛撫を繰り返すのだった。
「学校に入るまでに、準備、しないと」
「……じゅん、び……?」
見上げると、紳士面で微笑む蓮。キョーコは嫌な予感がした。
ひくひくと中が疼く。襞を擦る指は一向に強くならない。
もどかしい。でも、欲しいと言ってしまったら、きっと何かされてしまう。
欲望と理性の狭間で葛藤するキョーコの中。蓮は容赦なく責め立てた。
「……あぁ、ん……」
熱い。高ぶる熱を、抑える事が出来ない。奥が、熱い。
蓮の与えるゆるゆるとした刺激では、物足りなくなってきている。
無意識に腰をゆるり、動かして、蓮の指を更に奥へと誘う。
「……んっ、んんっ」
切なげに眉を寄せ、耐えるキョーコを蓮は慈しむ眼差しで見つめながら愛撫を続けた。
薄く開いた唇から、か細く吐き出される吐息。
「どうした?」
ひく、泣き声に似た声をもらすキョーコを、徐々に追いつめついく。
わかってるくせに、と言いたげな恨めしそうな瞳が、蓮をもまた、高ぶらせた。
「……な、んでもっ、ないっ、……ああっ」
ゆるくかき回した中に、時折深く指を突き立てられて、キョーコは高く声をあげた。
だが、まだ足りない。中が熱い。もっとだ。
もっと、もっと、もっと……。
「…………ぃ」
口に出してしまうと、抑えているはずの欲望のたかが、一気に外れた。
「んんっ、……敦賀さんっ、もっと」
「欲しい?」
「……はい、……中っ、あつい」
堪えきれず、求めてしまう。このまま、何をされてもかわまない。
そう思ってしまう程、キョーコは蓮の指に翻弄されていた。
「……敦賀さん、の、……じわる…」
「どうして?ちゃんと中、入れてあげただろう。それも両方に」
キョーコのスカートから出ているコード。
その先のピンク色のスイッチを手に、蓮は付かず離れずな距離を歩いている。
時折、手の中のスライダーを動かしては、キョーコの反応を楽しんだ。
「……あぁん」
二股のコードの先。片方は秘花の奥に、そしてもう片方は後ろに埋め込まれている。
もちろん、そこで感じるように開発したのは、蓮だ。
壁越しに擦れ合う2つの卵型の玩具は、蓮の手によってキョーコの中に埋め込まれたのだった。
そのまま校庭を歩き、校舎に近付き、偶然鍵の締まってなかったドアから、簡単に中に入ることが出来たのだ。
「で?キョーコの教室は?」
「……んぁ、あるけ、ないぃ」
覚束ない足取りで歩くキョーコは、急かされてよたよたと脚を進めた。
守衛室の前を通るが、誰もいないらしい。見回りにでも行っているのだろう。
ということは、いつすれ違って、今の姿を見られるかわからないという事だった。
「つ、敦賀さん。やっぱり、…ん、止めませんか?……ああっ」
振り向き、蓮に懇願しようと見上げたキョーコは、がっくりと膝をついた。
急に強くなった刺激に耐えきれなかった。
「さぁ、行こうか」
力の抜けたキョーコの体を支えて起こし、促す蓮の紳士面が、憎らしかった。
それ以上に、この状況で快楽を貪ろうとしてしまう、自分の体が恨めしい。
荒れた息を整えるように熱いため息を吐き出して、ゆっくりと脚を進め始める。
そんなキョーコを見て、蓮は満足そうに微笑んだ。
「俺も、キョーコと一緒に学生時代を過ごしたかったな。一緒のクラスになったりして」
とりとめのない会話をする。が、キョーコはそれどころではない。
誰か来たら?この姿を見られたら?
高鳴る鼓動を抑えきれない。
スカートをぎゅうと掴んで、早く教室にたどり着こうと出来るだけ早足で歩こうとする。
「……んっ」
キョーコの小さな反抗は、蓮の手の中のスライダーによって阻まれるのだった。
階段を登り。廊下を歩いて。後、少し。
なのに、もどかしい程速く進めない。
「ここ?教室」
「……んぁ、はいっ」
ガラガラと扉を引いた。真夜中の教室。当たり前だが、誰もいない。
扉を閉めて、机に近寄ろうとする。瞬間。
「キョーコ、隠れて!」
蓮に手を引かれた。反動で、転んでしまう。
キョーコの口を塞いで、廊下側の窓際。ギリギリの所にしゃがんだ。
キョーコは何が起こったのかわからずに、目をぱちくりとさせている。
蓮の行動の意味が、すぐにわかった。
廊下からコツコツと足音が聞こえてくるのだ。
ちらちらと懐中電灯の灯りも見える。守衛が見回りに来たようだった。
一つ一つ、教室を見回っているようだ。だんだんと音が近づいて来る。
隣の教室の扉が開き、しばらくしたら閉まる音が聞こえた。
「………ッ!」
キョーコの中で蠢いている刺激が強くなった。
口は塞がれているから、声はもれない。しかし羽音のような振動音が教室内に響く。
ガラリ、扉が開いた。
「誰かいますかぁ?」
守衛はおざなりに教室を覗いた後、
「何だ?虫か」
と呟く。
どきり。心臓が高鳴る。早鐘を打つ。むしろ、心臓の音が聞こえてしまうのではないかという、錯覚まで覚えた。
嫌だ嫌だ、とそそくさと扉を閉めて、去っていく守衛の足音。
キョーコは安堵のため息をもらした。
「……んっ、んんんんっ」
体の力を抜いた瞬間。あっけなく達してしまう。
必死に堪えてはいたが、もう充分限界だった。
「見つからなくて良かった」
ほぅ、と蓮の口からもため息がもれる。
「ほ、ほんとです」
体の力が抜けてしまったキョーコの中には、まだプラスチックが埋め込まれている。
「……これ、抜いてください」
「まだ、駄目。キョーコの机は?」
「あ、窓際、です」
最大まで上げられていた刺激は、ゆるゆるとしたものになっていた。
「ここ?宿題あった?」
机の前にしゃがみ込み、ごそごそと中を漁る。
「ありました」
ほらこれ、とノートを見せるキョーコ。その唇に、蓮はむしゃぶりついた。
「……んっ」
少し乱暴に舌を絡めとる。絡み合い、混ざり合う唾液の音が、室内に響いた。
月明かりに照らされて浮かぶキョーコの潤んだ瞳。紅潮した肌。ぷっくりとした唇。
そして、今さっきまでの表情。蓮を煽るには充分過ぎた。
獣のように、熱く荒々しい息遣いで唇を貪る。
制服に手を掛け、前のボタンを外していった。胸のリボンを解く余裕なんかはない。
「んんんっ」
手首を掴んで制止しようとするキョーコを構いもしない。
露わにされた可愛らしい下着を、勢い任せにずり下げ、ツンとしこり立った乳首を摘んだ。
キョーコの体が、ぴくりと反応する。
「ああっ、……んっ、だめっ、ここっ、……きょうし、ああっ」
まるで野獣のようだ。食べられてしまう。本能的にキョーコはそう思った。
乳首を口で捉えられ、舌でねっとりと舐られる。
軽く歯を立てられ、鼻にかかったような小さな声がもれた。
ノートはすでにキョーコの手の中にはない。床に落ちてしまった。
「あっ、あああっ、んんぅっ」
また、スライダーを一気に上げられる。
一度達したキョーコの中は、モーターの振動に敏感に反応した。
自然と反る背中。蓮の頭を抱え込み、胸を突き出す姿。
もっと、とねだっているようにしか見えない。
中の壁越しにぶつかり合う玩具の激しさと、蓮の舌技に、奥が疼く。
「キョーコ……。中に入ってもいい?」
「んっ、でも、ここっ」
「そんな可愛い姿で、そんな可愛い声出されたら、我慢なんか出来ない」
再び唇を重ねた。吐息が絡まる。
でも。学校なのに。教室なのに。こんなところで……。
僅かに残った理性など、もうないも同然だった。
逆に、この状況が病みつきになっていている。
「……ぁ、んんっ」
熱い。体の芯が疼く。奥まで蓮を呑み込みたくてたまらない。
「わ、私もっ、……敦賀さんが欲しい」
吐き出された言葉を聞いて、蓮はキョーコの体を起こした。
窓にキョーコの体を押し付け、尻を突き出させる。
「どっちに欲しい?前?それとも後ろ?」
「ま、前っ!」
「わかった」
ずるり。前に入っていた玩具が引き抜かれた。
そのまま、蓮が入ってくる。キョーコの中は蠢いて、蓮に絡みついた。
「あぁあっ、……そこっ、駄目!」
後ろに、さっき引き抜かれた玩具が埋め込まれる。中で暴れ回る二つの玩具。壁越しに蓮自身まで刺激する。
「ああっ、そんなっ、ああぁあんっ」
動き出した蓮の動きに合わせるように、キョーコも腰を振った。
激しすぎる感覚。高ぶる熱。もう自分を抑える事が出来ない。
「ああっ、だめっ、……だめ、なのにっ、…敦賀、さぁんっ」
ぐっと奥まで突き入れる蓮の圧迫感に、ぞくぞくと背が粟立つ。
「……あぁ、キョーコ。可愛い。……ほんとに可愛い」
後ろから聞こえる、熱に浮かされたような蓮の声が、またキョーコを高ぶらせる。
深く突き立てられて、ふるふると身震いをした。
疼く中を抉るように責め立てられると、たまらなく熱い。それがいい。気持ちよくてたまらない。
「見て、キョーコ。校庭。さっきの守衛さんだ。見つかったらどうする?」
「だめっ、……そんなのっ、だめ。んあぁん」
しかし、お互い、もう止めることが出来ない。
「何だか悪い事してるみたいだ」
実際、不法侵入には変わりはないのだが。
「……ぁあっ、でも、気持ちいっ、……つるがさんっ、きもち、いいっ、のぉっ」
普段のキョーコでは、きっとこんな事は言わない。
体の奥の熱に浮かされ、言葉を吐き出す。
「ああ、俺も。気持ちいいよ、キョーコ」
掠れた声。お互い限界に近い。
細かく収縮を繰り返しながら締め付けるキョーコの中に、蓮もまたむずむずと高ぶっていく。
キョーコの臀部に激しく腰を打ちつける。乾いた音が響いた。
「だめっ、もっ、だめぇ!……あぁあっ、ああぁあぁっ」
「いいよ。キョーコ。俺もっ、……イくっ!」
「はぁっ、ああぁぁああぁぁんっ!!」
一際、高い声があがった。
ぎちぎちと締め付けるキョーコの中で、蓮も己の欲望を吐き出す。
キョーコの体がビクビクと震えた。
二人同時に、高みに登り詰めた。
「悪い事するのって、気持ちいいんですね」
蓮の腕の中でキョーコは呟いた。
歩けなくなってしまったキョーコを抱き、車まで運んでくれる。
「俺は悪い事して気持ちよかった事なんてないけどな……」
小さく呟く蓮は、遠くを見つめている。
「さっきの。気持ちよくなかったんですか?」
顔を覗き込むキョーコに、
「いや。そういう意味じゃなかったんだ。ごめん」
と、蓮は言った。こういう時の蓮は、過去に思いを馳せているようだ。
「帰って宿題したら、また、しよう……。無理か。明日学校だ」
本当は、もう今日なわけだが。そんな事は言わないでいた。
「私は大丈夫ですけど。……あ」
「何?」
「敦賀さん、さっきゴムしてましたよね」
最中には気にしなかったが、入ってきた蓮の感覚は、確かに避妊をしていた。
実際、終わった後も処理していた気もする。
「まさか、最初から……」
学校でする気だったんですか?と慌てふためくキョーコ。蓮はまったく悪びれずに、
「そうすれば学校にいる間も、俺を思い出すだろう?」
と、それは愉快そうににっこりと笑う。その笑みには、神々しさまで携えて。
「…………っ!信じられない!そんなことの為に!?」
そんな事しなくても、キョーコはいつだって蓮の事を考えている。
変態行為を甘んじて受け入れるのも、愛故だ。なのに。
「もうっ!知らないっ!敦賀さんの変態!」
「なっ!俺が変態なら、キョーコもじゃないか」
「知りません!しばらくえっちなしです!」
蓮の術中にはまって、こんな事を思い出している自分が恥ずかしくなった。
そんな事よりも、もっと芸能人の自覚をもってほしい。
こんなこと考えている場合じゃない。授業に集中しなきゃと思いつつ。
絶対にしばらくお預けなんだから、とキョーコは固く心に決めていたのだった。