この部屋は静かで、時計の音すら聞こえない。
こうしてベッドに横たわっていると、すぐにでも眠ってしまいそうで、
そうして目が覚めたらすべて夢の中の出来事になっているような気さえする。
けれど、クシャクシャに波打ったままのシーツや、下腹部に残るわずかな痛みが真実で……
「………はい、お水でいい?」
敦賀さんに声を掛けられ、我にかえる。
「喉、渇いただろ?」
そう言って敦賀さんは、冷蔵庫から取り出したばかりの
ペットボトルを私に差し出した。
「ありがとうございます。」
私がそれを受けとると、敦賀さんもベッドの端に腰を掛け、
手にしていた水を口に含んだ。
───私、本当に敦賀さんと………
睫毛が見えるほどの至近距離で、
なんだか夢見心地のままその横顔を眺めていたら、
私の視線に気付いたのか、敦賀さんがこちらを振り返った。
「……ん?どうした……?」
その表情は今まで見たことないくらい穏やかで、優しい。
「い、いえ……。なんでもないです……。」
思わず、目を覆ってしまいたい衝動にかられて、
タオルケットを顔の方まで引き上げた。
「……何かな、その反応は……?」
神々しかった敦賀さんの笑顔が、一瞬にしていつもの非似紳士に。
──私って、どうしてこう……敦賀さんのイラツボをつくのが得意なのかな……
「あ・あ・あ・あんまり近付かないでください!」
ジリジリと敦賀さんに詰め寄られ、顔が数センチの距離になって、
恥ずかしくなって目をそらす。
敦賀さんはふぅ、と溜め息をもらした。
「ひどいなキョーコ……。さっきはあんなに俺に甘えて……」
「そそそそういうことは言わないでください!!」
敦賀さんから逃れようと、体を大きく動かしたとき、
ズキンっと鈍い痛みが走って、ヘナヘナとその場に倒れこんでしまった。
「大丈夫!!?」
──あ、敦賀さん……すごく心配そうな顔。
「痛む……?」
フルフルと顔を横に振ったあと、「少しだけ」と呟いた。
「……やっぱり、無理させちゃったかな……。」
哀しそうな、辛そうな表情の敦賀さん。
───なんでこんなに、切ないのかな。
敦賀さんを見てると、胸がキュッと締め付けられる。
こんな痛みも、幸せな気持ちも、きっと敦賀さんが居なければ一生知らないままだった。
「……責任取ってくださいねっ」
私が少しふてくされたように言うと、
敦賀さんはふっと笑って、「一生かけて」と囁いた。