もう我慢できない。
キョーコは連日のMr.ヒズリの横暴に耐えかね、
蓮に泣きつくことはなかったものの、夜の時間にそのストレスをぶつけていた。
蓮もキョーコのなかでくすぶる気持ちには気づいているようだったが、
特に追求はしてこなかった。
毎晩毎晩、激しくなっていく行為にキョーコは溺れ始めていた。
昨日だって・・・と、蓮がシャワーを浴びている間昨日の行為を反芻し、顔を赤らめる。
そこで、蓮がシャワールームからでてきた。
「なに考えてたの?」
いつものやさしい、少し低い声。
キョーコは微笑みながら、
「なんでもありません」とささやき、
蓮の腕に抱かれていった。
我慢すべきなんだろうか。
蓮はシャワーを浴びながら考えていた。
最近キョーコはストレスを抱えているようだ。
口には出さないが、表情でわかる。
たまに何かを考え込み、ニヤリと笑うときもある。
答えが出ないのか、顔を歪ませてもだえているときもある。
でも一番、自分の腕の中にいるときにそれを感じる。
普段奥手なキョーコは、ストレスがあると激しく求めてくる。
それはそれで嬉しいのだが、
何がキョーコの心をそんなに独占しているのか。
それが知りたい。
本当は、自分の事で心を埋め尽くしたい。
聞きたくて、聞けない。
今夜こそキョーコの口から話して欲しいのに。
蓮がシャワールームを出ると、キョーコはやはり考え事をしていた。
いつもと違うのは、少し頬が赤くなっていること。
すこし、いじめたくなった。
「キョーコ、隠し事はよくないよ。俺に話せないような内容なの?」
腕の中にその華奢な体を包み、そっとキョーコに問いかける。
「ちが・・・ただ・・・」
「ただ、なに?言ってくれないとこんなことしちゃうよ?」
蓮はキョーコの服をずらし、細い肩をあらわにさせる。
そっと口付け、吸い、自らの痕をつけていく。
まだ赤い昨晩つけた痕の横に。鎖骨に。首筋に。
「やぁっ言う・・・っ言いますからちょっと待ってっ」
「なぁに?」
蓮はさらにキョーコ服を脱がせ、生まれたままの姿にさせた。
大きくひざを割り、大切なところに口付ける。
「実はっ・・・」
そこで、インターホンが鳴った。
「敦賀さんっ、誰か、来てますっ」
「ほっといたらいいよ、用事があったらまた来ると思うし。」
「でもっ何か大切な用事かもっ」
「じゃぁ、キョーコがでて。」
「へっ?」
「大丈夫だよ、ここの部屋を知ってる人はみんな俺たちの関係を知っているし。」
「自分で出れば良いじゃないですか!」
「だって出たいのはキョーコだろう?それに、なんだか恋人が俺の部屋に来た人に応対するのって新鮮だし。ね?」
結局蓮に言い負かされ、キョーコは適当な蓮のシャツをはおって扉へ向かった。
もう我慢できん。
Mr.ヒズリは来日してから何度も尋ねたことのある都内のマンション前で決意していた。
毎日付き人のキョーコが帰るとすぐ、ボディーガードに運転させここに来た。
何度インターホンを鳴らそうとしたか分からない。
いや、その前に何度電話しようとしてアイツに止められたかすら分からない。
(息子に会うのにこんなに緊張するなんてな・・)
しかし、帰国の日が迫っているのだ。
今会わなければ、またいつ会う機会があるか分かったものじゃない。
悩みながらもMr.ヒズリは宝田氏に聞いていた開錠キーを押し、
目的地、息子の部屋の前まで来ていた。
そして、震える指でインターホンを鳴らす。
ポーーーーーーーーン
間の抜けた音だ。
そのまままつことしばし。数秒。一分。二分。
「shit!今日はオフだと聞いていたのに、留守じゃないか。」
諦めて出直そうとしたとき、扉が開いた。
「はい、どちらさまで・・・きゃああああああああああ!」
ばたんっ!!
何故だか分からぬが、あのキョーコが顔をだし、私を見るなり絶叫をあげ
勢いよく扉の向こうにひっこんでしまった。
(ここはLME関係者が多いマンション。部屋を間違えたか?)
改めて表札プレートを見る。
『R.T』
敦賀 蓮
間違いない。息子の部屋だ。
Mr.ヒズリがそこまで確認した所で、
背の高い黒髪の男が出てきた。
濡れ髪にシャツをはおり、いかにも今着替えてきましたといういでたちだ。
そのまま、お互い無言なまま数秒が過ぎ、
「Mr.ヒズリ、どうぞ、あがってください。」
蓮はMr.ヒズリを部屋へ招いたのだった。
とりあえずリビングに場所を移し、三人でソファに腰掛ける。
キョーコが気を利かせてコーヒーをいれようとしたが、
蓮が制止し、自分の隣に座るように促した。
「久しぶりだな、元気にしてたか」
「ええ。あなたもお元気そうでなによりです。」
そのまま、またもや無言の何秒かが過ぎる。
気まずい雰囲気を壊したのはキョーコだった。
「あのーーーー、Mr.一体敦賀さんとはどういうご関係で?」
「私の息子だ。」
「えええええええええ!!?」
「なんだ、言ってなかったのか?それに、君達こそ一体どういう・・・?」
「見たら分かりませんか。こういう関係ですよ。」
蓮はぐいっとキョーコの腰を抱く。
「そうか、お前も愛する人ができたというわけだな・・・」
Mr.ヒズリはふっと微笑し、立ち上がった。
「今夜は帰ったほうがよさそうだ。夜は恋人達の時間だからな。」
キョーコが真っ赤になって爆発する。
蓮はMr.ヒズリを玄関まで見送ると、囁く様に言った。
「Dad,thank you for coming tonight.」
「ゆっくり、話がしたいです。また今度。」
「ありがとう。」Mr.ヒズリは一言そう言って去っていった。
Mr.ヒズリが帰った後、蓮はめちゃめちゃにキョーコを抱いた。
まだ濡れてないうちから何度も楔をうちつけ、何度も喘がせた。
キョーコも蓮の気持ちを受け止めた。
何度か二人で登り詰めたあと、二人はシーツに包まって互いの悩み、気持ちを打ち明けていた。
「ごめんなさい、敦賀さん。Mr.とのこと・・・つらい思い出だったんでしょう?」
「そんなこと、ないよ。」
そんなことは無い。蓮は心からそう感じた。
これまで抱え込んでいた父親との関係、それにまつわる暗い闇。
すべてをキョーコは受け止め、癒してくれた。
キョーコもあの人との関係に悩んでいたというのは驚きだったが。
とにかく、なんだかすっきりした気分だった。
蓮はキョーコの髪をなでながら言った。
「ねぇ、キョーコ。俺は今まで怖かったんだと思う。あの人に会うのが。」
「でも、今日は怖くなかった。キョーコがそばにいてくれたからかな。」
「わたし、そんなっ全然お役に立てなかったじゃないですか。」
キョーコは顔を赤らめながら言う。
「違うよ。キョーコはただそばにいるだけで、俺にものすごいパワーをくれるんだ。」
「敦賀さんもですか?」
「え?」
「私も、です。私敦賀セラピーの患者ですから。」
同じだね、と二人は微笑みあい、その晩はずっと語り明かした。
お互いの悩みを打ち明けたことで、昨日よりももっと強い絆を感じる。
この人と出会えてよかった。
キョーコは満たされた気持ちで朝を迎えた。
終わり