タクシーが走り出して数分後。  
社さんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。  
 
「なあ蓮、お前そんなにプンプン香水の匂いさせて帰って、キョーコちゃん怒らないのか?」  
「ええ、まあ…」  
「ふーん。でも例え怒らなくても、イヤでも気付いてると思うぞ」  
「そうでしょうね」  
「そうでしょうね、ってお前…」  
 
呆れたように言って、社さんは再びシートに身を沈めて黙り込んだ。  
 
ここのところ、こうして酒の席に呼ばれることが続いている。  
その度にやけに香水臭い共演者の女優に囲まれて、おまけに擦り寄られて。  
結果当然その香りは俺の身体に残ってしまう。  
 
キョーコに申し訳なくて、そんな香りに少しでも不安にさせたくなった俺は、  
初めは出迎えてくれる前にシャワールームへと飛び込んでいたのだが。  
 
「敦賀さん、おかえりなさい!」  
「ただいま、キョーコ」  
「お疲れでしょう?お風呂――…」  
キョーコは俺の上着を脱がせてくれて、それを手にしたところで動きを止めた。  
「どうした?」  
「えっ?あ…いえ、なんでも……お風呂、入りますよね…?」  
「先にキョーコが欲しいな」  
「でも……っ…ん…」  
 
なにか思案している彼女の様子に気付かないふりをして、腰に手を回してその唇を塞ぐ。  
早く帰って、こうしたかった――それは事実。  
 
キョーコは戸惑うように俺の胸を押し返し、軽く拒絶の反応を見せたものの、  
貪るように舌を絡め取るうちにその力も弱まり、ふらりと身体を揺らして俺の腕の中に収まった。  
「…このまま、いい?」  
「でもっ…敦賀さん、シャワー…浴びてください……」  
「ごめん、待ちきれない」  
唇を濡らし、潤んだ瞳を伏せるキョーコの首筋に軽く歯を当てながら、俺は躊躇する彼女の返事も構わず寝室のドアを開けた。  
 
いつもの石鹸の香りの残る彼女の身体を充分に熱く潤して、それでも俺は執拗にキョーコの弱点を舐め回し続ける。  
「んぁっ、はぁあっ…ああっ…ん…」  
膝を押し広げ、ちゅぶちゅぶと泡立つ波のような音を立てながらその箇所に舌を入れる。  
濡れてきらきらと光る陰唇を指で広げる。  
ひくひくと反応するのを楽しみながら、その上で膨らみ始めた蕾を丹念に味わうと、  
足の付け根に力がこもり、達しそうなのか逃げるように身をよじらせる。  
 
吸い上げる舌を離して身を起こし、横から指を入れ込みながら胸の突起にしゃぶりついた。  
「ん、はぁっ…ん…あぁん、あ、んぅ…っ」  
何か言いたげにふるふると首を振るキョーコの耳元に問いかける。  
「びしょびしょだよ?」  
「ん、あ…意地悪っ…」  
「意地悪?俺が?」  
 
確かに、顔を見れば彼女が欲しがっていることくらい容易にわかる。  
頬を上気させ瞳を潤ませ、朱に染まった乳房に時折自ら手を伸ばしそうになり、戸惑うように拳を握る。  
 
もう一息、かな…  
 
「ひぁあっ、ああっ…敦賀さんダメ、あっ、あああぁあっ…ぃ、ああ…っっ!」  
 
くちゅくちゅと音を立てている指を二本に増やし激しくかき回すと、キョーコは胸を反らせて高く啼き昇りつめた。  
 
意地っ張りなキョーコ……嫉妬してるのなら素直にそう言って、好きなだけ俺を責めればいいのに。  
 
開かせた膝を支えにし、必要以上にゆっくりな動きで挿入を繰り返す。  
思い出したように激しく突き入れ…そして高く喘ぎ始めるのを見てまた緩やかに戻す。  
そうして充分に緩急を楽しんでから、身体を倒しキョーコを上に跨らせた。  
 
「好きなように、して…?」  
「んっ、あぁ…ぅう、ん、んっ…!」  
 
キョーコは焦れていたと云わんばかりに腰を巧みに振り始める。  
喉元を露わに見せながら、両手で自らの乳房をつかんで揉みあげる。  
 
これは彼女が理性を投げ出す手前、快感に溺れ始めた確かな証。  
 
決して大きいとは云えないものの、張りのあるその可愛らしい胸の膨らみは、  
彼女の手のひらからこぼれ落ち、突起を尖らせながらぷるりと揺れる。  
 
「いやらしいよ、すごく」  
「あっ、あっ、はああっ…んんっ、ぁあっ…あ、いぃ、のっ」  
 
懸命に快感に追いすがる彼女の様子にたまらなくなり、  
俺はその腰を持ち少し浮かせておいて、下から激しく小刻みに突き上げる。  
 
「ん…っ…」  
「ああぁあっ、ゃあああっ、ああっ、つるが、さんっ…そんなっ……いっちゃう…ゃあっ、ああぁっ!!」  
 
余裕を失くして倒れこむキョーコを受け止めながら、俺は彼女の中でびくびくと締め付けられる感覚を堪能する。  
まだまだ、夜は始まったばかりだろう…?  
胸の中の彼女をきつく抱きとめたまま、休む間もなく突き上げ続ける。  
彼女は熱くなった身体をすり寄せて、啼き続けながら俺の熱に溶けていく。  
 
 
「言えばいいのに…焼きもち、やいてるんだろう?」  
 
なかなか降参しない彼女にさすがの俺も焦れ始め、  
何度も啼かせたあとで、不本意ながらも自分から尋ねた。  
 
「だって…敦賀さんだって…私が嫉妬してるって気付いてるくせに……」  
「それはまあ、そうだけど」  
「だから意地でも言わないって決めてたんです…っ」  
 
俺に組み敷かれているその体勢で、  
しかしそれでも負けまいと頬を膨らませ、顔を逸らして拗ねているキョーコ。  
目を合わせて欲しくて…繋がった身体をぴたりと重ね合わせ、頬に手を添え囁いた。  
「こっち向いて?」  
「イヤですっ!」  
「謝るよ、ごめん…だからこっち向いて?」  
 
ようやく向き直った彼女の瞳には涙が溜まっていて…しかしそれでも恨めしげに睨み付けることを忘れない。  
そんな彼女が可笑しくて…そして可愛くて、愛しくて。  
 
ここで吹き出したらますます怒るんだろうな、と必死に堪えたけれど我慢しきれなくて――  
…結局俺は朝までかかって、懸命に彼女のご機嫌を取り続けることになるのだった。  
 

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