俺は夢を見ていた。
キョーコを抱いている夢だ。
月明かりに白く浮き上がる肢体がしなやかに動き、か細い啼き声をあげながら身をよじるキョーコ。
その言葉は拒絶の意味を有しているものの、彼女の表情が、そして俺に合わせて揺れる腰が、真意ではないことを確かに語る。
熱く滑るキョーコの膣内で、俺の身体は制御できなくなっていく。
もう少し……焦らして加減を…でないとこのままじゃすぐに……っ
思考と身体が噛み合わない。
自分の快楽ではなく、彼女の快楽を追いかけたいのに。
もっと啼かせて、もっと俺の名前を呼ばせて、もっと拒否の言葉を吐かせて……そしてもっと求めさせたい。
そう思う心とは裏腹に、俺は否応なしに腰を突き動かしてしまう。
以前はもっと俺には余裕があって、こうして身体を重ねている時は全てを掌握していたはず。
しかし最近、立場が逆転していっている焦りに囚われる。
こうして俺が攻めているはずなのに、その体勢に反して攻められているのはきっと、俺のほうだ。
背筋を駆け抜け始める、強烈な快感。
目の前の美しい彼女の姿の眩しさに、この感覚に、目がくらむ。
「キョー…コ…っ」
ダメ、だ……そんな風に俺を虜にして…
最後に残っていたひとかけらの理性と自尊心で、頭を振る。
「…め…だ…っ、そんな…っ、あ……っ!」
俺は必死の思いで、なんとか寸前のところで身体を起こし―――
覚醒した俺の目の前には、呆然としている俺の自身を口の中に頬張って、小首をかしげて見上げているキョーコがいた。
ソファで帰りの遅いキョーコを待ちながら、俺は座ったままうとうとと眠っていたらしい。
バスローブの前はすっかり広げられ、足の間には膝をついた彼女がちょこんと収まっている。
「何、して…」
「ただいま、敦賀さん」
「あぁ…おかえり」
混乱している頭を整理しようとしていると、キョーコは再び俺のモノをぱくりと咥えた。
「っ、待って、待つんだキョーコっ」
「ど、ひて…れすか、んっ」
「…っ、酔ってる、ね?ダメだ、う、ぁ、イってしまう、からっ」
「ん、いい、ですよ?」
何度かこうして口で愛撫させたことはあったが、彼女のたどたどしい様子と自分が攻めたい気持ちに最後までさせたことは一度もなかった。
なのに…アルコールが入っているせいだろうか、キョーコはしっかりと奥まで頬張り、支える手のひらで扱きながら、
そしてじゅぷじゅぷと卑猥に音を立てながら、口の中で器用に俺の昂ぶりを極めていく。
おまけにとろりとした瞳で俺を見上げながら。
全てがたまらなくて、さっき寸前まで迫っていた快感の波が、再び容赦なく襲い始める。
キョーコは左手の指先で、俺の脚の付け根をくすぐるように撫で上げる。
我慢の限界で、俺は身を反らせて不覚にも喘いだ。
「ぅ、ぁあ…っ、ダメ、だ、キョーコっ…くっ…ぁあっ…!」
その晩の私は、確かに敦賀さんの言うように、少し酔っていたのかもしれない。
とは云っても理性を失うほどではなくて、ちょっと頭がふわふわして、気持ちいいってくらい。
だから、自分が何をやっているのか…どんな恥ずかしいことをやっているのか、ちゃんと理解していた。
ただ、後で少しは言い訳できる程度に、少し酔ったふりをするのも忘れないようにして。
その日はドラマの打ち上げで。
みんながしっかり酔い始めた頃、私の隣りの女性たちの話題のネタは敦賀さんになっていた。
たいしたことじゃない。
かっこいいとか、一緒に仕事をしたことがあるとか、彼は皆に優しいとか…
そんな軽い話だったけれど、私に湧き上がったのは、嫉妬心。
皆に愛されてる敦賀さん。
でも、私はその敦賀さんに、大切にされてるんだし。
それに、私にしか見せない顔だって、時々見せてくれるんだし…時々、だけど…。
…考えれば考えるほど、落ち込んでくる。
敦賀さんはいつも余裕で、抱かれてる時だって……
そういえば私、翻弄されてばかりで、敦賀さんの表情なんて、まともに見たこと、ないかもしれない。
――もしかして気持ちいいのは私だけなんじゃ…
沸き起こった不安のような悔しさのような、変な感情。
もやもやと消化しきれない思いを抱いたまま、その晩の私は帰宅した。
唇で俺を弄んだキョーコをソファに押し付けて、膝を開かせて仕返しを始めた。
すでに熱く潤っているその箇所の入り口を指でいじると、くちゅくちゅと大きく波音があがる。
大きく膨らむ陰核を吸い上げながら、中の熱をその指で確かめる。
「はあっ、あん、ん…ぁあっ、んぁあっ」
いつものようにその可愛らしく火照る表情を窺おうと顔をあげると、頬を染めた彼女と視線がぶつかった。
「恥ずかしく、ない?」
「んっ、は、恥ずかしく、なんかっ」
顔をしかめながらも、キョーコは視線を逸らさない。
いつもと違うのは酔っているせいなのか…?
少し不思議に思ったものの、俺は愛撫を続けていく。
指で押し広げ、しっかりと姿を現したその尖りを舌で転がし、そして吸い付く。
「ん、これでも…?」
「ふぁあっ! あっ、ゃああっ…ああっ、あ、あっ…んんっ」
ふるふると首を振り、胸を反らせて逃げるように暴れる。
そう、それでいい…もっと喘いで、もっと乱れて……俺が余裕なんて失くしてあげるから
頭を押しやろうとする手を無視し、膝を抱え上げてさらに吸い上げると、キョーコは艶やかに身体を跳ね上げ高く啼いた。
舌で高められたあたりまでは覚えている。
そこからおぼろげな記憶の中で、私はいつものように敦賀さんに組み伏せられて…結局気付くといつも、彼のペースだ。
気持ち良さの中で頭がぼんやりしてきて、何も考えられなくなってしまう。
我に返るとやっぱり敦賀さんの汗ばんだ身体に包まれていて、
まだ息の乱れた私を心配そうに覗き込む彼の大きな手のひらに髪を撫でられていた。
「もう…やめる…?」
私はこんなに、息をするだけで精一杯なのに。
自分の心の底にある、負けず嫌いの部分が顔を出す。
驚いてる彼を無視して身体を起こして、なんとか体勢を変えて押し倒した。
「やめません…もっと…っ」
すっかり息があがっているけれど、それでも私は跨って、必死になって腰を振った。
最初は意地で、でもだんだん快感のほうが勝ってきて、夢中になって身体を揺らす。
「…んっ、キョーコ…気持ちいい、よ……」
敦賀さんの息が短く乱れ始めて、本当に気持ち良さそうに目を閉じる。
その様子に嬉しくなって、私は一層没頭していく。
「ほん…と? ん、んぁ、あっ、あっ、ん、はぁっ」
「あぁ……キョーコ、いやらしい、ね…すごく」
「はぁあっ…っと…もっと言って……っ」
「いやらしいよ…淫らで…綺麗だよ、キョーコ…」
「もっとぉ…っ、ぁああっ、はぁあっ…ぁあっ、おねがい……もっと…おねがい……久遠…」
伸ばされた腕に吸い寄せられるように、彼の身体に身を寄せる。
耳の中で響く彼の愛の台詞に溶かされながら、私は再び意識を手放していった。