「最上さーん」
俺の隣にいた男性が急に席を立ち、手を振りながら制服を着た女子高生に駆け寄った。
つーかウチのリーダーだ。
「石橋さん。おはようございます」
彼女は礼儀正しく、お辞儀をして挨拶をした。
彼女は最上キョーコ。
LMEに入ったばかりの新人だ。
芸能人としては微妙に地味だが結構可愛い部類だと思う。
今どき珍しく謙虚で気が利いて明るくて面白くて(以下略…リーダー談。
相当お気に入りらしい。
「事務所で会うなんて珍しいね」
「ええ、今日はちょっと椹さんに用事があって」
そんな他愛もない雑談をしている2人を眺めて俺は思った。
ああ…リーダー嬉しそうだなあ…
「学校帰り?制服よく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。そうなんです。授業終わってからそのまま来たので…」
おお、直球だなリーダー。頑張れよ。
「この後は仕事入ってる?なければ夕食一緒にどう?」
「ごめんなさい。このあとドラマの打ち合わせが入ってて」
1勝24敗…断られ続けてるのに夕食に誘い続けるリーダーがいじらしい。
もちろん1勝もスタッフや俺らその他大勢と行った1回のみ。
たまには誘いにのってあげてよ最上さん…
なんて、2人の会話をぼんやり聞きながら考えてると向こうでざわめきが聞こえた。
「きゃー」と小声で色めきたつ女性スタッフたちの先を見やると、男性が一人ゆるやかに歩いてきた。
「お、おはようございます!」
「おはようございます」
最上さんとリーダーが挨拶するのに続いて俺も立ち上がって挨拶した。
事務所の大先輩、敦賀蓮だ。
歩いているだけで、女性たちの視線を集中させる日本女性の憧れの的ナンバー1芸能人。
これだけカッコいいと悔しいとか思わないよなあ…足なげーなー
敦賀さんは最上さんの前に立ち止まると、最上さんの身長に合わせるように少しかがんだ。
どんな仕草も優雅で様になる。
「最上さん、今日は局の第5会議室で良かったよね。打ち合わせ」
「はい。20時から始めるそうです」
「そうか…まだちょっと時間あるね。移動の間に少し早めの夕食一緒にどう?」
「は、はい!行かせていただきます」
敦賀さんは、最上さんの承諾の返事を聞くとやんわりと彼女とリーダーとの距離を離し、
リーダーに向かって微笑んだ。
「そういうわけだから、ごめんね」
「いえ!お疲れ様です!」
直立不動で答えるリーダー。
…あーあ。明らかに分が悪いよなあ…っていうか今の牽制っぽくねーか?
でも「あの」敦賀蓮が最上さんを…ってのも考えにくいし…気のせいか
「これで失礼しますね、石橋さん」
最上さんは軽く会釈をして、敦賀さんとマネージャーと3人で行ってしまった。
「ま、リーダー仕方ないからさ。俺たちと夕飯食おうぜ」
「うん…やっぱり身長が…」
いやそれ関係ないから。
「どうしたんですか?敦賀さん?」
事務所のエレベーターを待ちながら難しい顔をしていた蓮にキョーコが話しかけた。
「いや、なんでもないよ。それより何食べようか?やっぱりハンバーグ?」
「あ、え、はい。って私がいつもハンバーグしか食べてないみたいじゃないですか」
「キョーコちゃんハンバーグ好きなの?可愛いねー」
「もー社さんまで!」
それにしても不破だけじゃなくて、LMEにも思わぬ伏兵がいたとは…
隙がなさそうで隙があるからなあこの子。いい先輩を演じながらってのも苦労するな…
社がキョーコをからかってるのを見ながら蓮はそっとため息をついたのだった。
完