地方ロケが長引いて、俺は正直弱り始めていた。
原因は明らかだった――キョーコに、会いたい。
毎晩彼女に電話し、会いたい、会って君を抱きたいのだと我が侭を言った。
キョーコは諌めることもせず、ただ困ったように、私もですよ、会いたいです、と答えてくれた。
「本当に?本当にキョーコは俺に会いたくてたまらない…?」
『本当ですよ!会って、私だって…その…とにかく本当です』
自分でも子供じみているとはわかっているのだが…それでも止められなかった。
そんな俺の我が侭に困り果てたキョーコの、優しさから出た提案だった。
『だったら…私が言うとおりに、ご自分の手でさわってみてください』
「え?」
『イヤ、ですか?』
「嫌じゃ、ないけど」
キョーコの上目遣いの表情が浮かんで、俺はこくりと唾を呑み込んだ。
『じゃあ、そうですね…シャツのボタン、外してください』
「上も脱ぐの?」
『お願いします。私、敦賀さんの胸にさわるの、好き、なんです』
「知らなかったな」
電話越しのせいだろうか、いつもなら言わないような台詞を、恥ずかしがりながらも言ってくれる。
俺の胸は、目の前に彼女がいる時と同じように、鼓動を跳ね上げ始めていた。
「ボタン、外したよ。次はどうして欲しい?」
『あ、はい。えっと……んー…』
普段はリードすることがないためか、キョーコは戸惑いながら必死に考えている様子だ。
「何でも言うこと聞くよ」
『そ、そんな、何でも、なんて』
何を想像したのか、動揺している彼女にふっと笑いがこぼれる。
「下も脱ごうか?」
『はい、そうしてください』
「キョーコも脱ぐんだよ?」
『私もですか!?』
「当然だろう?俺だけ裸にしといて君は――」
『わ、わかりましたっ…あ、じゃあちょっと、待ってくださいね』
ごそごそと音がする。
恥ずかしがり屋のはずの彼女が、こうして一生懸命期待に答えようとしてくれることに、俺は嬉しくなった。
『じゃあそっと…裏側を、下から上に撫でてください。軽くですよ?あの…私が、舐めてると、思って』
目を閉じてくださいね、と付け加えられて、俺は素直に従った。
彼女の愛撫を思い起こす。
そっと手を添え、愛しむように舐めあげられて、背中にぞくぞくと走り抜けていく感覚。
頬を染め、時折様子を窺うように見上げる潤んだ瞳。
ぺろぺろと先を玩ぶように味わいながら、柔らかく根元を手のひらで包み込む。
「ん…っ」
『敦賀さんの、感じてる顔も…好きですよ?』
優しく鼓膜に届く彼女の声。
まるで耳元で直に囁かれているようで、俺は彼女の温もりを感じているという錯覚に陥り始めていた。
「あぁ…キョーコ……君も…?」
『ん…ぁ…敦賀、さん…おっきく、なってますか?』
「ああ、なってるよ、固く、なってる」
『っ…感じてるん、ですね?…ぁ、ん』
キョーコの声にも吐息が混じり、息が少しずつあがっていく。
電話越しに、違う場所で、違う指で…なのに、離れているはずの体温が確かに伝わる。
与えられている快楽は確かに彼女の手による感覚に思えてきて…
そして、今キョーコは俺の目の前にして――…そう、彼女は今、俺の腕の中にいて……
「入り口の…ここが、好き、だろう?」
『ああっ、はぁ、んっ…好きっ、ゃあっ、ん、ぁあっ』
次第に我を失っていくキョーコの表情を堪能しながら、浅い挿入で手前を擦る。
俺にしか、見せない顔。
この底なしの独占欲ですら充分に満たしてくれる、至福の瞬間だ。
シーツに押さえつけたキョーコの手に指を絡め、胸の尖りを貪るように吸いあげる。
『ぁああ…っ…!』
膝を抱え上げ、腰を奥まで押し付ける。
「…っ、あ…熱い、よ…っ」
『はぁあっ、ん、ああっ、敦賀さんっ…!」
「キョー、コ…っ、愛してる…」
『…も……ぁ……てる…』
「聞こえない、もう一度、言って」
『んっ…ぁあ…っ、あっ……して…っ』
「ダメだよ、ちゃんと、言って…?』
『…っ……てるっ…ぁあっ、つるが、さんっ…愛して、ますっ……ぁあっ…っ』
「敦賀さん、お帰りなさいっ!」
玄関を開けると彼女が胸に飛び込んできて、抱きとめた俺はその唇を夢中で吸った。
隙を見つけて何か言おうとするのも許さずに、深く、長く…キョーコが苦しそうなのがわかったが、それでも離さずに味わい続ける。
やっと手にした、本当の温もり。
俺がどれだけ会いたくて苦しかったか、本当に君はわかっているんだろうか?
さっきは嬉しくてたまらなくなったはずの、お帰りなさいの笑顔にすら、なんだか恨めしい気持ちになってくる。
「ん…はぁっ、く、苦しいですっ」
胸を強く押し返しながら抗議される。
「俺に会いたくなかった?」
「そっ、そんなわけ…っ、んんっ、あ、お食事…っ」
「おなかをすかせてから、ね」
キョーコの甘い声が鼓膜にこびりついて取れなかった俺は、そのまま彼女を抱えてベッドルームへとなだれ込む。
あの夜の虚像を、本物の温もりへと変えるために――。