それは敦賀さんと初めて海外旅行に行った時のこと。
初めての飛行機はなんだか怖くて、前の日は緊張で全然眠れなかった。
離陸してからは怖さと緊張を言い訳に、ずっと敦賀さんに手をつないでもらっていた。
大きな手だなぁ…。
不思議だな。こうしているとどんどん恐怖が和らいでいくみたい。
キャビンは映画上映のため照明を落としていて薄暗く、
シェルターシートなためまるで人だけの世界みたい。
隣を見ると、敦賀さんはいつの間にか眠ってしまっていた。
長いまつげ。端正な顔立ち。さらさらの髪。
なんでかなぁ。
こうして側で見ているだけですごく幸せ。
……好き。
涙が出そうなくらい、あなたが好きです。
幼い頃も、再会してからも、あなたが暗やみの中の私を救ってくれたように、
私もあなたを照らす光になりたい。
そんな事を考えていると、いつの間にか眠り込んでしまっていた。
それからどの位時間が経ったのか。
ふと、何かが私の頬に触れるのを感じて目を覚ました。
そこには大アップの敦賀さん。
「びっ……くりした。何をなさってるんですか?」
周りの人を起こさないよう小声で尋ねる。
「ん…キョーコこそ、どうしたの?……涙の、あと」
頬に手を当てたまま敦賀さんが聞いてくる。
「そっそれはっ」
言えない。
好きすぎて側にいることが嬉しくて嬉し泣きしてたなんて。
恥ずかしくて言えないってば!
「その…飛行機が、怖くて。」
思わず目を逸らしてしまう。
「ふーーん?」
妙なところで鋭い敦賀さんは、私の嘘を見透かすかのような視線を送ってきた。
そして急ににやりと笑って、
「じゃあキョーコがリラックスできるように手伝ってあげようか。」
そっと口付けてきた。
暗いとはいえ公共の場なのに。
抵抗するもむなしく、敦賀さんのキスはどんどん深くなっていく。
最初はいつものように左に顔を傾けて。
舌と舌をなぞらせあう。
次に右に顔を傾けて、唇だけを味わいあう。
再びいつもの角度になり、私の舌を強く吸う。
何十回、もしかしたら何百回と交わしてきたキス。
何度しても飽きないばかりか、どんどん貪欲になってきている気がする。
「ん…もっとして……」
「キョーコはキスが好きだね」
「ううん。キスが好きなんじゃないの、敦賀さんが……」
「俺が、なに?」
「…敦賀さんが、好きなの…」
はああああ、と大きなため息をついて敦賀さんは唇を離した。
え?私何かまずいこと言った?
「どうしてくれるの。」
「え……?」
「キスだけじゃ、足りなくなったじゃないか。」
妖しく微笑む敦賀さんに誘われるまま、
客室乗務員の目を盗んでトイレに二人で入る。
急に視界が明るくなって、少し羞恥心が蘇ってくる。
でも、もうダメなの。
敦賀さんが欲しいの。
火照る体をもうごまかすことなんてできないの。
いま服を着ていることがもどかしい。
キスをして敦賀さんのシャツをはだけさせ、ベルトをゆるめる。
キスをして敦賀さんの手がスカートの中に入ってきて、下着を奪う。
愛撫なんかいらない。
駆け引きもいらない。
狭いトイレの中では抱き合う体位はできない。
洗面台に、手をついて。
後ろから、一気に。
敦賀さんの熱い楔が私の体を貫いた。
「っあぁぁんっ……」
「欲しかった?」
「ん…ほしかったのっ…」
「こんな飛行機の中なのに、いつのまにそんなにいやらしくなったのかな」
早さを微妙に変えながら、的確に私の感じる場所を突いてくる。
「ふぁあっ……そんなっ…言わなっ……」
「ねぇキョーコ?そろそろ他のお客さんも起きだす頃かな?
ドアの前で並んでたらどうする?」
「そんなっ…のっ…いやっいやぁっ」
敦賀さんがが意地悪なことを言うたびに、熱が高まっていく。
「ねぇキョーコ?」
「…んぁっ…そこ、だめぇっ」
「前を見てごらん」
「いっやぁあああああんっ」
目を開けると大きな鏡に二人の乱れた姿が映っていて、
見ただけでイってしまった。
それでも敦賀さんは私を攻めるスピードを弱めず、
弱い波が再び私のなかに迫ってきた。
「やっ…いったばかりなのに…」
「一人でいっちゃって…さみしいな…」
「今度は…っ二人っでぇ…一緒に来て、久遠…っ」
「キョーコっ……」
敦賀さんは私の体の後始末をしてくれてから、
私だけを先にキャビンに戻らせた。
数分後、何食わぬ顔で座席に腰掛け、微笑んでくる。
手をつなぎながら、敦賀さんが聞いてきた。
「最近やっと名前をちゃんと呼んでくれるようになったね?」
「だって、コーンのイメージが強すぎたんですよ!
コーンと今こうしてるなんて、幼い頃思ってもみませんでした。」
「ほんとに妖精だと信じてたの?」
「当たり前じゃないですか!今でもコーンは妖精です!
そして久遠は…」
「久遠は?」
さも知りたそうに顔を覗きこんでくる敦賀さんが愛しくて。
もう少し、この顔を見ていたいな。
あ、敦賀さんが意地悪したくなる気持ち分かっちゃったかも…
「キョーコ?」
「ふふ・・・内緒、です!」
終わり