時々薄く開けられる彼女の眼にはうっすらと涙が浮かび、枕を握り締める手にいっそう力がこもり始める。
乱れた前髪をすくってやると、額にはじんわりと汗がにじんでいた。
次第に多くなる、我慢できずに漏れる声。
細く白い喉元がこくりと唾を飲み込むたびに震えて、それが俺を誘っているようで、かぶりついてしまいたいのをなんとか抑え込み唇を這わせる。
すべてが愛しくてたまらない。
彼女の一挙一動に心が弾み、揺れ動き、不安になる。
こんな気持ちは初めてで、どう伝えていいのかわからない。
自分だけのものにしたい、そう言えばきっと彼女は、敦賀さんのものですよ、と笑うだろう。
俺の中にある強い独占欲が、もっと、もっと、と貪欲に叫びをあげているということに、鈍い彼女はまったく気付いていないのだ。
「ん、あっ…つる、がさ…ん……っ、はぁ、ん」
絡め合った指ごと掌をシーツに押し付け、深く口付ける。
違う、そうじゃないだろう?
俺の名を……本当の名前を、呼んで、キョーコ……
もしそう言葉に出して彼女に伝えたら何と言うだろう?
意識しすぎて呼んではくれないかもしれない…それになにより、自分から呼んで欲しくて。
頼みごとひとつ口に出せない情けない俺は、その鬱憤を晴らすかのように動きを早めた。
名前を呼んで欲しい、そんなくだらない些細なことなのに、俺は心の底から何度も何度も、しかも強く執拗に願っていて。
だからその声を聞いた時、俺は幻聴でも聞こえたのかと思ったんだ。
あまりに驚いて……そして反応できずに固まってしまった。
「…やめちゃうん…ですか…?」
見下ろした彼女は上目遣いの瞳を潤ませて、懇願するように俺に訊いた。
「やめるわけ…ないだろう?」
いや、やめられるわけがない。
彼女の身体が火照り始め、美しく朱に染まっていくのを見た、今よりずっと前から、
俺はその瞬間がすぐにでも来そうに高まっていくのを、なんとか堪えながら今に至るのだから。
駄目だ…もう少し……もう一度、今の言葉を、聞かせて欲しい…だから、まだ……
心とは裏腹に、身体は言うことを利かずに彼女を攻め立てる。
「ぁあっ…やぁっ、んっ、あああぁんっ!」
「…っく……!」
制御できなくなった俺は、ただ欲望を吐き出すように腰を打ちつけ――
真っ白になっていく思考の隅に、その小さな声は確かに響いた。
……ん…… …くぉ…… … ……久遠っ……!
キョーコ…俺がどれだけその言葉を、君の声が紡ぐ俺の名を待ち望んでいたか、わかるだろうか?
「ねえ、キョーコ?」
まだ互いの熱を身体の中に残したままで、まだぼんやりとしている彼女に話しかける。
きっと君は、名前なんて呼んでません、って真っ赤になって否定するんだろうけれど。
もう離さないよ。だからもっと、これからもずっと、ふたりだけの時だけでもいい、俺の本当の名前を呼んで?
「何、笑ってるんですか?」
「聞きたい?」
「んー、気になります」
「じゃ、教えてあげる」
そうだね、もう一度熱くしてあげるから。
だからもう一度、いや一度と言わず、何度だって。
「やっぱりいいです、なんだかイヤな予感…っ、ひゃ、あっ…!」
何度も何度も、呼ばせてあげる。
だからほら、もっと、もっと、熱くなって?