ラブミー部の仕事でLMCに出勤した。  
ここのところ、オフをはさんだりして、随分久しぶりの気がする。  
実際は養成所に通ってることもあって久しぶりというほどでもないのだけれど、  
敦賀さん(…と、案外危険なのが目ざとい社さん)とはち合わせたりしないように、  
忍者のように周囲をうかがい、必要最小限の人にしか接せず、  
蝶のように舞い、蜂のように刺していたので  
あまり LMCにいた、という実感が持てなかった。  
 
昨日椹さんから電話で仕事の依頼を受けた際、何気なく確認したところに拠ると、  
今日まで敦賀さんはドラマの地方ロケに出ているらしい、  
つまり、隠密行動をとらなくても、会う可能性はない! ブラボー!  
(もともと敦賀さんは忙しい人だから、工作しなくても会わない時は全然会わないんだけど)  
(…ちょっと自分でもどうかと思うくらいに自意識過剰だけど)  
こっそり恥じながらも驚くほどの開放感に、思わずスキップが出たりして、  
周りから不審の目で見られた。  
 
くるくると雑用をこなしていると、いつかの出来事が遠くなったり近くなったりする。  
 
軽井沢ロケ中の敦賀さんとの一件、  
その後ショータローに云われた事、  
あのときの自分の気持ち、いまの自分の気持ち。  
なにもかもがぐちゃぐちゃしてて、頭が爆発してしまいそうだった事。  
いまだって何がどう状況が変わったわけじゃないけど、  
ただ、云えるのは………  
 
「男ってのは結局最悪な生き物ってことよ」   
 
ショータローは無論のこと、ビーグルの変態も、……敦賀さんも。  
 
(……敦賀さん…)  
 
結局思いがそこへ帰っていく。  
くちづけと、強い力。あのこわいような目が、正直本当にショータローの言うような  
意味なのかといぶかしむ自分もいる。  
でも、そうでないことを期待しているのだとしたら、私は…-----。  
そして、それがほんとに期待だったとしたら、それが砕かれた時に私は…---。  
 
案外、会ってしまえば 「やぁ、最上さん、元気?今日はいいお天気だね」 って、  
爽やか紳士スマイルで何事もなかったかのように接してもらえるのでは…と思ったりもする。  
 
でも…。  
 
あれから一度だけ、仕事を一緒にした時の----あの雰囲気。  
入りの時間のズレもあって、お互いに声をかけることもできないままだった。  
セット上から、こっそり敦賀さんを盗み見ていた私と、  
それに気付いたような敦賀さんの視線が一瞬からまり合って…。  
…………焼け焦げるんじゃないかと思うくらいのキツイ眼は、あのときのままだった…。  
こわかった。  
 
もう二度と、いままでみたいには戻れないんじゃないかと、そんな気がした。  
胸が痛くて、こんな思いをするくらいなら、もう姿も見たくないと思った。  
 
私を本当に悩ませているのは、多分、私自身の気持ちが自分で掴めないことなんだろう。  
 
(だって仕方ないじゃない、こんなのっていままで考えた事なんかない類の出来事なんだもの…!)  
 
いまいましくなって、鼻息も荒くシャドウボクシングで雑念をふりはらう。  
とりあえず、男についてはいまのところもう誰も信じない。  
 
「おつかれさまですー」  
 
ガラガラと台車をひいて、タレント部に戻ると、椹さんがにこやかに出迎えてくれた。  
 
「お疲れ様、遅くなってしまってごめんよ、お陰で助かった」  
 
スタンプ帳に100点のスタンプをもらえる。  
椹さんは若干私に甘め(いつかの恐怖がそうさせるらしい)だけど、やっぱり嬉しい。  
 
「…あれ?このダンボールはなんですか?」  
 
椹さんの机の横に詰まれたふたつのダンボール。見ると、DVDがぎっしり詰められていた。  
 
「ああ、これは視聴覚の方にしまう分だよ、あとは適当にこっちでやっとくから」  
 
「駄目です、そんなのついでにやっちゃいますから!!任せて下さい!!」  
 
100点ももらったのに、やりのこしがあるなんてとんでもない。  
妙な使命感に燃えた私は、でもけっこう遅くなっちゃったしなぁー、としぶる椹さんを説き伏せて、  
持ってきた台車にダンボールを乗せ、地下の視聴覚ルームまで運んだ。  
 
スタッフの貸し出し用IDカードを入り口のセンサーにかざすと、自動ドアが開いた。  
中は、手前が背の低いキャビネットで、奥がDVDなどを仕舞うラックになっている。  
ダンボールからDVDを取り出し、とりあえず手前から索引順に、  
歯抜けになったラックの所定位置に入れていくことにした。  
 
ダンボールふたつ、たいしたことないと思っていたけれど、行きつ戻りつするうちに  
結構手間取っていることに気付く。  
(どうしてこんなにたまるまえに片付けないのかしら?)  
ぶつぶつ言いながらも熱中していると、入り口のほうでドアがあく音がした。  
 
(椹さんかな…?)  
 
もしや待たせていたかと気付いて、あわててラックの間から頭を出してうかがうと………  
そこには本来ここにいないはずの敦賀さんが立っていた。  
 
( …な--------------------------------)  
 
思わず血の気が引く。  
体を引くまえに、ばちっと目が合う。  
 
(ひーーーーーーー!!!!)  
 
「…やぁ」  
 
心底びびりまくりの私を知ってか知らずか、敦賀さんは極上の笑顔を浮かべると、  
ちょっと周囲を確かめるようにして…さりげなく入り口のパネルを操作した。  
ピ、という電子音と、かすかなロック音。彼自身のカードをかざす仕草。  
 
と……  
 
閉じ込められた…? ま、まさか…  
 
「…随分久しぶりだね……元気だった?」  
 
ゆっくりとした動作で一歩一歩近づいてくるのに、泣きそうになる。  
こここ、こわぁい。  
 
「もう遅いからそのくらいでキリをつけて帰るようにって椹さんが言ってたよ」  
 
へたりこんでいる私の前に立ち塞がる大魔神。  
 
「………つ、敦賀さん、きょ、今日は…ロケの……」  
 
震える声で搾り出すようにやっと言うと、  
彼の目がすっと眇められた。  
 
「ああ…」  
 
無表情な美貌。  
すごく久しぶりに見る姿、話す声に…胸がズキズキと痛みはじめた。  
 
「…そう言っとけば、君も気楽に仕事ができるんじゃないかと思ってね」  
 
(うそーーーーーーーーーーーーーー!?!?)  
 
だって、椹さんがっ…  
 
「正確には昨日まで出かけていたから嘘じゃない。  
椹さんは俳優部門じゃないからそういうタイトな部分まで把握しないもんだよ…」  
 
「………」  
 
「…俺がいない事を確認して、安心して仕事してたんだ?」  
 
冷たい手で心臓を鷲掴みにされたような気がした。  
上から敦賀さんの痛いくらいの視線がふってくるのに、顔が上げられない。  
正座して、膝に置いた手を握り締めた。  
 
「………椹さんにね…」  
 
ふと、話がそれる。なんとなく、ほっとし…-------------  
 
「きみを送ってやってくれって言われて、了解してきたよ。」  
 
(椹さん…なんて余計な事を!!!) 涙が出るような気がした。  
 
「で、『お疲れ様でした』 って言ってきた」  
 
含みのある言葉に、思わず目を上げると、敦賀さんは無表情が昂じて作り物みたいな表情の中、  
目だけでものすごく怒っていた。  
すごく傷ついている……ような、なぜ…?  
目が逸らせない。  
 
「…朝まで、ふたりきりだ-----------」  
 
怒ったまま、ゆっくりと、たちのよくない笑みが浮かんでくる。  
悪魔というものが、この世に存在するのなら、この人は間違いなくそれのうちだという気がした。  
 
「さぁ…… なにをしよう?」  
 
(------------------------------------!!!)  
 
『地味で色気がねえうえに肉便器としてだけは利用可』   
 
ショータローの声が聞こえた。  
 
「つ、敦賀、さんっ…」  
 
思わず叫んだ。  
 
「…なに?」  
 
彼はラックを掴んでいた手を放して、ゆっくり腕を組んだ。  
 
「わっ…わたし、今日、このあと、モー子…琴南さんと約束しているので、早く行かないと…なんですっ」  
 
両手をもみしぼって、適当な事を言ってしまう。どうしてこんなことしか。  
敦賀さんの真意は知れないけれど、こんな状況で何かするのであれば、  
なじって、罵倒して、怨キョとばして、ボコボコにして逃げればいい…そうだ、こんな男。  
 
敦賀さんがすぅっと目を細めた。 こわい、こわいよーーーーーーー。  
 
「それは大変だっ」  
 
ふいににっこり笑って、あっけなく彼は言った。  
思わずほっとして、一瞬さっきまでのは、たちの悪い冗談か…と安心しかけると  
 
「琴南さんには、明日にでも謝るといいよ」  
 
怒りが深まった-----------気がした。  
 
「その約束が本当なら………だけど?」  
 
ちらりと壁の時計を見る仕草が皮肉っぽい。午後10時を過ぎている。  
確かにこれから友達と会うような時間ではなかった。  
 
敦賀さんは大きく一歩を踏み出して、私の腕を掴んだ。血が逆流する。  
 
「イヤッ…」  
 
ふりはらって、後手にあとじさる。  
黙ったまま、さらに距離を詰められて、あわてて立ち上がる。  
体をかえして、思わずドアに走りよった。  
カードをかざしても、ドアは開かない。  
カードとパネルがふれあう、気の抜けた、カシカシという音が響くだけだった、  
何度やっても無駄だとわかっても、せずにはいられなかった。  
 
「………どうして-------------っ」  
 
うしろは見られない、こわくて。体が勝手に震える、胸が痛くて。  
 
「…どうしてこんなことをするんですか………」  
 
小さく問いかけると、彼はこともなげに言った。簡単に、軽く。  
 
「愛してるから」  
 
(うそだっ)  
 
心臓が破れてしまいそうだった。  
 
『男は、マジボレした女のこと、襲ったりなんかぜってー出来ねえってこと覚えとけよ』  
 
ショータローの言葉をぜんぶ信じるわけじゃない、そんなわけじゃないけど、  
敦賀さんの言葉を信じてしまうのは、足元が一気に崩れるくらいに怖い事だった。  
愛してると言われた瞬間の、胸の痛みが怖かった。  
私が、敦賀さんをこうさせるような力を、それも愛ゆえになんて、そんな事はありえない気がした。  
絶対傷つく。この言葉を信じたら駄目だ。また傷つく。  
そしてきっと今度傷ついたら、今度こそ私は…生きていかれない。  
 
「うそですっ…そんなの!」  
 
涙が出そうだった。  
 
「…嘘…?」  
 
「うそです、ひどいです、こんなのイヤです…もうイヤですっ!」  
 
この状況を頭から追い出してしまいたくて、ぶんぶん頭を振った。  
 
「……………嘘、か……」  
 
ふいに、敦賀さんの声が暗く陰鬱によどんだ。  
はっと振り返ると、すぐ後ろにいて、キツイ視線が上からふってくる。  
何度見てもビックリするくらいに整った、美しい顔がまっすぐに私を見据えている。  
女性的なところなんかどこにもないのに、どうしてこの人はどこか、こんなに、艶かしいのだろう…。  
 
「------…俺の気持ちなんか、何も知らないくせに…」  
 
こんなに胸が乱れる。鼓動が激しくなる。  
のまれた様にすくんで、彼を見上げていると、彼はふっと視線をやわらげた。  
 
「そんなに怖がらないで」  
 
大きな手が、頬に触れる。両手で包み込むように、仰向かされた。  
 
「……やさしくするから………」  
 
体が、動かない。  
これからはじまることがなんなのかはっきりわかるのに、足がすくんで動けない。  
頭が熱くなる。ドアを背に、敦賀さんに触れられて、魅入られてしまったみたいに。  
 
敦賀さんの手がのびてきて、ツナギのジッパーがゆっくりとひきおろされていく。  
下に着ているTシャツがたくしあげられる。  
敦賀さんの手が、背中にまわり、ブラのホックが外された。  
 
(ど………)  
 
どうして………  
 
(どうして、動かないの?私)  
 
肌が空気に晒される、ひんやりとした感触。思考停止したみたいに、馬鹿みたいに、  
敦賀さんにされるがままになっている自分。  
 
(私-------------------)  
 
触れられて、嫌じゃない…?  
見つめられて、胸が痛むほど。  
思わず見とれてしまうほど。  
 
この人を、こんなに悩ましげに感じるのは…-------。  
 
(わたし------が)  
 
この人に…  
 
(……で、あれば…-----)  
 
(-----------… 恋の…-------------)  
 
 『   恋の予兆さ   』  
 
かつて自分が坊の姿で敦賀さんに向かって言った言葉が  
鮮やかに脳裏に浮かび上がって叫びだしそうになった。  
 
「………最上さん…?」  
 
私が、この人を…-----?  
 
いぶかしそうに私を見つめる綺麗な目。  
かぁっと顔が熱くなった。  
敦賀さんの目が大きく見開かれる。息が苦しい。目が逸らせない。  
目が合ったまま、二人してしばらく止まってしまった。  
敦賀さんの表情が、あやしく変化する。 黒目が濡れる。目のふちが赤く染まる。  
男の人の顔…-------なんてきれいな、なんていやらしい……----------。  
 
「……そんな顔をして………」  
 
敦賀さんはごくりと喉を鳴らした。視線が焼けるくらいに熱い。  
掴まれた二の腕が痺れるようになって、私は小さく喘いだ。苦しい。  
からだの奥が……-------。  
 
奥から、あふれて………------。  
 
「…ちがう……------ちがうん、です……」  
 
いやだ、ただこうしてるだけなのに、自分が変わってしまう。  
抱きすくめられた。敦賀さんの熱い体。からだの中心におしつけられた熱いもの。  
顎をつかまれて、激しくくちづけされた。二回目の……。  
 
頭の奥が破裂しそうなほど、鼓動が激しくなる。  
否応なく全身がひきよせられていく、圧倒的な力。圧倒的な蠱惑。  
 
(駄目なのに………----------)  
 
圧倒的なちからで流されていく心のどこかで、小さくあらがう自分がいる。  
 
(何故…私はまだ、なにも……)  
 
(ショータローへの復讐も、演技の勉強も、あなたに追いつくという目標まで…なにも)  
 
(なにも果たせていないのに………)  
 
私がわたしになるまえに------------  
最上キョーコが最上キョーコをつくりあげるまえに-------------  
 
こんなふうに………  
 
 
『地味で色気がねえうえに肉便器としてだけは利用可な、  
男の本命にはなれねーアワレなオンナのままだぜ?』  
 
 
ショータローの嘲るような声が耳に蘇った。  
私のこんな有様を見たら、アイツはきっと笑う。  
それみたことかと、やっぱりオマエは所詮キョーコだと。  
 
あの眩しい、スポットライトの中のアイツには届かないまま--------------。  
 
口惜しい…  -------------------------口惜しい。  
…涙が出てきそうだった。  
 
「…なにを考えてる……」  
 
尖った声が耳を掠めた。  
目をあけると、一転して顔色を変えた敦賀さんがぎらぎらした目で睨んでいた。  
ゾッとするほど怖い顔。美貌の人が怒った顔は本当に怖い。  
 
「…不破のことなんか-----」  
 
掴まれた顎に力がこめられる、いたい。  
 
「考えるんじゃない」  
 
ぎょっとした。何故、どうして。  
 
「そんなことくらい…わかる」  
 
自分でも知らず、もやもやしたもの思いをどうしていいかわからず、  
ぐるぐるとした思いのまま、言い訳のような言葉が溢れてくる。  
 
「…だって…私、まだアイツになにも-----こんなことで、敦賀さんに……  
私が…全部、ぜんぶ、だめになっちゃう……」  
 
「ダメになればいい」  
 
敦賀さんはきっぱりと言った。  
 
「不破のことなんか全部。復讐なんかさせない…------------もう二度と…会わせない」  
 
逆らう間もなく、腰の辺りにわだかまっていたツナギを明確な意思を持って脱がされた。  
全ての思考が中断する。流されるまま、また……。  
Tシャツと下着だけの姿になった。  
敦賀さんが私の前に片膝をついて、下着に手をかける。  
 
「………っ」  
 
下着がずり下ろされるのに、思わず目をつぶった。  
途中まで下げて、手が止まったので、恐る恐る目をあけると、彼は無表情で私を見上げていた。  
 
「…どのくらい…----濡れているか、自分でわかる…?」  
 
大きな手で足をつかんで、太腿を撫でながら、敦賀さんが言う。  
 
「……っ」  
 
「------------この可愛い下着と……」  
 
敦賀さんは私を見つめたまま、するすると下着を私の足から抜いた。  
何も隠すもののない心もとなさ。なのに、からだが動かない。  
 
「最上さんのココが、いやらしい糸をひいて繋がっていたよ…」  
 
私の反応を確かめるように、そんな恥ずかしい事を冷たい声で言う。  
顔がまた赤くなった。涙が出た。  
 
「…まだ、触ってないのに……ぐちょぐちょだ……」  
 
だって…だって、敦賀さんが…こんなふうに。  
耳をふさいで、イヤイヤをした。そんなことを言わないで………。  
立ち上がった敦賀さんが耳をふさぐ私の両手首を掴んで、ひきはがした。  
 
「…不破を思って濡れたのなら、許さないよ…-------?」  
 
わざとのように耳元で言う。  
違う、そんな…そんなのってない。   
 
立ったまま、膝裏をすくわれた。そんなところが外気にふれて、体がすくむ。  
敦賀さんの怒気をはらんだ仕草に思わず悲鳴が漏れる。  
かれは、軽く舌打ちをした。こわい。  
 
「…やさしくする、つもりだったのに…-----」  
 
いいざま、熱いものがそこにあてがわれた。  
それがなんなのか、認識するより先に……  
 
「い----------------------!!!!」  
 
硬くて、熱いものが押し入ってきた。激痛に背を反らせて、腕をつっぱり、  
敦賀さんのからだを押しやって逃れようとしてしまうのを、  
しっかりとつかまえられたまま、さらにぐい、と捻り込まれる。  
裂けそうに痛い、めりめり、という音さえ聞こえそうだった。  
 
(………---まって……まってくださ…………いた--------------------!!!)  
 
言葉にならない哀願、敦賀さんが少しづつ身を進めてくるたび、悲鳴が止まらない。  
気持ちとか、こころとか、関係なく、体の痛みだけで涙が吹き零れた。  
 
「 待たない 」  
 
さっきまでの冷たい声に、甘さが混じった敦賀さんの声。  
擦れたような、卑猥な…。  
言葉とうらはらに、敦賀さんの動きが少し止まった。  
 
(あ-------------)  
 
一瞬にしてこわばった体から思わず力が抜ける。  
何よりも正直に体がほっと息をついた瞬間。  
……思いきり突き上げられた。  
 
「---------------------!!!!!!」  
 
目をみひらいて、のけぞった、声にならない叫び。  
 
首の後ろをきつく掴まれた。乱暴なくちづけ。口の中を敦賀さんの舌が蠢き、  
口のはたを唾液が伝った。  
 
ゆさぶられて、自分の口からおかしな声が漏れる。  
こんなに…痛いなんて。 こんなに……。  
動かないで欲しい、抜いて欲しい。許して欲しい。止めて欲しい。  
 
いたい---------------。  
 
立っていられない。  
どこにも力が入らず、崩れそうになるのを、敦賀さんの力だけで支えられている。  
敦賀さんが身動きする、そのたび、声だけは淫らにブレた。  
頭の中がまっしろになる。半ば失神していたのかもしれない。  
視線を感じて見上げると、敦賀さんが悪魔みたいに残酷な顔をして私を睨んでいた。  
着崩れてはだけた胸元のいやらしい感じ。乱れた髪の間から覗く濡れた目。荒い息-----。  
私の中のなにかが呼応する。体の奥の奥……原始的な欲求の何かを刺激する…。  
 
ふいに体が自由になった。抜かれたのだと気付く間もなく、近くのキャビネットにうつぶせにされ…  
また貫かれた。うしろから。  
 
体をめちゃめちゃに触られる。胸をもみしだかれて、撫で上げられ、乳首をこすりたてられた。  
そして彼は…ひとつに繋がった部分の、その傍を、触れるか触れないかの強さで触れてきた。  
痛いのに、そんな事をされたって感じたり出来ない…弄らないで、そんなふうに…。  
 
言葉にならない悲鳴。哀願。全て無視された。  
 
敦賀さんは、容赦がなかった。  
どのくらい、ゆさぶられているのだろう…股間から、敦賀さんが放出したものが  
しとどに流れ出ているのを感じる。  
何度目だろう…一度目はうしろ、にどめは、キャビネットの上に仰向けにされて…そのままなんどか。  
声も、涙も枯れ果ててしまった気がする。  
そして今はまた、後から執拗な愛撫と、抽送を-----。 気が狂いそうだった。  
 
(もう………もう----------)  
 
弱々しく頭を振る。力が入らない。伸ばした手でキャビネットの端を掴んだ。  
のしかかっていたあの人の重みが遠のく。  
え…と思う。  
繋がっている、そこの感触だけが体を支配した。  
 
(……え………-------?)  
 
ずしん、と、体の中心に、異様な感触。  
 
(あ----------…?)  
 
繰り返された陵辱に、半ば無感覚になっていたそこに、  
さざなみのようなかすかな快感の徴が表れた。  
 
(なに--------------)  
 
敦賀さんはそれを私よりも早く察知しているみたいだった。  
 
「や…---------」  
 
言葉もなく、揺さぶられ、刺激されて…。  
耳を噛まれ、首筋に歯を立てられた。  
まんべんなく、根こそぎに犯される…----------私は体の中に、敦賀さんの脈動すら感じ始めている。  
荒い吐息…そして私は、自分がいつのまにかゆっくりと腰をくねらせていることに気付いた。  
 
(あ--------)  
 
体の奥からいいしれない疼きが這い上がってくる。敦賀さんの指先がふれる箇所から、  
いいしれないもどかしさが全身に広がっていく。  
 
(……イヤ………)  
 
ちがう…なにかが…。  
痛みの奥から、ぞわぞわと、淫らなものが…。  
 
「……不破に…-----見せてあげたいな」  
 
敦賀さんがうっとりと言った。  
 
「俺に無理矢理犯されてるのに、こんなに感じている最上さん…」  
 
荒い息の下、擦れた残酷な言葉が壮絶になやましい。  
 
「…どうしたの----?こんなになって………」  
 
つきあげられると、知らず、お尻があがった。  
からかうように、撫でられる。  
 
「イ…-----いや…-----------」  
 
ほんとうに、どうにかなってしまいそうだった。  
敦賀さんが触れているところ全部から、いまはもうはっきりとした淫らな快感が染みて、たまらない。  
気がつくと、死んでしまいそうに気持ちが良かった。  
 
「つるが…-----------さ…ん…----」  
 
自分の声でないみたいな、甘い、甘ったるい声。  
肩ごしに振り返ると、体の中の敦賀さんが少し大きくなった。  
思わず眉を寄せて、「あ」と声をあげる。  
敦賀さんと視線が絡まりあって、酷く淫靡な感じがした。  
じっと私を見据えたまま、彼の薄い唇の端からみだらな舌がちらりと覗く。  
瞳の色を染めていた怒りが、もっとエロティックなものに染めかえられていくのを目の当たりにして、  
私のそこがじん、と痺れた。  
 
「………なんて------------」  
 
はぁっと大きく喘ぐ、敦賀さんの…。  
 
「なんて…悪い娘-------だ……、俺を…こんな…------」  
 
「----------!!!!!」  
 
敦賀さんの動きが激しくなった、ついてゆけない、意識が飛ぶ。  
めちゃめちゃに叫んで…  
敦賀さんの甘い喘ぎを聞きながら、  
私は生まれてはじめてのセックスで、生まれてはじめての絶頂を迎えた。  
 
私は、この人が好きなんだ………。  
薄れていく意識の中で、私はふと、あっけなく、とうとう、自覚してしまった。  
いつからか、どこからかも知らず…。ただ、この人が好きなのだと。  
 
それだけで、もう生きていけない気がした。  
 
もう二度と、誰も愛したくなんかなかったのに…。  
こんなふうにこんなかたちで自分がバラバラになってしまうみたいに…。  
--------------誰も知らない、どこか遠くへ行ってしまいたい…。  
 
 
…コーンの森へかえりたい…。  
 
 

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