王の手が、雄弁に少女の膝に触れ、
くちづけを受けていたシェヘラザードの体がぴくり、と震えた。
「 …あ ………王…?」
月のもので穢れている体に、この人はなにを…?と少し訝った。
千日目の夜。
思いがけない王の愛の告白に舞い上がり、胸にあふれる思いとともに、彼への愛をあらたにし、
その身を王に任せる悦びにふるえていたとはいえ、今日ここで今すぐに…とまでは流石に処女の事、
考えてはいなかった。
なにしろ、生理中である。
愛する男性に処女をささげる初めての夜としては、あまりにも生々しく、グロテスクにすぎるのではないか…。
手を伸ばして、王の肩にふれると、彼は目をあけて、少女を見た。
王は、やさしさと残酷さを相半ばしたかのような表情で、シェヘラザードの頬にくちづけると、
耳元でささやいた。
「 今夜だ 」
( おまえを、抱く )
強い意志をほの見せる低い声に、シェヘラザードは戸惑った。
「 お……… お寝間を、汚してしまいます……」
かそかな声で抗うと、笑う。
汚してしまえ、そんなもの、と言った。
そのまま、シェヘラザードの纏っていた夜着の肩紐を解き、大きな手のひらを大胆に潜らせ、乳房を掴んだ。
少女の息がはっとあがる。
「 これ以上焦らすな……… 」
圧倒的な誘惑に、シェヘラザードは切なく身を震わせ、観念した。
今夜このまま、この人のものに…身も、心も、遂に…と思うと、胸が早鐘をうちはじめた。
胸を揉みしだく王の手が、先端の突起を指でなぞる。
触れるか触れないかの微かな刺激に、首筋からおりてきた唇が重なった。
王は、シェヘラザードのそこを舌で舐りながら半身を起こし、膝をついた。
薄目をあけて少女の様子を眺める。
彼は、自分の下で頬を染め、かたく目を閉じている少女の肩に手を這わせると、
解いた紐に指を絡め、着衣を滑り落とした。
そのまま腰を結わえていた絹紐をほどき、前をひらく。
王は、体を起こして少女を見つめた。夜目にも白い、華奢な裸体。
恥じらいのためか、うっすらと汗ばんだ胸元に手を這わせ、脇から腰の線を両手で撫で回すと、
少女は伸ばしていた膝を折り、体にひきつけるようにして小さく声をあげた。
王の手が躊躇いなくその膝を割る。
じっとそこを見つめられた。
視線が物理的な力を持つかのように、熱かった。
王の視線に晒されるのは慣れているはずなのに、堪え難い。
きっと、今自分のそこは汚らしい…穢れて……、なのに。
「………閉じるな」
体をよじると叱られた。
隠そうと被うしなやかな手を王の手がとらまえて。
「み、見ないで……くださいませ………」
少女が真っ赤になって哀願すると、王はなぜだ?と笑った。今更であろう、と。
ちがいます、今夜の私は月のもので穢れて……。
「……穢れてなどいない………」
強い声で言うと、王は躊躇う事なくシェヘラザードのそこに唇をよせた。
(ああ?!!)
驚愕と羞恥に体を起こそうとするのを片腕で押さえつけられた。
証立ての時には、なかった行為…。
何をされているか具体的にはわからず、しかしそこに与えられる刺激は、明らかに王が自分を…口で。
シェヘラザードはぶるっと全身をふるわせた。
指で丁寧に掻き分け、花芯をむきだしにして、王は舌先で微かにそこに触れた。
つと、上下に舐め上げ、少女が声をあげて腰を震わせるのを確認する。
少しづつ、ずらして…ひとつひとつの反応を確かめて。
いつかの夜をなぞる様に……でも今夜、少女は薬で我を忘れてはいない。
王は、それを喜んでいる自分に気付いている。
やや…胸苦しく、苦々しい思い。
やがて彼は、繰り返す確認の果てに、少女の弱点を探り当てた。
そこを触ると少女は面白いように身をくねらせ、奇妙に跳ねた声音で王の名を呼んだ。
甘すぎる喘ぎ。
「 ………い ……や……っ 」
夜目にも白い、しなやかな足が空を蹴った。
「 ………おまえのここは……嫌がってはいなさそうだが……?」
指と舌で、そこを弄る。
少女は泣き声をあげた。
自分でするのとはまるで違う……なのに正しく自分の一番弱いところをこの上なく正確に。
それほどにあからさまな、まぐわいのための刺激を与えられるのは初めてだった。
確かにはじめて………そのはずである。なのに少女には自分がそれを経験するのは
はじめてではないような、妙な既視感があり………それが彼女を戸惑わせた。
「………はじめてではないぞ 」
王は少女をいたぶる仕草を止めずに囁いた。
少女の目が潤んだまま、大きく見開かれる。
「………覚えているか…? 俺がおまえに----------」
薬を盛った日のことを。
あの、気が狂いそうな官能の爆発………。
うっすらと、少女の脳裏に、はじめて王の腕の中で目覚めた朝が蘇った。
にんまりと、王が笑う。
「……一晩中……」
ここを、こうして……。
シェヘラザードが全身を真っ赤に染めて悶えた。
そんな、そんなことは。
(覚えていません………嘘です------------)
「………今日は、あの夜出来なかった、その先の先まで…教えてやろう。」
(思い出させてやろう……じっくりと )
王の淫靡な囁き。吐息が敏感な部分に触れ……。
少女はまたひとつ、官能の扉を開けた。
*****
( あ……あ-------------あ……… )
焦れるような、下肢に広がるにぶい刺激。
王は、シェヘラザードがその愛撫によって絶頂を迎える瞬簡に、突き放した。
そうしておいて、あと少しの刺激をほしがって淫らに痙攣をしているそこに触れず、
しとどに濡れそぼった下の口に指をのみこませる。
経血と、愛液が混じってしたたり、淫らな音をたて、シェヘラザードのその部分は、
引き絞るように王の指に吸い付いた。
( ………いい具合だ------------)
指を動かさずとも、シェヘラザードの内部が彼の指を飲み込み、うねる。
王は、その淫らな蠕動を指全体で感じ取り、自分自身をここに穿つ瞬間を思って、熱い息をついた。
少しく、少女の興奮が醒めたかと見て取るや、指を埋め込んだまま、舌先で花芯を弄う。
そうして高ぶらすだけ高ぶらせて、その瞬間突き放すと、少女は、とうとう泣き出した。
余韻でいってしまわないように、腰をおさえつける王の手に、かよわく爪をたてる。
「 ………王------------シャーリアールさま………」
もう、…もう------------。
先ほどから、どのくらいこの甘美な地獄をくりかえされたろう。
なんといってよいか、わからないくらいに、それはまさしく地獄の苦しみで。
「………どうして…ほしい……?」
悪魔のようにやさしく王が囁いた。
わななく唇から、懇願の喘ぎを吐く。
(どこを…どのように?)
(どうして……ほしいかはっきりと示して)
淫猥な言葉と仕種を要求されて、意識せずにそれに従う。
ああ…こんなことを、確かに自分はかつて……と、少しづつ少女の中でかつての記憶が蘇りはじめた。
うつぶせて、やわらかな臀部を高く突き上げたまま、王にそこを激しく慰めてもらった。
いまのように、中指をそこに飲んだまま…自分の手と、王の舌と…人差し指で。
「 -----…………んっ 」
体が火を噴いてしまいそうだった。
(いきたい………---------いきたい… いきたいのです………-------)
「 まだ駄目だ 」
王の、喉にからんだ低い声音に、シェヘラザードは声をあげて泣き出した。
*****
少女の潤んだ目の向こうで、王が静かに動いた。
しどけなく開かされた脚のむこうで、ゆっくりと自身を掴み上げる。
逞しく屹立したものを上下に扱きながら、王は少女に壮絶な流し目を呉れた。
無意識のうちに、仕えるために、少女が弱々しく手を伸ばす。
「おまえは、触るな」
少女の両手を掴むと、王はそれを褥におしつけた。
そうしておいて、屹立したものを、少女のおんなにあてがう。
少女が挿入を予感して体を強張らせると、彼はからかうように身をひき、己自身で少女のそこをこすりたてた。
言うに謂われない感触。
王の熱い高まりが潤んで解けた自身こすりつけられ、また別の淫猥な悦びが少女を襲う。
(あ、 あ、 あ、 ア………-------------------)
触れ合って、まじわらずに、ただ、お互いを擦り立てて。
王のそれがシェヘラザードのなかから溢れでた愛液に濡れそぼった。
王は、眉根を寄せて、荒く胸を喘がせる。
いい。----------とても。 でも。
彼には屈辱がある。
この愛おしい娘に、味あわされた、生涯最高の、驚愕の…屈辱。
二度とあのような失態を繰り返すわけにはいかない。
だから。
シェヘラザードを目で犯しながら、王は少女の足をかかえあげ、ひらかせて、そこに激しく擦り付けた。
淫らな腰の動き。王の高まりを感じ、何をされているかすら飛んでしまいそうな状態で、少女は王を見上げる。
淫猥な王は、本当にひどく美しくて。胸をかきむしられるように、愛おしくて。
視線がからみあい、折り曲げられたまま、激しく唇を重ねてお互いに相手を貪った。
そうしたまま、王の手が自身をつよく扱き………。
彼は、はぁっと大きく喘いで、眉間を歪めて背をそらせた。
「………っ」
シェヘラザードの体に、王の放ったものが散り掛かる。
シェヘラザードは、王が放つ瞬間の、その表情とからだ、しぐさや声に、激しく胸を震わせた。
……それが、王への欲情だとは気付かずに。
王は上から少女を覗き込んだ。腹に、乳房に、秘所に…そして頬までに飛び散らしたものを確認するように。
頬に散ったものを指で塗り広げ、口に含ませる。シェヘラザードはうっとりと王の指を吸った。
ちらり、と舌がまつわりつく刺激に、王の目が潤む。
彼はシェヘラザードをあやすように指を抜くと、少女の腹に散った己を掬い取った。
そのまま後ろ手に座り、ひざをたて、あられもなくひらいたまま、
淫らめいた仕草で放出したものをおのれに塗りたくる。
口元に浮かぶ薄笑い。
シェヘラザードを見つめる怖いような目
「………………………」
彼は無言でシェヘラザードを差し招いた。
「………………………」
呼ばれるまま素直に、よわよわしく身を起こした少女を強い力でひきよせ、自身に跨らせる。
そのまま彼は、シェヘラザードの濡れそぼったそこにふたたび指を這わせた。
鮮やかな朱色に染まった乳首を口に含んで、転がす。
前から、後ろから……花芯が、とがりが。
声にならない喘ぎ。言葉にならない哀願。泣き声そのものの……。
( さぁ……来い---------------)
王は自身を掴み上げ、その上にシェヘラザードの腰をひきよせた。
入り口にあてがい……ふれあう。
( 上から……来い )
処女に、騎乗位で、その花を散らさせる。
意地悪な王の、ひそやかな復讐。
「 いっ………-------------」
少女の目が大きく見開かれた。
唇がわなないて、そこから、苦痛を感じた喘ぎが漏れた。。
シェヘラザードは充分に潤っていながら、その先端でさえ飲み込みそびれて腰を浮かせようとした。
強い力で押さえつけられ、引き戻される。
「 いっ……あ、 ……あ--------あっ 」
小刻みな、ゆっくりとした、挿入。
( そんな……こんな-----------………入り………ませ--------- )
入り口をいっぱいにひろげられたような圧力。
自分の中に入ってこようとする大きな、熱い塊。
( 入るに決まっている……… )
ひそめた熱いささやき。
彼は、焦らず体を止めた。
なれた仕種で、少女の弱点に指を這わせる。
ゆっくりと少女の体が潤びる。限界ぎりぎりまで高まっていて、あふれ出しそうな…官能。
それに溺れる姿を確認して、王はゆっくりとその体に自身を穿つ。
シェヘラザードがまた痛みに体を震わせた。
( 痛いのです……お許し下さい、ほんとうに…壊れてしまいそうです………)
切れ切れに哀願すると、王はまた、体を止める。
そのまま、少女を引き寄せ、くちづけた。
俺を見ろ。
うっすらと涙を浮かべた目で、シェヘラザードが王を見つめる。
上気した目元…そこに影をおとす長い睫。きれいな鼻梁。かたちのよい唇。
つややかな黒髪が、今は少し乱れて。
なにもかも… なにもかも。
( いやか…………? )
続けるのは嫌か。
俺のものを欲しくはないか。
おまえを思ってたかぶりきったこれを、おまえはいらないというのか?
俺の全てを、おまえがいらないというのなら……。
…………やめてもよいが。
悪魔みたいな声と美貌で、彼はそう脅かす。
少女が決して逆らえないことを知ってなお、そういう意地悪を言う。
体に入ってくる肉の…熱さと…固い、大きな…
少女は声を飲み込んだ。首を左右に振って。
( いり………ます……… )
どうして逆らえるだろう、この美しい人に。
こんなに愛おしいと思う、その悪戯めいた意地悪な目に。
( では、呉れてやる )
その瞬間に、少女は容赦なく、激しく犯された。
逃げられないように腰を強く押さえ込まれて、下から突き上げられる。
声にならない悲鳴をあげて、仰け反ると、乳房に噛みつかれた。
嵐のような一瞬…。
…そうしてふたりは、ひとつになった。
王は、満足したようにシェヘラザードを抱きしめてくちづけた。
それをうけて、少女は胎内に王の脈動を感じる。
ようやく………。
千日千夜の永きにわたって…続けられた恋の駆け引きが。
ゆるやかに、王は少女をゆさぶった。
眉間に苦痛を湛えて目を閉じる少女の、そのまぶたに口づける。
( …………そのうちに………) 悪魔は唇をゆがませて笑った。
尻を振ってねだるように仕付けてやる……。
このかわいらしい体が夜ごと俺をほしがって泣くように。
( そんなみだらなことはいたしません………)
少女は、切れ切れに強情を張る。
こんなに痛いのに。
……こんなに、つらいのに。
「 ……では、今度は俺から、新しい賭けの提案だ 」
王は笑った。
( 今から千夜のあいだに………………………………)
耳元の甘い囁き。
ゆっくりと、律動を繰り返されている少女が、耳元の刺激に喘いだ。
王はそのなまめかしさにうっとりと目を細めた。
焦らない。もうほしいものは手に入れた。
( …………のるか…?)
千一日からの夜を。
たっぷりとした余裕をにじませて。
少女は、うるんだ瞳で王を見上げ、恥じらいながら、小さく、可愛らしく頷いた。
(了)