(誑し込め…といわれましても……)  
 
 
休憩中。  
なんとなく呆然と椅子に座っていると、敦賀さんがやってきた。  
その絢爛豪華な美しさに、あらためてみとれてしまう。  
………正直、彼はとても正視できないくらいにまぶしかった。  
 
「…だいじょうぶかい?」  
 
「……はい…、まぁ……」  
 
うそだ、全然大丈夫じゃない。  
口から魂がぬけていきそうです…。  
敦賀さんは、なにもかも見透かしたような目で私を見ると、  
近くの椅子を引いてきて、前に座った。  
王様がパイプ椅子に座ってるのはなんだかおかしい。  
 
「………最上さん、君、『千夜一夜物語』の映画か、原典を見たり読んだりしたことは…?」  
 
聞かれて、ぎくりとする。  
 
「は……いえ…。小さい頃、それらしい童話を読んだことくらいしか…」  
 
言い訳が口の中に消えそうになった。  
敦賀さんは、なにか考え深げに そう、と相槌を打った。  
 
「すみません……不勉強で」  
 
はずかしさに体全体がしぼみそうな思いで言う。  
敦賀さんはつと手をあげて私を制した。  
 
「いや、むしろ今回は知らない方がいいかなって思って。 監督(?)の設定ってかなり異色だから」  
 
「………」  
 
フォローかと思って、ぢとっと上目遣いに敦賀さんを見つめる。  
彼はしばらくやれやれ、という感じの横目で私を見ていたけれど、  
ふと視線を外して息をつくと、静かにつぶやいた。  
 
「……………… ようか…?」  
 
「…え……?」  
 
思わず聞き返す。  
 
「………君と、俺の、二人だけの千夜一夜物語………、作ってみようか…?」  
 
小首をかしげて覗きこまれる。  
長い睫の、綺麗な顔の、敦賀さんの。  
 
思わず息ごと飲み込んでしまった。  
 
どどどど、ななななな、このひとは、いきなりななな。  
 
焦りまくる私に斟酌無く、敦賀さんはぶつぶつとつぶやき…なにやら自分ひとりでしきりとうなづいている。  
………あ、そうですよね…お芝居のことですよね。  
一瞬本気で焦った自分が恥ずかしかった。  
 
やがて  
 
「……シェヘラザードは……」  
 
敦賀さんが言った。  
 
「その夜までの、王のことは、どんなふうに思っていたんだろうね…?」  
 
声に誘われて、彼を見る。  
 
「初めの王妃に裏切られて、以来女性を復讐の道具としか考えられなくて、  
目に付いた女性をかたはしから花嫁にして殺してしまうような男性を」  
 
思わず、首をかしげて考える。  
自分の父親が、仕える王。  
自分の住む国の、それが王様。  
 
目の前の人を見る。  
敦賀さんのうしろに、厳しく、残酷で、いにしえの王者の傲慢そのものの美貌を見る。  
おそらくは敵を屠る事にもためらいのない血みどろの。  
少ない知識と印象で、アラビアンナイトの世界を夢想する。  
 
王が…女性をそんなにも許せなかったのは。  
 
最初の妻を…-------------それほど愛していたから…?  
 
 
「………強くて…残酷で、尊敬する父が仕える王としては申し分のない人ながら、  
女性である自分にとっては恐怖の対象で、一面腹立たしい存在で…  
でも、どこか気の毒にも…感じていたかもしれません…」  
 
 
(愛に狂う王…----------)  
 
 
敦賀さんは、ただ私を見ていた。  
是とも、非とも言わずに。  
 
 
「…俺としては彼の、内面の飢餓感を表現しようと思う」  
 
やがて彼はぽつりと言った。  
どこか楽しそうに、笑みを浮かべる。  
彼は、強い目で私の目をとらえ、引き込むような声音で言った。  
 
「………容赦は、しないから。 」  
 
ぎゅ、と心臓が縮み上がりそうな緊張の奥から、ちいさく跳ねた鼓動が臆していたわたしに熱をともした。  
 
(………ああ……… )  
 
私は、この人に恋をする演技なんかして、引きずられるのが怖い…と思っていた、けれど。  
恋するのは、私ではなく、恋する相手は、この人ではないんだ。  
 
そもそも………恋するのがわたしであっては、だめなんだ。  
 
それではまた、この人のいいように動かされて、ことごとくこの人のツボにはまる演技しかできなくて…。  
いつかのような口惜しい思いを味わうことしかできないことになってしまう。  
…考えると、目が据わってくるような気がした。  
 
恋をするのは最上キョーコではなくシェヘラザード。  
恋をされるのは敦賀さんではなくシャーリアール王。  
…なんでそんなことに、気付かなかったんだろう。  
 
ふつふつと、闘志みたいなものが漲ってくる。  
 
 
「……でも、やっぱり一体どんなCMになるのかは想像もつかないな…」  
 
 
敦賀さんはふいにくすくすと笑った。その余裕が口惜しい。  
わたしなんか、この人にとってなんらの脅威でもあり得ないんだ。  
………それはなんて、恥ずかしい事だろう。  
共演する役者さんに、気を使わせて、助け舟を出されるだけの存在だなんて。  
 
その声が、届いたように、敦賀さんの表情がすっと変わった。  
どこか満足そうに細めた目。  
 
 
「…………次…、シーンがはじまったら、俺を見て。 眼を逸らさずに…」  
 
 
真剣な顔。  
 
受けて立とう、と思った。  
 
 
<センテンス1:邂逅>  
 
 
助監督のキューサインが出て、  
キョーコはゆっくりと自分の立ち位置についた。  
目を閉じる。  
 
( 私は、シェヘラザード。わたしはいま、広い王宮の庭園に迷い込んでしまった……… )  
 
すうっと息を吸い込んで、キョーコはイメージの中に彷徨いだした。  
 
( こぼれるような…月光の夜……---------------)  
 
庭園のセットの中で、蓮のシャーリアール王が、低木にもたれかけさせた花嫁役の女優を抱き寄せている。  
それを見つめるキョーコの中で、現実がゆっくりと変容をはじめた。  
自分が「最上キョーコ」である、という自身の認識そのものを、ゆっくりと手放すように。  
彼女が目をあけると、そこは月が煌々と輝く、王の宮殿…。  
 
ひとみの先に、さきほどまで婚姻の宴の主役だったふたりがいる。  
ひらりと風に舞う花嫁の薄物。  
王の手の中のいけにえの花嫁。  
 
ふたりが行っているその行為の意味に気づいて、シェヘラザードは思わず足を止めた。  
その気配に、王がゆっくりと闖入者をふりかえる。  
 
(-----------------)  
 
王の美貌。  
まともに目が合い、彼女は一瞬ほんとうに息を忘れた。  
心臓を鷲掴み、引きちぎるような衝撃。  
 
ゆっくりと頬に血が上る。  
華奢な手を胸の前で握ったシェヘラザードは、わななく桜色の唇をわずかにひらいて-------  
無垢に頬を赤らめた。  
 
 
(おおっ…?)  
 
 
…撮影スタッフの一群から、声にならないどよめきが漏れた。  
瞬間、じろりと背後を一瞥する黒崎の鋭い目に威圧されて、皆慌てたように姿勢を正す。  
 
セットの中で立ち尽くすシェヘラザードの姿は美しかった。  
先ほどまでの最上キョーコとは、立ち位置からふるまいまでが一変している。  
 
(こいつは面白い)  
 
黒崎がうっそりと笑った。  
 
なめらかすぎる白い肌、背を覆う艶やかな黒い巻き毛。  
震える睫まで見て取れそうな、嗜虐の欲望をそそる華奢な姿。  
 
王である蓮は、その姿を目の当たりに、深く自らのうちにイメージを膨らませた。  
 
おそらくは臣下の娘であろう高貴なつつましい娘。  
淫猥な状況に頬を染めた表情を、彼の中の王は好ましく感じた。  
 
王は、値踏みをするように、シェヘラザードの全身をねめまわし、面白そうに片眉をあげた。  
情事の前で、逃げ出す事もかなわずに、竦んだように立ち尽くす白い娘に、  
さらに淫らな行為を見せつける残酷な快感。  
 
王の腕の中で身も世もなくすすり泣く花嫁。  
 
シェヘラザードはかすかに喘いだ。息が苦しくて。  
 
彼女は今まで、どうして、世のむすめたちが、翌朝を迎えられない花嫁の立場を知りながら  
それをおしてなお王に召されるのか、ずっと不思議だった。 ずっと。  
 
…シェヘラザードはいま、それがなぜなのかをようやく理解した。  
 
花嫁はみな、王に恋したのだ。  
一夜の夢でかまわないほどに。  
 
でも、王は…---------------。  
花嫁など、誰ひとりその姿をみていない。  
はるか昔に自分を裏切った、いまはもういないはじめての王妃だけを許せずに。  
 
視線が絡み合い、許しがたい背徳の快楽が体をふるわせる。  
王は、腕の中の花嫁を一顧だにせず、立ち尽くすシェヘラザードを見続けた。  
花嫁のなかに果て、その白い首に指をからみつかせ、絞めながら…。  
視線で、花嫁ではなく、シェヘラザードを犯すかのように。  
 
ゆっくりと、からだのうちにかなしみが充満する。  
 
王よ…王。  
あなたの中のその大きな欠落はあまりにも悲しすぎて、私をさいなむ。  
その残酷なしうちをあなたは誰に行い続けているのか。  
あなたを恋するたくさんの娘たちの、その報われない命がけのおもいはどこにいくのか。  
 
ひとつ、ゆるやかにまたたき、王を直視すると、  
彼は何かに驚いたように大きく目をみひらいた。  
 
黒崎がはっと顔をあげる。  
周囲のスタッフまでもが一瞬色を失った。  
 
(最上さん……-------------?)  
 
王の仮面の下から蓮自身が驚きの声をあげた。  
 
シェヘラザードが王を見る。  
おしひそめたような怒りと、無限に広がる悲しみにけむるその表情は、許しがたいほど不埒だった。  
 
王の腕の中でこときれた花嫁がくずおれる。  
 
むすめは物言わぬむくろと成り果てた花嫁と、王を交互に眺めると、もう一度王に視線を戻して、  
今度ははっきりと蔑みのかたちに眉をひそめた。  
 
口元を薄物で隠し、美しいシェヘラザードは身を翻した。  
ふとその後を追おうとしている自分に気づいて、王は愕然とする。  
 
( あのむすめは誰だ。あの顔は…、あの目は )  
 
(……これでは------------------)  
 
蓮は戸惑った。シェヘラザードの複雑で印象的な表情は、蓮の中の王の気を急速に惹いて、  
その瞬間に恋に落ちかけた。  
この段階では、王の立場が上位のはずだ、そう思いながら、引きずられそうになった。  
 
驚いた。  
 
 
<センテンス2:求婚>  
 
夕べの少女が大臣の愛娘、シェヘラザードであることを突き止めた王は、  
早速次の花嫁として彼女を所望した。  
大臣は、うちひしがれ、嘆き、悲しみながら、娘に王の求婚を告げた。  
 
(私の宝石。ただ嫁ぐならばともかく、婚姻が永劫の別れに繋がるこの出来事に、どうして私が耐えられよう。  
私はいっそ王と刺し違えてしまいたい…)  
 
顔をおおって嘆く父を見ながら、シェヘラザードは昨夜の出来事を反芻した。  
 
胸内にひっそりとした冷たいほのおが灯るような不快さを感じる。  
昨夜身罷られたのは迎えたばかりの花嫁ではないか。  
その手で屠っておきながら、翌日には別の娘を迎える算段を行うなど、冷酷非情にもほどがある。  
彼女自身、その不快の理由にはうすうす感づいていた。  
王は、あまりにも妖しく美しい存在だった。  
そう、最初の王妃がなぜ彼を裏切りなどしたのか、彼女にはまったく理解できなかった。  
 
(私があのかたに、はじめに召されたのだとしたら…)  
(私は決してあのかたを裏切りなどしなかったのに…)  
 
 
(おとうさま…)  
 
父の膝にしなだれかかり、少女は甘えるように言った  
 
(いけません、わたくしのために王に反旗を翻すなど)  
 
(わたくしは参ります。ただ、お願いがあるのです)  
 
(わたくしは未だおとめ、お傍に侍ってもお閨の相手はつとまりません)  
 
(どうぞ花嫁としてではなく、お夜伽の語り部として……)  
 
 
父は喜び、むしろそのようにと積極的に働くことを約束した。  
 
 
<センテンス3:対峙>  
 
 
「未だおとめと聞いたが」  
 
王は尊大かつ不機嫌に言い放った。  
両脇に女奴隷を侍らせ、大きな羽で風を送らせながら、  
豪奢な敷き物にたくさんの羽毛をつめた絹袋をひいて座り、立てた膝で肘をささえ、頬杖をつく。  
 
目の前に額づく娘は確かに、あの夜のあの少女だ。  
あの、生意気な目をしておれを睨んだ、不遜な。  
 
「花嫁がつとまらんでは所望の意味が無い。おとめでもかまわぬ、おまえは明けの日の花嫁だ」  
 
面白くなさそうにひらひらと手を振る。  
シェヘラザードは慎み深く、しかし断固として、伏したまま王に言葉を返した。  
 
「お恐れながら王、ひとは童形・乙女であるうちはみな等しく神のつま。  
神の妻を盗めば王ご自身の身に災いがふりかかるやもしれません……」  
 
王は胡乱そうに目の前の娘を見つめた。  
吹けば飛ぶような華奢な体が自分に意見するのを不興がるように、面白がるように。  
 
「ご所望のおりにわたくしが乙女であったことこそ、この婚姻が神に嘉されていないあかしかと。  
であればこそ神の許しが下るまで語り部としてお傍にはべり、時を待たせて頂きたく存じます」  
 
王である身として、神への不遜はすなわち神の子たるおのれへの不遜として返る。  
王は不承不承頷いた。  
それへちらりと目線を投げて、シェヘラザードは顔をあげ、正面から王を見つめた。  
 
「…王よ」  
 
ほほえみを含んだかわいらしい声。  
 
「わたくしと、賭けをいたしませんか」  
 
「賭けと」  
 
「はい、いまより千の夜を数えてのあいだ、わたくしに月のものがおりて来なかったそのときは」  
 
「その時は?」  
 
「この婚姻は神に障りがあるものとのご証明とし、わたくしを父の元にお返しになると……」  
 
「………………」  
 
思わず王は押し黙る。  
こめかみに指をあて、壮絶な流し目をくれると、目の前の少女はまた静かに平伏した。  
 
「おまえは…----------」  
 
王の声が尖る。  
 
「余を、いや、この俺を、好もしく思っておらぬようだ?」  
 
シェヘラザードはつと顔をあげた。よく見ると、成る程これはと思うほどに美しい娘だった。  
つややかな唇が笑みを浮かべると、花のように可憐で可愛らしい。  
王は、己と花嫁の情事を見せつけた時の、頬を赤く染めた娘の顔を思い出した。  
なんとなく胸を衝かれるような思い。  
 
彼女は、こくりとうなづき、擦れた甘い声で囁いた。  
 
 
「大嫌いです------------」  
 
 
「………よかろう」  
 
王の目に、残酷な光が灯る。  
 
「では、俺の賭けが成った時は、おまえを」  
 
王は自分で驚くほど厳しい声で言い放った。  
 
「この城の外に住む、この世でもっとも穢れた男どもに投げ与えることとする」  
 
シェヘラザードは、幾分青ざめながら、しかし優雅に額づいた。  
 
(許しも請わないとは、生意気な娘だ…)  
 
目の前の穢れない娘が、汚らしい男どもに蹂躙されることを思うと、王の心が薄暗い悦びに高ぶった。  
自分を嫌いであると言い放つ臣下の娘。今ここでムチ打ちの刑に処すこともやぶさかではなかったが、  
おのれの前で恐れ気も無くすっくと立つ娘をそれで殺してしまうのはいかにも惜しいような気がした。  
 
「…が、しかし………」  
 
王の目に、なお淫らで残忍な色が浮かぶ。  
 
「そなたがおとめである証を俺は得ておらぬ。  
すでに謀っているのであれば賭けどころか、婚姻を逃れる理由にもならぬ」  
 
王は、悠然と指をふって左右の奴隷に退出を命じると、その手をさしのべてシェヘラザードを招いた。  
 
はじめてすこし、少女が目に見えてひるんだ。  
王の全身から発散する、悪意に満ちた淫猥なものにあてられてしまったかのように。  
王はそれを見て少し気を良くした。  
 
「着ているものをすべてとり、その体をひらいてすみずみまで俺に見せよ、  
月の兆候を示すものがその身に隠されてはいないか、  
その身をまとう香に月のものの兆候が現れてはいないか。」  
 
したたるような毒をこめて、王は嗤った。  
 
「これより千の夜をむかえる間、あるいはその身に月のものがおりるまで、おまえは毎夜俺に証をせねばならぬ」  
 
 
(うっわ、エッロー………)  
 
 
……その瞬間、その時その場にいたスタッフ、他のキャスト、監督でさえ異口同音にそう思った。  
黒崎は、ごほん、と声に出さない咳払いで気を取り直す。  
 
 
( 実際脱がすわけにゃいかんし、このセンテンスはココまでか… )  
 
 
カットをかけようと、のそりと体を起こす。  
基本的に彼は、演技の中身を詳細につくり込んで役者を動かすタイプではなく、  
状況設定、あるいは行動を役者に提示し、そこに至るまでのモチベーションを含めた役柄の人物像については  
役者自身が作り込み動かすことを持って是とする監督だった。  
状況をセンテンスごとに分け、勝手に動いてもらい、撮影をする。  
そこから編集作業で、商品イメージと自分の感性に合致した絵を取り出し、一気に世界観を構築する。  
CMという限られた時間の中では、時間をかけて撮影した映像の9割方が日の目をみることはない。  
その、オクラに入った9割があるからこそ、1割の映像が生きるのだということを彼は身をもって知っている。  
 
しかし、今日ばかりは少し、それがもったいないような気がしていることも事実だった。  
 
 
( しっかし敦賀氏… )  
 
 
思わずにやりと笑ってしまう。  
 
 
( えっろいなー…まじで… )  
 
 
あんな夜のファンタジスタにスゴまれたら大抵の女は生き地獄だぜ…と横ごとを思いながら、  
カットの指示を助監督に出す。京子のヤツ、そんな相手を向こうになかなか頑張っている。  
ふと、なにかがよぎった気がして、黒崎はカメラの先を振り返った。  
見詰め合う、王とシェヘラザード。  
シェヘラザード。  
 
( ちょっと待った、待った待った )  
 
 
あわてて助監督に出しかけた指示を止める。  
 
王を見つめるシェヘラザード。  
ひとめで恋をした王から、意地悪で、残酷で、淫らな命令を受けた、処女。  
 
 
( うぉっっっ )  
 
 
ザワッっと空気が色をなした。  
 
 
( あ---------------- )  
 
 
直接目の前で相対している蓮でさえ、一瞬のまれそうになった。  
 
王を演じる自分と、敦賀蓮である自分と、本名の自分と、男である自分が、  
高密度で圧縮され、目の前の少女に引き寄せられた。  
 
処女の妖艶………。  
 
ひたと据えられた瞳の、潤んだ艶かしさと、痛々しさ。  
瞼がふうっとふせられ、その目がかすかに周囲に助けを求めるように落ち着かなく泳ぐ。  
 
男が女に対して持つ、本能的にかばい、守り、慈しみたい欲求と、  
欲望のままにとりひしぎ、乱暴に犯してしまいたい欲求を同時に刺激する表情。  
 
細い手がつと動き、己の体を抱くように前でちいさく握り合わされた。  
 
髪の先まで滴るような…芳醇な色香。  
王への、目覚めたばかりの初々しい初恋。  
恋するがゆえにこそ、王のその淫らな物言いに、心ならずも震えて……恐れて。  
少女の中に女の顔を覗かせる。その淫ら。  
 
蓮は、自分が生唾を飲み込む音を聞いた。  
これは、なるほど、最上さんではあり得ない。  
だったら……自分もこの少女にふさわしく、暴虐な王であらねばならない。  
 
 
(王、だったら……この場合は---------------)  
 
 
いまはまだ、この少女を目の前にした、この衝撃を訝しく思うかもしれない。  
何故か、心が揺れる。残酷に快く思う自分と、あまりに小さくかよわく、いたいたしい存在に胸が痛むような自分と。  
そう、この瞬間だ…-----------------。  
 
王は、すっと唇を引き結んだ。  
勿論、逃がしはしない。許しもしない。とことん辱めて、泣かしてやる意思はそのままに。  
胸を過ぎる一抹の痛みに新しい気持ちが生まれた事を気づきもしないで。  
 
 
「 はい、カーット!! 」  
 
 
一気に力がぬけて、ほうっと息をつく。  
蓮は両手で頬にかかる鬘をすきあげ、身内に残る火照りを認識しながら、  
これは当分さめそうにない…と苦笑した。  
 
ふと足元で座り込むキョーコに気づき、身をかがめる。  
抜けたくても抜けられないでいるキョーコの前で指を鳴らす。  
…戻っては来ない。  
 
 
(今は…まだ、抜かない方がいいか…?)  
 
 
「おー、ごくろうさん、ちょっと休憩入れようや」  
 
どこか熱にうかされたようにどかどかやってきた黒崎を、連はそっと手をあげ、押しとどめた。  
 
「…どうした?--------------…」  
 
黒崎が、ひょいとキョーコを覗き込む。  
 
「……あー、ナルホド。憑かれてんなこりゃ」  
 
どうりで、と言いながらカッカッカッと面白そうに笑うのに、つられて蓮も苦笑する。  
 
「コイツはいつもコウなんのか?」  
 
「…そうですね… ちゃんと共演するのはこれが二度目なので、俺もいつも…と言うほどは知りませんが…  
…ダークムーンの時も特に役を掴んだはじめはこんなふうでした。」  
 
「難儀なやっちゃなー」  
 
黒崎は肩をすくめた。  
どうする、と蓮にきいているようでもある。  
 
「この集中は今は途切れない方が良いような気がします。  
俺がここに付き添っていますから、監督は休んで来て下さい」  
 
「………」  
 
ふと、黒崎は蓮を見上げた。  
 
「………?」  
 
視線を感じて蓮が黒崎を見る。  
 
黒崎は、呆然と座り込むキョーコに視線を移し、もう一度蓮を見て、僅かに目を眇め、  
口元をちょっと緩めると、手の甲で蓮の肩を軽く叩いて 「じゃ、まぁ、頼んだ」 と言った。  
黒崎のその反応に、からかいめいた色を嗅ぎ取っていながら、蓮にはその意味がよくわからない。  
ただ、なんとなく面白くない気分になった。  
 
(業界トップ独走中の人気俳優が、デビューペーペーの新人俳優に、甲斐甲斐しいマネージャー宜しく付き添うか?  
面倒見良すぎるっつーの、そのへん全然自分で気付いてねーし)  
 
こっそりと、黒崎がそう考えているなどとは思いつきもしなかった。  
 
 
<センテンス4:成就>  
 
 
千の夜の成就の日………。  
シェヘラザードは王の居室でいま、その夜を迎えようとしていた。  
夜伽の物語も尽きようとしている。  
王は、どこか憮然とした面持ちで、シェヘラザードの膝に頭を乗せていた。  
 
幾百もの夜毎繰り返された王の手による証だてに、シェヘラザードのからだは無垢なまま、成熟を深めている。  
はじめて出会ったあの頃よりも、少女はずっと大人びて。  
 
(………なのに、なぜ )  
 
終に、おとめのままだった………。  
 
王は、こっそりとひとりごちた。  
 
いつからだろう、この体に月のものが降りてくるのを、焦がれるように待っている自分に気づいたのは。  
気づけば、彼女を下賎の輩に投げ与えるなど、考えられなくなっていた。  
夜毎の証立てが生殺しの苦痛になり、それまでろくに聞いてもいなかった少女の物語の先が気になりはじめ、  
こころからそれを楽しんでいる自分に気づいた時に、その聡明さと知性に己の知る毒婦とは似もつかぬ  
聖女の存在を知った。  
なのに。  
 
( 神の御心に沿わぬ婚姻…----------- )  
 
はじめの日に、シェヘラザードが言った言葉が王を苦しめる。  
 
黙ったまま、起き上がると、王はシェヘラザードを褥の上に突き倒した。  
小さな悲鳴。  
いつかの夜、王の手づから与えた金と銀の小さな鈴の足環を巻いた、細い足首を掴んで絹の裾を捲り上げると、  
少女ははっと息をのんだ。幾度その身を晒してさえ、その羞恥には慣れないようすで。  
 
「なぜだ」  
 
失望に満ちた声。  
月のものは兆候さえ見当たらなかった。  
 
王は褥から立ち上がり、イライラと足を踏み鳴らした。  
放り出された格好のシェヘラザードは、行儀良く足を揃えて起き上がり、裾を直す。  
 
目の前で憤り、癇癪をおこす王のその理由を、彼女はうっすらと考えてみる。  
終に彼は賭けに負けようとしているのだ。これほど憤りを感じるほど、彼にとってそれは屈辱なのだろう。  
王の敗北。それはシェヘラザードにとっては、王との別れと、明日からの生を示している。  
彼女は、この千日ものあいだ、一日も欠かさず飲み続けていた苦い丸薬のことに思いを馳せた。  
実のところ、彼女は王より召された時にはすでに初潮をむかえた若い女だった。  
王宮に入る前、東の魔女を訊ね、乙女でありつづける薬とひきかえに、王への思いを伝える言葉を捧げた。  
 
(おまえはこれから先、どれだけ王に心を奪われても、決してその思いを口にする言葉を持たないよ)  
 
魔女はシェヘラザードから受け取った言葉を満足そうに抱いて、言った。  
それらはきらきらと輝いていて、まるで宝石のように美しかったことを覚えている。  
 
(でもね、たったひとつ)  
 
魔女は微笑む。  
 
(あの暴虐で淫蕩な王の方からおまえに、おまえを愛しますと、好きだと言うんだね。  
誓いをたてて下さり、もしもそのあかしをもらえたなら…)  
 
(……この言葉たちを、かえしてあげよう)  
 
とてものこと、その可能性はないように思えた。  
 
ひっそりと、胸の痛みを感じるのは、幾百もの夜を、王を謀って過ごしてきたからか。  
王に恋した最初の日の夜から、今日この日まで。  
それでも彼女は、一夜で殺されてしまうわけにはゆかなかった。  
 
この、女と名のつくものの全てをあざ笑い、踏みにじる美貌の王に、熱い思いを知らせたかった。  
だからこそ魔女は彼女から一番大事なものとして、言葉を捧げさせたのだ。  
 
いつのころからだろう、薬を飲むことをためらうようになったのは。  
王に抱かれ、翌日に亡くなる、それもまた幸せだったのではないかと思うようになったのは。  
2999人もの花嫁の葬列。彼女たちはそれでも幸せだったのではないかと思うことがある。  
それでも謀りの薬を飲みつづけていたのは、己にはすでに王のものになる道は喪われている事と、  
一日でも長く、この人の傍にいるためだったのだけれど。  
 
( あ………)  
 
その時、ふいに唐突に、ズキリ…と、下腹部が痛んだ。  
千日のあいだ、忘れていた感覚。  
 
(あ…-----------------)  
 
胸が早鐘を打ち鳴らす。  
 
(何故…--------------)  
 
シェヘラザードの体から流れ出ていくもの…。  
彼女は、体をこわばらせた。  
 
(あ…あ、いや…--------------いや  )  
 
投げ与えられる、王以外の男に。  
血の気がひいた。  
 
王がふと、訝しげに振り返った。  
 
白い夜具、白い衣、青ざめたシェヘラザード。  
もう一度確認しようと手を伸ばすと、今度は少女は抗った。  
王は、首をかしげた。  
両手首を一つに掴み褥に押し付け、裾を捲り上げると、泣き出す。  
 
王は、自分の胸が高鳴るのを感じた。  
 
「 お許し下さい…----------- お許しください…… 」  
 
頭をふって、足を閉じ合わせようとするその間から、鮮やかに赤い色彩が毀れ出す。  
王はそれを認めて、狂喜した。  
 
「……賭けは俺の勝ちのようだ、シェヘラザード。神はおまえを俺によこした、おまえは今宵から…」  
 
つくづくと少女の顔を覗き込む、涙に濡れたいたいけな顔。  
なんてかわいらしいのだろう。なんて不埒な。なんて…いとおしい。  
 
「俺のものだ」  
 
嫌がっても、泣いても。  
 
シェヘラザードは王のようすに、涙に濡れた目をあげた。  
 
(………?)  
 
よく、わからない。  
 
じっと見つめると、王の目が愛しさに解ける。  
淫蕩さでなく、横暴さでなく、シェヘラザードがはじめてみる顔で。  
 
「わたくしを…投げ与えておしまいになるのですか」  
 
怯えて言うシェヘラザードに、王は満足そうに笑った。  
 
「おまえは殊に生意気であったから、それもまた良いかもしれないな」  
 
王の戯言を真に受けて、腕の中でかなしい声をあげて少女が身悶えする。  
仕方の無い王は、それを残酷に愉しんでいる。  
 
(随分焦らされた分は、甚振らなくては済まない)  
 
「…嬲り者は嫌か 」  
 
頷く。  
 
「俺に抱かれるよりは良いと言ったぞ」  
 
かぶりをふる。  
 
「では」  
 
「言え、おまえのその可愛らしい唇から、俺の愛を受けたいと」  
 
愕然とする。  
愛を伝える言葉も…愛を乞うる言葉も。  
 
(   おまえは持たない   )  
 
魔女の声。  
シェヘラザードは、睫を震わせて目を閉じた。  
 
「……そ----------------」  
 
消え入りそうな声。  
 
「…そうしてお気が済まれたら、わたくしのこの首をしめておしまいになる?」  
 
涙に濡れた悩ましい流し目で核心を衝かれ、王は一瞬言葉につまった。  
そこでふと自らの心をふりかえる。  
かつての妻に抱きつづけた怒りと憎しみは、いつのまにか影も形もなく霧散されていた。  
 
「………絞めぬ」  
 
苦虫を噛み潰したかのような忌々しそうな顔で、王は言った。  
この女にふりまわされているうちに。  
 
いつのまにか、この女のことばかりで頭がいっぱいで。  
 
かつての妻の面影は、すっかり遠くになっていた。  
 
3000人目の花嫁。  
 
「…おまえは、絞めぬ」  
 
驚いた表情で、シェヘラザードは王をみつめた。  
王は、憮然とした表情のまま、静かにシェヘラザードのひたいを撫でた。  
 
みつめううち、王の目が、ゆっくり剣呑な情欲をたたえる。  
それを目の当たりにしたシェヘラザードの頬に、はじめの日、王の情事に出くわした時と同じ朱が浮かび、  
瞳がうるんでほどけるような悩ましい表情になった。  
 
王は満足そうに、シェヘラザードの様子を見守った。  
 
 
「 さぁ、俺はおまえを愛したと言っている。おまえはどうだ、これが最後の機会だと思え 」  
 
 
涙があふれる。  
喉を縛り付けていた枷が緩やかに外れ、眼裏の魔女が女神に変じた。  
 
 
「 ………お慕いしています、はじめてお庭でお会いした、あの日から 」  
 
 
王は、驚いたようにシェヘラザードをみつめた。  
しばらく黙って、恐ろしそうに眉をひそめる。  
 
 
「 こいつは とんでもない策士だ 」  
 
 
王は、笑いながらそっとシェヘラザードの頤に指をかけ、持ち上げて、唇をよせた。  
 
 
黒崎監督の…うそつき。  
 
撮影中、敦賀さんの夜の帝王に三ヶ月先分くらいまでの生命力を根こそぎにされ、  
カラカラに干からびた私に向かって、  
「いやー、いい絵ぇ撮らせてもらった!!」 と満面の微笑みをたたえて、  
例によって 「CM完成を楽しみにしてろよ」 なんて言ってたくせに。  
 
未緒を見てイメージしたなんて言ったくせに。  
 
おまえになら出来る、なんて人をノセたくせに。  
 
出来上がったCMのオンエアの夜。  
ちょっとドキドキしながら、だるまやさんのテレビの前で座り込んで待っていた私が見たものは………。  
 
………。  
 
確かに、とても美しい映像だった。  
甘い女性のロックな謡声に合わせた、映像の切り替えは素敵だった。  
『はじめての夜…』のナレーションも素晴らしかった。  
妖しい雰囲気に満ちていた。  
こんなえっちくさい絡みなんかあったっけ…と思うくらいの一瞬血の気がひくようなショットもあった。  
 
でも… でも…。  
 
全 編 影 絵 仕 立 て なんて聞いてないぃ〜〜!!!  
 
敦賀さんの王様は一瞬光の中にうかびあがるみたいな効果もあって、  
そもそもそのプロポーションから一目見ればバレバレだけれど、  
わたしなんか………。  
 
うっ…うっ。  
夜のファンタジスタ(←帝王の別名、黒崎監督命名)に耐えてがんばったのに。  
灰になるまでがんばったのに。  
しばらく敦賀さんの王様に迫られ、夢で魘される毎日を過ごした …のにのに。  
 
(そりゃしょうがないよ、最上さん未成年だろ?本来君をお酒のCMに起用できるわけないんだから…  
むしろ黒崎監督がそんな冒険したことに驚きだよ)  
 
翌日、椹さんに言われた言葉が蘇る。  
それはそうかもしれない、でもそれならそれで最初にそう言ってくれてたって…っ。  
 
こんなんじゃ、ショータローの馬鹿が見たってわかるまい。  
いや、むしろ影絵なら分からなくて正解なのかもしれない。  
あいつの事だから、おまえが色気のねー女だから影絵にされたのよ、  
…くらいの嘲笑を浴びせかねないし…。  
 
 
うっうっ。 口惜しい…。口惜しすぎる。  
 
 
嗚呼…、  
キョーコのハリケーンパンチ計画失敗…。  
 
 
 
「うわぁ…」  
 
事務所で二人、対談相手の編集者を待っている間、  
カフェテリアのテレビに偶然かかった例のCMを見て、社さんが頬を赤らめた。  
 
「やっぱりこう観るとエロいなぁ〜、なんかこのCMすごい評判みたいだよ、蓮。  
おまえに抱かれたい女性急増、人気さらに鰻登り、みたいな」  
 
「なんなんですかそれ」  
 
苦笑する。  
 
正直、影絵仕立てにはほっとしていた。  
あの子のあの姿を衆目に晒さずに済んだのが一番、  
自分の欲望がダイレクトに世間に配信されなくて済んだのが二番。  
あの日以来、黒崎監督には足を向けて寝られない心境だった。  
 
「男れんちゅうの、相手の女の子は誰なんだって憶測もすごいみたいだけど」  
 
ピクリとこめかみの血管が動くような気がした。  
落ち着こうよ、敦賀蓮。  
 
「…そういえば蓮、あのあと黒崎監督に会った時、なんかもらってたよね?DVDみたいなの??」  
 
ふいうちに言われて、思わずギクリと肩を震わせてしまった。  
視線を逸らして ええまぁ、と曖昧に返事をし、  
ニコニコしながらやってきたあの日の監督を思い出す。  
 
『 いやあんまり熱演だったから、趣味で!』  
 
それを俺に渡し、指でDVDを指し示してからもう一度 『趣味だから!』 と繰り返し、  
にやりと笑って爽やかに手をあげ去っていった一陣の風のような。  
 
そして残された手の中のDVDには、あの日あの子と俺が演じた全てが収録されていた。  
………いや、それはそれで、けして嬉しくなかったわけではなく、  
むしろあの子のシェヘラザードをこういうかたちで手に出来て嬉しいというか、  
むしろありがたいというか、  
むしろよこしま的にも非常に助かっているというか、  
むしろ今日も帰ったらちょっと観てしまおうかなんて思っていない事も無いと言うか…   だけど。  
 
はぁ〜、とため息をついて両手のこぶしでくつくつ額をたたく。  
 
( あの監督の顔は………絶対バレて………るんだろう……な--------------)  
 
だから映像を扱う人間は嫌いだ。  
緒方監督にも俺のあの子への思いはマイルドにバレているようだし、  
この先あの子と共演した場合、のきなみ監督陣にはバレてしまうということなんだろうか。  
 
でもよく考えてみれば、俺の気持ちなんか既に社長にも社さんにも、馬の骨にすらバレているんだったか。  
…もしかして知らないのは最上さんくらいなんじゃないか? と思うと、すぅっと黒い気分になった。  
 
俺って、実は…。  
そんなに分かりやすい人間なんだろうか?  
 
………なんとなくショックだ…。  
 
隣を見ると、異様に瞳を輝かせた社さんがこちらを注視していた。  
さらに暗澹たる気持ちになる。  
 
「あの時のソースDVDなんだろ???」  
 
キラキラと光りながらぐいぐいと迫ってくる。  
ほんとにこの人は俺の恋愛がからむとトコトン乙女みたいになって…っ。  
 
「いいなぁ〜蓮、黒崎監督の撮った蓮とキョーコちゃんの千夜一夜、俺も観たいよー」  
 
「いや…もうほんと…そんなんじゃありませんから…」  
 
「えー、じゃなんなんだよぉー」  
 
「ほんと…勘弁してください…」  
 
あんな、発禁処分ものを…人目に触れさせるわけには…金輪際。  
 
「社長にいいつけてやる!!!」  
 
「やめてくださいそれだけは!!!!」  
 
 
これ以上は…ほんと勘弁してください。  
 
 
 
………さっき控え室から聞こえてきた雄叫びは、確かに尚のものだった。  
あれはいったいなんだったのかしら。  
 
敦賀蓮への呪詛にまみれた暴言と、部屋に響く衝撃音。  
って、あれ、こないだやっと稟議が通って購入したばかりの  
50V型のプラズマディスプレイが破壊された音じゃないわよね…。  
………事務所の備品、壊したんじゃないわよね。あの子に限って…。  
 
………よ、様子を見に行った方がいいのかしら?? でも……。  
 
 
なぜかしら…今だけはあの子に近寄らない方がいい、そんな気がして。  
 

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