「いってらっしゃ……っん…」  
 
蓮はキョーコの言葉を遮るように唇を塞ぎ、すっと無駄のない動きで手を腰に回す。  
その重みも、拒まれそうになった時の回避のコツも心得ている。  
愛らしい唇を味わいやすいよう、慣れた様子でその細い身体を引き寄せた。  
 
見送るときのキスは毎朝のこととはいえ、その内容は毎日違う。  
軽く触れるだけのキス、離れるのが惜しくなるような長いキス…  
そして、今日のように身体の芯を熱くさせるような濃厚なキス。  
台所から慌てて走ってきたキョーコは心積もりが不足していたため、  
突然始まったねっとりとした甘い貪りに対処できず、蓮の思うがままになってしまった。  
 
「んっ…んんー…っ、ん、はぁっ…んっ」  
 
逃れようと顔を動かせば、なぜかますます深くなり、舌が絡め取られて咥内をしゃぶられる。  
自分の呻き声と唾液の絡む卑猥な音が耳を犯し、口の端からはたらりと液がこぼれ、酸欠寸前のキョーコの頭の中はぼんやりとぼやけ始める。  
押し返していたはずの手のひらは気付けば蓮のシャツをぎゅっと掴み小さく震え……  
その様子に気付いた蓮もまた悦び昂ぶり始めていた。  
 
「っんぁ…つ、るがさん…もう、行かないと…っふぁあっ、な、なにするん、ですかっ…だめぇ…っ」  
「キョーコいやらしい…下着、履いてなかったの?おまけにこんなに濡らして」  
「ち、ちが…」  
「違う?じゃあこれはなんだろう、ね?」  
 
スカートの中へ伸ばした手を一旦引き抜き、蓮はその中指をキョーコの眼前に見せ付ける。  
慌てて顔を逸らして真っ赤になったキョーコの顎をくい、と持ち上げ、容赦しないと言わんばかりに正面を向かせた蓮は、  
そのしっとりと濡れた指を――キョーコが見ているのを確認しながら――ぺろりと楽しそうに舐め、ふっと哂いをこぼした。  
 
「…汚い…です、やめて…ください…」  
「ん…美味しいよ?キョーコもほら…味見してごらん?」  
「やっ…い、いやっ…ぁん…っ…んっ……ん、ぁ、んぅ」  
 
無理矢理指を咥えさせられ、なおかつそれを舌の上、頬の裏肉、とかき回される。  
まともに呼吸ができない苦しさで漏れる呻きなのか、妖艶な蓮の瞳に支配される興奮からくる喘ぎなのか、キョーコは自分でもわからなくなる。  
 
――これは演技なの…?あるいはこれが、本当の彼の姿……?  
 
毎朝、毎夜違う顔を見せる恋人。  
ついていけないほどに優しく甘く耳元で囁かれる時があるかと思えば、ある時は嫉妬に狂い独占欲を丸出しにしながら犯すように抱き続ける。  
初心な青年のように不器用に言葉を紡ぐ日もあれば、こうして目も眩むような色香で思考能力を奪ってくる。  
 
蓮のことを知れば知るほどにキョーコは混乱し――そして夢中になっていく。  
 
もう許して、という願いを込め、涙を溢れさせながら見上げてくる被虐的な瞳に、蓮はようやく指を引き抜いた。  
ハァハァと息を荒げフラつくキョーコの腰を支え、その頬をすっと優しく撫でる。  
 
「嘘はいけないよ。見せてごらん、濡れてるんだろう?」  
 
キョーコはは羞恥で真っ赤になり震えながらもコクコクと何度も頷き、  
きゅっと握り締めたスカートの裾をゆっくりと持ちあげた。  
 
「あぁ…かわいいよ、すごく」  
 
ぷくりとした綺麗な肌色が浮かび上がる。  
 
昨夜、自らの手で丁寧に剃毛した蓮は、その美しさにぞくりと背筋を震わせた。  
 
「は、恥ずかし、ですっ」  
「…ん、たまらないな…どうして欲しい?」  
 
指先で焦らすようにそっと触れられて、キョーコは小さく声を漏らし腰を揺らす。  
触れてほしい中心を避けて、楽しそうに剃った部分をなぞる感覚に、もはや限界は頂点に達していた。  
 
「ぁ、あ、つ、つるがさ、んっ、はぁあ、あっ」  
「言ってごらん?お願いごとならなんでも、聞いてあげるから」  
「も、だめ、ぁ…きもち、よく、してくださぃ…お、お願いっ、です」  
「いい子だ…よく言えたね」  
「んっ」  
 
蓮はキョーコの舌を誘いながら左手で確りと腰を抱え、右手の指で溢れる愛液をすくい取る。  
ぬるりとまとわりついたそれを尖りに塗りつけ、先を軽く玩び、あるいは根元からゆっくりとこね回す。  
キョーコの肢体からはすっかり力が抜け落ち、白い喉を露わにのけぞらせ、絞り出すようにただ喘ぎ続ける。  
 
「あ、あぁ…はぁっ、つるがさぁ、ん、ぃやぁ…おかしく、なっちゃぅ…あぁん…」  
「キョーコ…クリトリスと、ナカ、どっちでイきたい?」  
「く、くりっ…クリトリスが、いい…クリがいい、のぉ」  
「ん?どうして?」  
「だ、って、ナカだと、欲しくなっちゃう、我慢、できなく、なっちゃうっ」  
「そう……じゃあ」  
「ぁああっ、やだっ、だめぇっ、ああんっ、ソコだめなのおっ!」  
 
充分に大きくなった突起を置き去りにし、蓮は二本の指を蜜壷に押し込み、手前のザラつく箇所を擦りあげる。  
悲鳴のように高く啼きながら、ぽろぽろと真珠のように美しく涙をこぼすキョーコ。  
 
その肩越しに姿見の鏡を見やると、嫌がり泣きながらも必死に快感を追い求めて腰を振る彼女のあられもない淫靡な姿が映し出され……  
蓮はその姿にぞくぞくと身を震わせながら、煽られるように激しく指を動かし、かき回した――…  
 
崩れ落ちたキョーコをそっと座らせ、蓮は落ち着かせるように髪を撫でた。  
「ん……ぁ…」  
「大丈夫?あー、携帯が鳴ってる…社さんだ、もう行くよ」  
「え……?」  
「続きは今夜。いい子にしてるんだよ」  
 
頬を桃色に染めあげ潤んだ瞳を震わせるキョーコのことは名残り惜しいが、そこは無遅刻記録更新中の仕事男、敦賀蓮。  
最後にキョーコの髪にそっと愛しそうに唇を落とし、  
優しくとも意地悪とも判別のつかない意味深な微笑みを残し、パタンと扉を閉め――…玄関にはキョーコが残された。  
 
「い、いい子になんて、できるわけないじゃないっ!」  
 
火照った身体を持て余されて、キョーコは夜までの果てしない時間を前に途方に暮れるのだった。  
 

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