嘉月に跨り緩やかに腰を揺らす未緒は、黒いレースのロングスカートをまくりあげ繋がる部分を見せ付ける。  
薄く茂ったその下からは、くちゅ、くちゅ、と水音があがる。  
なんとかやめさせなければと必死に抗う嘉月だが、未緒の纏った強く甘い薔薇の香りを嗅いでから身体が言うことを利かず、  
浮遊しているような感覚に支配され、拒む言葉もまともに紡げない有り様だった。  
「未……くぁ…あ……だ…っ…め、だ……未、緒……っ!!」  
 
今宵、嫌がらせへのクライマックスを演出しようと、未緒は媚薬を纏い嘉月に迫った。  
そう…すべては美月への当てつけのため。  
そのためなら、自らの心が、そして身体が汚れようが構わなかった。  
無機質な心で誘惑にかかった未緒だったが、しかし嘉月のシャツを脱がせながら、その身体の美しさに息を呑んだ。  
適度に日焼けした逞しい肩、指先にコツリと当たる太い骨、無駄なく鍛えられた腹の筋肉。  
微かに男を感じさせる汗の匂いが鼻を侵し、未緒はくらりと眩暈を覚えた。  
 
誘うはずが、誘われる。  
 
もとより暗い殻に閉じこもって生きてきた彼女にとっては当然のこととはいえ、男に対しこれほどの色香を感じ、欲望が呼び起こされたのは初めてだった。  
 
焦らすように、しかし深く擦りつけられ、未緒の中で嘉月は熱く高まっていく。  
阻止の言葉を投げつけようと顔を向ければ、自ら恥部を晒し卑猥に腰を振る未緒の様子が視界を奪い、なんとか奮い起こしたはずの理性が消し飛ばされる。  
「やめ……っく……んぁ……」  
未緒は膨らんだ陰核を擦り付けるように腰を揺らしながら、片手でゆっくりと、その小ぶりな乳房を覗かせた。  
「…っん…はぁ…ねえ……見て、先生ぇ…ここ、こんなに固く、なってる……あ、ぁ…」  
赤い舌を出して嘉月を煽りながら、胸の尖りをつまみ、こね回す。  
これ以上事が進むと本当に拒絶できなくなってしまうと、嘉月は消えていく言葉の代わりに、未緒の細い腰に手を伸ばした。  
すると未緒はその手を取りしっかりと腰を握らせ、待ちわびていたかのように動きを早めた。  
「はぁああっ、ああんっ、先生、せんせ…っ、すごぃっ…ひゃ、ぁああっ!」  
 
熱く…そして激しく。  
時折きゅう、と締め上げられ、嘉月は気付けば抗うことを止め、未緒の腰を激しく両手で前後に揺らし下から高く突き上げていた。  
一度外れた箍は、もはや取り戻すことなど到底出来ず、嘉月はただ欲望に身を委ねる。  
突然始まった嘉月の容赦ない攻めに驚きつつも、未緒は震え上がるような快楽に目覚め始めていた。  
「……っ…未緒…いけない、子だ…君は……っ」  
「ああっ、ああぁんっ…あああっ、先生……っっ!」  
下腹部からせり上がってくる波に耐え切れず、未緒は白く光る喉元をさらし、悦びに高く啼きながら後ろへと崩れ落ちた。  
 
「あ…ぁ、せんせ…見え、る?」  
「ああ、よく見える、よ……」  
後ろ手をシーツに突き、M字に両足を開いた未緒の中心に、嘉月は楽しむように突き入れる。  
ねっとりとした膣液を絡みつかせ出し入れされる淫らな様、妖しく艶を湛えた嘉月の瞳。  
交互に見とれながら、未緒は思った――この人は、自分に似ている、と。  
本性を現した嘉月の眼の奥は深い闇のようにひたすら暗く、黒く……そしてどこか哀しげだった。  
 
「はぁ、あぁ…先生…気持ち、いい?」  
「…ああ…いいよ……締め上げて…たまらない」  
「他の…人…より……?」  
「ああ…すごい、よ……――他の…誰より」  
 
その時未緒が嘉月の肩越しに視線を向け、口の端を僅かに上げたのを、既に行為に溺れていた嘉月は気付かなかった。  
 
「先生…お願い、もう……お願い、だから………」  
掠れた甘い声に誘われ、嘉月は未緒の腰を引き寄せ突き上げる。  
「…っ、はああっ…本、郷……っ!」  
「あああっ、ああっ、先生…っ…先生っ……!」  
「…っ、本郷……っ、く……っっ」  
「先生っ、もっと……もっ、と…っ、あっ、ああっ……!!」  
偽りの面を脱ぎ捨てた嘉月の荒々しさに、未緒は美月への憎しみを何度も忘れそうになりながら、ただ高く啼き続けた。  
 
未緒が手放していた意識を取り戻すと、隣りには深い寝息をたてて眠る嘉月の姿があった。  
少し前まで汗ばんでいたはずの背中が静かに上下する。  
そっと指を伸ばそうとして――未緒はその手を引いた。  
 
先ほどまであれほど激しく求め合ったはずの眼の前のその身体。  
しかしそれはもう自分のものではない、手の届かない存在のような気がした。  
 
「『本郷』……ね…」  
 
激しい行為で薄くなっていく意識の端で聞こえた、幾度も"自分の苗字"を呼ぶ嘉月の声。  
なんとかかき消そうと頭を振り、未緒は服を整え立ち上がる。  
 
最後にベッドで眠る嘉月を一瞥しドアを開けた未緒は、そこに落ちているイアリングの片方を拾い上げ、  
「馬鹿ね……美月」  
と小さく呟き、哀しげに微笑んで部屋を後にした。  
 

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