再びの軽井沢ロケ、今度は白い雪に埋もれるお屋敷が綺麗だった。  
 
昨日撮影したのは操と嘉月の婚約発表の一連の大広間でのシーンだった。  
何回も、パーティ用のご馳走その他を用意する訳にはいかなくて、  
一日でその大広間関連のシーンを撮ってしまう事になっていた。  
華やかなお披露目シーンと、未緒が操に罠を仕掛けるシーン、  
嘉月と未緒のベッドシーンを見せ付けられた操が両親の前で(客の前で)取り乱すシーン、  
そして……  
 
「私はね、お姉様のその顔が見たかったの」  
くすくすと私は笑いながら纏っていたシーツを落とし、半裸で人々の前に立つ。  
「な、何を言っているの?」  
涙に濡れて化粧が、プライドが剥がれ落ちた無残な顔に向かって、  
私は最後の仕上げにアルコール度数の高い洋酒をかける。  
後ずさってお母様にぶつかったお姉様に蝋燭を投げつけた。  
 
 
「はい、カット」  
緒方監督の声が響いた。  
急に恥ずかしくなって、座り込んだ私に衣装さんが毛布をかけてくれる。  
「京子ちゃん大丈夫?」  
「あ、後ワンシーンで終わりですから頑張ります!」  
むん、と握りこぶしを作って気合を入れる私に衣装さんは、  
「明日は京子ちゃん、敦賀君とベッドシーンなのよね」  
ぼぼぼっと赤くなった私に追い討ちがかかる。  
「羨ましいわー」  
「女なら誰だってあの腕に抱かれたいと想うわよねぇ」  
「えー……!」  
「だって……!」  
 
こそこそとその場を逃げ出し操役の大原さんの所へ逃げ込んだ。  
「すいません、お水とはいえ、かけてしまって」  
「撮影なんだから気にしないで、大丈夫よ」  
水気をタオルで拭きながら優しく声をかけてもらって、ほっとした。  
「ねぇ、京子ちゃん明日は頑張ってね」  
ま、またその話デスカ?  
「何回かそーゆーシーン撮ったけど、  
 私流されちゃって演技させてもらえなくて……」  
え?  
「でも、私の場合は"嘉月に酔わされている女"だったからいいけど、  
 京子ちゃんの場合は一種の戦いだから大変よね?」  
考え込んでしまった私の肩を慰めるように大原さんが叩くとちょうど次の撮影が始まった。  
 
阿鼻叫喚の地獄絵図のはずなんだけど、炎は後からCGで入れるから少し間が抜けている。  
「全部燃えてしまえばいいのよ」  
天井から降りしきるスプリンクラーの滴を全身に浴びながら呟く。  
「あああああっ!私の顔があぁぁぁ!」  
「操っ!お母様が付いているわ!家の金を注ぎ込んで元通りにして貰いましょう!」  
お姉様が顔を抑えて蹲る。  
今は普通の顔だけど放映時は火傷が合成された顔になると言う。  
今日は時間が無くて特殊メイクが出来ないと言ってたっけ……  
落ちてきた瓦礫の下敷きになるような格好で二人が蹲る。  
 
私には想像できないけど、未緒は本郷家の裏の顔を駆使して、  
スプリンクラーのタンクの中身を水から石油に摩り替えてしまった。  
 
発泡スチロールで出来た柱が私に倒れ掛かってくる。  
「これだけ財界や政界の要人を巻き込んでしまえば本郷も終りだわ」  
ぶつかる寸前"ふっ"と笑う、いつもの人を嘲る様にとか、冷笑、自嘲では無く、  
"柔らかく微笑んで"と、指示を受けていた。  
「これで、私の命も終わり……」  
柱の下敷きになるように倒れこむ。  
「この傷も全て燃えてしまえばいい……」  
そっと目を閉じて、今日の私の出番は終った。  
 
「はい、カットです。  
 レギュラーの方は本日の撮影は終了いたしましたので、  
 ホテルに戻って下さいね。」  
明らかに私を含めて、大原さんや飯塚さんもホッとしている。  
「その他の方はもう少し長めに撮って置きたいので、よろしくお願いします」  
 
そして、今日は敦賀さんとのベッドシーン、昨日、変に周りからあれこれ言われて  
さっぱりどう演技して良いのか判らなくなりました……  
 
「全ての御膳立ては済んでいるわ」  
「な……何を言っているんだ……」  
「最後に私の願いを聞いてくれれば本郷から開放してあげる」  
「あの娘と幸せになればいい」  
「……」  
「あの娘は、貴方の家に居るわ。  
 あの娘に聞けばここから無事逃げきれる筈よ?」  
「何をすればいい?」  
「簡単な事よ」  
くすりと笑ってみせる。  
「お姉様を酔わせたように、私を酔わせてくれればいい」  
背中の金具を外し、着ていたワンピースを足元に落とす。  
「お姉様の性格なら、どんなに本郷にとって重要な客人が居ようとも  
 必ずお母様に泣き付く筈だもの」  
嘉月の首に手を回す。  
「貴方なら簡単でしょう?」  
首筋に手を沿えゆっくりと撫で下ろす。  
「愛してもいない女と復讐の為に婚約する事が出来るのなら」  
手を嘉月の頬に沿えしっかりと目を合わせる。  
「こんな醜い女でも抱けるでしょう?」  
 
醜い女?こんなに誇り高く凛として復讐の為に女を捨てることが出来る少女が?  
あらゆる手段を駆使して最終目的に一人で向えるなんて、  
俺は、彼女が美しいと思った。  
「操さんに見せ付ければいいんだな?」  
ゆっくりと彼女の腰に腕を伸ばす。  
股上の余り無い見せる為の下着の所為で彼女の肌に直に触れた。  
吸い付くような感触に意識が飛びそうになる。  
「・・・っ!」  
未緒の身体がぴくんと跳ねた。  
 
「カット!京子さん。そこはまだ、平然としていて下さいね」  
困り顔の監督が注文を付けて来る。  
「ううっ!すみませ〜ん」  
「敦賀君も手加減してあげて下さい。  
 それから、操の足音が聞こえて来てから、その表情をお願いします」  
……その表情?  
「これだ、これ」  
社さんの手の中にあるカメラを覗くと、蕩けそうな表情の俺が居た。  
「……」  
「大変だなぁ蓮」  
 
「じゃあ、もう一回行きますね」  
 
彼女が手を俺の頬に沿えしっかりと目を合わせる。  
「こんな醜い女でも抱けるでしょう?」  
「操さんに見せ付ければいいんだな?」  
意識して無表情に、ゆっくりと彼女の腰に腕を伸ばす。  
そのまま、腰から背中を上の方に撫でて、ストラップの無いブラを外す。  
ただ淡々と面白くもなさそうな顔でその行為を受け入れている未緒の身体を抱きしめたまま上掛けを捲り、  
彼女の身体がカメラに映らない様にベッドに押し倒す。  
 
事務所からは、背中の露出と下着姿はOKだが、  
それ以上は隠すことを条件にベッドシーンの撮影許可が下りていた。  
 
倒した後すぐに上掛けを掛ける。  
これで、なんとか彼女の身体が人目に晒されていることは無くなった。  
 
「カット!敦賀君。ほっとした顔しないで下さい」  
「……」  
 
何故か、こんな調子で敦賀さんはNGを出しまくり、  
結局……  
 
「敦賀君……ちょっと気分を変えて操に見せ付けるシーンを先に撮ろうか?」  
「すみません……」  
「じゃあ、操の準備が出来ているか様子を見に行ってもらうからそのまま待機してて下さいね」  
 
このままですかぁ?  
は、裸で敦賀さんと抱き合ったまま?  
そりゃ、敦賀さんは下半身着てますけど、  
私はベッドの中で下着も取られてしまったから素っ裸なんですけど……  
 
それ以前に"紅潮した顔で嘉月に突き上げられる演技"なんてどうすればいいんだろう?  
経験した事が無いし、監督は  
「流れに沿っていけば自然とそういう感じの貌になっていくハズです」  
って言ってたのに〜  
 
今の顔じゃただの赤面している顔で"そういう感じの貌"じゃないって自分でも解っている。  
どうしたら良いんだろう……?  
「か…監督……」  
「どうしましたか?京子さん?」  
呼び掛けた私にきょとんとした監督がベッドの傍に近寄ってくる。  
「"紅潮した顔で嘉月に突き上げられる演技"がよく判りません……」  
あ、こっちを見ないようにしていてくれた敦賀さんの顔が赤くなった。  
直球過ぎたかな?  
 
「監督、操の準備あと20分くらいかかるそうです!」  
「解りました……皆さん、嘉月と未緒を残して一旦部屋を出ますよ」  
 
え?えええええええっ?  
 
つ、敦賀さんと二人っきりでココに残されるんですか?  
それで、どうしろと?  
 
「敦賀君、京子さんの準備任せましたよ?」  
へ?  
「30分で何とかして下さいね?」  
何で敦賀さんが?  
「か、監督っ!」  
あれ?敦賀さんが焦ってる?何で?  
「じゃあ?僕が京子さんを"そういう感じの貌"にしてもいいんですか?」  
監督が悪戯っぽく笑っている?  
「い、いやそういう訳にもいかないでしょう!」  
「蓮、キョーコちゃんは全く経験が無いから、どんな顔をしていいか解らないんだよ?」  
なんか、社さん楽しんでない?  
「だから、お前に"そういう感じの貌"にキョーコちゃんを誘導してあげてって頼んでるんじゃないか」  
 
も、もしかして……  
 
「可愛い女の子にこんな事出来るなんてお前役得だよなぁ」  
 
い、いやああああっ!  
「つ…敦賀さぁん……」  
怖くなって敦賀さんの顔を見上げると、厳しい顔の敦賀さんがいた。  
 
な、何考え込んでるの?敦賀さん?  
 
「……監督と、社さんは残っててくれますか?」  
「なんでだよ?蓮、キョーコちゃんと二人っきりの方が良いだろ?」  
「俺も男ですよ。押さえが効かなくなるかもしれません」  
 
「最上さんに取り返しのつかない事をする前に止めてください」  
 
覚悟を決めたのか、敦賀さんはベッドの中で私を抱きしめた。  
逆に怖気づいてベッドの中で縮こまる私の背中を宥めるように、とんとんと叩く。  
「ごめんね?」  
「う……」  
頬に手を沿え、  
「…大丈夫だよ…怖がらなくても…」  
そろりと目線だけで敦賀さんの表情を伺った。  
「…ほんの少し君に触れるだけだから―――――…」  
優しい顔、でも……怖い…どうなってしまうのか判らなくて怖い。  
「監督とか社さんが、まずいと思ったら俺を止めてくれるはずだよ……」  
きゅっと唇をかんで、私も覚悟を決めた。  
上を向いて、未緒になり切る。  
「早く始めないとお姉様が来てしまうわ」  
嘉月の唇にそっと触れた。  
敦賀さん……気付いて下さい。私も覚悟を決めました。  
 
彼女の唇が俺の唇にそっと触れた。  
その覚悟ちゃんと受け止めるよ。  
 
「そうだね。早速始めようか?」  
ゆっくりと彼女の背中に触れ始める。  
うなじから肩口にかけて触れると背中が仰け反る。  
「感じ易いんだね。未緒」  
赤い顔で、キッと睨んでも可愛いだけだよ。  
まだ、ちらちらと監督と社さんを気にしている彼女に深く口づける。  
「……つっ…ううん…」  
そのまま胸に触れないようにしながら身体のラインを撫で下ろす。  
脇腹の部分で身を捩ったのはくすぐったいからか?  
そのまま、太腿まで撫でていくと、また身を捩る場所を見つけた。  
爪の先でそこを往復させると、背中がそって首を振る。  
「ここ?」  
「やぁ、恥ずかしいです……社さん達が見てる……」  
「大丈夫、これは仕事だからね」  
とろんと解けた瞳で、艶かしい顔で見上げないでくれ。  
「どんなに乱れても」  
俺も、  
「誰も最上さんが厭らしいなんて思わないよ」  
暴走したくなる。  
「…本当に…?」  
「あぁ、本当だよ」  
そっと、乳房に手を置いて軽く回す。  
「んぅ……」  
「操に聴かせなきゃ駄目だろ?声」  
何もしていなかったのに既に尖っていた胸の先を弄る。  
「やぁっ、んんぅ!」  
 
段々彼女が余裕をなくして、この行為に溺れ始めたのを感じ取り、  
俺は緒方監督に視線で合図を送った。  
赤い顔で呆然と見ていた監督が正気に返る。  
小さく頷くとそっとドアを出て行ってくれた。  
これからスタッフが入ってくる。ここで、彼女を素に戻すわけにはいかない。  
スタッフが入ってくる事を気付かせないように彼女の割れ目に指を添えた。  
さっきよりも少し強い刺激を与えないと、と思う。  
スタッフの配置が元あった状態に戻っていく。  
 
「やぁ……はっ……だめぇ……」  
「最上さん……それは、操に見せ付ける為の喘ぎ声じゃないな」  
「だって……」  
やだ、自分が自分で無くなってしまう……  
これが気持ち良いって事?  
 
未緒ならなんて言うのかしら  
 
「嘉月っ……嘉月おっ…にいっ……さまっ……」  
「そう、それで……いい……」  
 
嘉月の名前を繰り返していたら、監督が指示を出すのが聞こえた気がした。  
「未緒、操さんがそろそろ部屋に来る時間だ」  
必死に頷く。  
「いくよ?」  
「え?」  
ぐいっと脚をM字に割り開かれる。  
ちょっと待ってっ!本当に入れないって言ってたのに!  
「あああああああっ!」  
敦賀さんは中に入れなかった。  
ただ、割れ目に沿って敦賀さん自身を這わせただけ。  
少し眉を寄せて、でも気持ちよさそうに私にこすり付けている。  
なんだか『そこ』がじんじんしてくるけど。  
これは何?  
「嘉月おっ…にいっ……さまっ……」  
「未……緒……」  
 
扉が壁にぶつかる位勢いよく開けられた。  
「何をやっているのっ!貴方達っ!」  
嘉月が、はっと扉の方に顔を向ける。  
「こう言う事よ。結婚前に真実をお教えしようと思って」  
「な…に……?何なのっ!」  
相当取り乱しているお姉様、愉快だわ。  
未緒が私に憑いた。  
「俺が本当に愛しているのは君じゃない」  
辛そうにお姉様から顔を背けた嘉月の首を引き寄せて口付け、  
横目でお姉様の顔を見た。  
顔面蒼白で、カタカタと震えている。  
この時を私は待っていた。  
「ふふっ、自分より劣っていると思ってた私に女として負けた気分はいかが?」  
艶然と微笑んで見せた。  
「お・ね・え・さ・ま」  
「――――っ!」  
扉を開け放したままお姉様は廊下を駆けていった。  
 
 
「はいカット、OKです」  
ぐったりとベッドに沈んだ。  
一番恥ずかしいシーンは、これで終わりのはず。  
それ以前に何時の間にスタッフさんここに入ってきたのかしら?  
 
「え?」  
 
上掛けの中から周りを見回す。  
………………  
「きゃああああああっ!」  
耳を押さえて敦賀さんがベッドに突っ伏したのが見えた。  
頭から上掛けを被って丸くなる。  
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。  
敦賀さんの愛撫に夢中になっててスタッフさんがここに入ってきた事に、  
全然気が付かなかった。  
それがすごく恥ずかしい。  
 
「京子さんのパニックが収まるまで少し間を置きますよー」  
監督ごめんなさい撮影長引かせて……  
「皆、外に出て下さい」  
ありがとうございます。  
「京子さん次は下着姿で最後のシーンですから身に付けといて下さいね」  
上掛けの上から頭を一つ撫でて監督は部屋の外に出て行った。  
 
「ごめんね?」  
ぽつりと敦賀さんが呟いた。  
「キスもしたこと無かったんだよね?」  
そろりと頭を上掛けから出す、なんだか声に元気が無い。  
どうしたんだろう?  
「あんなに激しくするつもり無かったんだ。でも」  
その続きが怖くて敦賀さんの言葉を遮った。  
「あ、後は敦賀さんは帰りの新幹線の中での撮影でクランクアップですよね」  
「あー、あれね。三日前かな早く撮影の終了した日にもう取り終わったよ」  
嘉月の家で荷造りをした美月を拾って新幹線で駆け落ちするシーン。  
「炎上する本郷宅の位置と視線が擦れると大変だからって」  
明らかに苦笑する敦賀さん、何があったんだろう?  
「緒方監督がすごく派手にライトアップしてくれたよ……」  
「社長の家とどっちが派手でした?」  
うーんと考え込む敦賀さん。  
「いい勝負かもしれないな……」  
「それはすごいですね」  
くすくすと笑い出すと、敦賀さんの表情も和らいだ気がした。  
「うん、もう大丈夫かな?俺も外に出て待っているよ」  
「はい、10分ぐらいしたら入ってきても大丈夫だと思います」  
敦賀さんが外に出てから下着を身に着ける。  
さっき、敦賀さんが言ってた「でも」の続きが気になる。  
 
でも、それを聞いたら後戻りが出来ない気がした……  
 
終  
 
 
 

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