普段泣き顔を絶対見せない最上くんが、俺の前で子供のように泣いた。
「私、やっぱり愛を信じ続ける事は辛いです」
そう言いながらハラハラと真珠のような涙をこぼす。
蓮がスクープされた事。
それはきっと120%事実無根で。
蓮自身に罪はないと確信しているが、こんな状況を許してしまった迂闊さは否定できない。
俺はほんの少し躊躇した後、二つの小瓶を彼女に手渡した。
◇◇◇
敦賀蓮、一生の不覚!
今放映中のドラマで共演している相手役、ヒロイン。
LMEとアカトキに続く大手プロダクションの恋多き女優。
思ったより視聴率が伸び悩んで焦った制作サイドか
それとも最近華やかな話題に欠いていた女優の活力剤に利用されたのか
スタッフもいたはずの打ち上げ終了後のツーショット写真が
『敦賀蓮、明け方恋人のマンションから出てくるところを激写!!』
なんてタイトルを付けられ写真週刊誌面を賑わせてしまった。
世間の批評なんてどうでもいい。
想い続けて三年。
恋焦がれた彼女をやっとこの手にできて半年。
その彼女が今回の騒動をどう受け止めているのかが一番の心配だった。
俺を信じていてくれているだろうか・・・?
週刊誌が発売された昨日、俺は地方ロケで。
彼女にすぐさま連絡したんだけど音信普通のまま東京に戻った。
帰って早々社長に呼び出され事の真相を正直に説明したが、いまいち歯切れが悪い。
「まぁ、俺はそう思ってたがな・・・」
早く解放して欲しい。彼女に直接会って弁明させて欲しい。
そんな思いに駆られながら出されたお茶を口にした途端、ふっと眼前が闇色に染まり意識が遠退いた。
どの位気を失っていたのだろうか?
「・・・がさん、敦賀さん・・・」
鈴の音を転がすような愛くるしい声で目覚めた。
「気が付きました?」
「最上さん!」
彼女に駆け寄ろうとすると響いた金属音。
俺は椅子に座った状態で背もたれを抱えるよう、後ろ手を取られ拘束されていた。
音で判断するに多分・・・・・手錠をかけられてる?
ご丁寧に椅子の脚に俺の両の足それぞれも同じように。
「これは一体・・・?」
「暴れない方がいいですよ。その手錠本物らしいですから」
・・・らしい?
ここは俺のマンション。気を失った俺をここまで運ぶのも彼女一人では到底無理だ。
信じ難いけどもしかして社長が絡んでいるるのか?
「何のマネ?」
「お仕置き・・・・・・か、な?」
「俺は浮気なんかしていない。信じてくれないの?」
彼女は悲しそうに微笑むだけで俺の問いには答えてくれなかった。
テーブルから小さな小瓶を取り上げた。
クリスタル製だろうか?その中には銀色に反射するピンクの液体が入っている。
蓋を外し彼女が飲み干し俺の唇に口付けをする。
彼女からなんてこちらからお願いしない限り、普段滅多にしてくれないのに・・・。
そんな事を思いながら身を任せていたら、喉奥に何かが流れた。
もしかして先程の妖しげな液体?
喉元から胃へと流れ落ちていくそれが焼ける様に熱い。
「何を飲ませ・・・?」
直後に心臓が踊りだす。心音は脳髄の奥底まで木霊しだした。
徐々に乱れていく呼吸。俺の下半身が自分の意思とは別に高く聳え立つのが分かる。
「はぁ、こ、れ・・・。び、やく」
「本当に即効性があるんですね」
ヒヤリと冷たい指先が俺の首筋を撫でた。
ただそれだけで信じられないほどの刺激で俺は思わず声を洩らす。
「あ、あぁ。やめ、やめてくれ」
やっぱりシラフじゃ少し恥ずかしいから・・・と彼女は同じ形の小瓶をもう一つ手にした。
中身は同じく銀色に反射してるが、アイスブルーに輝いてる。
それを一気に呷り近づいて来ると、俺のシャツのボタンを上から一つずつ外し始めた。
肌蹴た胸元に彼女の舌が走り、狂ったように反り勃っている俺自身に手が伸ばされた。
スラックスの上から慣れない手付きでふんわり撫でられると
思いも寄らない事にそれだけで俺は達してしまった。
声をあげ身を震わす俺の姿を、彼女は目の端で笑む。
「もうイっちゃったんですか?」・・・普段の逆ですねと付け加えて
ベルトが外され下着まで一緒に膝までずり落とされた。
先程放った精液で濡れている俺のペニスはまだ高々と天上を向いたままで
感じたばかりの絶頂感より焦れている感情の方が勝っていた。
彼女の小さく愛らしい唇がそこに口付ける。
信じられない!
そんな事、それはその内教えようと思ってはいたんだけど、まさか彼女自ら・・・。
「さっきので汚れちゃいましたね。キレイにしてあげます」
そう言うと一気に頬張る。
脊髄にまで響き渡るほどの快感に襲われ
二度目だと言うのにあっという間に最後まで持っていかれた。
いくら薬のせいだと言っても、普段なら絶対しないであろう彼女の行動に寄る所も大きいはずだ。
口に含んだ俺の体液を、彼女は喉を鳴らして飲み干した後、ワンピースを脱ぎ去り下着に手をかけた。
最後に脱いだショーツが彼女の肌と離れる際、透明の糸が引いていた。
「敦賀さんのここ、全然治まりませんね?」
俺の膝に上って『ここ』に跨り手を添え、自身の秘所に宛がうと一気に腰を下ろす。
先程見て取れたようにそこは濡れそぼっていて、熱く、柔らかく俺を包み込んだ。
いつもより締め付けを感じるが、流石に三度目ともなるとさっきみたいにそれだけで達する事はなかった。
彼女が覚束なく腰を振る。
「拘束を解いて・・・?このままじゃ動けない」
「敦賀さんが動いたらお仕置きにならないじゃないですか」
まどろっこしい快楽に焦れていたら彼女の息が上がってきた。
「お、かしぃ・・・。身体が熱く・・・なっ、て・・・」
言葉通り蜜壷から彼女の愛液が溢れるように流れ落ち
二人の接触した部分が滑るように擦れ合い淫猥な水音が部屋中に響きだした。
「私のは気分を楽にするだけって、社長さん・・・言ってたのに」
やっぱりあの人の差し金か。でも一体何故?
察するに俺が飲んだ桃色は即効性、彼女が飲んだ水色は遅効性の媚薬だったんだろう。
彼女に薬が完全に回る前に戒めを解いてもらわないと。
耳元で再度嘆願すると彼女は頷いて、テーブルに置いていた鍵を取り手錠は外された。
手錠と鍵が絨毯の上に落ちると彼女はその場にうずくまってしまった。
半身を捻り落ちた鍵を拾い足の戒めを自ら解き駆け寄ると
さっきまでの俺以上に苦しげな表情を浮かべ短い呼吸を繰り返していた。
俺が飲まされたのは即効性がある分持続性に欠けてたのかもしれない。
薬による熱は嘘のように引いていたが、今度は彼女の嬌態に煽られた。
倒れた身体にそっと触れるだけでびくびくとその身を震わせる。
抱きかかえさっきまで俺が座っていた椅子に腰掛けさせる。
しっかりと彼女の腕を背中に回し手錠をかけて・・・・・・。
苦しげな呼吸まで奪うような口付けを施した後、先程のお返しとばかりに肌に舌を這わせ嬲る。
「あ、あぁ、はぁ、あぁ・・・」
こうまで乱れた姿を見せてくれるのは無論初めてで、俺は本来の目的を忘れそうになっていた。
彼女の両膝を抱え肘掛に乗せ秘部を晒す。
「あ、いや、見ないでっ!」
力なく閉じようとするのを押さえつけ、溢れかえる所をわざと避けて舐めあげながら問いかけた。
「どうしてこんな事したの?」
「はっ。はぁ」
「俺の事信じられなかった?」
「だって、だって・・・・・・」
「だって何?言わないとやめちゃうよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
指だけそこに残して、押し黙ってしまった彼女の唇を舌先でなぞる。
瞳を合わせながらもう一度問う。
「どうしてこんな事したの?」
彼女の大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。
「だって、今回は捏造されたモノだったとしても、いつ敦賀さんが私の元を去っていくか不安で・・・」
「そんな事あるわけ・・・」
「昨日社長に呼び出されて・・・。失う恐怖を抱えながら付き合えない。愛を信じるのが怖いって伝えたら
困った顔して『今回は取り合えず蓮にお仕置きして我慢してくれ』って小瓶を頂いたんです。」
「・・・・・・」
「母に振り向いてもらえず、幼馴染に捨てられて、この上敦賀さんまで失ってしまったら・・・私きっと生きていけない」
お互い忙しい身ですれ違いの毎日、しかも世間には内緒のお付き合い。
普段全く不満を漏らさない彼女に甘えて、その真意を理解してはいなかった自分の不甲斐無さに憤る。
全てを吐き出して子供のように泣きじゃくる彼女が愛しくて・・・。
抱きしめながら囁いた。
「君が俺から逃げたって、俺は必ず君を捕まえてみせる。俺は一生君を手放す気はないんだ」
一瞬見開いた瞳を閉じ小さく頷いた彼女に届くように、心から言葉を搾り出した。
「お願い、俺を信じて」
唇を重ねお互いを確かめるように舌先を合わせ
彼女の蜜が溢れる場所に俺のモノを深く沈めると狂おしいまでの嬌声が上がった。
「身体―――・・・辛いよね?今、楽にしてあげるから」
突き上 げる度に啼き叫ぶ声が響き、彼女は何度も何度も高みへと昇った。
その意識を手放してしまうまで・・・―――。
◇◇◇
一度全てを曝けてしまえば楽になる・・・そう思い託した媚薬。
この位しないと壊れるまで我慢する彼女の本音、お前は一生聞かせてもらえなかったんだ。
いささか強引過ぎるやり方だったから、怒りももっともだが彼女が去っていくよりマシだろう?
きっと明日朝一番に乗り込んで来るであろう蓮に、そう伝えよう。
俺はワイングラスを傾けながら、二人の幸せを切に願った。
――― 終 ―――