「今日こそはキョーコちゃんを食事に誘うぞ!
…って、俺、いったい通産何回振られれば気が済むんだろう…」
そんな事を呟きながらTBMの廊下を一人の童顔の男が歩いていた。
彼の名前は石橋光。人気グループ『ブリッジロック』のリーダーである。
彼は目的地である『坊』の控え室の前まで来ると、深呼吸をした後ドアをノックした。
コンコン
「はい?」
「キョーコちゃん、俺。話があるんだけど、ちょっといいかな?」
「光さん?はい、どうぞ。」
ガチャ
光は雄生と慎一からアドバイスされた誘い文句を頭の中で復唱しつつ、ドアノブに手をかけ中に入った。
「キョーコちゃん、お疲れ様。今日も上手くい………!!!」
キョーコに労いの言葉をかけようとした光は、いきなり目の前に飛び込んできた光景に固まった。
そこにいたのは坊の着ぐるみを脱いだ直後のキョーコの姿。
いつもは長袖シャツにジャージ姿なのだが、季節は夏。上に着ているのはTシャツで下に穿いているのはショートパンツなのだ。
しかし、Tシャツの丈が長い為ショートパンツは見えない状態になっている。
「…………」
着ぐるみを着てスタジオ内を所狭しと走りまわったキョーコのTシャツはびっしょり濡れて肌に張り付き、ブラジャーが透けて見えている。
いや、それどころか、ぴったりと身体にはりついた白いTシャツが彼女のウエストラインを強調している。
そしてシャツの下からすらりと伸びた白い脚。
密かに想いを寄せている少女のそんな色っぽい姿を目撃した直後、光は自分の心の中で何かが壊れた気がした
「お疲れ様です、光さん。こんな格好ですみませんが、お話って何でし…っ…!!きゃあ!!」
「キョーコちゃん…俺…」
突然キョーコの腕を掴んで自分の元に引き寄せる光。
あまりの事に戸惑うキョーコをお構い無しにそのまま床に押し倒した。
「ななななななな何するんですかっ!!!光さん!」
「………そんな格好で俺を誘うキョーコちゃんが悪いんだよ。今日は日頃の労いも兼ねて食事に誘うつもりだったのに…」
いつもとは180度違う大人の男の表情でそう言うと、光はキョーコの腕を掴んだまま彼女の首筋に吸い付いた。
「っ………!!!」
キョーコは別人のようになった光に恐怖のあまり声を発する事が出来なかった。
キョーコの首元に顔を埋めつつ、右手でTシャツの裾をたくしあげる光。
「光さん!ちょっ…!」
「……………」
驚いて自分の上にのしかかっている男の胸に手を置いてどけようとするキョーコ。
しかし、小柄な体格でも彼はれっきとした男である為微動だにしない。
それどころか、次第に光の息遣いが荒くなってきた。
「あ…あの…光さん、冗談じゃ…」
自分の身に起こっている事が信じられず、思わずいつものように光に話しかけるキョーコ。
「………いよ…」
「え?」
「…酷すぎるよキョーコちゃん。」
聞こえてきた悲痛な声。
初めて聞いた光のそんな声に驚き、キョーコは両手を彼の胸からどけた。
「光さ…」
「冗談なんかでこんな事すると思う?俺だって男だよ?」
「っ…!!!」
自分の顔を覗き込んでいる男はお笑いタレントの仮面を脱いだ雄の顔をしていた。
切なそうな表情の中にも鋭く光を放つ瞳。
誰…?…こんな人…私知らない…!!
キョーコがそう思った瞬間、自分の唇に何かが触れてくるのを感じた。
「んん…ん〜っ……!!!」
「つっ……!」
突然唇を奪われ、首を横に振って拒否しようとするキョーコ。
そのせいで…
「ひっ…光さん…!!」
顔を離した光の口元から一筋の鮮血。
彼は思わずソレを手で拭った。
「ごっ…ごめっ…わっ…わたっ…」
「…キョーコちゃん、もしかして…『初めて』…なの?」
光はわざと『初めて』の部分を強めに言った。するとキョーコの顔色が変わり…
「ふぅん…そうなんだ…」
まるで獲物を前に舌なめずりをする肉食動物のような仕草をすると、光は彼女のTシャツに再び手をかけた。
ビリッ…ビリビリ…
小柄な光の手によっていとも簡単に引き裂かれる服。
「いやあぁ〜っ!!!」
キョーコは思わず悲鳴をあげた。しかし彼はそれに動じる事なく引き裂いた襟元に手をかけ下に引っ張った。
そしてキョーコのしているブラジャーをストラップごと下に下げる。
「いやっ…やだ!!光さん、やめて!!」
「…………」
キョーコが「処女」だという事を確認した光には彼女の抵抗など耳に入っていないも同然だった。
純白のレースから出て来たこぶりだが形のよい乳房。
その頂にあるピンク色した果実にむしゃぶりついている。
片方を口に含み、もう片方は掌で撫で回している。
キョーコは泣きながら首を横に振ったり、光の背中を叩いたりして抵抗した。
「いやあ〜〜〜〜〜っ!!!」
光の手がキョーコのショートパンツにかかった時、彼女が再び悲鳴をあげた。その時…
バアンッ!!!
突然控え室のドアが乱暴に開けられた。
「つっ………!」
「…………!!!!!」
誰かがキョーコに覆いかぶさっていた光の腕を掴んで彼をどかしたのだ。
それは彼女が良く知る人物だった。
「ってめぇ…ぶっ殺す!!」
ドアを開けて入ってきたのは松太郎だったのだ。
憎悪に満ちた瞳で光の事を睨みつける。
「「キョーコちゃんどうした!」」
松太郎に続いて雄生と慎一が入ってきた。そしてその光景を見て思わず息を飲む。
「リーダー…もしかして…」
「キョーコちゃんを…襲ったのか…?」
座ったまま、敗れたTシャツを隠すように両腕で胸を押さえているキョーコ。
そんな彼女を見下ろしている光と、彼に向かって恐ろしい形相で睨んでいる松太郎。
雄生と慎一はなす術も無く呆然と立ち尽くしていた。
「いいか!その顔(ツラ)ァ二度と芸能界で生きていけねェくらいに凸凹にしてやる!!今だ!たった今!!」
「やめて!!!」
松太郎が光の胸倉を掴み拳を振り上げたその時、キョーコが叫んだ。
「キョーコ……」
「………出て行って…!」
「お前そんな目に遭わされてんのに何言って…」
「…アンタには関係ない。いいからここから出て行って!!」
俯いたままキョーコは言い放った。松太郎は苦虫を噛み潰したような表情で拳を握り締め承諾の返事をした。
「キョーコちゃん…」
「大丈夫…か?」
「…すみません。皆さんもここから光さんを連れて出て行ってくれませんか。」
キョーコにそう言われ、雄生と慎一は光の背中を押して控え室から出て行った。
松太郎は光が出て行ったのを確認してから彼等に続いて控え室から出た。
「くそっ…!!キョーコのヤツ、何でまたあんな事に…!!!」
ドカッ
先ほどの光景を思い浮かべ思いっきり壁を蹴飛ばし呟く松太郎。
「あれは…確か…不破?」
そんな彼の様子をたまたま時間を潰す為にTBMの廊下を歩いていた蓮が目撃していた。
「おや?あれは…あの時の鶏君じゃないか…。」
事務所に電話しに行った社を待つ間、蓮はTBMの廊下を歩いていたのだが、スタジオから出て来たかつての知人を見かけたのだ。
「一応、あの時のお礼を言っておくか…」
そう言って彼は鶏の着ぐるみに近づこうとした。その時…
「待ってくれ!!」
突然スタジオからギャルソン姿の男が走り出てきたのだ。蓮は咄嗟にセットの陰に隠れた。
「あの時は自分でもどうかしていたと思う!だからこの通り!謝るから…」
「……………」
自分に背中を向けたままの鶏に対し、必死で弁明をしている青年。
「(何だ…?もしかして仕事上でのトラブルでもあったのか…?)」
蓮が彼等の様子を伺いつつそんな事を考えていたその直後…
「頼む!!許してくれキョーコちゃん!!!」
「(っ…!!!!)
突然その場にしゃがみこんで土下座した青年の口から出た愛しい人の名前に思わず固まる蓮。そして…
「…………もう忘れましょう。」
その声と同時に鶏の頭がはずされた。やはり中から出て来たのは、栗毛色の髪したショートカットの少女だった。
「キョーコちゃん…」
「私、昨日の事は忘れる事にします。だから、これからも共演者として良い番組を作っていきましょう。」
「ごめん!ほんっとうにごめん!!謝って済む事じゃないけど、俺、どんな償いでもするから!!」
キョーコに向かって、床に額を擦り付けんばかりの勢いで何度も謝罪を繰り返す光。
そんな彼にキョーコは思わず振り返った。
「光さん、もういいです。顔を上げてください。」
「キョーコちゃん…」
「…アレは事故だったんです。だから、さっきも言ったけど、忘れましょう?」
着ぐるみのままその場に座り込み、土下座している光に向かってそう言うキョーコ。
しかし、一連の彼等の言動を傍観していた蓮の表情が次第に強張った。
「(昨日不破が行っていた『あんな事』が今の彼の謝罪と関係しているのか…? ………とにかく、確かめてみる必要があるな…!!)」
そう決心すると、蓮は携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。