あいつに一人部屋かよ  
 
 
呟いて俺は扉をノックした。  
生憎と返事はない。  
ノブに手を掛けると扉はスルリと開いた。  
 
おいおい、無用心だな。  
知らないやつが入ったらどうするんだよ。  
あいつと俺の仲だ。俺は部屋の中に入って待つことにした。  
 
 
京子-----  
最近密かにブームとなっている俳優である。  
DARKMOONがきっかけとなり(つーか不気味だろ)  
俺のPVが話題となって最近よくテレビで見かけるようになった。  
その結果がこの部屋だ。  
ちゃんと衣装棚まで用意されてるでやんの。  
・・・中には何も入ってないだろうけど。  
俺くらいのスターとなれば当然のことだがあいつに与えられるのは腹立たしい。  
あいつが俺のところに迫ってきているみたいだから。  
 
 
 
あいつが来たら嫌味のひとつでもいってやろう。  
俺は呟いて棚にもたれかかった。  
 
 
10数分後、扉が少し開いて話し声が聞こえた。  
てっきり一人で帰ってくるものだと思っていたからこれは誤算だ。  
こんなとこ、あいつだけならまだしも、他人に見られるのは冗談じゃない。  
「・・・・・・・チッ」  
俺は衣装棚の中に飛び込んだ。  
 
予想通り棚の中は空っぽ。  
新人に毛が生えたくらいのやつにに着替える衣装が何着もあるとは思えないからな。  
 
「ねえ、モー子さん・・・」  
「なによ」  
中に入ってきたのはあいつともう一人。  
少し低めの声の艶のある黒髪の女が見えた。  
蒙古?猛虎?いずれにしたって変な名前だ。  
 
「ほんとにやるの?」  
「当たり前でしょ?」  
「でも・・・」  
「キョーコにしか頼めないの・・こんなこと・・・」  
逡巡するあいつに畳み掛ける猛虎(?)とやら。  
棚の中からでは2人の姿や表情は伺えない。  
 
「わかった・・」  
「うれしい・・・」  
キョーコが頷く。  
「私…こんなこと初めてなんだけど・・・」  
「私だって」  
 
いつものあいつらしくない、もじもじとした声だった。  
いつもああならもっと女らしくなるだろうに。  
出て行くタイミングを逃した俺は成り行きを見守ることにした。  
 
 
「ん・・はぁ・・・」  
チュ、と濡れたような音がする。  
まるで、キスでもしているような。  
 
 
 
ん?  
キスって  
女同士だろ?  
 
 
「カナエ…もっと・・・」  
「キョーコ・・・かわいい・・・」  
 
 
まてえええええええええええええええええええええええええええい  
これはあれか、俗に言うレズなのか?  
しかし、数ヶ月前まで俺に夢中だったキョーコがレズになるなんてありえねーだろ?  
混乱する頭を抱えながら聞き耳を立てることしかできない俺。  
我ながら滑稽すぎる  
 
 
「ね、キョーコ、キョーコのこと全部見たい」  
「は・・はずかしいよ・・・」  
赤らむあいつの姿が目に浮かぶようだ。  
おおお俺ですら見たことないってのに!!!  
衣擦れの音がする。ああ見たい、見たいとも。  
「っや・・そんなとこさわっちゃ!」  
「いいじゃない、こんなに可愛いんだもの」  
手が届くときは目にも入らなかったくせに、今こうして欲情してしまう自分が憎い。  
 
 
「っは、、、モー子さぁんっっ」  
「こぉら、カナエって呼びなさい」  
「だって・・・ムネはしちゃやぁ・・」  
もう一人はカナエというらしい。  
カナエはたしなめるようにキョーコを苛める。  
キョーコは初々しい反応を返す。  
悲しいかな、右手がイチモツに伸びるのは男の性だ。  
むしろ好きな女の喘ぎ声を聞いておっ立たない男がいるだろうか、いやいない!  
・・・何でトップスターの俺がこんなとこでこんなことを。  
 
「や!そこは汚いからっ!」  
キョーコの切迫した声で俺は我に帰った。  
棚の外から水音が聞こえるのとキョーコの声から察するに、舐められているのだろう。  
「キョーコのここ、ヒクヒクしてる」  
切迫したキョーコと妖艶なカナエ。  
「っく…んんんっっっ」  
キョーコの声が一際高くなる。  
カナエにイかされたのだろうか。  
欲望に正直な俺はすぐにでも出て行ってキョーコをめちゃくちゃにしたい気持ちに駆られたが、ぐっと我慢して愚息を握り締める。  
 
「ふふ、いっちゃった?」  
「・・・・・っ」  
「ね、私も気持ちよくして?」  
「ん・・」  
 
また衣擦れ、そして何かが擦れあうような音。  
「あぅ・・押し付けちゃだめっ・・ん」  
「だって気持ちいいんですものっ」  
 
 
「や、、また、、いっちゃ・・・」  
「いいよ、いっしょに・・いこ?」  
荒くなる息遣い。  
激しい衣擦れ音  
無意識のうちに右手に力がこもる。  
 
 
「ふぁ、、きょ・・・・こっ!」  
「やあぁあ、カナエえっ」  
俺は、いや三人は同時に果てた。  
 
 
◇◇◇  
 
30秒後  
 
 
「やっぱ無理だわ」  
カナエの厳しい声。  
さっきまでのムードは一瞬にして消え去り、カナエは荒々しい態度で何かを投げた。  
「だってモー子さんったら、原作も読まず話を受けようとしてるんだもの」  
「う・・だって監督の提示した条件が良かったから・・・ゴニョゴニョ」  
「モー子さんにしてはめっずらしい」  
キョーコの声も素だ。  
今しがたイったなんて思えないほどに。  
 
「でも、やってみてどうだった?受ける気になった?」  
「ぜんっぜん!! ラブミー部員に百合ドラマなんて依頼する気が知れないわ!」  
「あはは・・監督にはちゃんとお断りしておいてね」  
「あったりまえよ!」  
 
呑気な口調のキョーコと、イライラしているカナエ。  
カナエは勢いよく扉を閉め、部屋を後にした。  
 
つまり、あれだ。  
これはラブシーンかと思いきや、お芝居だったらしい。  
俺はまんまと騙され、一泡吹かせられてしまったというわけだ。  
 
あいつの演技に酔わされ、あまつさえこの姿だ。  
数ヶ月前の俺らの関係からは想像もつきやしない。  
あいつに会いにきたが、こんな姿なんて死んでも見せらんねえし、今日は大人しく撤退してやるとしよう。  
 
 
 
 
 
 
終  
 
 
 

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