「ありがとうございました!これで何とかナツを掴めそうです!」  
ぺこりと頭を下げてお礼を述べ、私は帰り支度をまとめ始めた。  
借りていた敦賀さんのパーカーも「ちゃんと洗って返します」と断りを入れながら、  
丁寧に畳んでバッグにしまう。  
「もう朝になったとはいえ、女の子を一人で帰らせるわけにはいかないよ。」  
敦賀さんはやっぱり紳士で、電車を使って帰るからと言う私にそんなことを言う。  
大丈夫です、これ以上ご迷惑をおかけする訳には、と言葉を重ねても、  
困ったような顔をして、廊下へと続くリビングの扉を塞いでいた。  
「それにね。お礼に、して貰いたいことがあるんだ。すぐにできることなんだけど。」  
そっか。あとで改めてお礼に伺おうと思っていたけれど、今やれることなら  
今すぐ引き受けよう。そう思って、私にできることならなんでもやります!と  
安請け合いをしてしまった。  
敦賀さんの瞳に浮かぶ、暗い光に気付かずに。  
 
次の瞬間、私は肩を強く掴まれ壁に押し付けられた。  
え?と驚いて見上げた唇を、敦賀さんの唇で塞がれる。  
突然のことに呼吸をするのも忘れ、息苦しさに口を開いたところを更に深く口付けられ、  
敦賀さんの舌で掻き回された。  
歯列をなぞられ、上顎を舐られる。怯えたように縮み上がっている舌を絡み取られ、  
引きずり出されて思う存分蹂躙される。  
私は頭が芯から痺れてきて、何も考えられなくなった。  
膝に力が入らなくなって崩れ落ちそうになった頃、ようやく唇を解放された。  
私は体を支えるために無意識に敦賀さんにすがりつきながら、震える唇で問いかけた。  
「……な……にを──?」  
敦賀さんは私の頬や額、瞼など顔中にキスの雨を降らせていた唇を耳に寄せ、  
低くて艶のある声で囁いた。  
「お礼に君の唇を貰ったんだよ。  
 徹夜の特訓のお礼に、キスひとつなら安いものだろう?」  
「……っあ……。」  
微かに笑いを含んだ吐息に耳をくすぐられ、思わず声が出てしまった。  
その反応は見逃されず、耳に舌を挿し入れながら敦賀さんが囁き続ける。  
「感じやすいんだね。可愛いよ……。」  
耳に直接響くクチュクチュという水音に、聴覚を支配される。  
躯が奥から熱くなり、その初めての感覚に恐怖を覚えて逃げようとしたけれど、  
肩を押さえている力は強く、壁に縫いとめられたかのように動くことができなかった。  
 
敦賀さんの唇が耳たぶを食み、首筋を辿って下りて行く。  
時折軽く“ちゅ”という音を立てて吸い付きながら、大きな手は明確な意思を  
感じさせる動きで、上着の下でカットソー越しに背中や腰を這い回り、ポイントを刺激する。  
その度にぞくぞくとした感覚が背筋を走り、お腹の奥に熱が溜まって行く。  
「……あ……んん……はぁっ──。」  
自分の唇から聞いたことのない艶のある熱い吐息が零れだし、その甘い響きに  
我ながら驚いて、意識が少しはっきりした。  
「や……敦賀さ、……。なん、で……?」  
なんとか声を絞り出して問うと、敦賀さんはまた耳元に唇を寄せてくる。  
「最初のキスはお礼に貰ったものだったけどね。」  
敦賀さんの声に悪意にも似た色が滲む。  
「今のこれはね、お仕置きだよ。」  
「──え……?」  
敦賀さんの手に頤を捉えられる。  
「あんな時間に一人で出歩いて心配させたことと──。」  
上向かせられ、視線が重なる。  
「──夜中に男の部屋を訪ねる危機感のなさに、ね。」  
ふいに覗き込んだ敦賀さんの瞳は、底なし沼のように暗く深い。  
ぞくりと、さっきまでとは違う冷たいもので背筋が震えた。  
夜の帝王とも違う、もっと毒を孕んだ瞳の色に魅入られて動けなくなる。  
 
再び合わされた唇を抵抗もできずに受け入れている間に、いつの間にか上着は  
足元に落ちていて、カットソーも捲り上げられていた。  
ブラの上からやわやわと胸を揉まれ、恥ずかしさから更に躯が熱くなる。  
「あぁんっ!」  
主張し始めていた尖りをブラの上から摘まれて、思いがけず大きな声が出てしまった。  
慌てて口を押さえたけれど、出た声は戻らない。  
「ここ……すごく感じるんだ?」  
片方の口角だけを上げて笑う敦賀さんは、端正な顔立ちと相まってひどく残酷そうに見えた。  
これは、誰だろう。まるで知らない男性(ひと)のようだと、ぼんやりとした頭で  
考えている間に、無理にずらされたブラの隙間に手が入ってきた。  
「ひぁっ……あああっ!」  
胸の頂へ直接与えられる刺激はとても強くて、背が弓なりにしなる。  
そこへ手が入ってきて器用にブラのホックを外し、解放された胸へ敦賀さんの唇が下りてきた。  
先端をまるで飴玉のようにしゃぶられ、舌先で弾かれ、吸い付かれる。  
もう片方も指先で弄ばれて、まるで電流が流れるかのような感覚が絶え間なく訪れて、  
胸元で揺れる敦賀さんの髪に手を差し入れたけれど、その頭を引き剥がしたいのか、  
しがみつき抱き寄せているのか、自分でもよくわからなくなって、  
私はもう、ただ喘ぐことしかできなくなっていた。  
 
躯中の熱が、下腹部の奥にずくんとした疼きと共に溜まって行く。  
その感覚に無意識に擦り合わせていた太腿に、敦賀さんの手が這わされる。  
上から下へと撫で回されて、内腿に痙攣のような震えが走る。  
愛撫の手がするりと脚の間へ滑り込んできて、咄嗟に閉じようとしたところに  
敦賀さんの膝を入れられ、内腿を撫で上げていた手はとうとう私の秘所へと辿り着いた。  
「すごく熱いよ。それにすごくびしょびしょだ。まるでおもらししたみたいだね。」  
くすくすと楽しそうな敦賀さんの声が羞恥心を刺激する。  
「こんなに濡れた下着は気持ち悪いだろう?脱いでしまおうね。」  
そう言うと、優しささえ感じられる手付きで私のショーツをゆっくりと引き下ろす。  
私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて死んでしまいたいくらいだったけど、  
抵抗らしい抵抗もできずに、ただこの辱めを受けることしかできなかった。  
『こんな、恥ずかしいこと、夢なのかもしれない……。』  
現実逃避を始めて自分の世界に引きこもりかけた私を、いきなり内(なか)に入ってきた  
敦賀さんの指が現実に引き戻す。  
「んくっ、あ、はっ、あ、あぁんっ!」  
指は抽送を繰り返しながら内を掻き回し、本数を増やしながら私を翻弄し、  
押さえ切れない声が唇からこぼれ出てしまう。  
 
「ほら、もう3本も入っちゃったよ。すごいよ、最上さんの下の口は欲張りだね。  
 もっともっとって、俺の指を引き込もうとしてるよ。」  
恥ずかしいことを次々と囁かれ、耳を塞ごうと持ち上げた手はあっさりと捕らえられてしまう。  
「ほら……聞こえる?下の口が涎を溢れさせてるよ?」  
そんな言葉を聞かされて、嫌なのに耳に意識が集中する。  
すると、さっきまでは敦賀さんの声と、自分の荒い呼吸音ばかりが響いていた耳に  
ぐちゅぐちゅといった水音が聞こえてきた。  
「やっ……!」  
あまりの恥ずかしさにいやいやと首を振ったけれど、その水音はより大きく耳に響く気がした。  
「すごいね。今きゅうって締め付けたよ。指が千切れちゃいそうだ。  
 恥ずかしいことを言われると、感じちゃうんだ?」  
溢れてきた涙で視界が霞む。  
「も、やめて……。酷い……なん、で……?」  
「好きだよ、最上さん。」  
「──え?」  
唐突なその言葉に思考がついていかない。どういう意味なのか、どういう意図をもって  
発せられたのか、のろのろと動き出した頭で理解を試み始めたところに、  
今まで以上の強い刺激を受けて意識が真っ白になった。  
「あ、あああぁーーっ!」  
 
内に指を挿し入れられたまま親指で肉芽を刺激され、あまりにも強い快感に  
束の間意識を失ったらしい。その隙に躯を返されて、壁に向き合うように立たされた。  
「ほら、しっかり立って。」  
腰を引かれ、無意識に壁にすがりつく。気が付いた時には、スカートが捲り上げられ  
剥き出しになったお尻を突き出した、ひどく恥ずかしい姿勢を取っていた。  
慌てて姿勢を正そうにも腰をしっかりと抑えられ、力の入らない体では逃げることもできない。  
そのまま床に跪いた敦賀さんに、自分でさえまともに見たことのない場所を間近に見られて、  
顔から火が出そうなほど恥ずかしい。  
「すごく綺麗だよ。」  
恥ずかしすぎて却って神経が集中してしまい、僅かに敦賀さんの息が触れるのを感じて  
ピクリと震えてしまうのが自分でもわかった。  
「やあ、見ないで……。」  
逃げたくて、でも逃げられなくて、腰が揺れてしまう。まるで、男を誘うように。  
「触れてもいないのに、どんどん涎が溢れてくるよ。そんなに触って欲しいの?」  
愉悦を含んだ声で囁いて、ふっと息を吹きかけてくる。  
ただそれだけなのに、とろりとした蜜が自分の内から溢れるのが分かる。  
「やだ……。からだ、へん……。んあっ!」  
敦賀さんの舌が溝をなぞるように後ろから前、前から後ろへと這う。  
舌の先が僅かに肉芽に触れ、ぞくぞくとした快感が背筋を這い上がる。  
『やだ、本当に、体が変。熱くて、熱くて、ああ!』  
一度達した躯がより敏感になっていることなど知る由もない私は、  
ただただ敦賀さんから与えられる愛撫に翻弄された。  
 
挿し込まれた舌が内を抉るように動き、蜜を吸うじゅるじゅるとした音が部屋に響く。  
「溢れすぎて、とても飲みきれないね。」  
ようやく息をついた敦賀さんが、口元を拭いながら立ち上がった。  
そのまま腰を密着させるように抱えられ、前に回した腕で腰から太腿にかけて  
ゆるゆると撫でさする。  
「最上さんは淫乱だなあ。初めてなのに涎は溢れかえってるし、こっちもこんなに。」  
と、もう片方の手で不意に胸の頂を弾かれて、嬌声を上げてしまう。  
でもそのあとは頂を避けてやわやわと揉まれるだけで、上も下も直接的な刺激が貰えずに  
私の中で出口のない熱が燻る。  
「ふ、は、っ……。」  
勝手に震えてしまう躯を止めたくて壁にすがりつくと、敦賀さんは背筋を辿るように  
這わせていた舌を離し、私の手を取る。  
「ダメだよ。そんなに爪を立てたら、指を傷めるよ?」  
ただ手を取られ、指先を撫でられただけなのに、私の躯に新しい震えが走る。  
自分の躯の敏感すぎる反応に混乱し、敦賀さんに支えられるまま半ば呆然と  
立ち尽くしていると、頤を取られて口付けられた。  
背後からのキスは今までよりもより深く口中を抉り、絡め取られた舌と舌が擦れあう  
ざらりとした感触が、眩暈を起こしそうなほどの疼きをもたらした。  
長く官能的な口付けが終わり、ようやく唇が離れる時に細い銀の糸が二人の唇を一瞬繋いだ。  
 
敦賀さんは私の腰を持ってくるりと躯を反転させると、私を壁に沿わせて立たせ、  
自分は一歩引いてしまう。その顔は清々しいほどの笑顔を浮かべていて、それが逆に不安を煽る。  
私は乱れた呼吸で肩を上下させながら壁に背を預けていたが、やはり立っていられず  
ずるずると座り込んでしまった。手に、落ちていた上着が触れる。  
敦賀さんはそんな私に視線を合わせるように片膝をついて、声色だけは優しく話しかけてくる。  
「ゴメンね。ひどいことしたね。でも、もう解放してあげるよ。」  
言われていることが俄かには信じられず、敦賀さんの顔を見上げる。  
声は優しいのに、瞳は暗い色を湛えたままで、ひどくアンバランスだ。  
「君の今の格好はひどくそそるけどね。やっぱり無理強いは良くないよね。  
 あと1時間半もすれば社さんが迎えに来るから、それまでゲストルームで休むといいよ。  
 ああ、バスルームも使っていいからね。俺は寝室に行くから心配しないで?」  
そう言ってニヤリと笑う敦賀さんの視線に、はっとして自分の姿を見下ろしてみれば、  
カットソーとブラは首元にたくし上げられ胸を露わにしたままで、  
短いスカートから覗く太腿は自らの粘液でぬらぬらと光っている。  
そして片方の足首にショーツを引っかけた、あられもない姿をしていた。  
慌てて上着を拾い上げて胸を隠す私を、敦賀さんは楽しそうに眺めながら  
不意に伸ばした指先で私の太腿をついと撫でる。  
「でもね。君が続きをお願いしたいって言うなら、いつでも大歓迎だよ?」  
「……っ!」  
敦賀さんの言葉と指先の感触に、かーっと血が上り、夢中で立ち上がって  
逃げるようにゲストルームへと向かった私の背に、まだ何か言葉が掛けられたけれど、  
もうそれは私の耳には届かなかった。  
 
ゲストルームに駆け込み、扉を背にその場に座り込んでしまう。  
ひとまず服装を直そうと自分の躯に触れ、しかし、自分の指先にさえ震える躯に戸惑う。  
「やだっ……。なんで……?」  
躯の中に燻った熱が、冷めない。  
それどころか、どんどん渦巻いて竜巻のように大きく育つのを感じる。  
その熱に意識を向けないように、平静を取り戻そうと思うのに、自分の肌に服が触れる、  
そんな僅かな動きにさえ新たな熱が生まれる。  
「やっ……そんなっ……。」  
自分の蜜壺から新たな蜜が滲むのを感じてうろたえる。  
『本当のお仕置きはこれからだけどね?』  
不意に敦賀さんの声が聞こえた気がした。  
そうだ。さっき、敦賀さんは最後にそう言ったのではなかったか?  
なんてことだろう。  
ここまで計算されているのだと気付かされ、絶望が胸に湧き上がる。  
あの人は待ち構えているのだ。私が堪えきれずにその足元にひれ伏し、懇願するのを。  
私は、きゅっと下唇を噛み締めた。  
嫌だ。こんな罠に屈したくない。そう、思うのに。  
自分の呼吸で起こる衣擦れにさえ身悶えてしまうこの状況は。  
 
壁に掛けられている時計がカチコチと時を刻む音がいやに響いて聞こえる。  
私に残されている時間は、あまりにも少ない。  
真っ暗な迷路で闇雲に出口を探すような、絶望だけが広がって見えた───。  
 

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