──ふうん。これが、芸能界一イイオトコなんだ。
ナツの憑いたキョーコは、ナツの心で目の前に現れた蓮を素早く一瞥した。
──ちょっと遊んでみようかな。
小さくクスと笑うと、目の前の蓮の腰にするりと手を回した。
「ねえ、ツルガ、さん? あたしとイイコトして、遊びませんか?」
次の瞬間、蓮を取り囲む空気の色が変わったのをナツキョーコは敏感に感じ取り、
咄嗟に引こうとした手首は、しかし蓮によってしっかりと掴まれてしまった。
「……へえ。君の方から誘ってくれるなんて光栄だね」
しかしその言葉は、内容とは裏腹に鋭利な刃のように冷たかった。
ハッと蓮の顔を振り仰いだナツキョーコの視線は、冷たい光を放つ蓮の瞳とぶつかった。
──いやぁぁぁ、こわいぃぃぃ〜〜〜っっ! 怒ってるよぉぉ(涙)
蓮から発せられる怒りの波動とその冷たい瞳に、スコンとナツの抜けたキョーコは
一瞬にして素に戻り、自分のしでかした行為に青ざめた。
「あ、あの、敦賀さん。今のは、そのっ……!」
言い訳を始めようと口を開いたキョーコだったが、にーっこりと音がしそうな
極上紳士スマイルで微笑まれ、続きを口にすることができなくなった。
──目が、目が笑ってないよぉぉ(号泣)
「さて、最上さん? 何をして遊んでくれるのかな?」
「いえっ、あの、その……っ」
キョーコは必死で解放してもらうための言葉を考えようとするが、頭の中が真っ白になって
うまく考えがまとまらない。そうこうする内に手首を掴まれたまま連れられ、
地下駐車場にある蓮の車に乗せられた。
「今日は逃がすつもりはないから、そのつもりで」
その言葉の裏に隠された「本気」を察したキョーコは、もう逃げられないことを悟る。
──どうしよう……。
恐らく蓮の自宅マンションへ向かうのであろう車窓の景色を流し見ながら、
しかし心の奥底に僅かな期待を持っていることに気付かないキョーコなのであった。