玄関を開け、スーツケースと紙袋がドアに当たらないよう  
細心の注意を払い、身を滑り込ませる。  
日付が変わってしまったこの時刻だ、キョーコは寝ているだろう。  
物音を立てないように靴を脱ぎながら玄関の明かりをつけ、スーツケースを廊下に置いた。  
紙袋にはキョーコへのお土産がぎっしり入ってる。収まりきれない分は宅急便で送った。  
とりあえずこれだけでも枕元に並べて、明日の朝驚かせたい。  
ロケに行くとつい買いすぎてしまい、毎回キョーコに叱られた。  
けれど彼女は買ってきたお土産をうれしそうに使ってくれる。  
そんなキョーコが可愛くて、また買いすぎてしまった。  
彼女の怒る姿を想像し、思わず笑みをこぼしながら紙袋片手に寝室へ向かう。  
久しぶりにキョーコに会えるせいか浮かれていた。  
 
抱きたい……。  
 
起こしたいのはやまやまだが、眠ってるのを起こすのは可哀想だ。  
せめて抱きしめて眠りたい。  
気づいたら驚くだろうな。なんせ帰宅予定日より3日も早いのだから。  
寝室のドアをそっと開けると、廊下の明かりが真っ暗な部屋を刺すように忍び込んだ。  
ベッドに明かりの筋道が通る。  
俺はそこに不自然な光景を見つけた。  
シーツのふくらみが大きい。先程の浮かれた笑みが瞬く間に引いた。  
更にドアを開け明かりを部屋に取り込む。  
枕にはふたつの頭が乗っていた。手前に黒髪、向こうに茶髪の頭がわずかに見える。  
黒髪の方はこちらに背を向け、茶髪の頭を抱きしめるようにして眠っていた。  
背格好からして明らかに男の物だった。  
茶髪の方はわずかしか見えていないが、俺には誰だかすぐにわかった。  
 
―――キョー…コ……。  
 
キョーコが男と抱き合って眠っている。  
このシチュエーションは……キョーコが浮気をした…ということなのか?!  
 
愛することも愛されることもできなかったのに、やっと心を開いてくれたキョーコ。  
大切な人を作れないはずの俺に、大切な人を作る勇気をくれたキョーコ。  
俺達の間には強い絆があると信じていた。  
 
なのに……。  
まさかそんな、キョーコに限って…――――。  
 
手の力が抜け紙袋が重力に従う。  
床に落ちたであろう音が薄明かりの部屋に大きく響いた…―――。  
 
俺は何もできなかった。  
信じられない光景を受け入れることができなくて立ち竦んでいた。  
受け入れることができないのにベッドから目を離せずにいると、  
紙袋を落とした音で起きたようで、キョーコの頭が身じろぎ起き上がった。  
彼女を抱きしめていたであろう男の腕が、スローモーションのように滑り落ちた。  
キョーコはゆっくりと部屋を見回している。  
そして明かりの差すドアの方向を見、まぶしそうに目を細めた。  
明かりに慣れた目が俺を確認したのか一気に見開かれる。  
彼女が息を飲んだのが分かった。  
「つ…るが……さん?」  
信じられないといった表情。  
そして目の前にいる男に目を落とした彼女はみるみる青ざめていった。  
「見ないでください!」  
そういうなりキョーコは男をシーツで覆い隠した。  
咄嗟の行動が信じたくない事実を肯定されたようで、  
それがスイッチになったかのごとく俺の中で怒りが沸いた。  
 
そんなので…隠せると思っているのか―――?!  
 
深く愛しあっていると信じていた。  
こんなことは自分達には無縁の出来事だと考えもしなかった。  
怒りに身を任せ、俺は早足でベッドへ進んだ。  
 
相手は誰だ?!  
もしかして俺の知っているヤツなのか?  
 
キョーコはまだ必死にシーツを抑えている。  
俺はそれを鷲掴みにし、荒々しく剥ぎ取った。  
「きゃっ!」  
小さな悲鳴をあげ、キョーコは弾かれベッドでスプリングした。  
「敦賀さん、見ないでっ」  
そういわれて見ないわけにはいかない。  
 
もう戻れない。なにも隠せない…―――!!  
 
一瞬ためらったが、視線をキョーコから横たわる男の方へ向けた。  
そして俺は剥ぎ取ったシーツを床に放ろうとしたまま凍りついた。  
そこにあったのは、艶やかな黒髪が頬にかかっているやすらかな寝顔。  
俺のパジャマを身にまとってキョーコを抱きしめるような体勢で眠ってる男―――。  
 
なんということだ、信じられない……。  
いや、ありえないことはない。だが想像もしていなかった。  
知っているヤツかもしれないとは思ったが、まさか…そんな…―――。  
 
俺はこの男を知ってる。  
知りすぎるほど知っている。  
 
そこにいたのはまぎれもなく、”俺”だった――――。  
 
 
夜、眠りについてどのくらいたったのだろうか。  
そんな時刻に敦賀さんが帰ってきた。  
長期ロケに行っていて、帰宅予定は3日後と聞いていた。  
本来ならばうれしい出来事…のはずだった。  
けれど今の自分には非常にまずいタイミング。  
そのまずい原因は私の眠ってる隣にあった。  
 
コレを敦賀さんに見られてしまえば絶対に怒られる!  
 
無駄だとわかっていながら、私は隣で眠るソレにシーツをかぶせて  
彼の目に入らないように必死に隠した。  
彼の怒りが空気でわかる。もう嫌というほ知っているこのオーラ。  
 
ひえぇぇぇ! やっぱり敦賀さん怒ってるっ!!  
いつにもましてドス黒いのは気のせい?!  
 
「敦賀さん、見ないでっ」  
最後のささやかな抵抗も空しく、あっさりとシーツを取り剥がされてしまった。  
 
もうダメだ―――…!!  
 
こうなったら素直に謝るしかない。  
事が事だけに許してくれるかはわからないけれど……。  
 
「ごっごめんなさいぃー、寂しくてつい”敦賀さん等身大人形”を作ってしまいましたあぁぁ!」  
 
私は誠心誠意を込めてベッドの上で土下座をした。  
シーツと一体化するほど全身で這いつくばった。  
もう涙なしでは謝れなかった。  
「1ヶ月も敦賀さんに会えなくて我慢できなかったんですうぅぅっ」  
思わず普段ではなかなかいえないことまで言ってしまった。  
けれどそれは本当のこと。  
どんなに忙しくても、一緒に住んでいれば夜だけは互いの存在を確認できる。  
触れて温もりを感じることができる。  
同棲してからこんなに長期間離れるのは初めてで、1週間で根をあげてしまった。  
それからすぐ人形作りに取りかかり昨夜完成、今夜初めて一緒に眠ったのだった。  
 
……ん? あれ?  
 
いつの間にか怒りのオーラが消えている。  
恐る恐る見上げてみた。  
敦賀さんが動かない。シーツを握ったまま固まっている。  
「敦賀…さん……?」  
これは唖然? それとも呆然?  
どちらともいえる表情。どちらとしてもこっちからは迂闊に動けない。  
今は怒ってはいないようだけど、動きようによっては再び怒らせてしまう可能性もある。  
まばたきすらも怖くてできない、しばしの沈黙。  
その後、彼はシーツを持った手をゆっくりと下ろし掠れるような声でこういった。  
 
「これはまた…腕を上げたね……」  
 
 
「これはまた…腕を上げたね」  
呆れ尽くして、やっと出たセリフだった。  
いや、確かに腕を上げていたんだけれども……。  
 
―――等身大はないだろう、キョーコ……。  
 
「本当にごめんなさい……」  
キョーコは再び沸いてきた涙をこぼすまいと、目を潤ませ謝っている。  
等身大のリアルな人形は許しがたい。  
けれど、潤んだ上目遣いが反則的に可愛かった。  
今すぐかき抱きたいほどだった。  
 
負けそうだ……。  
 
もう一人の”俺”を見て、なんとか留まることができた。  
危うく流されるところだった。気を取り直して俺はキョーコに尋ねる。  
「他に作ってるものはないの?」  
少しためらった後、キョーコはベッド脇の袋を持ってきて中身を出した。  
「…おすまし仮面と微笑み仮面、これで全部です……」  
俺は思わず口元を手で覆った。  
 
―――…キョーコ、精巧過ぎだ!  
 
「ごめんなさいっ、もう寂しいからって勝手に作ったりしません――!」  
俺の反応に怪しい雲行きを感じたのだろう、キョーコがまたもや謝ってきた。  
「確かにこんなリアルな自分の等身大人形を作られると、いい気はしないね」  
「すっすすすすみません〜〜〜!!」  
「本当、以前にもまして腕をあげたね……」  
似ているのは当然のことながら、触れると体温まで感じそうなほどだった。  
正直、気色悪い。  
これはもう、嫌味のひとつでも言わないと収まらない。  
「これだけ精巧な俺の人形を作るってことは  
 俺はまた…知らないうちによほどキョーコに視姦されていたんだね……」  
リトマス試験紙が反応したかのようにキョーコの顔が赤くなった。  
「かっ観察って言ってください――!」  
俺はわざとらしくため息をついてみせる。  
「恥ずかしいな……」  
「でもマリアちゃんの時みたいに身売りはさせていません!  
 私用ですからどうかお許しください〜〜〜〜!!」  
 
キョーコ用の俺の人形?  
 
それは俺であるようで俺ではない。  
俺でない俺が少しでもキョーコに触れているのかと思うといい気はしない。  
 
さて、どうしたもんだか……。  
 
小さく芽生えた悪戯心は瞬く間に大きくなった。  
ふと思いついたことを実行に移すため、  
俺は部屋の中程にあった椅子を持ってきてベッドの脇に置いた。  
そして等身大の人形を座らせ、微笑み仮面を装着する。  
更に、足を組ませて膝の辺りで手を軽く重ねさせた。  
 
さぁ、準備はできた―――。  
 
俺はベッドの上のキョーコに、最高の微笑みを投げた。  
「今度は俺がキョーコを視姦する番だね」  
 
 
「今度は俺がキョーコを視姦する番だね」  
敦賀さんは極上の嘘毒吐き紳士スマイルでそう言った。  
全身の血が下がる。  
その言葉の意味を、脳が理解する前に本能が反応していた。  
敦賀さんの腕が広いベッドの端にかかり体重をのせた。ぎしりと音が鳴る。  
鋭い眼差しに嫌な予感がし、私は後ずさった。  
 
や、やだ……まさか―――…。  
 
距離を縮めるように彼はベッドに身体を乗せた。  
私は更に後ずさる。それに合わせて彼が近づいてくる。  
よつん這いになって歩み寄ってくるその姿は、  
まるで獲物を物色する肉食動物のようにしなやかだった。  
「ひゃっ!」  
ついに捕まってしまい、左足首を掴まれた。  
そして、あっという間に敦賀さんが私の目の前に来た。  
私は両手を後ろにつき、必死に押し倒されまいとこらえる。  
腕が震えるのは苦しい体制だから……のはずだ。  
「なにを怯えているんだい、キョーコ」  
敦賀さんの顔が近づき、避けるために後ろに体重をかけてしまい肘ががくんと折れた。  
後ろ肘で支える格好になってしまい、更に苦しい体制になる。  
そんな私を見て彼は唇の端をわずかに上げた。  
 
ひえぇぇっ、夜の帝王だ……!!  
 
「ほら、”彼”が見ているよ」  
敦賀さんの向こうに見える”彼”は、微笑みをたたえこちらを見ていた。  
「こ…こんなの嫌ですっ……」  
「どうして? 君は俺を視姦していたのに俺はだめなの?」  
「しっ……じゃなくて観察です!」  
「では君が作った”俺”に、君を観察してもらおう」  
「そうじゃなくて…っ、嫌なのはこん―――んっ…んんっ……」  
全てをいい終わる前に唇を唇でふさがれた。  
 
それは約一ヶ月ぶりの柔らくて温かい感触だった――――。  
 
触れてるだけなのにそこから全身に温もりが伝わった。  
ずっと寂しくて、欲しくてたまらまかった温もりはとても甘かった。  
あまりの甘さにかろうじて支えていた肘の力が抜け、頭と背中がベッドに落ちる。  
離れてしまった唇を彼は追ってきた。  
今度は深い口づけだった。  
「…ん…んっ……ふ…ぁ、んんっ……」  
角度を変え、温かい舌が潜り込んでくる。  
口内で味わうように蠢き、戸惑う私を翻弄してゆく。  
舌を尖らせ、私の舌の輪郭をなぞった。身体の中心にいいようのない感覚が走る。  
「――…んふっ……」  
名残惜しそうに口内から出た彼のそれは、次に私の唇を辿りはじめた。  
彼が通った後は唾液で濡れ、まるで紅を引かれたようだった。  
下唇が終わるとそのまま上唇へ移動する。  
口角から上へなぞられたその時だった。  
「んあぁっ……」  
背筋がぞくりとした。予想もしていなかった…快感―――。  
「キョーコはこんな風にするのも感じるんだね」  
 
やだ、恥ずかしい―――…!  
 
羞恥に目をつぶる。  
「もっと見せて。”彼”にも見てもらわないと……」  
 
冷や水を浴びせられた気がした。  
すっかり忘れていたのだ、人形の存在を。  
「やっやめましょう、敦賀さんっ」  
下から敦賀さんの胸を押し上げ止めようとしたが、びくともしない。  
焦る私に、敦賀さんはキュラキュラスマイルで覗き込んできた。  
「ん? なにかいった?」  
わずかに傾けた顔の角度が、美しさが、神々しさが、絶妙に私の恐怖を煽っていた。  
涙が滝のごとく流れ、震えた。  
「敦賀さあぁぁんっ、やめてくださいぃー!!」  
 
 
俺の笑顔に涙するキョーコを見て笑いそうになった。  
 
相変わらず、こういうところ可愛いな。  
 
可愛いと思う反面、反応がおもしろくてつい苛めたくなってしまう。  
本当はすぐにやめてあげるつもりだった。  
だけど……。  
 
もう少しだけ、君の可愛い涙が見たい―――…。  
 
俺はキョーコを抱きしめ、耳元に顔をうずめた。  
「まだ言ってなかったよね。……ただいま、キョーコ」  
吐息が耳にかかったせいか、キョーコの身体がわずかに揺れた。  
 
ああ…、久しぶりのキョーコの匂いだ……。  
 
「ひゃんっ…」  
耳たぶを舌ですくい軽く食むと、キョーコは甘味を帯びた声を漏らした。  
そのままうなじに唇を這わせつつパジャマのボタンを外す。  
パジャマを開き、あらわになった肩口へ向かいキスをした。  
「ん……、んんっ…」  
吐息と呼ぶには音のある、そんな甘い声。  
キョーコのそれだけで俺は高ぶる。  
走り出しそうな欲を抑え、小ぶりな膨らみに手のひらを乗せた。  
「ここ、キョーコはすごく感じるよね。感じるところ、ちゃんと”彼”にも見せてあげて」  
「そん…ああぁ! あっ…あぁんっ!」  
抗議の言葉を遮るように右側の膨らみをもみ、もう片方の頂を口に含んだ。  
やがてそこは俺の手のひらと舌を愛撫するかのように硬く尖った。  
摘んだりこねたり、舌と指で左右同時に愛撫する。  
「いやぁっ、あん…ひゃぅっ…、んっんんっ…あぁんっ!」  
同じことをされているというのに指と舌のため左右の感覚が違い、  
キョーコが我を忘れ声を上げた。  
唇の愛撫は止めずに、人差し指で脇腹を上から下にゆっくりと撫でる。  
「ふあぁ…あっ…」  
今度は人差し指と中指2本で下から上へ、次は中指を加え3本にして上から下へ……。  
そのまま3本の指をパジャマのズボンにかけて下へと下ろし、足で完全抜き取った。  
パジャマのズボンをわざと人形の足元に投げる。  
「きれいな足だね。”彼”もうっとりしてるんじゃないかな」  
「やっ、見ないで……!」  
キョーコは膝をきつく閉じ、”彼”の視線から何かを隠そうと必死に身をよじった。  
 
―――…俺に抱かれる姿を、俺に見られていると思っているのか?  
 
高ぶりのせいなのだろうか。  
それとも想像力豊かな彼女の感性を引き出してしまったのだろうか。  
キョーコは見られているという錯覚を起こしてるように見えた。  
それほどまでに人形はリアルだった。  
キョーコはその人形から何かを隠そうとし、膝をすり合わせ腰をひねる。  
何を隠そうとしているのか、俺には明白だった。  
「どうしたの?」  
「……っく…ぅ」  
何かに耐えている。  
それを煽るため、俺はキョーコの膝に手をかけた―――。  
 
 
久しぶりの温もりに我を忘れそうになる。  
その度に敦賀さんは人形を楯に私を引き戻す。  
見られて感じてるはずじゃない。  
だけど……。  
敦賀さんの姿をした”彼”が優雅に座ってこちらを見ている。  
それを意識するとどうしようもなく恥ずかしさが増す。  
 
……ただの人形、なの…に―――!  
 
―――今のこんな状態を見られたくない……!  
 
人形に?  
それとも敦賀さんに?  
誰に見られたくないのか、もうわからない。  
 
敦賀さんの手が膝にかかった。  
開かれたくなくて力が入る。  
けれどその手は膝を開くことなく、太腿へ移動しやさしく撫でるだけだった。  
敦賀さんの指が通ったところに、はっきりとした熱が灯る。  
幾度も熱を灯され次第に力が抜けていった。  
そして油断したその時……敦賀さんの手は私の膝を割り、閉じないように押さえ込まれた。  
 
―――…く…来る……っ!  
 
「ああぁっ……!」  
指でショーツの上を確かめるようになぞられた。  
「すごいね、こんなに濡れてるよ」  
濡れてるであろうそこに触れられ、羞恥心が増す。  
上下に行き来する指が突起に引っかかり、身体の中心に痺れが走った。  
「ひゃぁっ、ん、あっ…ああっ……あっ…ああっ!」  
「もったいぶらずに”彼”にも見せてあげよう」  
そういうなり敦賀さんは私のショーツを引き抜き、  
事もあろうにそれを人形の膝上に投げた。  
 
やだ、そんな…あんなに濡れてるものを――!  
 
「やだ…――きゃっ!」  
思わず身を起こしかけたのだけど、足を大きく開かれてしまい阻止される。  
「キョーコがどれだけ濡れてるか…きっと伝わってるはずだね」  
「も…やだ……」  
人形から顔を背けシーツを握る私を見て、敦賀さんがクスリと笑う。  
そして一番見られたくないそこに顔を落とした。  
「こんなになってるのに?」  
「んっ…」  
そこは息がかかるだけで敏感に反応してしまうまでになっていた。  
 
――…触って…欲しい……。  
 
淫らなことを思ってしまい、恥ずかしさに唇を噛む。  
私の心を読んだのだろうか、敦賀さんの指が  
ゆっくりとまるで形を確かめるかのように秘所に侵入してきた。  
「ふぁ…あっ」  
時折止まり、内壁をこする。抜き差しする。  
「あっ、…あんっ……あっ、ああっ」  
待ちわびていたものを離すまいと、私の中がうごめくのがわかる。  
指が増やされ、闇にぐちゅぐちゅと音が響いた。  
「あ、あっ…、ふぁ……ひゃぁっ…んぁ…ああっ……」  
「恥ずかしい音だね。”彼”にも聞こえてるかな」  
 
―――やだ、聞かれたくない…!  
 
敦賀さんに存在を思い出させられ、思わず人形の方を見た。  
人形はこちらを見てやさしく微笑んでいる。  
その表情を見て、私は敦賀さんがいつも言ってくれる言葉を思い出した。  
 
『もっと感じて、キョーコ』  
 
それは私の快楽を解放する言葉。  
やさしい笑みを浮かべ、抱く度に彼は私を解き放つ…―――。  
 
「やっ…はぁっ……ああん!」  
ぐちゅぐちゅと音を立て責めながら、敦賀さんは微笑んだ。  
「こんなに感じてるのに嫌じゃないだろう?」  
「ちが……んっ、あああっ!」  
秘所のすぐ上にある芽を口に含まれ、否定の言葉は遮られた。  
生暖かい感触が苦痛と紙一重の快楽を招く。  
「ふあぁっ、あ…あっ…、んっ……!」  
指は中に入れたまま止まっていた。  
これでは感じる度に締めつけてしまい、敦賀さんに伝わってしまう。  
必死で快楽を押しとどめる私に、敦賀さんが顔をあげ微笑んだ。  
「もっと感じて、キョーコ……」  
 
『 もっと感じて、キョーコ』  
 
敦賀さんの言葉、敦賀さんの笑顔、人形の笑顔が頭の中でぐるぐる回る。  
まるで敦賀さんと人形、同時に言われたような気がした。  
 
―――…私、2人の敦賀さんに抱かれてるの……?  
 
敦賀さんは再び顔を落とすと、愛撫を再開した。  
秘芽を軽く吸い、食むようにやさしく唇で刺激される。  
 
ベッドの横で見てるはずなのに…私に触れている…――――!  
 
すぐ横で敦賀さんに見られながら、敦賀さんの愛撫を受けている自分。  
それを意識するといつも以上に感じてしまっていた。  
「んああぁっ! ああ…あ……ああああんっ!!」  
さらに舌で円を描くようにこねられた。  
彼のそれは甘い武器にしか思えなかった。  
その甘い武器を左右に震わせる。  
同時に、私の中に埋めたまま止まっていた指が出入りを再開した。  
「やぁ…――! それ、やっ…ああああぁ!」  
 
や……だ、これ以上…動かさ…ないで……!  
 
2点を同時に攻められ、捕らわれようとする波から必死に逃げた。  
 
――…人形に見られて……感じてイッてしまうなんて、やだ……!!  
 
けれど身体は心と正反対で、波に捕らわれ高みを目指そうとする。  
イきたくないと思う心が、イきたいという身体に支配されようとする。  
 
自然と腰が動きかけた…その時、突然敦賀さんが愛撫を止めた。  
 
…そ、そ…んな…っ……!  
もっと感じて――そう言ってくれたのに…なぜ……?!  
 
仰ぎ見ると、敦賀さんが私を見下ろしていた。  
無表情だった。  
 
なぜだろうか、身体が更に熱くなった―――。  
 
 
俺が辱めると、キョーコの蜜はいつも以上に溢れた。  
キョーコの中に埋めた指は、うごめく内部を感じる。  
 
―――…入れたい……。  
 
そんな衝動を抑え、彼女の中心に顔を埋める。  
 
もっと見せて、キョーコの乱れる姿……。  
 
甘い蜜は貪ると更にあふれた。一際高くなった声が腰にくる。  
「やぁ…――! それ、や…ああああぁ!」  
彼女は小さな芽と中を同時に責められ、限界が来るのを必死に拒んでいる。  
それをするとキョーコがイッてしまうのを俺は知っていた。  
 
だけど、まだイかしてあげない…―――。  
 
限界直前で愛撫の手を離し、俺はキョーコを上から見下ろした。  
息を弾ませ涙を溜めて、すがるような瞳で俺を見つめている。  
人形に見られながら抱かれるのが嫌なのか、  
絶頂が欲しいせいなのか、はたまた両方か……。  
俺は枕元にあるゴムを取出し、口で端を噛みながら封を開けた。  
俺が何をしようとしているのかを察し、キョーコの顔色が変わる。  
「敦賀さん…こんなの嫌です……」  
 
そんな誘うような潤んだ目で言われても…説得力ないよ、キョーコ―――…。  
 
ゴムをつけながらキョーコを覗き込む。  
「見られながら…こんなに感じてるのにダメなの?」  
「かっ…感じてなんかないです!」  
「これでも感じてないっていえるの?」  
先程まで触れていた秘所に軽くふれると、愛液がねっとりと絡みつく。  
彼女の身体がぴくりと跳ねた。  
「違…、これは久しぶりに敦賀さんに会えたからで……!」  
「そう……」  
彼女の稚拙な言い訳が可愛らしくて、  
でもきっとそれも本当の理由だろうからうれしくて……。  
 
俺はあまりの愛おしさに微笑んだ。  
それを許しと勘違いしたのか、キョーコはホッとし全身の強張りを解いた。  
 
―――…ごめんね。  
 
そう心でつぶやき、俺は彼女を貫いた――――。  
 
 
人形に見られて感じたなんて恥ずかしすきる。  
ばれたくないのもあったけれど、そんなんじゃなくて  
ただ敦賀さんを感じたくて、こんなのは嫌だと伝えた。  
わかってくれたようで、敦賀さんがやさしく笑ってくれた。  
 
――…よ…かったぁ……。  
 
ホッとした。  
全身の力が抜け、息をひとつ吐いた時だった。  
「――――ッ!!」  
身体の中心に熱いものが潜り込んできた。  
 
そん…なっ……!  
 
あんなにやさしく笑ってくれてたから……許してくれたと思っていた。  
 
なのに、どうして――――?!  
 
そんな思いとは裏腹に、身体は喜び彼を受け入れていた。  
絶頂直前までの愛撫を受けていた身体には、簡単に快楽が灯る。  
「んあぁっ! あんっ…ああっ…あっ」  
 
つる…が…さん…が……私の中に…いる――――!  
 
自分の中が彼自身を締めつけているのがわかる。  
彼の打ちつけるリズムに合わせ腰がうねる。  
意思とは関係ない、止められない……!  
 
「あっ、ああん、つ…るが……さっ、あっ、ああっ!」  
人形のこととか恥ずかしかったこととか、そんなのどうでもよかった。  
あまりに気持ちよさに我を忘れた。  
ただ敦賀さんの熱を、感触を、感覚を…全身で感じたかった。  
「あっ……あああっ、あん…んっ!」  
敦賀さんの動きが早くなる。  
「ひゃっ、ん…あっ…あ、あ…あ……あぁっ!」  
はぐらかされた波が再び見えてしまった。  
 
高い高い波は、次こそ後戻りできそうにない。  
 
いや……だ、もっと…もっと敦賀さんを感じていたい―――!  
 
「だ…め、あっ…つ…るがさ…それっ…ダメ……ッ…あああん…」  
この時をもっと感じていたくて、必死に限界を伝え敦賀さんを見上げた。  
敦賀さんは眉根をよせ汗ばみ、歯を食いしばっている。  
「…く…はっ…―――…」  
荒い息から漏れる声が、男性なのに艶やかだった。  
汗を吸い取った髪が頬に貼りつき、切なそうに見つめてくる瞳は潤んでいた。  
全身の血が逆流するかと思った。  
 
私を感じてくれてる…の……?  
 
敦賀さんが感じてる姿を見ると、うれしくて…なんだか気持ちいい……。  
肌を重ねるようになってどれくらいたっただろうか。  
いつもただ恥ずかしくて、気がつくと彼に翻弄されて無我夢中だった。  
私を抱く敦賀さんを、初めて意識した気がする。  
そして、彼がいつも私に言ってくれる言葉の意味がわかった気がした。  
 
もっと、もっと感じて…欲しい――――…。  
 
彼の快楽を帯びた姿は夜の帝王よりも色香を放っていた。  
それは私をよりいっそう高い快楽の波へと突き落とす。  
「あぁんっ、んあっ…ああっ……ああ…あ…あっ…あ、――…んぁっ!」  
 
ああ、もう…終わりが……く…る…――――!!  
 
自分の限界を感じたと同時に、敦賀さんが覆いかぶさり私を抱きしめた。  
下からまわすように掴まれた左肩に力がこもった。  
彼の限界も近いのだと感じた。  
私は両腕を敦賀さんの背に回し、すがるようにしがみついた。  
「あっ…ああ……あっ…ああっ、あん…」  
律動が早くなる。  
「ああっ、あっ…あ…んんっ――――!」  
 
身体の中心に全神経が集中する。  
息が止まり血液が沸騰するような感覚。  
全身が強張って反り返る――――。  
 
「あ…あっ…つるが…さ……、ああああぁっ――――!!!」  
 
私の中が、しばらく締めつけた後に大きく脈打った。  
その瞬間、中にいる彼自身がドクンと跳ねたのがわかった。  
まるで溶けあえたと錯覚しそうなほど、互いの脈動が混ざり合う。  
 
引き寄せ合い口づけを交わす。  
溶け合いたいのに溶け合えないもどかしさを埋めてるかのようだった―――。  
 
 
久々のキョーコの感覚に我を忘れた。  
それはお互い様だったようで、人形のことなど忘れて互いを貪った。  
口づけの後、ゆっくりとキョーコの中から俺自身を抜いた。  
「んっ…はぁ……」  
キョーコが少し寂しそうな表情をする。  
俺は手早く後始末をして、上気しているキョーコの頬にキスをした。  
「そんな顔しなくても大丈夫」  
「へ?」  
枕元に手を伸ばす俺を見て、キョーコが素っ頓狂な声を上げた。  
「俺が見てる以上、俺は俺を超えないとね」  
キョーコは新しいゴムを手にした俺を見て、意図を察したようだ。  
俺とゴムを交互に見ながら、ささやかな抵抗をする。  
「……嘘! その顔は絶対に嘘です!!」  
「まさか自分に嫉妬する日が来ようとはね」  
「そんなこと、思ってもない癖に―――んあっ……!」  
問答無用、俺は再びキョーコの中に潜り込んだ。  
絡みつくしとやかな蕾を、今度はじっくりと味わった。  
「も…勝手に人形…作ったりしま…せんから…だからっ……」  
ゆるやかな律動に耐えつつ懇願する姿は、  
もっと鳴かせてみたいという衝動をかき立てるだけだった。  
 
けれど、これだけは押さえておかないと……。  
 
「本当に? もう俺の人形は勝手に作らないって約束する?」  
キョーコは潤んだ瞳で何度も首を縦にふった。  
「了解…許してあげる……」  
俺は繋がったまま身を起こした。  
「やぁあ…んっ……」  
挿入の角度が変わりキョーコの甘い声がこぼれた。  
そんな彼女を見下ろし、わざとゆっくり手を伸ばしシーツを掴んだ。  
それを思いっきり横に投げる。  
「ふぁ……ひゃんっ…」  
俺が動く度にキョーコの声が漏れた。  
シーツはばさりと音を立て宙を舞い、ふわりと人形を覆った。  
「ほら…これで誰も見てない」  
俺は再び律動を開始した。  
「え…違っ……ああっ!」  
「見られないから大丈夫だよ」  
「やっ、そうじゃ…なく…て、ああっ……!」  
大きく腰を突き上げるとキョーコの声はひとつ高くなった。  
その反応に心の底から嫌がってないことを確信する。  
 
俺は離れていた一ヶ月分を埋めるかのごとく  
長い時間彼女を愛し続けた―――。  
 
「敦賀さん、おはようございます。そろそろ私仕事に行きますね」  
遠慮がちなキョーコの声で目が覚めた。  
どのくらい愛し合ったのだろうか。  
途中からは一方的に愛したといった方がいいかもしれない。  
予定より早くロケが終わったため、今日一日はオフがもらえた。  
だが、キョーコは仕事なはずだった。  
 
――…悪いことをしたな……。  
 
久しぶりだったのと、彼女が浮気したかもしれないと勘違いしたせいで、  
いつも以上に高ぶり抱いてしまった。  
 
彼女に疑ったことを知られなくてよかった……。  
 
一瞬でもキョーコを疑った。  
安堵と共に罪悪感が押し寄せてくる。  
そんな俺にキョーコはいつも通り微笑んでくれる。  
愛おしさに、俺を覗き込んでる頭を引き寄せた。  
「おはよう、キョーコ」  
唇が触れようとしたその時、何かが胸の辺りに落ちてくる感触がした。  
キョーコが一瞬反応し、わずかに唇が触れる。  
 
―――…何だ?  
 
なんとなく嫌な感じがした。  
俺が勢いよく起き上がると、それは掛けてあったシーツに巻き込まれていく。  
キョーコが落としたものを拾おうと手を伸ばした。が、それより先に俺が拾い上げた。  
 
これは…ボールペン……?  
 
それは黒のシンプルなボールペンだった。  
「すみません、落としてしまいました。私のです…返してもらえますか……?」  
キョーコの表情とボールペンに違和感があった。  
まじまじとボールペンを見る。先端近くに小さなボタンがついていた。  
確か、どこかで見たことがある……。  
 
これは…ボイスレコーダーじゃないか…―――?!。  
 
キョーコを見ると顔が引きつっていた。  
ただ持っていただけにしては大げさな反応。俺は確信した。  
「これ…ボイスレコーダーだよね。もしかして今……」  
少しだけ脅しを含んだ視線を投げ、絶妙な間を作る。  
「録音中…―――とか?」  
みるみる青ざめ、キョーコは胸元で手を握った。  
「ボ…ボイス機能の声が欲しくて…決してだまそうとしたわけじゃ……」  
「十分だましてると思うんだけ……ど―――」  
キョーコの言葉に引っかかった。  
 
―――…ボイス…機能……?!  
 
なんのことだか、さっぱりわからない。  
「説明……してくれないかな?」  
「――すみません、忘れてくださいっ……」  
逃げようとする彼女をベッドに引きずり込み、強めに組み敷く。  
「俺から逃げられるとでも……?」  
にっこりと笑顔を向けると、キョーコは真っ青になった。  
「すすすっすみません――! 人形に搭載したボイス機能に  
 どうしても敦賀さんの生声が欲しかったんですっ!!」  
 
人形にボイス機能だと―――?!  
 
予想外の進化に愕然とした。  
「ドラマや映画だと名前まで呼んでくれてるのはないから…だから……」  
もはや彼女の言い訳が頭に届かない。  
「声を盗むような真似をしてしまい、本当にすみませんでした……敦賀さん?」  
彼女に呼ばれ、なんとか気を取り直す。  
「……あっ、ああ。その…ボイス機能というのは?」  
「右耳の後ろ辺りにボタンがありまして、  
 そこを押すとあらかじめ登録していたものが再生されるんです。  
 2つまで可能で、今は"おはよう"と"おやすみ"を入れてます」  
 
話すうちにうれしそうな愛らしい表情になっていき、  
さっき感じた罪悪感はみごと吹き飛んだ……。  
 
「キョーコ……人形は没収」  
キョーコがなにやら訴えかけてるが一切無視した。  
このままだと人形はどこまでも進化を遂げそうだ。  
寂しいからとダッチワイフならぬダッチハズバンドなんて作られた日には……。  
 
本当に、人形に嫉妬する羽目になるとは…ね……。  
 
 
かくして、俺は人形の保管場所に頭を痛めることとなったのだった――――。  
 
 
 

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