今日は、いつもと違うこと、してみようか。
いつものように、規格外なこの大きすぎるベッドのうえで
ひとしきり口付けを交わした後。
少し身体を離すと、僅かな灯りに照らされて、
見慣れたはずの上半身裸の敦賀さんがぼんやり浮かび上がる。
これから起こる「いつものこと」が頭をよぎり、
つい目をそらせて、ドギマギしていると、
敦賀さんがいつもの3倍くらい甘い声でそう言った。
「目、閉じてみて。いいって言うまで開けちゃダメだよ」
言われるままに目を閉じていると、身体の向きを180度回転させられた。
上から何かがふわっと降りてきて
私の目の部分をさらに物理的に塞ぐ。それが、頭の後ろでぎゅっと結ばれる。
え…これって、目隠し…よね?
もしかして…今日はこのままで、って…ことなのかな
もう…、開けてもいい、って言われたってこれじゃあ開けられない…
不意に耳の後ろを何か湿ったものでなぞられて、思わず声を荒げてしまった。
「ひゃあっ…あ…つ、敦賀さん…今の…」
「耳、舐めたの…どう?」
目が見えなくて、次に何をされるのかまったくわからない。
かろうじて、耳元で敦賀さんの声がするということだけしか。
「多分、いつもよりずっと、気持ちいいと思うよ…」
耳元でそう囁かれて、思わず息を飲んでしまった。いつも以上って…!
そう悪態をつく間もなく、腕と身体の間から何かがするっと滑り込む。
滑り込んだそれが敦賀さんの両腕だとわかった瞬間、
器用にブラをたくし上げられ、先端をきゅっと摘まれた。
「っ…あ…んっ」
ふくらみと、感じてしまう尖りを左右同時に指で転がされて、
手のひらでやわやわと揉まれて、
全身が鳥肌を立てるのを感じた。
直接身体で感じるしかない愛撫に、中心が急速に熱を帯びていく。
どうしようもなく身体に響くその感触に声をあげるのを止められず、
快楽に支配されてしまいそうな意識を押しとどめたくて唇を噛んだ。
その瞬間。
「声出して」
耳たぶを甘噛みされながら吐息と共に零れ落ちた言葉に、
ひゅう、と空気を吸い込んで。
「っはあっ…あっん…ん…敦賀さ…んっ…あ、や…っ」
背中のホックをはずされ、「する」のには邪魔なブラジャーを
腕から取り去られると、障害物がなくなったせいか
敦賀さんの手がさらに自在に動き回る。
緩急をつけて続けられる胸への愛撫に合わせて、
ただもうとめどもなく喘ぎ、呼吸は浅く往復する。
同時に敦賀さんの唇が耳元から首筋へと滑り落ち、そして肩口のあたりを
きつく吸い上げる。
…敦賀さんは…今後ろにいて。
「じゃあ…こっち向いて…って言っても見えないか…」
唇を離すと、敦賀さんはそう言って私の身体をぐるっと方向転換させた。
「わかる…?今向き合ってるよ…」
何も見えない私の両手を取ると、敦賀さんの顔…らしきものに沿わせる。
「ん…」
敦賀さんの手も私の顔を包み込むと、唇が塞がれ今日何度目かのキス。
少し開いた唇の隙間から舌が滑り込み、お互いを絡め取るように
口腔内を行きかう。
その感触にうっとりしながら応えていると、ふっと唇の離れる感触。
「ちょっと待って…」
そう言われて少しすると、さっきまで散々愛撫された感触の残る
突起に再び触れられた。…多分唇で。
「あっ…んあ…は…んっ」
ざらざらした舌で右側のそれを上下に転がされたり、唇でゆるく噛まれたり。
反対側はさっきと同じように手を使われて。
「ああっ…ん…ぅ…っんあ…はっ…あんっ」
されるがままに声を上げて、じわじわと寄せてくる波が
ほんの少し残った理性をさらっていく。
敦賀さんの肩のあたりに置いていた手に力が入ってしまう。
「まだまだ…これからだから」
そう告げられると、今まで向き合っていただろう身体が、
ベッドに横たえられるのを感じた。
最後に残っていた下着に手をかけられるのがわかったので
スムーズに脱げるように腰を少し持ち上げる。
喘ぎ、ぼんやりと意識の中で、自分のそこが
もう何の準備をしなくても十分に潤っているだろうことがわかった。
あぁ…もう…早くきて欲しい…。敦賀さん…。
「すごい…気持ちいいんだ?…もうこんなに」
下のほうでそうつぶやくのを遠くに聞いていると、
膝のあたりに何かが割り入ってきた。
それまで閉じていた両膝がゆっくりと開かれる。
「や…あ…っ」
「イヤじゃないよね?」
早く欲しいと思っていたところに、生暖かいものが触れた。
ずいぶん前からあふれていたそこが、ちゅぷ…と音を立てて応える。
「今、ここにキスしてる、わかる…?」
くちゅ。
「あ…は…っん…ああんっ…」
奥から滲み出す蜜を丁寧に唇で舐め取られ、
表面をなぞるように上下に動く舌が奥へと差し込まれる。
敦賀さんの唾液と、私の身体からあふれでる液が奏でる水音が
音のない部屋にぴちゃぴちゃと響き、聴覚と触覚しか持たない
私の耳にもいつもより淫らに届いて、
それが身体の熱を格段に増幅させる。
全身の感覚が耳とそこに集中して、もう…我慢できない。
「っ…敦賀さんっ…も、は…あっ…はやく…あぁんっ…」
「入れて欲しい…?」
敦賀さんの言葉に、もうろうとした意識下で何度もうなずく。
すぐに何かが入ってくるのを感じた。
あ…これ…敦賀さんの指だ…。
やだっ…欲しいのは、指じゃない…のに。
「あ…っ…なんっ…で…敦賀さっ…ん…や…あっ…も…お願いぃっ…」
欲しくてたまらない…それでも…もうイっちゃう…。
始めはゆっくりと、なぞり、だんだん深く埋められ、抜き差しを繰り返され、
1本だった指が少しずつ増えていって、内側を深く抉りながら速度を増していく。
とめどもなく与えられる快楽を吸い取って少しふくらんだ紅い芯を
上下に激しくこすられて。
器用に動く指や手のひらに合わせるかのように、すぐそこにある快楽を求めて、
思わず身体をくねらせてしまう。指だけで…されてるのに…こんなに。
「ああっ、やっ、ああんっ、あ、あ、んぅ…や、ダメ…あ、ああっ、ああああぁっ…やあっ」
声よりも速く背中を駆け抜ける感覚に…頭の奥から思考が遠ざかり、
最後に自分が放った声もどこか遠くに聞こえた。
浅く呼吸しながら、自分の身体を撫で去った深い感覚の余韻に襲われる。
目隠しをされてから、どこを触れられても…
そこからダイレクトに身体へ伝えられて、触れられてから…あんなに短い時間で。
達してしまった。
「…イっちゃったね?」
まだ…終わらせないよ。
また耳元で囁かれて、さっき解放されたはずの熱が少しだけ戻ってきたような気がした。
イったばかりなのに…敦賀さんの甘い声ひとつで疼いてしまう自分の身体が…。
「…敦賀さん…これ外して…ください」
「まだダメ」
ひとりで乱れているのもひどく恥ずかしくて、お願いしてみたけど、にべもなく却下された。
…敦賀さん…見たい…のに。
「じゃあ…また最初から」
「ん…んぅ…」
おおきな手に手のひらから指までを絡められ、動きを制止されながら深いキス。
口の中を攫うように舌が動き回る。
息苦しくなって口を離すと、頬をすっとなでられて、こう告げられた。
「いつも、俺にされてるみたいに…頭の中でイメージしてみて」
「それから…ここは、俺の部屋じゃなくて、…楽屋、だと思って」
「え…あ、あのでも」
「いいから」
早くしないと、誰か来ちゃうかもしれないよ?
例えば…社さんとか。
「っ…楽屋ってっ…楽屋でそんなことっ」
「…あるよ?忘れた?…最後までは、いかなかったけど」
…そうだった…。
あの時は確か…テレビ局でショータローと偶然出くわして、
憎まれ口を叩きあっていたところを…敦賀さんに運悪く見られてて。
ヤツをさっさと追い払ったあと、敦賀さんの傍に寄っていったら
明らかに…気温が下がってた。
私はもうアイツのことなんてなんとも思ってないのにな…。
敦賀さんの相手で精一杯なのに…何が気に入らないんだろう。
その後敦賀さんの楽屋でこうやってイジメられながら…してた…かな。
さ、最後まではいかなかった…ケド。
その時のことを思い出そうとして、考えていたら。
「思い出した…?」
そう言いながら、敦賀さんは私の身体を抱き起こし、
まるでその時の順序をたどるように、ゆっくりと行為を再開した。
あの時は…服を着たままで、今とは違うけど、でも頭の中にあるイメージと同じように。
後ろ手にされて押さえつけられたまま、着ていたブラウスのボタンをみっつだけ外されて、
隙間から手が入り込んできて、やっぱり先端を転がされて…。
「あ…や、敦賀さんっ…こんなところで…
誰か来ちゃったらどうするんですかっ…やっ…社さんとかっ」
楽屋は、いつものベッドルームなんかとは比べ物にならないくらい明るくて
左側には鏡がいくつもあって、そこに映し出されているであろう自分の姿を
想像しただけでもう身体が沸騰しそうに、なった。
「鍵かけてるから大丈夫…それより、少しだけ、声抑えて」
外に聞こえるから。
「ふっ…んん…」
忍び寄る快楽に、唇を噛んでなんとか耐えていると、敦賀さんは、
今まで向かいに座らせていた私をくるりと回転させて、背後から抱きすくめた。
下腹部に手が伸びてきて、下着の上からそっと触れられた瞬間。
「っああ…あ、もう、やめ…」
耐え切れず声を上げてしまった私の口に、敦賀さんの指が差し込まれた。
「声が大きいよ…」
息を浅く吐きながら、口の中でゆっくり動くその指をキスのかわりに貪るように舐め、
なんとか自分を保とうとしたけど。
敦賀さんの指が隙間から私の中へ入ってきて、捻るように出し入れされた途端に
身体が意識よりも先に駆け出してしまって、もう何がなんだかわからなくなってしまった。
「このままイかせてあげる」
鍵をかけてあると言ったけど、ノックをされたら…?スタッフの人が敦賀さんを呼びにくるかも。
いつ誰が来てもおかしくない、こんな明るい楽屋で、外では慌しく人の行きかう音がしている。
ドアひとつ隔てて、自分たちが耽っている行為を、誰かに見られたりでもしたら。
…でも、もうダメ。お願い早く…っ。
早く解放されたくて、なるべく大きい声を出さないように、けれど懸命にそれをねだる。
「あ…っ…あ、もぅ…ダメ、敦賀さんっ…お願い…いれ…っ」
あの時の私の声が重なってオーバーラップした。
「…よくできました」
早く欲しくて呼吸も上がっている私に、敦賀さんはそう言うと、
目隠しを解いて私の身体をベッドに横たえた。
そしてゆっくりと私の中に入ってきた。
「あぁん…っ…ん…っふ…」
入ってくるのに合わせて息を深く吐きだし力を抜く。
「動くよ…今度は、ちゃんと見てて」
言い終わらないうちに、私の中を満たしていた敦賀さんが動き出す。
「っ…あ…ああ、っは…あ、あんっ、ああっ」
動き始めはゆっくりと、次第に激しくなるその速度に、
思わず唇を求めて手が空を切る。
掴まえた敦賀さんの頭を引き寄せて、自分から口付ける。
「んん…」
キスを交わしながら、寸前まで引き抜かれ、また深く。
お互いがこすれあうその感覚に、さっきよりも遥かに息が上がってしまう。
その繰り返しが何度目かの大きな波を誘い出して、すぐそこまで来ているのがわかる。
「あ、ああっ、つ、敦賀さんっ…あ、もう、あぁんっ、はっ、ああぁっ」
「爪立てていいから…目を開けてこっち見て」
首に回した私の腕に力が入ってしまったのを感じて、敦賀さんがそう告げる。
押し寄せる波を待って、目をぎゅっとつぶっていたのを、促されて目を開けた。
「気持ちいい?」
視線が絡み合うと、自分の表情を見られているという感覚。
身体で受けきれない快楽が内側から涙を押し流し、瞳をつたい落ちる。
そして、加速度をつけてのぼり詰めようとなんともいえない感覚が駆け上がってくる。
やがてくるそれに備えて言われるままに敦賀さんの背中に爪を立てた。
すぐ先にある表情が少しだけゆがむ。
「く…っ、こっちも…もうすぐ、かな…」
「んっ…あ、あっ、敦賀…さんっ…あっ、や、あぁっ、あああぁっ、あああああぁっ」
自分の絶叫と、敦賀さんのため息のような声と。
瞬間までシンクロして、同時に…。
少し、気を失ってたんだろうか。
気がつくと布団を掛けられていた。
服も、上だけ敦賀さんのパジャマのようなものを着せられている。
大きく息を吸った。
目隠しされて、さんざんじらされたのが嘘のように、満たされていくような気がした。
何度も飛んだ思考回路が少しずつ戻ってくるのを感じて
ゆっくり呼吸を整えながらそっと目を開けると、敦賀さんもこっちを静かに見ている。
「…どうだった?」
ふっ…と微笑んで、私の頬を優しくなでながらそんなことを言うので、
さっきまでのことを思い出してついふくれ気味になってしまう。
「…見てわかりませんか…」
「いやいや、よくわかった、よ…」
ともすると抗議のような私の言葉を受けて、
敦賀さんは可笑しくてたまらないといったふうにくすくす笑い出す。
「…もう…いいですっ…寝ますからっ」
「うん、おやすみ、…いい夢を」
敦賀さんは微笑みながらそういうと、
反対側を向こうとした私をもう一度自分の方に向かせて、額にキスをした。
んむー。
さんざんイジワルしておいて、ちゅーごときで機嫌とろうったってそうはいかない。
…でも。
「ん…?」
「…今日はだまされてあげます…っ」