「芯が強くて、大和撫子といった感じの女性です。  
 幸せを感じるときですか?彼女の手料理を食べるときかな…」  
繰り返し各局で流される記者会見を見ながら、食事を終える。  
キョーコはほとんど映らず、穏やかに微笑む紳士然とした蓮ばかりが画面を占めていた。  
 
「御馳走様、キョーコちゃん。今日もすごく美味しかったよ」  
「お粗末様でした。敦賀さんて、本当に食が細いですね…立派な体格なのに、体力が保つのか心配です」  
「腹八分目が健康の秘訣だよ」  
「なんか、もっと年輩の方が仰るなら含蓄のあるお言葉なんですけど」  
「ははは。手厳しいな…満腹まで食べちゃうと、この後困るからね」  
「あ、そうか、眠くなっちゃいますね。運転に差し障るから…  
 でも、送っていただかなくても大丈夫ですよ?時間も遅くないですし」  
「わかってないなあ、キョーコちゃんは。送りたいし送るのが当然なんだよ。  
 けど、そもそも問題はそこじゃないし」  
「大丈夫です、敦賀さんはよく鍛えてらっしゃるから太りませんよ」  
「違うよ…」  
ガクッとうなだれた。  
じゃあ片づけちゃいますから、と言いながらキョーコはキッチンに消えた。  
 
 
ごく内輪の関係者に恋の進展を打ち明けたとき、心の底から嬉しそうな社さんや、  
イロイロ言いたそうにニヤニヤする社長は、あまり細かいことを聞いてこなかった。  
あとで思う存分からかって玩具にするつもりなのだろう。  
 
瞬く間に準備が整えられた会見で関係を公表した後、世間は沸きに沸いたが、  
清潔感のあるキョーコの礼儀正しい受け答えや爽やかで真摯な蓮の態度に、世間は概ね好意的だった。  
敦賀さんのご自宅に入られたことは?という意地悪な質問にも何の疑念も抱かず、  
代マネ時代のエピソードを披露したキョーコはまさに天使だった。  
やましい事は欠片も思い浮かばなかったらしい。逆に寂しいくらいだ。  
 
そのおかげか、「今時珍しいくらい、微笑ましい清純派カップル」として周知されたが…  
本当のところ、やましい関係になりたいのだ。一刻も早く。  
 
「キョーコちゃん、片付けはいいよ」  
キッチンをのぞきに行くと、すでに片付けを終え、シンクを磨き上げるキョーコの姿があった。  
スピーディーな仕事ぶりだ。  
 
「じゃあ、切り上げてそろそろおいとましますね。マスコミの方も外で待ってらっしゃいますし」  
そう、手料理が楽しみと述べたせいで、キョーコが蓮の自室へ連日出入りするのは何の障害もない。  
その代わり、「今日のメニューは?」と尋ねてくる脳天気なレポーターがたまに張っている。  
やはり気になってしまって、それはもう健全に、食事の後なるべく早く送り届けていたけれど…  
 
「キョーコちゃん、明日はオフだろう?今日は、映画でもみていかないかい」  
「敦賀さんは、明日もお早かったんじゃ…?」  
「それほどじゃないよ」  
「でも」  
「もう少し、一緒にいたいんだ」  
 
囁いて唇を指でなぞる。かああっと頬を染めたところを、ギュッと抱きしめて髪に顔を埋める。  
ついでにあちこちを撫でさする。かれこれ3日以上ぶりの濃密なスキンシップだ。  
よく自制した、自分。  
 
「晴れて公認の仲になったのに――おあずけが続いて死にそう」  
「おあずけなんて、そんな…」  
「キョーコちゃんの意地悪」  
 
ええっ、と不本意そうな表情をする。  
たまらなく愛しくなって、身体ごと引き寄せて口づけた。  
 
最初は重ねるだけのキス。じっとしているのが落ち着かないのか、キョーコは薄く目をひらいた。  
目を閉じて、と小声でつぶやいて、唇ではむはむと口を開かせ、吸う。  
ちゅるんとキョーコの舌先が吸い込まれてくる。そのまましばらく味わってから、押し出し、  
吸い込み、軽く歯を立て、何度も何度も繰り返す。  
はぁっともれた熱っぽい吐息が、陥落しつつあることを示している。  
 
今度は逆にキョーコの口に滑り込んで、歯の裏側をなぞる。  
キョーコの舌が遠慮がちに蓮の舌に寄り添ってきたので、ようやく舌を絡めた。  
舌の中央ラインを奥に向かって辿っていると、キョーコは柔らかい舌の裏をつついてくる。  
追っかけっこをしているように上下左右と位置を入れ換えながら、  
貪るように口中をさんざん行き来しあって、荒い息を吐きながら離れた。  
 
「もう脱いどいた方がいいかな、キョーコちゃん」  
暗に、キスだけで感じて――濡れたのではないかと指摘されたことに気がつき、  
真っ赤になりながらも、つい意地を張る。  
 
「見たい映画があったんじゃないんですか」  
「そんなの、ただの引き留める口実」  
言いながらキョーコのベルトの金具に手をかける。パンツスタイルだから、いつもより脱がせにくい。  
「敦賀さんのえっち」  
「まあね」  
 
ボタンとファスナーを外し、ジーンズを足首まで下ろしたけれど、素直に足をあげて脱いでくれない。  
蓮は苦笑するとキョーコを抱き上げることで足を抜かせて、その場にジーンズを残したまま寝室に移動する。  
 
「このまえは時間がなくて、寝室でできなかったから…もっと気持ちよくしてあげたかったんだけど」  
「…じゅ、充分気持ちよかったですよ?」  
「だって一回しかいかな」  
「きゃー!わーー!!!」  
必死で遮る。このお嬢さんは恥ずかしがりで、行為を思い出させるような会話は続けさせてくれない。  
この初々しさは、いつまで続いてくれるだろう?  
 
「ねえ、触られるの、なれてきた?」  
「敦賀さんっ!セクハラですそれ!!」  
「じゃ、舐められる方が好きかな」  
「ちがっ!」  
「指入れるのも、好きになってきたよね?」  
「――っ!!」  
 
そっとベッドに下ろして、組み敷く。染まりっぱなしの頬にちゅっと音をたててキスをすると、  
顔を動かして唇を求めてきた。もちろんお応えする。  
その間にせっせと衣類を脱がせ、ショーツだけにしてしまう。  
小さな布の脇から指を忍び込ませると、驚くほど潤っていた。  
 
「キョーコちゃん、もうとろとろ」  
「うそっ」  
「ほんと。嬉しいなあ。可愛いなあ。キョーコちゃんは最高だなー」  
 
下着を剥ぎ取り、敏感な部分に口づける。  
「んっ…」  
もう、この行為に抵抗はなくなったらしい、とはいえ羞恥は消えないようだが。  
 
粘液の中、ちろちろと舌先を動かしながら、人差し指で乳首をさぐると、手付かずだったそこが反応し始める。  
押し込むと弾力をもって立ち上がり、更なる愛撫を待っているかのようだ。  
いつもは優しくつねると喜ぶが、今日は趣を変えて、緩やかに押しつぶす。  
乳首の側面ではなく、天面への刺激は思いのほか効果的で、  
指先でくるくるとごく小さな円を描くと、愛液が溢れた。  
 
「ふ…ぁ…っ」  
もどかしそうに身をよじる。  
 
いったん下半身から顔を上げ、両掌で胸をふんわりと包む。  
頂きの片方は堅く屹立して、もう一方はのんきに落ち着いたままで、アンバランスにもほどがある。  
寝ぼけたままの乳首を目覚めさせるため、口に含んで転がした。巧みな舌使いにたちまち硬化する。  
 
「んっ、んぅ…」  
ワントーン色を濃くして、ツンと存在を主張している。唇で挟み、舌でつつく。  
押しつぶし、吸いあげ、サンドバックのように、じゃれつく猫のように何度もなぎ倒す。  
狼藉の限りを尽くしたところで、唇を放し、指でつまむ。  
 
「あっ、あんっ」  
びくっと背中を弓なりにそらした。  
再び下腹部に顔を埋めて、丹念に舌を動かしはじめた。  
隠れていた敏感な突起には、特に集中して攻撃を加える。  
 
「やっ…、は…っ」  
脚を開かせると、ぴたりと閉じたままだった切れ込みが、わずかに緩んだ。充血した花芯が姿を現す。  
ここも乳首と同じように、押しつぶし、吸いあげ、ソフトに弾く。  
ゆっくりとした刺激よりも、素早く繰り返す動きに興奮を示すので、一気に攻め立てた。  
 
「ゃ…んっ……ぁ――ああっ!」  
 
軽い絶頂を迎えて、キョーコの体が震えた。  
 
じっと快感を噛みしめていると、余韻がおさまってくる。  
 
「つるがさん……」  
ここのところ一度達すると解放してくれていたので、今日もそうかと思い動こうとしたが、封じられた。  
押さえ込まれキスを受ける。  
 
「ね。ちょっと、物足りなくない?」  
「――え?」  
「もっとじっくり触ってほしいところ、ない?」  
「そ、そんなのないです」  
「ほんとに?」  
 
背中よりのウエストに口を寄せ、やんわりと吸うと、またびくんと身をよじる。  
内腿をさわさわと撫でて、より大きく脚を開かせた。  
濡れて光る秘唇に指を乗せ、優しく割り入れた。ぬるりと爪の生え際まで飲み込まれる。  
 
「は……あ…」  
ひだの間をくちゅくちゅ動かす。  
 
「ここ、好きでしょ?」  
「ふつう、です…」  
「普通?キョーコちゃん、素直じゃないなあ」  
 
再び乳首をくわえて、刺激を送る。指は容赦なく、ぷっくりふくらんだクリトリスを掠めて、煽る。  
だが、キョーコの息が浅く、乱れる様子を見せると刺激を控えてしまう。  
明らかに焦らしている。  
 
(つるがさん、いじわる…  
 すごく気持ちいいのに、よくならせてくれないんだ…!)  
 
無意識に腰が浮く。蓮からの愛撫をもっと貪欲に受け止められるように。  
本人は気づいていないようだが蓮は察すると、わざとのろのろと指を動かした。  
 
膣口とクリトリスの間を、3本並べた指の腹で撫で、ゆっくりと往復する。  
陰唇がめくれ、突起が圧迫される。  
 
くちゅ……くちゅ……  
 
間を空けて響く音が、かえって生々しい。  
ピースサインをする要領で、人差し指と中指を使ってめくれた陰唇を広げる。  
クリトリスと膣口が露わになった。綺麗なピンク色のそこにふうっと息を吹きかける。  
 
「きゃっ…」  
 
ハサミをちょきちょきするように、陰唇の上に乗せた指を合わせたり離したりして、ぱくぱくと開閉させる。  
 
「あっ、あんっ、あ――」  
 
閉じたときにクリトリスが潰されるのが良いらしく、その度にたらたらと粘液が流れ出る。  
浮いた腰が、ささやかに上下に動こうとする。  
邪魔しないように陰部にそろえた指を当てて覆い、押しつけ気味に細かく振動させた。  
 
「はんっ!」  
 
「ここ、内側から、触ってほしくない?」  
 
蓮とキョーコが触れ合うようになって、もう幾度目だろうか。  
何度も何度も愛撫を重ね、すっかり蓮の技術に馴らされつつある。  
指で内壁を弄ぶのもすっかり定番となっていたが、今日はなかなか「お約束」が始まらず  
じらされていたからか、蓮の言葉にこっくりと大きく頷いた。  
 
<おねだりしてほしかったのになあ。まだ無理かー…>  
 
ちょっと残念な気持ちを押し殺して、そっと指を侵入させる。  
本当に狭いが、充分なぬめりが、一本ずつ受け入れる。  
 
「ひゃうっ…」  
関節を曲げて、入り口の浅いところをくいっと圧迫した。  
 
「あ…あっ」  
 
くいっ、くいっ。  
刺激を送り続けると、完全に身を任せてきて、しがみつくしかできなくなっている。  
指先を細かくふるわせると、こらえきれず全身を波打たせた。  
 
このまま可愛がっていればすぐにでも達するだろうけれど――  
すっと指を抜いて、またもや愛撫を止めてしまう。  
 
「え……いや、つるがさん、まだ…」  
潤んだ瞳で訴えながら、手首を掴んでくる。途中でやめちゃ嫌。わかってますとも。  
 
「指じゃなくて、こっち」  
 
蓮は、自分自身をキョーコにあてがうと、押し付けてこする。  
熱を帯びた堅いものがクリトリスと周辺を責め立て、キョーコは高い声を上げた。  
 
(つるがさんのだ…、指とかベロと全然違う…どうしてこんなに気持ちいいんだろ)  
 
陰裂に沿って、擦り付ける。キョーコの為だけの愛撫ではない。蓮も、痺れるような官能に息を荒げる。  
粘膜と粘膜が、それぞれ分泌する粘液を身にまとい、淫らに混じり合う。  
キョーコも更にあふれさせ、そこらじゅうびしょびしょになってしまった。  
 
くちゅ、じゅぷっ…  
蜜をたたえたしなやかな花弁が蓮を包む。亀頭に伝わるとろりとした感触に、我を忘れそうになる。  
滑らせるだけだった蓮の先端が、あるとき狙いを定めて、ついに念願のキョーコの中に押し入った。  
 
ぬるっ…。  
入り口を通り抜けるとき大きな抵抗を感じたが、愛液で濡れそぼっているので  
案外スムーズに滑り込むことができた。キツい。ぎゅうぎゅうだ。  
そして、想像通り――いや、予想を遙かに越える心地よさに、眩暈がする。  
 
「いっ……いた…」  
 
熱い衝撃に貫かれたキョーコは、指とは比べ物にならない存在感に驚いた。  
エネルギーの塊のように力強くて、キョーコを灼き尽くしてしまいそうだ。  
するりと入ったが、自分の中に蓮を受け入れるだけのスペースがあったことが不思議だ。  
それでも、少しでも動かれると、ぎしぎしと裂けてしまいそうな気がする。  
 
「ごめんね、キョーコちゃん、痛い?」  
「ちょっと…いたいです」  
 
とにかく慎重に、受け入れてもらえるよう準備を重ねてきた。柔らかくほぐし、広げ、快感を教え込んだ。  
おかげで、痛そうながらも、なんとか連を迎え入れてもらえた。  
だが、動こうとすると狭くてキツくて、がっちり蓮を捕まえて離さない。  
 
無理に動くと、つらそうに顔を歪める。  
もうかなり奥まで届いているし、可哀相になって、前進を止めた。  
その間も、ひっきりなしに締め付けが連を襲ってくる。  
ぬらぬらとまとわりついてくる柔肉が、別の生き物のようにざわめく。  
 
「俺は…気持ちよくておかしくなりそう」  
 
いつも大人の余裕を見せてきた蓮に、落ち着きのなさが見えた。可愛い。  
思わずそんな気持ちがわき上がってくる。  
 
「つるがさん、かわいい…」  
「…っ」  
かっと赤面する。それをみて、ますます嬉しくなった。  
 
「つるがさんも照れたりするんですね。私ばっかりいつも慌ててるのかなって思ってました」  
 
<可愛いのはキョーコちゃん、君だー!>  
 
蓮はわずかに赤面しながらも、とっても上手に動揺を隠しきって、帝王顔で妖しく笑う。  
「キョーコちゃん、ずいぶん余裕だね?」  
「えっ…?」  
 
両胸の頂をくりくりと摘む。何度愛撫されても快感を導き出される。  
夢中になりかけたキョーコの中で、蓮のものが突然びくりと角度を変えた。  
 
「あんっ!?」  
 
デコルテから首筋を舐めあげながら、リズミカルに何度も内部から刺激する。  
ぐっと力を入れると、陰茎が天を衝くように首を擡げる。  
それをキョーコの中で行っているが、当然、キョーコには知る由もない。  
いきなりの律動に翻弄されている。  
 
大きく動いていないので痛みは無く、それどころか、ちょっと気持ち良いところに当たっている気がする。  
蓮が位置を調整しているのか、どんどん気持ち良くなってきた。  
 
「あっ…あぁっ…」  
 
少しずつ蓮が腰を引き、挿入が浅くなる。抜くときにはあまり痛みがないようで、蓮はホッとした。  
その浅い位置で攪拌する。指の時に好む場所だ。  
 
「んんっ、はぅっ…」  
 
雁首を引っかけるようにして揺する。右手を胸元から離し、注意深く陰核に移す。  
爪で傷つけることのないように、親指の関節の腹側でまさぐる。  
快感を得るためだけに存在している器官は、役割を見事に果たして、キョーコを悦ばせる。  
乳首や膣内のざらつく上壁も、単体でさえ気持ちいいのに、同時に責められるともう為す術もなかった。  
 
「やあっ、だめ、つるがさん…!」  
脚をがくがくさせながら、切なげに声を上げる。  
 
「大丈夫だよ。もう、いかせてあげる」  
 
丁寧に、大胆に、内外から快感を送り続ける。  
 
キョーコは眉根を寄せ、間断なく襲いかかる刺激に全身を強ばらせた。  
これ以上無いくらい、どこもかしこも全部敏感になっていて、触れ合う蓮の肌やサラリとした髪、  
肌を伝う互いの汗までもが快感を促す糧だった。  
 
それなのに、一番感じる部分は痺れたようで、細かい様子はよくわからない。  
ただじんじんした甘い熱さが広がり、押し流される。  
目を閉じているにも関わらず、眉間から視界が白く塗りつぶされてゆく。  
キョーコの中で起こった小規模な爆発に吹き飛ばされる。  
急速に落下しているような、あるいは上昇しているような浮遊感に、意識を奪われた。  
 
「あ――…ぁあんっ!」  
 
キョーコはひときわ大きく跳ねると、くたりと脱力し、わずかに身体を丸めた。  
うわごとのように、意味を成さないかすかな声をもらす。  
顔を覗き込んでも、とろけた表情で目を閉じたままだ。  
 
うらはらに蓮を飲み込んでいる隘路は激しい収縮を繰り返し、痛いほど締め付け、絡みついてくる。  
連も、このまま絶頂を迎えても良いが、今なら平気だろうと見て挿入を深くする。  
潜り込んでは浮かび上がり、突き入れては抜け出る。  
キョーコの為に緩やかではあるものの、何度も腰を打ちつけ、結合部で愛液が白く泡立つ。  
 
あまりの快感に、ゾクゾクと毛が逆立つようだ。  
いつまでも味わいたいのに、呆気なく最後の瞬間がやってきて、蓮はキョーコの白い胸に欲望を吐き出した。  
 
ぼんやりしているキョーコをしばらく見つめて、  
あまりの愛おしさにもう一度襲いかかってしまいそうな自分を制し、浴室へ向かう。  
 
香りがしてはまずいので、ボディシャンプーを使わずざっとシャワーで洗い流した。  
あとで本格的に入り直そう。タオルを何枚か湯に漬けて絞り、キョーコの身体を綺麗に拭う。  
まだ夢うつつのようなので、自分だけきっちり服を着込んで、身だしなみを整え、マンションの玄関を出る。  
 
辺りを伺うと、今回張り込んでいるのは1社だけらしい。  
白いライトバンの中に若いレポーターとカメラマンが潜んでいる。  
2人が出てくる前に、車のドアをノックして、得意の笑顔をちらつかせながら済まなそうに話しかけた。  
 
「こんばんは。お仕事ご苦労様です」  
女性レポーターが慌てたように髪を撫でつけながらドアを開ける。カメラマンもカメラを構えた。  
 
「実は、食後に映画を見ていたら、彼女が寝てしまって。  
 学校と仕事の後、食事の用意や片付けまでしてくれて。  
 疲れてるみたいだから、今日は寝かせたまま送りたいんです。  
 今から連れてくるので、申し訳ないんですが、今夜はそっとしていただけませんか?」  
 
にこにこしながらそう告げると、ポーッと見とれているレポーター達に有無を言わせず、  
優雅にその場から辞去した。  
 
脱ぎ散らかされたジーンズを拾いながら寝室に戻り、キョーコの服装を整える。  
目を覚ましかけたので、「今は寝てなさい」と囁く。都合のいいことにまたまどろんでくれた。  
髪の乱れ隠しにニット帽を被せ、コートの上から毛布でくるむ。  
すっぽり覆い隠され、顔しかでていない。キョーコの荷物を持ち、本人を抱き抱えると、車までそっと運ぶ。  
 
本当はいちゃいちゃしたいが、せっかく世間が健全カップルだと誤解してくれているのだ。  
なにより本人がゴシップ的な取り上げられ方は嫌がるだろうから、常識的な時間に帰しておこう。  
何があっても午前様やお泊まりはさせられない。  
 
睦言は延期する。  
処女喪失の後ベタベタできないなんて、彼女は少しは物足りなく思ってくれるだろうか?  
ぜんぜん平気だったりして。そんな気がする。駄目だ、自信を失いそうだ。  
 
早々に、出来れば明日にでも、無理矢理――は駄目だけれど、万難を排して一緒に過ごす時間を作る。  
決意を新たにする敦賀蓮であった。  
 
 
 
マスコミも映像報道は遠慮したらしいが、数日後発売された写真週刊誌に、  
蓮に抱きかかえられ車に運ばれるキョーコの幸せそうな寝顔のアップが掲載された。  
蓮の熱烈な女性ファンをやきもきさせたが、それ以上に、  
掲載文に記された蓮の発言とエピソードに胸を射抜かれた女性が多く、  
またいっそう敦賀蓮信者が増えたのだった。  
 

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