設定は、飛鷹くん高校生くらい。モー子さん、バリバリ人気の20代前半。  
二人は世間に隠れて交際中。  
 
 その日は、朝から少年は機嫌が悪かった。しかし、それを知る者はいなかった。  
どんなに不機嫌だろうと、(数年前であれば不機嫌という文字が顔に書いてあったかも  
しれないが、心も体も演技も成長期の)彼がそれを他人に悟られることはなかったからだ。  
唯、一人を除いては。  
「まだ、怒ってるの?」  
 深夜、お互いの仕事の後に少しでいいから会う。という交際開始時からの夜の逢瀬の  
時間でさえ、あからさまに不機嫌な飛鷹に、奏江はコーヒーを差し出しながら問うた。  
返事さえないが、飛鷹の顔は眉間にしわをよせ口をへの字にし、ほっぺには「当然」の  
文字が浮かんできそうな程ふくれていた。  
「…。(俺は、納得いかないね)」  
「あのねぇ、こんなでっち上げ記事に私が怒るならともかく、なんで飛鷹くんがさも当人  
の様に不機嫌なのよ。でっち上げっていうのはよく分かっているじゃない」  
「…。(火のない所に〜っていうだろ)」  
まるで、駄々をこねるような飛鷹に奏江はお手上げのジェスチャーで答える。  
彼の不機嫌の理由は、明日(日付線は超えているので、既に今日)発売になる  
週刊誌に奏江のスキャンダルがスクープとして掲載される事が、ワイドショーで  
取り沙汰されてからだ。勿論、奏江には身に覚えのないスキャンダルであり、スクープ  
と騒ぎ立てている日時には確固としたアリバイがある。この部屋で恋人と過ごしていた  
というアリバイが。  
 ふて腐れている年下の恋人を背に、今押しも押されぬ人気実力派女優は夕刊に目を通し始めた。  
頭の付いて来ない女優と世間に言わせないために、これは彼女の日課だった。  
 自分に背を向けるようにコーヒーを片手に新聞を読む恋人を、飛鷹は眉間にしわを寄せた  
ままじっと眺めていた。きちんと手入れの行き届いた白い肌に、髪の間から覗くうなじ。  
「……奏江」  
声と同時に、自分の肩に巻きついてきた腕に、奏江は顔を上げた。  
「何、アリバイは晴れたかしら?」  
からかう様に奏江は、肩に巻きついた腕を抱きしめた。  
「別に、疑ってたわけじゃない」  
「まあ、記事に書かれている時間、私は誰かさんと此処でデート中  
だったのは、飛鷹君も知っているでしょ」  
言いながら、膨らんでいる筈の彼のほっぺをつつこうとした奏江は手をとめた。  
トいうより、止められた。  
 上を見上げた奏江に、上から重なるように飛鷹の顔が近付いてくる。  
 そのまま、近づいてくる飛鷹を奏江はそのまま受け止めた。唇と唇が優しく重なる。  
「……………………………」  
 口が離れると奏江はいつもの様にほほ笑んだ。いきなりのキスは、飛鷹の甘えたい  
時の常套手段だ。キスが終われば、ハグをする。それが二人のいつもの愛情確認だった。  
けれど、今回は違った。キスが終わればハグの体制に奏江が入ろうとした時、再び飛鷹の  
顔が近付いてきた。  
(えっ?)  
 重なった唇は、さっきと違って閉じた口をこじ開けようと舌を入れてくる。  
(えぇ〜〜〜〜〜っっ?)  
   
いくら付き合っているとはいえ、これまでに無かった飛鷹の行動に奏江は頭が  
真っ白になった。  
「んっ、ん〜〜っ」  
 口の中に侵入してきた舌は、奏江の舌に絡みついてくる。それと同時に、  
自分の服の中に滑り込んだ手に奏江は目を見開いた。  
(ひ、飛鷹く〜〜〜〜ん?)  
服に滑り込んだ手は手慣れたようにブラのホックを外し、背中から胸へ輪郭を  
探るように触ってくる。  
「ぷはっ」  
 ようやく解放された唇についた唾液を、飛鷹はペロッと舌ですくった。ホックの  
外れたブラをずらし、飛鷹の手は直接奏江の胸を揉んできた。  
「ちょっ、飛鷹くんっ?」  
制止しようとした奏江の口を塞ぐと、真っ直ぐ奏江を見つめた。  
「奏江は俺とするの、厭?」  
そう言いながらも、手は胸を揉んでくる。  
奏江は答えようとして顔を真っ赤にした。飛鷹が胸を触ってくるということも  
恥ずかしいし、厭かと聞かれても厭ではない自分がなんだか変な感じだ。  
「い、厭じゃないわよ。でも、駄目」  
「なんで?」  
 
 
 

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