かすめるように、でも、
確実な感触を残し、わたしをいつまでも
――― 犯す。
「……ーコちゃん?キョーコちゃんっ!」
背中をつつかれわたしは正気に戻る。
「大丈夫かい?なんだかボーっとしてるようだけど…。
しんどういんだったら部屋で休んできていいんだよ?」
かきいれ時の金曜の夜。だるま屋。
おかみさんがわたしに心配した面持ちで声を掛ける。
やだ、またわたし、ボーっとしちゃってた…。
こんなことじゃだめだわっ!
あれからずっとこんな感じ。
――― おいしかったよ 、ありがと…―――。
敦賀さんのきれいな顔が近づいてきて、そして……。
「おぉいっっ!!!!!」
がつんっ!!!!
「っいたぁっっ!?」
大将のゲンコツが飛んできた。
またボーっとしてしまっていた私に業を煮やした大将が半ば呆れ顔で親指を立てて母屋を指す。
退・場。
忙しいこんな日に、お手伝いをしないなんてわたしとしては気が治まらないけどこうさせてしまった大将に何を言ってもムリなので精一杯お詫びを伝えて私は母屋に引き上げた。
だめだ…。
思考からあの時のことが離れない。
たった一瞬のことだったのに。
あの人の唇が私の頬に触れた。
ただそれだけのこと。
…それだけのことなハズなのに…。
尚太郎のとは全然違う。
ヤツとのソレの方が、事故という認識に消化したものだとしても
カタチ的には…キス…、というかそれ以上されちゃってたかもしれない。
(事故だから忘れるけどねっ)
ただ、触れただけなのに…。同じくらい近づいたことだってあったのに。
心拍数が上がる。
―――体中が火照る。
わたし、本当はとても破廉恥なおんなだったんだ。
身体のソコが、熱い……。
ちゅく……。
わたしは自分であそこに手を伸ばす。
彼に熱を与えられた日から、本能的に始まった秘め事。
ちゅくちゅく…。
彼のことを思うとどうしてももどかしくなる場所があった。
自分の身体なのに今だかつてそんな感覚にであったことがない。
おそるおそるその熱にふれてみると
なにもしていないのにそそうをしてしまったかのように潤み
今まで感じたことがないような甘い感覚が自らを包んだ。
―――敦賀さん…。
こんな、恥ずかしいところをいじりながら自分の名前をつぶやかれてるなんて知ったら
絶対、不快に思って縁を切られてしまうわ。
わたしも、恥ずかしくて死んじゃう…。
でも、手がとまらないの…っ。
奥から奥から甘い液が溢れ出す。
じゅくっ!じゅくっ!
自分の手なのにかき回す手がヒートアップすることを止められない。
わたしは覚えたてのその作業に没頭し
声も抑えることができずみだらにも喘ぎ、彼を想う。
「んんんっ!つ…敦賀さんっっ!!!んんあぁあっっっ!!!」
…はぁっ、はぁっ、はぁっ…。
息がはずむ。
自分で高みに導いた身体は小さい痙攣をたずさえていたが
妙に意識だけはさえていた。
わたし、敦賀さんのこと、好きなんだ…。
やっと気がついた気持ち。
でも、だからって。現状は変わらない。変えてはいけないの。
恋なんてしないって…、決めたじゃないの…キョーコ…。
自分への戒めを振り返る。
恋はしない。恋はしない。恋はしない。
言い聞かせるようにつぶやく。
だが自分でも止められそうにない想いと身体に
その呪文はただただむなしく、行き場のない不安を掻き立てるだけだった…。
end