「もー、あの子ったらいつまで待たせる気かしら。」
図体ばっかり大きいあの人もまだ来てないし、まさかどっかで捕まってたりしないわよね?
一緒に買いに行った親友の水着は派手ではないけれど、セパレートタイプの可愛い物だったのを思い出し、微かな不安が過ぎって、隣にいる俳優のマネージャーに訪ねてみる
「あの、万年ヘタレは何処に居るんですか?」
「えっ?いや、ヘタレって…もう少しで来ると思うよ?」
ヘタレで誰の事が分かる自分も相当ひどいなぁと反省しつつ、少し位二人きりにさせてあげたいお兄ちゃん心もあり、隣にいる女優に返事をする
「もう少し位、二人きりで居たいけどね、俺は」
「まぁ、あの二人が揃うと気苦労が絶えませんもんね」
あっ、軽くかわされた?
「それにしても、よくこんなに静かなビーチを借りれましたね」
「ん〜、確かに、あの人が面白がって用意したにしては静かだよね。」
自分たち以外には、数組しかいないビーチを見回す二人
「日差しが強くなって来たね」
パラソルを立て直してから、バケツ一杯の氷で冷やしている飲み物を取り出し、ライムを刺して彼女にどうぞと渡す
「ありがとうございます。…前から思ってましたけど、あの子並の気配り屋さんですよね。」
「そう?ま〜俺のは職業病でもあるけどね。」
そしたら、隣の男は、乾いた笑を漏らして、「でも、好きな人には、皆こんな感じじゃない?」なんて聞いて来た
「知りませんっ!」
咄嗟にでた言葉に、キツく言い過ぎたかとハッとする。なんとも言えない空気になってしまい、男が用意した冷たい飲み物が乗っているテーブルを挟んで、それぞれのビーチチェアに身を預ける
しばらく黙ったまま海を眺める二人。リズム良く打ち寄せる波の音が、気まずい雰囲気を徐々に和らげてくれる。
張り詰めていた空気が柔らかくなった頃、二人の前をスタイルの良い女性が通り過ぎる。
女は可愛い水着ねぇと、ボーッと見ていると、隣の男が目の前の女性を目で追っているのに気がついた
何故かムッとして、考える前に飲み物に刺していたライムを手にして、ピュッと男に向かって柑橘類特有の香りをそっとプレゼントしていた
頬にかかる冷たい雫に気が付いて、静かに元の姿勢に戻る彼を見て満足した様子の彼女
男は、少し居心地が悪そうにでも何処かニヤケながら、女は、いい気味だとすこし満足顔で、もう直ぐ来るであろう親友と担当俳優を二人で待っていた