Rrrrrrr...pi
「はい、最上です。敦賀さん、折り返しお電話させてしまってすみません。あのさっき電話したのは…」
あの時の敦賀さんの様子と、カインの様子がフラッシュバックし、声が詰まってしまう…
「…その、検査結果、いかがでしたか?」
聞けたっ…私の声は震えて無かっただろうか?さっきまで、社さんに連絡しようとしてた勢いとは逆に、声が小さくなる。
「うん、病院で精密検査も受けたけど、特に問題はないみたいだよ。」
いつも通りの敦賀さんの優しい声。安心からか、彼の声ににふんわりと包まれている様に、暖かいものが一気に広がっていく。
「よ、良かった…安心、しました。」
その声だけで、こんなに気持ちが落ち着く…
「…うん、心配かけてゴメンね。危ない事はしないって約束したのに。」
あぁ、電話越しで良かった。安心からか、泣いてしまった自分が恥ずかしくてとてもじゃ無いけれど、見せられない。
「本当ですよ!もう、心配したんですから。その、私なんかに心配されてもご迷惑かと思いますけれど…」
あぁ、"気にしないで下さい"と言いたかったのに、つい勢いに任せて思いの外強く言ってしまった言葉。徐々に声が小さくなってしまう。
「そんな事ない。嬉しいよ。ねぇ、最上さんは今何処にいるの?まだ撮影中?」
「えっ?今日の撮影は終わったので、ラブミー部に行く所です。学校に行くには、すこし中途半端な時間ですし。」
「そっか、もし仕事が無かったら、部室で待っててくれる?迎えに行くよ。」
「ラブミー部にご依頼ですか?敦賀さんからご夕食の依頼って珍しいですね。うん、英気を養っていただく為にも、今晩は腕を振るいますね!」
微かに笑い声、コレは苦笑(?)が聞こえる。
「クスクス。さすが最上さんだね。それは勿論嬉しいし、お言葉に甘えたいんだけど、今回はラブミー部に依頼と言うか、その、最上さんに…話があって。」
「…」
「最上さん?もしもし、聞こえる?」
「…ずびばぜ…「待って、あの、怒ったりしてないからね」
「何でいつも泣かせてしまうんだろうか、ゴメンね。あの、どうして俺が怒ったと思ったのか分からないけど、コレは俺のワガママだから、嫌なら言ってね?」
「クスン…"心配させた"なんて生意気言った私の事、怒ってらっしゃらないんですか?」
「うん、と言うか…さっきも言ったけど、嬉しいよ?」
何故この人はこんな事をサラリと言ってのけるんだろう。本当に…
「その、迎えに行っても良いかな?それとも仕事があるとか?」
「いえ、特に仕事はありませんし、不肖最上キョーコ、先輩のご依頼に否を唱えるはずもなく!」
「…うん、分かってたけどね。」
「えっ?すみません。声が遠くて…」
「…"先輩"からじゃなくて、"俺"のワガママだけどね。でも、ありがとう。じゃあ、着いたら電話するよ」
「いえ、私が伺います。ご自宅ですか?」
何時もなら「敦賀さんは、尊敬する先輩ですよ?」と返す所なのに、何故かその言葉は出なかった。
「うん、でも悪いし…「気にしないでください、ここからならそんなに離れてませんし、それに、まだ日も高いですから。」
夜なら絶対に迎えに来ると譲らない彼を見越して、反論させないように先手を打つ。
「それでは、また後ほど。失礼します。」
Pi...
返事を待たずに切った電話に目を落とす。
さっきの事もあるし、今日だけでも運転はして欲しく無い。これは、私のワガママだ。
「話し、か…」
実は、私も敦賀さんに聞きたい事がある。あの時の敦賀さんとカインの表情がどうしても重なってしまう。聞きたいけれど、何と切り出して良いか…いや、まず聞いて良いものかも分からない。
敦賀さんの無事を聞いて安心したのもつかの間、何とも言えない不安が胸を過る。
ふと、通りに目をやり、タクシーを捕まえる。もう暗記してしまった住所を告げると、車は自分の心とは裏腹にスムーズに流れ始めた。