キョーコがその身一つで芸能界へ飛び込んで、早4年。  
 
初めこそ未緒やナツといった悪役ばかりであったが、多種多様な役を演じ切り、  
今では若手実力派女優として認められつつある。  
 
晴れて成人したキョーコに舞い込んだのは、一本のお酒のCM依頼。  
キョーコの透明感のある演技を見込んで依頼されたそのCMのコンセプトは、  
『満月の夜にロゼを飲むと恋が叶う』というもの。  
半信半疑ながらも「もし叶うなら」と試してみてしまう…  
そんな淡く純粋な恋心を表現してほしいとのことだった。  
 
 
ラブミー部へ帰ったキョーコは台本を開く。  
「満月の夜にロゼワイン…で恋が叶う…かぁ…」  
ワイン…ふとある人のことが頭をよぎる。しかし、  
「わ、私には一生縁がないことよね!!」  
一瞬湧き上がった想いは蓋をされ、心の隅へと追いやられた。  
 
 
──トントン。  
ノックの音に振り向くと、そこには彼女が尊敬してやまない先輩と、そのマネージャーの姿。  
 
「キョーコちゃん、久しぶり〜。ラブミー部に明かりが点いてたから  
立ち寄ってみたんだ。今日はもう上がり?」  
「はい、さっき丁度お仕事が終わったので、新しく頂いたCMの台本を読んでいたんです!」  
 
ぴしっと腕を伸ばし、キョーコは笑顔で台本を見せる。  
 
「へえ、最上さんワインのCMに出るんだ?」  
「はい、初めてのお酒のCMなんですよ!」  
「そっかぁ…キョーコちゃんももうハタチだもんねぇ」  
 
早いなあ、と社は感慨深げに呟く。  
 
この4年でキョーコは演技のみならず容姿にも磨きをかけてきた。  
元来の素直な性格も相まって、彼女に近づく男は増える一途を辿るばかりだ。  
……それに全く気付かないところは流石ラブミー部というべきか。  
担当俳優が口説く姿も何度か目撃したが、その度に砂を吐き、胃を痛めたものである。  
 
………キョーコちゃんも、満更でもなさそうなのになあ…  
 
社が思いを馳せている間、蓮はキョーコに借りた台本を読んでいた。  
 
「可愛い役柄だね。最上さんのイメージにもぴったりだと思うよ」  
「あっ、ありがとうございます」  
照れて赤くなるキョーコは花が咲いたように可愛らしく、蓮は無表情となり  
その手を口元に添えた。だが、次の瞬間、キョーコの表情に一瞬の憂いがよぎった  
ことを蓮は見逃さなかった。  
 
 
二人の様子を見守っていた社は「そうだ、俺、松島主任に用があるんだった。  
蓮、次の移動まで少し休んだらどうだ?」そう言うが早いか、  
「じゃあ蓮、後で迎えに来るからな〜」と颯爽と部屋から去っていった。  
 
もはや見慣れた社のニヤニヤ顔を見送り、蓮はキョーコに向かい合う。  
 
「満月とロゼに願いを込めるなんて君の好きそうな乙女趣味な役なのに、  
どうして少し浮かない顔をしているの?」  
「えーっと…そんなこと、ないですよ?」  
「俺には言えない?」  
「……あの、いえ、ただ、乙女趣味で、純粋で一途な淡い恋をしている女の子だなんて、  
何だか失くしてしまった昔の自分を見ているような気になってしまいまして……  
って、可笑しいですよね!今の私と、この女の子は全然違うのに…」  
 
悲しげな表情をさっと隠し、キョーコは蓮に笑顔を向ける。  
訝しげに見つめる蓮から目を逸らして、尚もキョーコは続ける。  
 
「そもそも、失くしても全く困らないですよね。あんな、純粋で人を疑わなくて、  
アイツへの恋なんかに現を抜かして騙されるようなバカ女、決別できてむしろ清々し」  
 
突然腕を引かれ、次の瞬間、キョーコは蓮の逞しい腕の中に閉じ込められた。  
 
「なっ敦賀さんどうしたんですか」  
「それ以上言わなくていいから」  
蓮の腕から抜け出そうと上方を見上げたキョーコは、硬直しその動きを止める。  
 
──彼が、辛そうな顔をしていたから。  
 
「最上さん、俺はね、君の怒った顔も泣き顔だって受け止めたい。  
でも、そんな無理に作った笑顔は見たくはないんだ」  
「そんな、無理になんてっ」  
「…俺は昔の君を知っている訳ではないけれど、でも、不破を好きだった頃の君は  
バカ女じゃない。不破と決別した後の君が、昔の君を失った訳でもない。  
確かに恋をする心は一度砕かれてしまったけれど、今でも純粋で純情で、  
仕事や人に対して一途で、メルヘン趣味な君はなくなってなんかいない。  
そんな君が俺は好きだし、これからもそんな君を見ていきたいんだ」  
 
「……………」  
「……………」  
 
「私、失くして、ない…?」  
 
暫くの沈黙の後、俯くキョーコの頬に涙が一筋、零れ落ちる。  
蓮はそれを口唇で掬い取り、額に口付けを落とした。  
 
 
「口には、また今度ね」からかうように蓮が言う。  
「〜〜〜〜!!もう、そういうのはセクハラって言うんですよ!!!」  
猛然と抗議するキョーコに、蓮はクスリといたずらっ子の笑みをこぼす。  
そんな様子にいつもの空気を感じ、二人は向かい合ってふっと笑いあった。  
 
 
「…敦賀さんはただの後輩にもお優しいですね」  
「……今はそういう事にしておいていいよ」  
そう言って蓮はもう一度だけキョーコを抱き締めた。  
 
 
 
家路につくキョーコ。窓から望む冬の夜空には、澄んだ輝きを纏う満月が浮かぶ。  
机の上に置かれたスーパーの袋の中には、小さなロゼの瓶。  
 
「本当、かなぁ…?」  
 
口付けたグラスから伝わるは、爽やかで甘く、仄かに苦い味。  
それは蓮の口付けを思い起こさせ、キョーコの頬をロゼ色に染め上げた。  
 
 

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