カタッ
「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがとう、嬉しいよ。君の淹れるお茶は何時も美味しいからね」
「へへっ、ありがとうございます。あっ、プレゼント…お菓子だったらお茶請けに良いかもしれませんね」
「良いよ、気を遣わなくて。お邪魔してるのは俺の方だし」
「そんな…気になさらないで下さい」頂き物ですしと言いながら、シュルリとリボンを解いてハート型の箱を開けようとした時…トントンと誰かがドアをノックした
「…はい」
撮影が終わった後なので訪ねて来るスタッフはいないはず…と、不思議に思って開けたドアの先には、
「やぁ、最上くん。始めてのスチール撮影はどうだった?」
絢爛豪華、豪奢、派手、お腹いっぱい、と言った感じの古き中華王朝の格好をしたLME名物がお供を引き連れて、ズカズカと控え室に入ってきた
「おぅ、蓮もいたのか。邪魔して悪かったな」
ニヤリと蓮にだけ分かる様に笑う所が抜け目が無いですよ…
「し、社長!」
「…ん?最上くん、何だその箱は?」ピンクのハート型の箱を指差して名物社長は、クリスマス、ハート…蓮と二人きり…とブツブツ呟いている
「あぁ、コレは…」
「最上くん!」
「は、はい」
どわわわわっっ
「そうか、君もついに…う、嬉しいぞ!」
滝の様な涙を流しながらキョーコの両手を強く握りしめブンブンと縦に振る
「えっ?…え?」
訳が分からずに目を回すキョーコを片腕に抱きながら
「蓮!水臭い奴め。いつからだ?おぉ、早速記者会見だな。マスコミが変に騒ぐ前に手を打とう。派手にしてやるからな!よかったなぁ、修羅の道だと思ったんだが…嬉しい誤算だな!何なら婚約会見でも良いぞ?」
一人で話を進める中華王朝の王様についていけず、目を回すキョーコ
「…社長、何を勘違いしたのか分かりませんが…俺と最上さんはまだお付き合いもしてませんよ?」
ベリッと社長からキョーコを引っぺがして、ちゃっかりキョーコを彼女抱きにする蓮、しかも「まだ」って言いましたね?
「なっ!?そ、そうなのか…最上くん?」
「え、ええ。」
目を回しながらも、何とか答える。でも、既にほっぺにチュとか、膝枕とか、ギュッて抱かれたりとか色々経験済みですけどね…キョーコさん
ガクーッと海より深く項垂れる名物社長。
「えっ、あの。だ、大丈夫ですか?」
「…ん、あぁ…」
期待した分反動が大きい様です。哀れ。
「…あの、よかったらお茶でも飲んで落ち着いて下さい」
迷惑社長にも優しいキョーコさん。でも、この社長と落ち着くという言葉も似合いませんね。
すまんなと、言いながら席に着く社長にお茶を準備するキョーコさん。…敦賀さん、ちゃっかり腰抱きしてたキョーコさんが離れてしまって、社長をジトっと見てます。心、狭いですよ。
「で、最上くんから蓮へのプレゼントじゃないなら、その箱は何だ?」
「あぁ、スタッフの方からサプライズプレゼントに頂いたんです」
箱を開けながら説明するキョーコさん。ピンクのハートには、色取り取りの包装で可愛らしく包まれたお菓子たち。
「宜しかったら、如何ですか?」
可愛らしさに思わず目をキラキラさせながらも、まずは社長、次いで先輩にお菓子を勧める。気が利きますね。
「ありがとう…ん?最上さん、これ…」
蓮が手にしているのは、ピンクのハート型の封筒。レース使用でキョーコの趣味にロックオン。
「何でしょう?」
ワクワクと言う擬音が見えそうです。手紙を取り出して読み始めるキョーコさん。
「…京子さん、撮影お疲れ様です。サプライズプレゼントは、今人気のスイーツ…ではなくて、今日撮影で使った……」
ニコニコしていた顔が固まり、カサカサと手紙を片付け始める。
「ん?どうしたんだ?」
社長、食いつく食いつく。
「イエイエ、タイシタコトハナイノデスヨ。」
「ふぅん、そうか…なんて、納得すると思ったのか馬鹿め」
さっとキョーコの手から手紙を奪い取り、勝手に読み出す我儘社長。
「あぁぁぁ、社長にだけは見られたくな…!」
「…ほほぅ」
ニマッっと意地の悪〜い嬉しそうな笑顔で手紙から顔をあげる地下組織社長(ドン)。
「そうかそうか、良かったなぁ最上くん。ニヤニヤ」
「…社長?あんまり最上さんをイジメないで下さいよ」
蓮くん、少し怖いですよ、キョーコさんもビクビクです。
「ほ〜そんな事言ってていいのかな〜。サンタは、良い子の所にしかこないんだぞ。なぁ、最上くん」
「ヒッ!…ソウデスネ…」
嫌な予感で一杯になり汗がダラダラ噴き出し、片言で話すキョーコさん。
「まぁ、と言うわけだから。蓮、お前もう時間だろう?ほれ、サッサと次の仕事に行かんか」
何がどんな訳か分かりませんよ、社長。
「…それはそうですが、後10分位は…」
プルプルプルプル…
「ほれ、社からの帰れコールだ。サッサと行け」
「チッ…分かりました。最上さん、何かあったら連絡してね」
あれ?今小さく舌打ちしました敦賀さん?そして、何もなくても電話して欲しいんですよね。
「はいっ…ありがとうございます…」
一人になり社長に遊ばれる恐怖で涙目のキョーコさん。後ろ髪を惹かれながらも、仕方がなく楽屋を後にする蓮くん。
「さて、最上くん…」
…恐怖の始まりです…
「…結局、あの後最上さんとも会えなかったし、社長も捕まらないし……電話、してみるか…」
仕事も終わり、自宅に着くが早いか、ドアを開けながら発信歴からキョーコの携帯に電話をかける
プルプルプルプル…
…プルプルプルプル…
呼び出し音に反応して、リビングから着信音が聞こえてくる。…まさか?
慌ててリビングのドアを開けた先には……赤と白の綿に包まれた…巨大な箱が鎮座していた…
…プルプルプルプル…音は箱の中から聞こえる…と、言う事は…
急いで包を開けるが、結構頑丈に包装しており、なかなか手強い。やっとの思いで箱を開けると、予想通りそこには思い人。
「最上さん…」
「敦賀さん、メリー クリスマス!プレゼントを受け取って下さい!」
と勢いよく抱きついて来た!!
「……」
えっ?プレゼント?サンタの格好をした最上さんが?…イヤイヤ…まて、自分。この子相手にあり得ない…
「最上さん?…本当に?」
「はいっ!何でもリクエストして下さいね」
…本当に?…いや、学習しろ…がんばれ俺の理性!
「リクエストって…例えば…?」
「今食べたい物はありますか?何でも作らせて頂きます!」
「最上さん…」
「はいっ」
「…」
「…敦賀さん?」
「…キョー…いや、この間作ってくれた京野菜のスープを…」
「分かりました!今回は、社長のバックアップがありますので、直ぐにご用意いたしますね。あっ…こちらは社長からのメッセージです」
パタパタっとキッチンへ向かう彼女の背中を見つめて肩を落す
…やっぱり、あの人のイタズラか…
手紙を読み出して更に打ちひしがれる…
「何であの人は…カメラでも仕掛けられているんじゃないか…」
そこには、キョロキョロと辺りを見回しながら呟く俳優の姿があった
「良かった〜社長の事だからもっと色々要求されるかと思ったら、敦賀さんに夕食プレゼントのお手伝いだなんて」
キョーコさん、うっかり「親切だわ」なんて尊敬しちゃダメですよ
「あのセリフは、流石に恥ずかしかったけど…それに…箱につまづいたとは言え、敦賀さんに…だ、抱きついてしまったし!変な顔してなかったかしら…でも、ちょっと気持ち良かった…かな…」
キョーコさん、全部喋ってますよ…蓮くんが居なくて良かったね。聞かれたらギュッだけじゃ済まなくなるよ。
危ない危ない。