椅子の上から落ちかけた「美月」を
「嘉月」が思わず抱きとめた。
支えきれずにそのまま床の上へ転がってしまって、
俺は両腕を彼女に廻したまま固まってしまった。
俺の中の嘉月は。復讐に取り付かれたまま、
本当は愛しく思い始めた美月をどうやって遠ざけようかと。
そして俺は。『犯行』に及んでしまった自分と
腕の中のぬくもりに呆然としていて。
「先・・・生・・・?」
知らずに入っていた腕の力に訝しんだ彼女が
俺を見上げている。
一瞬、え?となんの色香もなく驚いた後に、
「美月」の表情を作る彼女。
表情を上気させて、戸惑った瞳で俺を見ている。
嘉月は。操にばれてはいけない状況を、
どうやって美月に口止めしようと。
俺は。俺の事を何も意識してない瞳と、
その後の潤んだ目に絡め取られて。
「・・・本郷・・・君はどこまで僕を困らせるんだ・・・?」
「・・・先生、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんです・・・(泣」
俺の腕の中でべそをかきはじめた彼女を見て、
二人の俺の理性の糸がふつり、と切れた。
首の後ろに廻した手を後頭部に当て、
逃がさないように手荒に口付ける。
彼女は目を見開いた後両手で俺を押しのけようとするが、
所詮女性の細腕でびくともするわけもなく。
深く深く侵入しているうちに、彼女の体から力が抜けていく。
「・・・本当に、いけないコだ・・・」
嘉月は。どうしようもなく惹かれていく自分と彼女の関係を
いっそ壊してしまいたくて。いっそ引き裂いてしまいたくて。
俺は。あくまでも演技でしか俺を見ない彼女に
男、を、焼き付けたくて。
口付けながら上着の裾をめくり、ブラの中に手を忍ばせる。
たどり着いた乳首はほんの少し掴むだけで堅くなって。
「自分」の劣情をますます刺激する。
彼女は戸惑いながら。それでも・・・美月を考えながら。
「・・・先・・・生?!何を・・・どうして・・・?」
「・・・帰れと言ったのに帰らない。操さんのことも知っているのに
それでも君はここに居たいと言った・・・そして、こんなことに・・・
これは、お仕置きが必要だよ・・・君にはね・・・」
わざと強引にブラをまくり、小ぶりの胸を露出させる。
持ち上げた反動でふるり、と揺れる乳房を強めに掴み、
彼女の目をじっと見据える。
声を出す事も出来ずに居る彼女の目に浮かぶ涙と恐怖に、
嘉月も俺も満足を覚える。
反対の乳首を口に含むと、ますます身悶えが強くなる。
必死、なのだろうけど、未だに自分がされている事が信じられなくて、
その分力は弱まりがちだ。・・・信じたくないんだろう?
今自分がされている事が・・・でも。分らせてあげる。
彼女のスカートをまくると、太ももをぴったりと力を入れて合わせていた。
嘉月は。男との睦言なんて何も知らないくせに、と。
俺は、アイツとはしたことがあるだろうに、と。
強引に自分の足で膝を割った。
下着の隙間から指を入れ、
周辺をなぞると内ももに震えが走る。
突起を捏ねると、彼女から押し殺した呻きが聞こえる。
「・・・こんなことされて、濡れるんだ?」
強引な刺激に蜜が滲んだ下着を引きおろし、
中指を静かに沈めていく。
・・・?これは・・・何の抵抗だろう・・・?
指に普段と違う抵抗が纏わりつく・・・
嘉月は、美月ならそうだろうと分っていた。
俺は、ただただ衝撃を受けて・・・
まさか、初めてだなんて・・・
涙を浮かべて掠れた声で喘ぐ彼女に、再びキスをする。
ここで止める事は、嘉月が許さない。
でも、俺は・・・全てを奪い切ってしまう訳にはいかない。
乳首を緩急をつけて吸いながら
クリトリスを震わせていると、
不意に彼女が一際高い声を上げて痙攣した・・・
・・・イったか・・・
焦点の合わなくなった目をした彼女と、乱れた衣服。
嘉月はそれを携帯で画像に収める。
俺は、撮りながら彼女の姿を整えていき・・・
意識が戻ってきたときに俺を見た君は、美月だったのか、キョーコだったのか。
とまどう目だけが、確かなものだった。
「・・・どうして・・・で・・すか・・・?」
目を潤ませて君が問う。泣き出す寸前の瞳が俺を捕える。
「それは美月が聞いているの?それとも最上さんが?」
「・・・両方、です・・・」
「どっちの返事から聞きたい?」
「・・・じゃあ、美月から・・・」
さっきの行為の名残なのか恐怖からなのか、
君の声は切れ切れで・・・か細くて。
「・・・嘉月はね。自分の復讐の為にどうしても美月を遠ざけたかった。
同時に、口封じをしなければいけなかった。
彼女の態度から、操に何がしかでも今日の事が伝わったら
復讐が出来なくなってしまうからね。
だから・・・傷つけ、脅すために・・・無理強いしたんだ。」
「じゃあ、敦賀さん・・・は?」
俺?俺はね・・・でも本心は言えないから。
「俺はね、どちらかというと嘉月を止めた方かな?
復讐の鬼の嘉月なら、今の段階では美月を傷つける事を辞さない。
だから、確実に口を封じるためなら・・・最後まで抱いてしまっていたはずだ。
そして、ひどく無残な証拠を彼女に見せ付けた筈だよ。
・・・こんな生易しいものじゃなくてね」
俺の視線を受けて、彼女はびくり、と肩を震わせた。
携帯の画像を見せると、真っ青になって震えている。
・・・無理も無いけど・・・
「・・・落ち着いて。今全部消すから」
彼女の見ている前で全ての画像を消し
彼女の画像が全て無くなった携帯のメモリーを見せると、
ようやく彼女は大きななため息をついた・・・
「・・・ここまでするつもりは無かったんだけど・・・
つい嘉月に引きずられてしまった。ごめん。
怖かったろう・・・こういう事、初めてだったんだね・・・?」
「・・・はい・・・最後はもう美月が嘉月を怖がってるのか
私が敦賀さんを怖がってるのか分りませんでした・・・
どっちにしても、何もかもが初めてでしたし・・・」
「・・・それって・・・ひょっとして、・・・キスも?だって君不破と・・・」
「・・・全ー部、何もかもが初めてですよ!!
アイツには肩すら抱かれてないんです!
アイツにとって私は家政婦であって、女じゃなかったんですよ!!」
ああ、なんかもうヤケになっちゃったみたいだ・・・
いろんな事がありすぎてオーバーヒートしてる・・・(汗
「・・・じゃあ、不破と一緒に暮らしてたときに、
こういう事されてた方がよかった?」
「そんな訳ないじゃないですかーーー!!!
こんな・・・恥ずかしい・・・コト・・・(泣」
「・・・君も大概矛盾してるね。
君が不破に女として意識されてたら、
とっくにこういう事されてるよ・・・
っていうか、もっとすごい事されてるんだけど。間違いなく。
君にとっては・・・どっちがよかったの?」
彼女は、しばらく考え込んでから・・・
「分りません」と、ぽつんとつぶやいた。
俺はしょげてしまった彼女の両手を取り。
「・・・気が向いたらゆっくり考えてみるといい。
本当ならこんな強引にする事じゃないんだし。
・・・それはそれとして、
今回俺がしてしまった事は掛値なくヒドイことだから・・・
本当にごめん。あやまって済むことじゃないけど、
どうしたら許してくれる?
・・・俺に出来る事なら、なんでもする。」
「・・・確かにセクハラ極まりなかったですけど・・・
敦賀さんなら、もう二度とこんな事しませんよね?」
それはどうだろう・・・正直自信が無いな、とは思ったが、
静かに頷いて見せ彼女の目を覗き込んだ。
彼女の目はまだ潤んでいて、今にも零れてしまいそうで・・・
「ならいいです・・・明日、大丈夫そうですか?」
「ああ・・・君のおかげだ。大丈夫だよ。
・・・きっと上手くやってみせるから見てて。」
「絶対ですよ?!乙女がココまで協力したんですからね?
絶対に明日社長をぎゃふんと言わせてください!
でないと今日の事、許してあげません!!」
分った、約束する、と俺が苦笑して見せると、
彼女もようやっと笑顔を見せてくれた。
後は他愛も無い演技の話を取り混ぜながら夕食を食べ、
彼女を下宿先に送っていった。
明日は絶対に大丈夫だよ・・・君のおかげで。
触れてしまったときの衝動も、
湧き上がる愛情も認められない憎しみも、全て。
・・・君が俺に教えてくれた・・・
そして。
一番綺麗だった君の画像を一枚だけ
シークレットで保存したのは、君には内緒。
今後二度と君に触れてはいけない、俺だけの秘密――…