『衝撃!抱かれたい男No. 1俳優・敦賀蓮はプレイボーイ?!』
なっ!?何なのこの記事?あり得ない、あの人に限って…
カツ カツ カツ カツ
ヒールの音を高らかに鳴らしながら、
爆走と呼ぶべきスピードで大手芸能プロを闊歩する新人女優
彼女の片手には、クシャクシャにされた週刊誌が握られている
グヮタンッ
扉が外れそうな勢いでドアを開け、開口一番部屋の中にいる人物に問いただす
「ちょっと、コレはどう言う事!?」
「ほへっ?…モー子さん、ど、どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもないわよ!
あんた、この記事まだ読んでないの?」
バシンッと勢いよく雑誌を叩きつける女優に
目を丸くしているのは、新人タレントで同期の少女
投げ出された雑誌の表紙からそれが、
かの悪名高いゴシップ紙と判断する
「普段から、あんまりゴシップ記事は読まないから…まだ…」
「噂話に花咲かせる女どもと違うあんたのそんなところは好きだけど、
今回ぐらいは読みなさい…何たって、」
「モー子さ〜〜〜ん」
ドワワワワッ
滝の様に涙を流しながら女優にタックルするタレント
余りの勢に控え室でもある部室の床に転がる二人
「お願いっ!もう一回言って!!」
「へっ?何言ってんの?…今回ぐらい読みなさい?」
「その前よ!」
「…あんた、この記事まだ読んでないの?…」
嫌な予感がする…自分は勢いで変な事を口走らなかっただろうか
「もー、その後!」
やっぱり…
「…噂話に花咲かせる女どもは好きじゃない…」
虚しい抵抗を試みる…
「何でセリフが変わってるの〜!
さっきは私の事好きって言ってくれたじゃない!」
ブンブンと親友に抱きついたまま相手の身体を揺する少女
「…し、知らないわよ。聞き違いよ、聞き違い。
そんな事より、コレ読みなさい!」
パシッと雑誌を渡して話をすり替える
「そんな事じゃないわ。親友から滅多に聞けない好きって言葉をもらったのよ…」
ブツブツつぶやきながら雑誌に目を通す少女、
その顔が段々と色を無くして行く
「なっ、なっ…うそっ……」
思わず漏れ出た驚きの言葉、それすら最後には無くなって、
顔面蒼白で震えだす彼女を見て新人女優は後悔した
まさか、こんなに取り乱すなんて…
こんな事なら見せるんじゃ無かったかも…
これだけのスクープ、何れテレビや新聞でも取り上げられて
嫌でも目にするだろう事は分かっているが、彼女の様子に戸惑いを隠せない
「ご、ごめん。そんなに動揺すると思わなくて…大丈夫?」
今にも泣き出しそうな顔をゆっくりとあげ、すがりつく表情に胸が痛む…
「…ごめん…」何と言っていいのだろうか、謝罪の言葉しか浮かばない…
少し前から付き合っているものと思っていた親友とかの俳優
しかし、スクープされたのは親友ではない女
しかも、1人や2人ではなく複数、時間も場所も様々ときた…
相手もお嬢様風からお水系まで色彩も豊である
Boostもこのスクープに力をいれていたのか、
写真も綺麗に取れているのがまずかった
「…どうして……」
ポツリと呟く少女の声が重く深く部屋に響く
コンコン
不意に部室のドアがノックされた…ここにやって来る客人は少ない
「…どうぞ」
一瞬の迷いの後、ドアの向こうにいる人物に確信をもって迎え入れる
「…お邪魔するよ…」
動揺している親友と客人の間に立ち、相手に強い眼差しを向ける女優
「…お久しぶりです。今日は、どういったご用件で?
依頼でしたら椹さんをお通しいただけますか?」
言葉丁寧に声音も優しく…しかし、その目線は確かに
非難の色を含んでいる
「…その様子だと、例の記事を読んだ様だね」
後悔や謝罪、後ろ暗さのない様子で静かに指摘する俳優
「えぇ、読ませて頂きました。キョーコも今さっき…」
本来は、二人の問題であり自分は関わるべきではない
しかし、ここまで動揺する親友を見捨ててはおけなかった
「キョーコ?…やっぱり…こうなるんじゃないかと思ってたよ…」
震える少女の様子を見て呟く俳優
女優であり彼女の親友でもある女性の脇をすり抜け、
絶望に打ちひしがれる少女の手を取る
「…つ、敦賀さん……わ、私…」
言葉が中々出てこない、震えたままの彼女からは
何時もの笑顔の片鱗も見当たらなかった
「ごめん…まさか、こんな写真を…」
「……」
「これじゃあ、言い訳…出来ないよね」
「…っ!」
「…キョーコ、そろそろ…潮時だと思うんだ…俺たち…」
プチンッ!紙縒りの様に細くなっていた堪忍袋の緒が切れた
「何ですかそれ!写真が無かったら、二股どころか
十股でもする気だったんですか?!」
切れたのは、後ろから二人の様子を見ていた女優
「敦賀さんは、キョーコにベタ惚れだと思ってました。
こんな…この子を裏切る様な真似すると思わなかった!
大事な親友を預けても安心だなんて思ってたなんて…
自分に腹が立ちます!」
突然怒りをぶつけられた俳優は、目を見開き、次いでフッと微笑んだ
「ありがとう。そんな風に思っててくれて」
「なっ、何を!」
「うん、俺は彼女が好きだよ。彼女無しでは立てないほどに溺れている」
恥ずかしげも無く、そんなセリフを口にする俳優
「じゃあ、どうしてこんな…」
こんな…複数を相手にしている写真が取られるのだろう…
これまで噂一つ無かった俳優が!
「…キョーコ」
「敦賀さん…私…」
「記事の事は…気にしなくていいよ。何れ分かる事なんだし…」
「でも…!」
「言ったろう?早めに公表すべきだって…」
「…そうです…けど…」
「だから、午後に時間を頂戴?社長が場所を用意してくれるから…
ねっ?諦めて…」
「…わかり、ました…」
何だろう…話が…噛み合わない?
「じゃあ、1時から記者会見するから、それまで君のミューズに変身させてもらっておいで…」
「…はいっ…」
心なしか嬉しそうな俳優と、この世の終わりの様な親友…
みなまで言わずともピンときた
…嵌めたわね…
恐らく、自分なんかと付き合っているのが暴露たら
経歴に傷がつくとか何とか渋がっていた彼女を化けさせて、デートを楽しみ
更に、付き合っているのを公表なんて出来ない
と恐れ戦く彼女をその気にさせる為この記事を利用したんだわ
…キョーコの思考を読んでるわね…
部室の隅で横から見ればラブシーンとしか取れない慰め方を
している俳優に当てられ、諦めて静かに部屋を後にする女優
あの子…大丈夫かしら…
質問には、場慣れしている俳優が対応するだろう…
彼女の評価は世間でもけして低くはない。
必要なのは、自信だけ…
午後1時、社長プロデュースという事もあり、
勿論テレビ中継される記者会見
そこに現れたのは、凛としたスーツ姿の俳優と
清楚なワンピースに包まれた可憐な女性
少女から大人へと階段を登り始める美しさが際立つ
そんな二人の様子に、思わず静まり返る一陣
それもそのはず、釈明会見かと思いきや女性を率つれての会見である
「敦賀さん、そちらの女性は…」
記者会見の順序も段取りもなく、思わず漏れる質問
「彼女は、タレントの京子さんです。真剣にお付き合いをさせて頂いております」
「…えっ?あの、未緒やナツの…?」
真っ赤になる彼女を見て会場が響きに包まれる
「えっ…そ、それでは例の写真の女性達とのお付き合いは…」
「真剣ですよ…全て…こちらの京子さんですから」
先ほどより大きな響きに包まれる会場、視線が一気に少女に注がれる
恥ずかしくなり、耳まで紅く染める女性は余程写真の人物達とは思えない
「この通り、彼女は恥ずかしがり屋でして…」
変装のきっかけや馴れ初めを話す俳優に、会場も納得の色を醸し出す
蓮が彼女にのめり込んでいるのは傍目にも明らかだ
「…なるほど。しかし、京子さんがこんなに美しい女性だったとは…」
「…本当は、自分だけが知っておきたかったんですけれどね。
そうも言っていられませんし」
クスクスと笑う俳優につられて会場に明るい雰囲気が漂う
「…そうですね、自分なら何処から馬の骨が現れるか気がきじゃないですよ」
「えぇ、だから名実共にと思いまして…」
先ほどまで記者に向かい愛想良く答えていた蓮は
キョーコに向き直り少女の手を優しく取る
「…キョーコさん。これからの人生、役者としても個人としても君と共に歩んで生きたいです。俺と結婚してください」
そこに差し出されたのはキラリと光る婚約指輪…
交際発表で、いっぱいいっぱいの彼女は…彼の目をみるなり意識を手放した…
…っ!全て計算尽くね!
テレビの前でワナワナと震える女優
あんな婚約指輪なんて数時間で用意出来る物ではない…
週刊誌のスッパ抜きもわざとかもしれないと思うと、
気絶している親友の幸せを祈る以前にを不憫に思ってしまう…
「あんた、エライのに惚れられたわよね…」
諦めを含んだ声が小さく響いた
いくら湾曲思考の彼女でもこれでは言い訳出来まい…
「本当…キョーコの思考を読んでるんだから…」
そこには、この後の騒動を考え何とか親友の為に
午後をオフに出来ないかと頭を悩ませる女優が一人