忙しかった撮影も終わり、やっとホテルに戻ってきた。  
妹は、お気に入りのブーツを片方脱いだ時点で体力の限界を感じたのか、そのままベットに音を立ててうつ伏せに倒れこんだ。  
「は〜疲れた」  
早朝から深夜に渡る撮影で、妹よりも疲れている筈の兄は、特に不満も漏らさず微かに軋みを上げる隣のベットに腰を下ろす。  
「……」  
兄が静かにこちらを伺う様子に気が付き、顔だけ兄に向けて尋ねる。  
「ん、どうしたの兄さん?」  
「……セツ」  
名前を呼ぶと兄は彼女を軽々と抱き上げ、少し乱暴に自分の側に引き寄せる。  
「キャッ!」  
驚き身じろぎする妹。  
「……セツ」  
もう一度妹の名前を呟き、後頭部を優しく撫でる。  
「…うん…」  
大人しくなった妹の髪にキスを落とし「ご褒美だ…」と小さく呟いた。  
 
 
あれから…何かとカインからの「ご褒美」が増えた気がする。  
セツは、嬉しい。大好きな兄にギュッとしてもらい髪にとは言えキスまで貰えるのだから!もう、毎回「ご褒美」が待ち遠しくて仕方がない…!!  
 
 
でも…「私」は違うんです〜!!  
カインだと分かっていても心臓に悪くて、毎度「ご褒美」をもらう度に何処か「お仕置き」をされている気がしてならないもの!!何故?!気が付かない内に何か敦賀さんのイラツボ着く様な事をしたのかしら!?  
 
口に出来ない心の叫びは、鏡に映る顔色悪く、しかし頬を染めた彼女の中に消えていった。  
 
 

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