いつもキョーコが蓮に送ってもらう公園の道路脇に車を止めて、二人は向き合っていた。
深夜という事もあり、人影はまばらだ。
暗闇の中で街頭のうっすらとした明かりと、車のハザードランプだけが、チカチカと点滅して光っていた。
「今日は楽しかったです。」
白い息を吐き、頬をほんのり赤くしながら、キョーコは言った。
「こっちこそ。」
笑ったキョーコの耳が、外気で冷やされたせいか赤い。
寒いから、早く帰ったほうが良い・・
そう言わなければいけないと、蓮は頭では思っていたのだが・・
(もう少し、こうして二人で向き合っていたい)その思いが蓮を動けなくさせていた。
やがて話す事もなくなり、二人の間に沈黙が訪れた。じぃっ、と見つめる蓮の視線にキョーコはそわそわする。
な、なんか今日の敦賀さん・・変・・
どぎまぎしながらも、キョーコは蓮の顔を見上げた。
二人の視線がばっちり合う。
(あ・・)
どきん、と鼓動が跳ねた。
蓮の左手がすぅ、とキョーコの頬に伸ばされる。
「冷たい・・」ぽつりと蓮が呟く。
そして、蓮はキョーコの予想外の事をした。キョーコの頬に蓮が唇をそっと押し付けたのだ。しっとりとして、温かい感触。
そして蓮の親指がキョーコの唇をなぞる。
指が唇を横に行ったり、来たり。
蓮の熱いまなざしがキョーコを捕らえる。
蓮はすっかり帝王モードになっていた。
「最上さん」
「は、はいっ」
キョーコは上ずった声で答える。
「キス、しても良いかな?・・ココ、なんだけど」と、蓮はキョーコの唇を指でつんつんと触った。
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃ〜〜いっ!?!?な、何をおっしゃっているのか」キョーコはすっかりパニックになっていた。何でそんな事言うんですか〜?
敦賀さんと・・・あーっ、私、今、イヤラシイ妄想をしたーっ!?
そんなキョーコの様子を見て、我にかえった蓮は軽く冗談交じりに「嘘だよ」と言い、続いて「お休み」と言って、その場を去っていった。
後に残されたキョーコは顔を茹で上がったタコのようにしながら、呆然とその場に佇んでいた・・・・・。
「は、はくしゅんっ」
キョーコが大きなくしゃみをすると、
「風邪かい?キョーコちゃん?・・お大事にね」と、社が心配して言った。
「はぁ。どうも、です・・」
キョーコは社に答えた後、隣にいた蓮をちらりと見た。
敦賀さんが昨晩、あんな事を言うから・・
キョーコはあの後1時間も惚けていたのだ。
「俺、ちょっと抜けるよ」
そう言って社がその場を去ったのを確認すると、
「もう笑えない冗談は止めて下さいませんか?」とキョーコは蓮に言った。
二人にしか分からない会話。
蓮はニヤリと笑うと、キョーコの耳元で囁いた。
「本気だよ」
キョーコはその晩、熱を出してうなされたのは言うまでもない・・・・