ん〜ら〜ら〜ら〜らら〜ら〜
ら〜ら〜らら〜ら〜
最近よく浴室から聞こえるようになった歌声
今日は、新曲で何時もより調子が良いみたいだ
【ハニー・バス】
「もう、また!私が戻って来るまでに、スープだけでも飲んでること!」
「・・・」
「まったく・・・ダメっこ兄さんなんだから。」
ブツブツ良いながら彼女が向かう先はキッチン
食欲も無いし、夜中にこれ以上は食べられない
「これだけで十分だ。」
「違うわよ。コレは私の分。」
備え付けのキャビネットから何かを取り出してバスルームへ向かう妹
「風呂で酒は、お前には早い。」
「ぷっ、兄さんじゃないんだから。」
カラカラと笑う彼女が差し出したのは、テーブルスプーンと蜂蜜
何の事か分からずに無言の俺を見て嬉しそうに説明し始める
「モー・・・と、友達に教えて貰ったの。ハニーバスにするのよ、肌がスベスベになるんだって!」
るんるんと、今にもスキップでもするんじゃないかという様子ですバスルームへ消える彼女
ハニーバス・・・彼女の柔肌から立ち昇るであろう仄かな甘い香りを想像し、カインの仮面が外れる
「・・・何でそんなにも無邪気でいられるんだ・・・」
男として見られていない事は、十分分かっているが・・・
「危機感持とうよ、最上さん・・・」
ガックリと項垂れていると、何時の間にか彼女が上がっていた
セツカ仕様のナイトウエアに、何時もはきっちり乾かす髪をタオルドライのままの戻ってきた
「・・・髪」
「あぁ、ドライヤー壊れてるみたい。明日、交換してもらわなきゃ」
兄さんも本当は、ドライヤー使うべきなのよと小言を言いながら、近づく彼女
「ほら、まだ濡れてる!私より先に入ったのに。」
もう、と膨れるほっぺも可愛くて愛おしい
そして、おもむろに肩に掛けてあったタオルを取り出して俺の頭を乾かし始めた
「・・・!」
「ほら、じっとして。何もしないよりマシよ!」
ふわりと香るハチミツの香りが俺を誘う
華奢な指が髪の間を通り、整えられていく
「・・・本当に、悔しい位気持ちいいんだから ・・・」
彼女が何かを呟いたが、小すぎて聞き取れない
「ん?何か言ったか?」
「何でも。」
流されたかな、と思っていると後ろからハミングが聞こえてきた
バスルームから聴こえてきた音楽と同じ
「何の歌だ?」
「ん〜?そうねぇ、ハチミツの歌ってとこかしら?」
なんでも、セツカ作曲らしい
「そんなにハチミツが好きだったか?」
「ハチミツの香りって似てるのよね〜」
「・・・」
また、はぐらかされそうだが、あえて何のと聞いてみる
「・・・セラピー?」
なぜ疑問系なんだ?やっぱりはぐらかされたなと思いつつ、彼女の手を取る
「どうしたの兄さん?」
「・・・」
「きゃっ!」
腕を軽く引いてベットに引き寄せる
「・・・貸せ」
彼女の手からタオルを取り上げ、まだ水の滴る彼女の髪を乾かしていく
暫く二人言葉もなかったが、不思議と苦痛ではなく穏やかな時
「・・・やっぱり、セラピー・・・」
小すぎて聞き取れないほどの呟きは、彼女の唇の中に閉じ込められたまま
Fin