ダークムーンのメディア向け打ち上げ会場。
キョーコは、明日放送される特番の撮影班に囲まれていた。
これが本当にダークムーンであの未緒を演じた人間なのかと、息を呑む撮影班。
「今回初めてお目にかかりましたが、我々も『未緒』と
普段の京子さんとのギャップに驚きを隠せないのですが……
未緒の役作りで、何か心がけたことなどありましたか?」
インタビュアーの質問を、少し伏し目がちになり反芻するキョーコ。
「そうですね……役作りは……、」
―――思い出してごらん?未緒はどういう環境で育ったか……―――
キョーコの脳裏によぎる蓮の言葉。
「……未緒は可哀相な人なんです。あの傷は彼女の憎悪の証で………」
少し上気した頬で、悩ましげ語るキョーコに
同性ながら色気を感じるインタビュアー。
「……それにしても驚いたな、キョーコちゃん。
ナツの時も綺麗で見違えたけど……
今回はそれ以上かもしれないな……」
撮影陣に囲まれているキョーコを遠巻きに見ながら
隣にいる蓮に話しかける社さん。
「今回の打ち上げでのドレスアップ姿が放送されれば
世間がキョーコちゃんに抱いたイメージも180度変わるだろうし、
うまくいけばキョーコちゃん、一気にスターダムにのし上がるかも……」
ここまで言って戦慄する社さん。
(俺としてはなんでキョーコちゃんが
貴島に連れて来られたのかも謎なんだけど……
俺ですら若干ショックなのに蓮くんの胸中はいかほど!?)
恐る恐る目を向けると、「……って、あれ?蓮!?」
さっきまでそこにいて、入れ代わり立ち代わり挨拶にくるスタッフに
笑顔を振り撒いていた主演俳優の姿がなくなっていた。
「あ……あのぉ、敦賀さん……?」
パーティー会場があるホテルの一室。
壁に背をもたれ、蓮に詰め寄られるように凄まれたキョーコ。
「……なに?」
壁に手をつき、キョーコを見つめる蓮。
今回、メディア向けの打ち上げで長丁場が予想されていたため、
ダークムーンのスタッフが出演者の控え室としていくつか部屋を用意していた模様。
「あ、あの、何か怒ってらっしゃいます……?」
「別に怒ってないけど……」
しれっと答える蓮。
(えぇ、あなたは怒ってないんでしょうね。
私からも出るべきレーダーが出てないし……
でも、じゃあこの状態はなんなの!?)
わけがわからず、目を回すキョーコ。
特番のインタビューを終えた直後、蓮に「最上さん、ちょっと。」
と呼び出され先輩の誘いを断るわけにはいかないと
不本意ながらついて来たところ、狼に睨まれた子ウサギのような姿に。
(っていうか今のこの状態で敦賀さんと二人きりでなんていたくないのに!
なんとかしてこの場から逃げ出さないと!!)
「それで敦賀さん、何かご用件があったんじゃ……?」
なんとか仲居スマイルで対応するキョーコ。
「用件がないと、君を呼び出してはいけない?」
「あ、いえ、そんなことはございませんが……
撮影班を始めスタッフの皆さん下でお待ちでしょうし、
主演俳優が長く場を空けるわけにはいかないのではないでしょうか……」
しどろもどろ応えるものの、相変わらず無表情でキョーコを見つめる蓮。
「あ、あの……それに私も、
今日は貴島さんにエスコートしていただくお約束もしましたし、
あまり長く離れてご心配かけるようなことになると申し訳ないですし……」
『まさか貴島さんに限ってそんなこともないでしょうけど』
と続けようとしたところで怨キョレーダーが発動。
「……へぇー。ずいぶん仲が良くなったんだね。」
声のトーンが急に険しくなる蓮。
(い、いやぁぁぁぁ!!なんでここで大魔王降臨!?)
わけがわからず戦慄するキョーコ。
「君……、男が女性に服を贈る意味がわかってる?」つーっとキョーコの長い髪に指を滑らせる蓮。
かつて見た夜の帝王の視線に、
「貴島さんは好奇心からドレスアップした私が見たい、と。」
と目を泳がせるキョーコ。
「君は本当に騙されやすいな……」とため息をつきキョーコの腕に指を這わせ、
ドレスの肩紐をツイっと引っ張りあげた蓮に驚くキョーコ。
「覚えておくといいよ。
服は着せるために贈るんじゃない。
脱がすために贈るんだってね。」
そう言いキョーコの背中に手を回し、ドレスのジッパーを勢いよく下げる蓮。
「な……、やっ!どうして敦賀さんが!?」
「貴島なら、良かった?」
「そういうことを言ってるんじゃありません!」
蓮は、パーティー会場でキョーコが貴島と腕を組んでいたときのことを思い出す。
(初めは怒りよりも、ただ単純に驚きだった。
あまりにも美しい君の姿と、なぜ隣にいるのが貴島なのかと。
その後貴島から事の顛末を聞いて、どうしようもなくやるせない気持ちに襲われた。
俺だけが知っていたはずの君の魅力が、誰にでもわかるような形で、
好奇の目に晒されたこと。そして……)
『あ、あの……それに私も、
今日は貴島さんにエスコートしていただくお約束もしましたし』
先ほどのキョーコの言葉に、グッと拳を握りしめる蓮。
(君が俺より貴島を選んだこと、ショックよりも今はやり場のない怒りに変わっている。)
「最上さん……」
ようやく口を開いた蓮、キョーコの顎を持ち上げ、唇を重ねる。
以下、花とゆめ4月5日発売号に続く。
次回一回休載。
アオリ「ついに決壊した蓮!突然のキスにキョーコは!?」