「それって、つまり敦賀さん、私の事どうにかしたいっていってます?」  
 
細い指を這わせ、頬杖をつき俺を見る君は  
まるで、俺の知らない恋の駆け引きを楽しむ大人の様だ  
 
「…そうだと言ったら、君はどうする?」  
 
男として見られていない事は百も承知  
ストレートに言ったとしても気にもかけてもらえないだろう  
良くて、貴島の様に冗談と思われるだけだ  
 
「……」  
 
頭を過ぎったのは、出会って間も無い頃の記憶  
冗談として言った「俺の事が嫌いなのか」との問い掛けに言葉を詰まらせた君  
 
好きだとは、思われていなくとも君の口から否定の言葉を聞きたくなくて  
沈黙に耐えられなくなった俺は…弱い…のだろう  
けれど、どうしても、本音を伝えたい衝動を抑えられない  
 
「俺にとって君は大切な存在だから…」  
 
再び、短い沈黙が落ちる  
 
「…妹の様に…大切な…だから、一人にしておけない。」  
 
演技だとしても、君の目を見ながらこんな事は言えず  
インタビューの進行具合を確かめている様に装い、彼女から視線を逸らしてしまう  
役者としては、失格だろう  
社長の笑い声が聞こえて来る様だ  
 
「……妹、ですか?」  
「あぁ…」  
「それは、セツカだから?」  
「…彼女も、君も、俺には大切な存在だ。」  
 
また、静寂が辺りを包む  
 
もう、彼女への気持を否定するつもりはない  
ただ、せめて彼女が恋をする準備が出来るまで待とうと思った  
 
だから、あえて妹の様に大切な存在だと伝えたけれど……  
これ程恋しい君へ、こんな嘘をつき通せる自信が無いのも事実  
 
「じゃぁ、何故 最上さん 何ですか?」  
「えっ?」  
「恵さんの事は、恵姉さんって呼ぶのに…」  
 
あぁ、さっきの会場でのやり取りを彼女にも聞かれていたのか  
君こそ、周りの男どもに褒められて楽しそうにしていたじゃないか  
 
それに、  
 
「名前で呼んで良いのは、君の王子様だけだろう?」  
「…?」  
 
一瞬何の事か分からなかった君の様子を見て、自分の失態に気がついた  
 
「そんな事…私、敦賀さんに言いましたっけ?」  
「あぁ、何時だったか…教えてくれたよ。」  
 
内心焦りを覚えつつ、何とか話を合わせる  
小首を傾げる君は、恐らく記憶を辿っているのだろう  
小さなため息を吐いて、続けられた言葉  
 
「…イイですよ…敦賀さんだったら、名前で…呼んで下さって。」  
 
恐らく俺の目は、期待という熱が込もっているだろう  
声も…上ずってはいないだろうか  
 
「…それは、キョーコって呼んでも良いってこと?」  
 
僅かに、彼女の肩が揺れたけれど…その表情からは何も読み取れなくて  
 
「はい、かまいません。…妹の事、苗字で呼ぶ兄さんはいませんし。」  
 
朗らかに微笑む彼女を見て、その薄桃の唇から漏れる  
「妹」「兄」という単語にショックを受ける自分が煩わしい…  
自分で話を振っておきながら…余りにも早く訪れる後悔にそっと肩を落とす  
 
「…そうだね、キョーコ。俺の事も、蓮でいいよ。」  
 
…ずっと…呼びたかった彼女の名前  
 
「そんなっ!先輩の事呼び捨てになんて出来ません!」  
「兄…みたい…なんだろう?蓮、でいいよ。」  
「……っ!」  
 
本気で、どうするべきか葛藤している君  
 
本名でなくても、せめて名前で呼んで欲しいなんて…俺の気持には気がつかないだろう  
 
結構な時間が過ぎて、そろそろ前のインタビューも終わろうかと言う頃に彼女が小さく呟いた  
 
「……蓮さん……でも、イイですか。」  
 
「妹の様な存在」として「兄の様な」俺を呼んでいると分かっていても  
愛しい彼女から呼ばれる名前には、特別な魔法が掛かっているらしい  
 
「もちろん、キョーコ。」  
 
きみは、何時も俺に色々な感情と不思議な力を与えてくれる  
 
名前で呼ぶ事が恥ずかしいのか、頬を染める彼女が愛おしくて  
「妹」ではなく、「彼女」として側にいて欲しいと  
何時か伝えられる日まで…  
 
「敦賀さん、京子さん、お待たせいたしました。インタビューお願い致します。」  
 
スタッフから、声が掛かる  
 
「じゃぁ、キョーコ。」  
 
手を差し出した俺に、一瞬戸惑いを見せた君  
 
…その時まで…  
 
俺は、君を連れて行こう  
君の望む場所へ  
何時か、隣に立ちたいと言ってくれた君  
演技する事が今の君を、最上キョーコを作り上げるのなら  
俺の持てる全てを君に捧げよう  
 
「行こうか?」  
 
そっと、添えてくれた君の手からその温もりが伝わる  
 
「はい!」  
 
大空を飛べる魔法の羽を与えてくれたのは、他でもない君だから…  
 
一緒に行こう、光の舞台へ  
 
そして、  
 
…望んでも良いのなら、君との未来を…  
 
 
 
Fin  
 
 

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