「敦賀さん」
あえて、こんな切り替えしでいってみよう
「それって、つまり敦賀さん、私の事どうにかしたいって言ってます?」
「……」
そうすると、敦賀さんがすっとソファーから立ちあがった
「ひゃふぅっ!」
「この口か?そんな事を言うのは?ん?」
「ひゃひふぅぉひゅりゅんれりゅひゃ?!(何するんですか?!)」
むにゅりとほっぺたを両方から摘まれた
折角大人っぽい感じで切り返したのにっ!
「君が、そんな事を言うからだよ。どうせ、俺が本気だと言っても信用しないくせに。」
「そんな事って何ですか?敦賀さんが、服を贈ったり肩や腰を抱くのは下心があるって教えて下さったんじゃないですか!」
「それで、どうしてそうなるかな?ん?」
あなたがそれをいいますか?
「つっ、敦賀さんだって、服を買って下さったり、キッキスしたり、抱きしめたり、膝枕要求したり…お、押し倒したりしてるじゃないですかっ!」
「……」
「それに、一番に敦賀さんに言えなんて…敦賀さんは優し過ぎるんです。そんな事されたら…誰だって誤解してしまいます。だっ、だからですっ!」
「…それって、君もそう思ったって事?それとも一般論?」
「…っ!」
「……」
何も言えなかったし、言いたく無かった
「質問を変えようか。貴島が君に告白した時、どう思った?」
「…最初は、冗談かと…」
「だろうね。でも、彼は本気だって言うじゃないか」
何故こんな事を言われるのだろう
貴島さんが本気だろうと関係無いのに…彼は「違う」のだから
「それはっ…!敦賀さんも見ていらっしゃったじゃないですか。その件については、お断り致しました。」
「でも、彼はまた後でって。あれは、諦めて無いと思うけど?」
「〜っ!あれ以上、どうすれば良いんですか。先輩に失礼な態度はとれませんし…告白されるのがこんなに疲れるとは思いませんでした。」
言葉尻が弱くなるのは、心の警鐘のせい?
「…良い考えがあるんだけど?」
「…何ですか?」
「君は、LMEに入った頃の事を覚えている?愛し愛される事が大切な芸能界で、その意味を見出せなくなってしまった君が社長に誓った言葉を?」
忘れるはずが無い
「…人として大切な事を取り戻せる様にと、」
「君は、リハビリをすれば治ると思うと言ったそうじゃないか?」
「…はい。」
確かに、そう言った
「貴島の申し出は、ちょうどいいリハビリになるとは思わなかったの?」
「…っ!それは、貴方がっ!」
「ん?俺がどうしたの?」
「…二度目は、無いって…私は、あの時誓いましたから…」
そして、気がついてしまったから…他の人では駄目なのだと
「うん、だから…丁度良いと思うんだけど?」
「何がです?」
「そのリハビリ相手?それに、男除けにもね。敦賀蓮と言う物件は、かなりお得だと思うけど?君の相手が俺だと知って言い寄ってくる奴は少ないだろし?」
…っ!よりにも寄って、何を言い出すのだこと人は?冗談にも程がある!
「そりゃ、敦賀さんより高級物件なんて何処にも無いと思いますけれど。でもっ!」
「それとも、君は俺の事が嫌いか?」
ズルイ…そんな風に聞かれたら…違うと、好きだと叫んでしまいそうになる
「…そんな事、あるわけないじゃ無いですか。」
「それじゃあ、構わないね?」
とても嬉しそうに笑った彼は、優しく私の手をとり
右手を取りそこにはめられていたアクセサリーを外す
「本当は、もっとちゃんとした物が良かったんだけど…ゴメンね?」
そしてポケットから無造作に取り出された指輪を私の指へ通す
「コレ、誰が贈ったか聞かれたら、素直に言っていいよ。」
余りにも急な展開に、何でこんな物を用意しているんだとか、どうしてこんなことをしてくれるのかとか、スキャンダルになるんじゃないかとか、鍵なんてとっくに何処かへ行ってしまったとか…大切なあの子はどうするのかとか…全部をひっくるめて…指輪を見つめたまま
「どうして…?」
これだけしか聞けなかった
「もちろん、君が好きだからだよ?もうずっと…ね」
その言葉に驚いて見上げると、優しく微笑んでいる彼がいた
そして、そっと顔を近づけてバリトンの通る声で耳元で囁く
「…ねぇ、キス…していい?」
「なっ?!だ、ダメですっ!こんな所でっ」
「そっか…ここじゃ無かったら良いんだ。」
「えっ?」
インタビューももう直ぐなのにとか、本当に付き合うのかとか、何でいきなりキスなんだとか、どうしてこんな事になったのかとか、考える間もなく
あれよあれよとひと気の無い所へ連れていかれ…
…私は、生まれて初めて、腰が立たなくなるキスと言うものを経験した
End