「彼女は、俺の大切な人だ」  
 
私を広い背中で庇いながら言葉を投げつけたかと思うと、抱きしめられてその場から離れるように誘導された  
触れ合う腕から温もりが伝わってきて、逆に私の漏らす吐息から気持ちが伝わるのでは無いかと怖くなる  
そして、二人、人気の無い部屋へと入りそのまま抱きしめられた  
 
…何故、こうなったんだろう  
 
あの俳優が彼の事を馬鹿にしていた所までは覚えているけれど…  
このままの状況から、少しでも意識を逸らそうとこれまでの事を思い出そうとする  
 
「…愛してる」  
 
抱きしめられたまま、彼の顔が近づきそっと呟かれた  
 
 
………  
 
ここで、私の記憶は途切れている…  
 
確かに、欧米では気持ちを素直に伝えるのは当たり前  
抱きしめるのもスキップのうち  
ましてや「愛してる」というセリフにも違和感なんてあるはずもなく  
 
…それが家族に対する物ならなおの事…  
 
………  
 
…えぇ、分かってますとも…  
 
アレは、妹に対する「愛してる」であった事も  
「遊び人」である彼が女性の扱いが上手くて当たり前という事も  
 
だから、そんな目で見ないで欲しい  
真っ直ぐこちらを見る彼は、何もかも見透かしていそうで…  
 
たまらず彼に向かって手を伸ばす  
 
コトリッ  
 
「…違います。これは、悔しいとかじゃなくて…」  
「ましてや、セッちゃんが羨ましいとかでも…なくて」  
 
言葉を続けられないまま、そっと傍にあるコーンを手にする  
 
暫らくコーンには頼ってなかったのに…な  
 
「ほら、見えますか?…魔法、ですよ?月の光に当たって色が変わって…」  
 
何となく、話題を変えようとして、取り出したコーン…  
 
隣に見える彼の笑顔が、コーンと重なり…悪い魔法をかけられた瞬間を思い出させる  
 
「本当に…貴方は神の寵児なだけではなく、魔法使いですか?」  
 
コトリッ  
 
ふぅっ  
 
一つ大きなため息をつくと、不思議と気持ちが落ち着いた  
 
認めてしまえば、なんとは無い事  
 
「…ただ、このままだと悔しいんですよ?」  
 
「必ず貴方の隣に立って、認めさせて見せますからね?」  
 
女優としても…一人の女としても…  
 
「覚悟、していてください」  
 
笑顔のままの彼に向かって宣戦布告  
 
コーンを彼の隣に置き、明日からの戦いの前にジャブを一つ  
 
ちゅっ  
 
頬にキスを落とす  
 
相変わらず笑顔の彼を見つめて  
 
「本物にはこんな事できませんから、多目に見てください」  
 
イタズラ気に微笑んでそっと写真立てから手を離す  
 
「お休みなさい、敦賀さん」  
 
いつから?そんなのは分からない  
ポスターに睨みつけなくなった頃?  
それとも、壁から剥がして写真立てに入れた頃?  
毎日、何があったかを語りかけ始めた頃?  
分からない…けれど其れでも良いかと思う  
 
覚悟してくださいね?  
 
魔法使いの貴方に対抗できる  
妖精さんからもらったコーン  
そして、クイーンローザ様  
力をかしてくれているような、励ましてくれているような  
そんな気がするんです…  
 
必ず、隣に立って見せますから…ね?  
 
 

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