順調に撮影も終わり、次までの移動の隙間時間…  
真剣な表情で社が尋ねる  
「蓮…最近どうしたんだ?」  
「何ですか、突然?」  
何時もの如く笑顔でスルーされまいと更に言葉を重ねる社  
「いや、まるで彼(カイン)を演り始めた頃みたいに顔色が悪いからさ…何かあったのか?」  
隠す様子は無いが、若干言いにくそうな蓮の為…返事を待つ  
「……あったというか…」  
 
トントン  
 
突然の来訪者に、一旦会話を止め社がドアを開ける  
 
「こんちには、敦賀さん、社さん」  
そこにいたのは蓮の思い人であるキョーコ  
「キョーコちゃんっ!いらっしゃい」  
「最上さん、今日は撮影?」  
「はい、もうすぐCスタで…」  
何時もと変わらない会話…の筈だか何やら微妙な空気が醸し出される  
チラリと蓮の方を伺うキョーコ  
何時ものキョーコらしくなく、小声で話しかける  
「敦賀さん、その…今晩…」  
「…うん、終わりが10時以降になるから、先に…」  
「ご夕食はどうされます?お夜食とか…」  
「うん、お願いできるかな」  
「はいっ」  
その後、短い会話を交わして楽屋を後にするキョーコ  
 
そこで交わされる男同士の会話  
「おい…」  
「……」  
「貴様に黙秘権は無い…何があった?」  
「……別に…」  
「お前、まさか未成年に!」  
「ちょっ、出来るわけ無いでしょう!何を想像したんですか」  
「じゃあ、あの意味深な会話は何だ!あれは間違いなくお前の家に行く約束だが、俺はラブミー部に依頼はしていないっ」  
 
そして語られる事実…  
 
BJの撮影が開始して間もなく、何故か(理由は誤魔化された)ダッコちゃん宜しく添い寝をする様になり、それが日常化したという  
手は出していないと強調する蓮を横目で見て、普段の様子からしてまぁ嘘はついていないだろうと判断する社  
そして、問題は撮影終了から一週間たった頃に起きた  
 
偶然にも事務所でキョーコに出会えた蓮は上機嫌だった  
出会った途端に手を引かれ、怒涛の勢いでラブミー部部室に連れていかれたりしても…  
「キョーコから手を握られる」というスキンシップに距離の縮まりを感じ、ささやかな幸せに浸っていたのである  
 
「敦賀さん…私…」  
二人きりになった途端、上目遣いで真っ赤になりながら先程の台詞を「やっぱり出来ない」「でも…」と独り言を挟みつつ10回は繰り返しているキョーコ  
いくら学習能力を発達させた蓮ともいえど、期待は高まる  
グッと息を飲んだキョーコは、潤んだ目でこう尋ねた  
 
「敦賀さん…私と寝てくれませんか?」  
 
思考停止  
 
「体感時間で一時間はあった」とは、後の蓮の談である  
 
「あれから…敦賀さんの温もりが忘れられなくって…」  
と意味深な発言をするキョーコだが、あくまでダッコちゃんである  
「最初は、緊張しましたけれど…段々癒されるというか、人肌が恋しいというか…」  
繰り返すが、ダッコちゃんである  
「何時も居てくれたのに、夜の一人寝が寂しくて…段々眠れなくなってしまって…」  
繰り返すが…ry  
「敦賀さんにご迷惑をおかけしたくなくって、一週間我慢したんですけれど…」  
繰り返…ry  
「ご迷惑でしたら他の…」  
「迷惑なんがじゃないよ」  
咄嗟に出た自分の言葉に驚きつつも、脳が覚醒を始める  
折角キョーコと一緒の時間が増えるのに、ここで断り、ましてや他の誰かの所なんかに行かれてはたまらない  
琴南さんなら良いが、無いとは思うが万が一アイツの場合は…最悪だ  
そして…元々はキョーコからの頼みごとであった筈なのに、蓮が言い含める形で連日の添い寝が決定された  
 
…と言う訳である  
 
「それで、寝不足な訳か…」  
「……ええ、まぁ」  
「お前、自業自得って知ってるか?」  
 
帰り際、相方に捕まり部室へ強制連行された彼女は若干不機嫌だった  
キョーコが用意していた菓子があまりに美味しくつい食べ過ぎた事も要因の一つである  
「…なるほどね、だから毎日こんな大荷物抱えてる訳ね」  
鞄に荷物を詰め直しながら、中身を気にする相方に大荷物の理由を聞いたばかりだ  
「うん、着替えとか置きっぱなしにするのはやっぱりご迷惑だと思うの」  
「別に気にしないんじゃない?」  
逆に思い人の持ち物が増えたと喜ぶだろう  
「そりゃ、ゲストルーム使って良いって言っては下さったけど…」  
言い淀む相方はそのままに、先程の会話から浮かんだ疑問を口にする  
「って言うか、敦賀さんに断られたらどうするつもりだったの?あの頃のアンタそれこそゾンビみたいだったわよ」  
「その時は、アノの人に…」  
あぁ、そんな事かとでも言う様に軽く返してくる相方に呆れる  
「はぁ?アンタ敦賀さんの事好きなんでしょうがっ」  
「ちょっ!声が大きいっ!」  
相方が焦って鞄が床に落ち様が知ったことではない  
「だって、他の人って誰よ?!」  
「人って言うか……等身大リアル敦賀さん人形?」  
 
思考停止  
 
「…はっ?」  
やっと出た一言  
「だってね、サイズとか腕の重みとか…」  
その後相方は、延々と如何に敦賀さんとの添い寝が気持ち良いかを語り、それに見合うには「等身大人形しか無い」との結論に渡り、すでに実行済みだったらしい  
しかし、当たり前だか温かみがなく思っていた様な睡眠は得られなかった、その為本人への懇願とあいなった訳である  
「ただ、一つ問題が…」  
「…何よ?」  
呆れて言葉が単調になるが、そこは察して欲しい  
「寝る時は良いんだけど…朝起きた時に、ずっと顔を見られているのが…恥ずかしいの…」  
「…アンタ…自業自得って辞書で意味調べてきなさい」  
 

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