松視点で、祥子さんとの風呂中の考えごとです。
「祥子さんと風呂に入るの久しぶりだな」
「ふふ、そうね」
俺は気が乗らないものの、惰性で祥子さんの豊かな乳房に手を伸ばした。
上京したばかりの頃には巨乳に目がなかった。
祥子さんは、そんな俺が外でスキャンダルを起こさないようにと
事務所がつけてくれたマネージャーだ。
俺が望むことはなんでもさせてくれた。
そう、なんでも。
祥子さんは、あくまでマネージャーの仕事と割り切っている。
後腐れのない、大人の女だ。
年を少しだけ重ねた今では、世の中に巨乳よりも大事なことがあることを知った。
(キョーコ・・・)
キョーコの顔が頭をよぎる。
本当は、祥子さんではなく・・・
俺は頭を振った。
いまさらキョーコが俺を許すはずがない。
あんなひどいことをしたのだから、それも当然だ。
全ては終わった。
自分にできることといえば、キョーコを怒らせて忘れさせないことだけ。
(むなしいな・・・バカだろ、俺)
自分でも馬鹿だと思う。
でも、キョーコは敦賀蓮と日に日に心の距離を近づけている。
俺はもう見ることができないキョーコのお日様の笑顔を
敦賀蓮は当たり前のように見ているのだろう。
ゲームオーバー。
でも、忘れられたくない。
キョーコの心の中から消されたくない。
キョーコの心をどんな形でもいいから占拠したい。
そのためには、もっと嫌われて憎ませるしかない。
馬鹿だ、馬鹿でしかない。
でも、それしかもうできることはないのだ。
「ショー?」
祥子さんが心配そうに覗き込んでくる。
仕事もできるし、俺のことを応援してくれるマネージャー。
なぜだかキョーコのことさえ熱心に応援してくれる。
仕事のためになるなら、キョーコとうまくいってほしいと思っているらしい。
俺と寝たのも、スキャンダルでタレントを潰さないため。
どんなことでも、担当するタレントにプラスになることならやってみせる。
プロフェッショナルといえばそうなのかもしれない。
「ショー、心配事?よかったら話してみて?」
「いや、なんでもない」
なんだか疲れた、と思った。
本当に望むことはそうじゃない。
だけど。
キョーコが俺を憎いと怒っている姿が脳裏をよぎる。
忘れられなければいい?
本当に?
違う、本当は愛されたい。
敦賀蓮のように、キョーコに愛されたい。
キョーコの笑顔が見たい。
キョーコの愛も笑顔も、昔は俺のものだった。
それを当たり前と思い、酷い振る舞いをして捨てた。
当時の自分を殴り倒したい。
完全に調子に乗っていた。
事務所も世間もキョーコも、みんながチヤホヤしてくれた。
天狗になっていた。
ジジイのようなことは言いたくないが、まさに若気の至りだった。
だけど仕方ない。
すべては自分が招いたこと。
だったらもう、この道を行くしかない。
俺は、祥子さんの柔らかな胸に顔をうずめた。