「坊、今日のゲストはあの敦賀蓮だぞ!いつも以上に粗相のないようにな!  
 後お前もDarkMoonでの共演者なんだから、話題作りで後半に出てもらうぞ。  
 着ぐるみ脱いだら手早く出られるように、ちゃんと仕度しておけよ!」  
「・・・はいぃ〜〜・・・」  
 
プロデューサーが出て行った後、私は思考停止してしまった。  
逃げたい。出来ることなら脱兎のごとく逃げ出したい。  
いや、もう坊の胴体を着てるから逃げても足音でばれちゃうケド・・・(汗  
この最悪のピンチに、私は真っ青になっていた。  
 
こんこん。  
崩れにくい様に薄くメイクをし終わると、控え室のドアがノックされた。  
私の控え室にブリッジロックのリーダー、光さんが入ってくる。  
 
「今日の打合せ、もうすぐ始まるよ・・・ん?なんか元気ないね〜・・・大丈夫?」  
「・・・そんなことないですよ☆大丈夫です。  
 でもちょっと緊張してるかな・・・今日のゲスト敦賀さんなんですよね・・・」  
 
「?なーに、キョーコちゃん。君、敦賀さんとはドラマの共演者じゃないか。  
 俺らよりもよっぽど親しいでしょう・・・どうしたの?」  
 
青くなって思いつめた表情の私に光さんは不思議そうで・・・  
 
「スイマセン、お願いがあります!  
 私が坊だって、敦賀さんには絶対言わないでください!」  
「・・・なんでまた?いや、知られたくないなら言わないけどさ。なんかあったの?」  
 
「・・・以前この着ぐるみの格好で、敦賀さんに失礼なことをしてしまったことが・・・  
 その時は恐くて逃げちゃったんです。敦賀さん仕事に厳しい人だし、  
 もしあの時の鶏が私だってバレちゃったら、本当にしこたま怒られちゃうんで、  
 なにとぞなにとぞ黙っていてください・・・お願いします!」  
「敦賀さんって温厚な人って聞くけどね・・・まぁキョーコちゃんがそういうなら、  
 他の2人にも黙っておくように言っとくね。  
 でも、気になるなら早めに謝っておいた方がいいと思うよ?」  
 
「そうなんですけどね〜・・・機会を見て謝ろうと思うんですけど、今はまだちょっと・・・」  
 (・・・言える訳ないじゃない!散々あのヒトのプライバシーに  
 踏み込みまくった怪しい鶏が実は私、だなんて!)  
 
「・・・うん、わかったよ。じゃ、また後でね。」  
にこっと微笑んで光さんは行ってしまった。  
・・・口止めお願いできてよかった〜〜〜・・・ハァ。  
気が重い・・・でもお仕事だもんね、がんばらなくちゃ。  
気を取り直して、坊の頭を持って私は打合せに向かった。  
 
 
「おーい、キョーコちゃんから頼まれたんだけど、  
 敦賀さんにキョーコちゃんが坊だって言わないでくれってさ。」  
 
光からそう言われて、慎一と雄生は顔を見合わせてしまった。  
 
『・・・どーする・・・??』  
『さっきプロデューサーからドッキリやるって言われたばっかなのに・・・』  
『リーダーには言わないでおこうよ。  
 リーダー、きっとキョーコちゃんにネタバレしちゃうと思うし・・・』  
 
「・・・ん?なんだよ、お前ら。こそこそして?」  
「「いや、なんでもないよ?了解、黙っとくね」」  
 
 
 
((キョーコちゃんごめんね・・・))  
 
 
 
さて、「きまぐれ」の収録がはじまりまして。  
敦賀さんのトークもさくさくと進んでいる。  
このまま何事もなく終わってくださーい・・・!  
とにかく最後の方まで、無事にバレずにやり過ごせますように・・・  
 
私は敦賀さんにだけ神経を集中していて、  
いつもよりは周りに気を配っていなかったんだと思う。  
ただでさえ着ぐるみって視界が狭い。  
 
気が付くと敦賀さんと光さんだけテンポ良く会話してて、、  
慎一さんと雄生さんが見当たらない・・・こんなの打ち合わせに有ったっけ?  
 
ゲスト席の脇で待機してると、  
ふとこちらを見た光さんがぎょっとした顔をした。  
ん?何かありました?  
 
・・・後ろからふいに雄生さんの声がした。  
「さて、今日はもう一人ゲストが来る予定なんですが・・・  
 実はもうステージにいるんですよ!」  
 
ぱか。  
 
「あの話題沸騰!DarkMoonでは未緒役の京子ちゃんでーーーす!!」  
 
『えええええーーーー!!!』  
 
え?一体ナニが??なんで会場がいきなり沸いてるの??  
いきなり視界が明るくなったと思ったら、  
呆然としてこちらを見ている光さんと・・・敦賀さん。  
 
・・・あ"・・・  
 
「ごっごごごめんなさーーーーいーーーー!!!(大泣」  
 
もう真っ白。条件反射で私はまっ平らになって土下座DE号泣してしまった・・・  
 
さりげなくブリッジロックの2人が席をはずすと、  
『坊』の後ろに廻りこんだ。そして・・・  
着ぐるみの頭を二人で持ち上げてぱかっと外す。  
 
そこにはきょとんとしたキョーコちゃんが・・・???  
 
・・・え??これは一体どういうことだ?  
キョーコちゃんが・・・鶏の「彼」だって?!!  
 
一瞬頭が真っ白になったが、今は番組の収録中。  
会場のどよめきで俺はとりあえず自分を取り戻した・・・が、  
彼女は真っ平らに土下座しながら固まってしまっている。  
・・・このままだとまずいな・・・  
 
「『京子』ちゃん、顔を上げて?」  
「・・・ふぇ・・・」  
 
・・・涙目で情けない顔してこっちを見上げる君。  
可愛いな・・・なんて思う俺もかなり重症だよな。  
 
俺は分りやすくくすくすと笑いながら、  
心配そうにしてる光君と呆然としてる他の2人に向き合った。  
 
「・・・いやね、俺台本のチェックはいつも一人でやるんですけど、  
 ある時変更箇所で読めない漢字があったんですよ。  
 それでたまたま通りかかった鶏くんに教えてもらったんですけど・・・  
 あの時はすごくウケてくれたんだよね、『坊』?」  
 
「・・・ごめんなさ〜い〜〜〜(泣」  
 
「なんか『坊』から見ると俺って何でも出来るように見えたみたいで、  
 なのに読めない漢字があるってのが変なツボに入っちゃったらしくて・・・(苦笑  
 それに俺、あの頃京子ちゃんに結構厳しく指導してたから・・・  
 ・・・ちょっとだけ仕返し気分もあったでしょ?」  
 
「・・・(汗)・・・ありました〜〜〜(大泣」  
 
「でもその後は結構親切に色々教えてくれてたじゃないか。  
 だからそんなに謝らなくてもいいんだよ?  
 ・・・ほんとそうしてると、とてもじゃないけど  
 あの『未緒』を演ったコとは思えないよね・・・(クスクス」  
 
光君が気を取り直したようにフォローに入った。  
 
「そうなんですよね〜俺、今だに京子ちゃんと未緒が結びつかないですもん。  
 普段はすごく控えめな礼儀正しいコだから・・・  
 そういえば京子ちゃんって、LMEのオーディション受けたときに  
 特技の披露で大根の桂剥きやったってホント??」  
 
「は、はい、ホントです!」  
 
「すごいよね、あれってホントは腕のいい板前さんしか出来ないんでしょ?!  
 今日はソレ見せてくれるんだよね〜じゃ、準備してきてね?」  
 
「・・・はーい〜〜〜」  
 
半分脱力したみたいに彼女が退場していくと、  
光君が雰囲気を戻したトークに入る。  
これで流れを壊さずにすんだかな・・・?  
色々疑問はあるけれど・・・後は、彼女に直接聞けばいい・・・  
 
 
その後はつつがなく収録も終わった。  
周囲と終了の挨拶を交しながら、俺は硬直している彼女を視線で射抜く。  
・・・逃げちゃ、駄目だよ?・・・  
 
さりげなくを装って彼女に歩み寄ると、  
それに気付いた光君が彼女を庇うように俺に向き合った。  
 
「敦賀さん、お疲れ様でした!  
 ・・・あの、俺がこんな事いうのも何なんですけど、  
 彼女さっきも俺に『いつかは謝ろうと思ってるんですけど』、  
 って言ってたんですよ・・・でも大先輩に対して怖くって、って。」  
   
それに便乗して他のメンバーも参戦してくる。  
 
「あの、今日のドッキリってキョーコちゃん知らなくて・・・  
 リーダーはキョーコちゃんに甘いから、  
 俺達リーダーにも教えてなかったんです」  
「いきなりキョーコちゃんが泣いちゃった時は  
 どうしようって思ったんですけど・・・  
 敦賀さんのおかげで滞りなく進行しました!  
 ありがとうございました!」  
 
「・・・キョーコちゃんも、いずれ謝る気だったんだもんね?」  
 
他のメンバーのフォロー?を聞きながら  
光君の優しげな問いかけにもまともに答えられずにいる彼女。  
 
「・・・本当にごめんなさい・・・(泣」  
 
君が言う「ごめんなさい」は彼らが言ってる事とは意味が違う。  
それは俺たちにしか分らない事なのだけれど・・・  
・・・やはり、他の男が君を庇うのはいささか癪にさわる・・・  
 
「・・・確かに驚いたよ。でもまず番組を無事に進行させるのが最優先だろう。  
 そういう意味でも、君の今日の態度は良くなかったよ?最上さん。  
 みんな吃驚しただろうし、ちゃんと他の人にも謝っておくんだよ。  
 ・・・あと・・・今でも俺に詫びてくれる気はあるのかな?」  
 
がばっと音がする程勢いをつけて彼女は顔を上げた。  
 
「・・・はい!もちろんです!」  
「・・・じゃあ、今日夕飯作りに来てくれる?」  
 
「え?そんなことでいいんですか?」  
「いつもならラブミー部のスタンプ付だけど、今日はスタンプなし。  
 完全に君のおごりだよ?」  
 
「そんなの当然です!  
 ・・・分りました、今日のご飯頑張りますね!」  
「いつも充分美味しいけどね・・・  
 じゃ、俺は多分10時位に戻るから、それまで待ってて?」  
 
合鍵を渡しながら俺は彼女にだけ聞こえる様に、  
目を見据えてにっ・・・っと微笑いながら囁いた・・・  
 
「今日の話は長くなるからね・・・?」  
 
そして、意味を察して真っ赤になった彼女と  
俺達の会話を聞いて呆然としてるブリッジロックのメンバーに  
あいさつをして、俺はその場を後にした。  
隣の社さんから非難めいた囁きが聞こえてきた・・・  
 
小声)「お前、あんなあからさまに牽制して・・・(泣」  
 
「キョーコちゃん・・・ご飯って・・・???」  
 
・・・光さんが、恐る恐る私に尋ねてきた。  
 
「あ、ラブミー部の仕事で社さん・・・敦賀さんのマネージャーさんから、  
 たまに敦賀さんの夕食作るの頼まれるんですよ〜  
 敦賀さん放っとくとご飯食べない人だから、って・・・」  
「男の人の所に女の子一人でご飯作りに行かせるなんて・・・  
 いくら敦賀さんが紳士な人だからって・・・(汗」  
 
「以前私敦賀さんの代マネやった事もあるからだと思うんですが・・・」  
 
改めて今日のお詫びと庇ってもらったお礼を言うと、  
「気にしないで?」と皆さんで微笑んでくれたので少しほっとした。  
光さんはどことなく肩を落としているようだけど・・・  
これ以上はどう説明していいのかよく分らなくて、  
後はあいさつだけにしてそのままスタジオを離れた。  
 
きっとびっくりしてるんだよね・・・光さん。  
仕事の相談とかはよくする様になっても  
敦賀さんの話ってした事なかったし・・・  
自分でも、なんて説明していいのかよく分らないの・・・  
 
自分は事務所の後輩で、相手は尊敬する大先輩で。  
最初は嫌い合ってたんだけど段々お互いの誤解も解けたように思えて。  
ふとした弾みで、何かの拍子に抱かれた事があって。  
・・・こういう関係って、一体なんて言い表したらいいんだろう?  
 
・・・まして相手は業界トップの敦賀さん。  
自分と彼との間に何か特別なつながりがあるのかも?なんて、  
今だって考えるだけでも怖い。怖い理由すらよく分らない。  
人目が怖いの?彼のファンが怖いの?  
彼の般若や時折見せる「男」の顔が怖いの?それとも――…  
 
いつもここまでくると私の思考は止まってしまって、一歩も先に進めない。  
でもそれはきっと考えるだけ無駄よ。  
何でも持ってる、何でも手に入るヒトの気まぐれで  
真剣に悩んでちゃダメよ、キョーコ!  
 
私は自分の顔を軽く両手で挟むようにはたいて  
気持ちを夕食作りに切り替えた。  
 
だるまやには「友人のところに泊まります」と連絡をして・・・  
 
予定通りに家に戻ると、美味しそうな香りが漂っていた。  
彼女が来ている時はいつもこうだ・・・  
食後にお茶を入れ、さて何から聞いたものかと彼女を横目で見ると、  
彼女は彼女でお茶に口をつけながら俺の様子を怖々と伺っている。  
 
「・・・『てんてこ舞い』の時の鶏は君だね?」  
 
上目遣いに彼女が小さく頷く。  
 
「俺のこと、大っ嫌いだったんだ?」  
「・・・あの時は・・・あ、でも今は違いますよ!?」  
 
「まぁ俺も嫌われてもしょうがない態度だったしね・・・  
 でも、2回目以降の、俺の悩みを聞いてくれたのも君だろう?  
 ・・・なんで嫌いな俺のことを気に掛けてくれたの?」  
「・・・あの時は・・・敦賀さんは私のこと色々助けてくれたのに、  
 私は敦賀さんに何もしてあげられなくて・・・  
 敦賀さんって誰にも相談とかしない人なのかな・・・って。  
 でも『坊』には随分くだけて話をしていたでしょう?  
 ひょっとしたら『坊』には悩みも話してくれるのかな?って  
 思ったんです・・・それで・・・」  
 
「・・・そう・・・」  
 
君がそうしてくれたのは俺の為、なんだよね・・・  
そして俺は自分の演技を掴んで・・・君に救われて。  
結局俺には・・・君しか見えてない。君しかいない・・・  
 
俯いてしまった君の白い首筋が目に痛い。  
可愛いところを俺に見せ付けるだけ見せ付けて、  
なのに君は未だに俺の気持に何一つ気が付かない・・・  
 
・・・どうしてくれようかこの娘は・・・  
 
俺はため息を一つつくと彼女を抱き寄せ、  
胡坐をかいた俺の膝の上に乗せた。  
まさかいきなりこう来るとは思わなかったらしく、  
彼女の顔が俺を見て引き攣っている。  
 
「俺、今までずっと君に騙されていたんだね・・・?」  
「・・・ごめんなさい・・・」  
 
物凄く申し訳なさそうに彼女は上目遣いで俺を伺っている。  
内心の俺は嬉しくてしょうがないんだけど、顔には出ていないから  
君はどんどん申し訳なさそうに小さくなっていく。・・・可愛い・・・  
 
「・・・そう思うなら、傷心の俺を慰めてくれる?  
 そうだな・・・まずは、君からのキスが欲しいかな・・・?」  
 
「敦賀さん・・・それってセクハラでは・・・」  
 
「君ね・・・君、俺に頭を撫でられるのとか、俺の膝に乗ってる時って  
 結構気持ちよさそうにしてるだろう?それでなんでキスがセクハラなんだ」  
 
「それとこれとは意味が全然違うじゃないですか・・・」  
 
「・・・男からみたら同じだよ・・・」  
 
「そういえば敦賀さん、前に気になる女の子がいるって言ってましたよね?  
 その子に申し訳ないとか後ろめたいとか思わないんですか・・・?」  
 
「・・・全然後ろめたいことなんてないね」  
 
「・・・やっぱり敦賀さんって女性の敵です」  
 
「俺からみれば、君こそ男の天敵だよ・・・」  
 
意味が分らない?という表情の彼女に改めてキスを促すと、  
君は恐る恐る膝立ちになって俺の肩に小さな手を置いた。  
 
なんで君はこの会話で気が付かないかな・・・  
いや、ココまで来てまだ何の告白もしてない俺が  
一番悪いのは充分承知してるけど・・・  
 
俺の「気になる子」は君なんだから、  
他の誰かに後ろめたいなんて思うはずもない。  
そして君はその想像を絶する鈍感ぶりで、  
周りの男をきっと何人も涙の海に沈めてるぞ?  
本当に、罪作りな子だよ・・・  
 
頬に軽く触れるだけのキスをすると彼女は真っ赤になって離れようとする。  
・・・そんなキスだけで逃がす訳ないだろう?  
離れかけた首裏を捕まえて、もっと、と先を促す。  
 
いつもしてるキスを思い出して?  
・・・俺が君にしているみたいなキスをして・・・?  
 
敦賀さんの手で首裏を抑えられて、  
逃げようにも逃げられないまま舌先で深いキスを促された。  
恐る恐る自分の舌を差し込むと、最初は軽く・・・じきに強く吸われて持っていかれて。  
全身の力が抜けてしまう・・・  
 
融けてしまいそうなキスをどの位交わしていたのか・・・  
いつのまにか敦賀さんは私の顔を覗き込んでいた。  
性質の悪い笑みを浮かべて、このまま寝室に行く?と耳元に吹き込まれて。  
 
・・・たーすーけて・・・  
 
「え"〜〜っ、そんなっ・・・今汗かいてますし・・・」  
「・・・じゃあ、先にお風呂入る?」  
 
・・・しぶしぶ頷いて浴室に向かう。  
どうしよう・・・今までだってこういうことはあったけど、  
いつも、その時の雰囲気でなし崩しで、だったのに。  
こんな、これからスルんだ、なんて意識させられたコトなかったのに・・・  
・・・う"〜〜ん・・・恥ずかしいよ・・・  
どうしていいのか分からないまま広い浴槽にぶくぶくと沈んでいると、  
ふいにバスルームのドアが開いた・・・?!!!??!  
 
「つっるつっつ敦賀さん??!!?!」  
 
えええぇえ?!??敦賀さんハ、ハダカですヨ?!  
直視出来なくてすぐに顔を伏せた。なんで、どうして??!  
 
「・・・大丈夫?あんまり音沙汰ないんで溺れたのかと思ったよ?」  
「それは大丈夫ですけど・・・なんで敦賀さんまで入ってくるんですか・・・!(汗」  
 
掛け湯をしている敦賀さんにきゃんきゃん抗議しても。  
・・・聞く耳を持ってくれるはずもなく・・・  
敦賀さんは何食わぬ顔をしてお湯に入ってきた。  
 
こっち見ないでください・・・こんな明るい浴室で・・・恥ずかしい・・・  
浴槽の縁に縮こまって目をぎゅっとつぶっていると、  
大きな手で仰向けになった敦賀さんの胸に引き寄せられてしまった。  
・・・なんか・・・腰に硬いモノが当たっているのですが・・・(泣  
 
「・・・敦賀さん。最近、嫌がらせがひどくなってませんか??!」  
「俺?嫌がらせなんかしてないよ?」  
「じゃあなんでこんなこと・・・」  
「・・・なんでだと思う?」  
 
・・・敦賀さんが強い目で私をじっと見ている。  
なんでだろう、よくわからないけど・・・怖い・・・  
 
彼女の視線を絡めとるようにじっと見つめると。  
・・・彼女は俺の胸の上で硬く目を閉じて縮こまってしまった。  
 
・・・下唇を噛んで・・・ひょっとして、怯えている・・・?  
 
本当は、今俺の気持を言ってしまおうかと思っていた。  
今まで俺のことをずっと励ましてくれていた鶏のキョーコちゃんに、  
俺が気になる子は君なのだと。  
俺がいくら自分の気持ちを拒んでも逃げても、  
結局俺は君に囚われ続けていたのだと。  
 
でも・・・今の君は・・・何が、怖いの・・・?  
 
「・・・君が望んだんじゃないか。『男と女のことが知りたい』って」  
「え?それは・・・一番最初はそうでしたけど・・・でもその後の事って??」  
 
「・・・まさか君、たった一度で全て分かる、なんて思っていないよね・・・?  
 俺は君に教えてるんだよ?覚えてね?」  
「・・・ふぇ・・・そ、そんなのって・・・」  
 
茶化すように話をそらすと、大きな目がふっと開いた。  
背中を宥める様に撫でながら、汗ばんだ額にキスを落としていると、  
硬くなった身体から少しづつ緊張が抜けてきた・・・  
 
「もちろん、俺も役得を楽しんでるよ?」  
 
ニヤリと笑って見せると彼女が真っ赤になって怒り出す。  
・・・その顔の方が可愛いよ・・・?  
俺は先に湯船から出て、椅子に座って髪を洗い出した。  
 
・・・彼女が怖がっていることは・・・  
 
以前にも君のあんな感じの表情を見たことがある。  
あれは・・・君がブリッジロックの光君から告白紛いのことを言われて、  
逃げ出してしまった時に浮かべていた表情にどことなく似ていた・・・  
 
君は・・・「愛されること」が怖いのか・・・?  
 
母親から愛されず、不破に裏切られ・・・  
君は多分君だけに注がれる特別な愛情をほとんど知らない。  
過去の記憶が無いから、知らないから・・・怖いのか?  
・・・受け止め方が分からなくて?  
 
考え事をしながらも髪を洗い終わって  
スポンジで身体をこすっていると。  
・・・後ろから小さな、本当に小さな声が聞こえてきた。  
 
「・・・敦賀さん・・・背中・・・流しましょうか・・・?」  
「ん?・・・じゃあお願いしようかな?」  
 
「・・・後ろは絶対に向かないでくださいね・・・!」  
 
俺の差し出したスポンジにボディソープを足すと、  
彼女は膝立ちになって俺の首裏から丁寧に擦りはじめた。  
 
俺の肩に置かれた小さな手から熱が広がる・・・  
髪の生え際や肩甲骨に沿ってスポンジが動く。  
ちょうどいい強さで、優しい手付きで・・・  
君にされていることがひどく幸せで気持ちよくて。  
 
君はこんなに優しくて、いつも他人の為に一生懸命な子なのに。  
君に救われた人は沢山居て、君の事が好きな人も大勢居て。  
なのに・・・君だけがそれに気が付いてない。心で受け入れていない。  
 
それはひどく切ない事だと。そう、思う――…  
 
 

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