「私がどこで何をしていようが関心のない人だとわかっていても」
「それでも・・・」
「あの人の了承が必要ですか?」
あの時の彼女の顔が忘れられないでいた。
まさか・・・と思う気持ちはある種の確信めいたものがある。
本当の愛を知らない少女。
まさしくラブミー部にふさわしい少女だ。
きっとあの部に入ることで人間としての愛を学んでいくことだろう・・・
しかし、それで本当に彼女は愛されることを学べるのだろうか。
どこかでそんな疑問がひっかかっていた。
たくさんの人と触れあうことで確かに愛を学んでいけても・・・
それでも足りないものがあるはずなのである。
コンコン
「社長?お呼びですか?」
案内に促されて部屋に入ってきたのは、今考えていた少女だった。
華麗なピンクのコスチュームを身にまとい、背筋を正してこちらを見ている。
心配そうな顔は何か失敗をやらかしたのではないだろうか、と不安に思っているようだった。
入ってきた彼女は、部屋を珍しそうに見回した。
別におかしいものは置いていない。
アンティークのシャンデリアをこの間ヨーロッパで見つけて気に入ったので
それをつけているのだが、それが珍しいようだ。
「いやいや、最上君と話したいと思ってね」
笑顔を作って、彼女に席を勧める。
ふかりとしたソファーに身を沈める彼女の目の前に、自分も座る。
「仕事の方はどうだい?」
「あ、はい。おかげさまで順調です」
にこりと笑って、元気よく最上君は答えた。
その笑顔にはあの時の悲しそうな顔は想像できない。
「そうか、それはよかった」
少しだけ安心してそう言ったが、彼女は再び不安そうな顔をした。
「あの、社長。それで・・・お話とは・・・」
一刻も早く呼ばれた理由が知りたいというように彼女はそう言った。
「うん、前に話したご両親のことなんだけどね」
そう言った瞬間、最上君の顔がさっと青ざめた。
「あの人の許可がないと・・・・」
「違う違う。そういうことじゃない」
あわてて否定するとほっとしたように、彼女はため息をついた。
「君に足りていないものは愛だ。だからラブミー部に入ってもらった」
「はい」
折り目正しく彼女は返事をする。まだ顔は緊張したままだ。
「でも、そのラブミー部だけで君の愛が十分になるとは思えない」
何を言っているのかわからないという顔で最上君はこちらを見る。
「だから・・・」
立ち上がって彼女の横に座る。彼女がじりっと後ろに下がった。
「しゃ、社長?」
「僕が君の父親になってあげたらどうかなっと思っているんだ」
「父親?」
すっとんきょうな声を出して彼女は目を見開いた。
「えっと・・・でも・・・社長はマリアちゃんのおじいさまで・・・」
「君は親からの愛情が足りていない」
そう言うと、彼女はすごく悲しそうな顔をした。
「パパって呼んでいいんだよ」
そう言って、彼女の唇に口づけた。
「!!!!」
触れるだけのキス。それに最上君は困惑したようだ。
「え、社長!何を!!」
「ん?マリアにもよくしているんだが・・・・」
そう言って最上君の頭をよしよしとなでる。
肩に手を回し、もう一度軽くキスをした。
真っ赤になって最上君は動かない。
「そそそそそそそ、それはあの、恋人同士がすることで!!」
やっと絞り出した言葉はそれだった。
「単なる挨拶じゃないか」
「違います!!」
そう言って最上君はがばっと立ち上がり、勢いよく礼をした。
「社長さんのお気持ちはわかりました!!でもあたし大丈夫ですから!失礼します!!」
そのまま猛ダッシュで部屋を出て行き、遠くの方でばりんぱりんという音がした。
「そんなに喜ばなくてもいいのに・・・」
ローリィ年齢不詳。どこまでもポジティブな人間だった。