美月は何も言えない。  
分ってる。分ってるからこそ―――…  
 
見せ付けるように、未緒は嘉月に口付けた。  
それはひどく冷たい唇だった・・・  
美月が俯いて去っていくことをどうすることも出来ずに、  
嘉月は未緒を緩やかに自分から引き離した。  
 
「・・・どうしてこんなことを・・・未緒」  
 
未緒のうっすらと微笑む唇だけがひどく紅い。  
 
「決まってるじゃない。憎いからよ。  
 あなたも、美月も、お姉様も両親も。  
 何もかもが憎いからよ。・・・忘れないで。  
 私はいつでもあなたの正体をばらせることを」  
 
「・・・そこまで憎いのに、何もかもを壊す勇気はないんだね」  
 
「・・・そうね、その通りね・・・」  
 
未緒はまるで悪魔殺しの天使の笑顔で自嘲する。  
嘉月はどうしてもそこから目が離せなかった。  
未緒の姿が見えなくなるまで―――…  
 
 
カットの声が掛かっても、キョーコの表情は未緒から戻らなかった。  
 
「最上さん、今日はもう終わりだろう・・・どうした?」  
 
「あ、敦賀さん・・・お疲れ様でした・・・」  
 
俯き加減の横顔にうっすらと涙が盛り上がっている。  
それを見た蓮はキョーコを放っておけなかった。  
 
(本当は、そんな風に深入りしてはいけないのに。  
 でも、俺は・・・)  
 
社に自分の出番を確認すると、しばらくは待機になるようだ。  
監督にキョーコが具合が良くないようだと伝えて  
キョーコを楽屋に連れて行った。  
そっと鍵を掛けて奥の椅子に座らせ暖かい飲み物を勧めたが、  
キョーコはずっと黙ったままだ。  
 
「・・・どうしたの、最上さん?  
 さっきの君は・・・いつもの『未緒』じゃなかった。何故?」  
 
キョーコは俯いたまま・・・少しずつ口を開いた。  
 
私、最初このシーンの演技がよく分らなかったんです。  
 
未緒は何もかもを憎んでます。  
なのに、憎いというだけで嘉月にキスするなんて・・・  
憎いだけじゃ、ないのかな・・・って。  
 
それで、ショータローのこと思い出してたんです。  
ショータローに誰か極秘で好きな人がいて、  
その二人に嫌がらせをするためだけになら?・・・って。  
・・・想像したら、すごく、悲しくて悔しかった。  
でも、これが『未緒』の心象なんですよね。  
 
両親が憎いなら不正を告発すればいい。  
姉と美月が憎いなら、嘉月の想い人をバラせばいい。  
嘉月が憎いなら、嘉月の正体をばらせばいい。  
 
でも、全員が憎いから。・・・何より全てを壊して  
新しい世界を創る事に踏み込めない自分が憎いから、  
未緒はああしているんですよね。  
 
私も、一歩間違えば未緒なのか・・・  
それとも、結局私は未緒そのものなのか・・・  
演じているうちに分らなくなってしまったんです。  
 
私がショータローへの憎しみを捨てることも、  
誰かを愛することも愛されることもありえないんですから―――…  
 
「・・・ふぅん?俺に不破を重ねていたの?」  
 
(それなのに俺はあの悲痛な自嘲の演技に呑まれたのか?)  
 
「・・・それで君はそんなに落ち込んだままなんだ?  
 でも、一つ忘れていないかい?  
 憎いだけなら、・・・悲しくはならないんだよ?」  
 
蓮がキョーコの前に膝を付き、頬に触れた。  
 
「・・・?どういう意味ですか・・・?」  
 
「・・・愛されたい、から、悲しくなるんだ。  
 『未緒』も、そして君も・・・  
 本当にあきらめ切っているのなら悲しくなんかならないし、  
 そんな自分を省みて嘲笑ったりしないんだよ・・・?」  
 
いつの間にか蓮は両手をキョーコの両頬に添えていた。  
真っ直ぐに、射抜くような視線で・・・  
 
「忘れないで。未緒は心の奥底で  
 本当は美月になりたいと切望してることを。  
 本当は愛されたいと悲鳴を上げてるんだってことを・・・  
 ・・・こんな風に、ね。」  
 
蓮は片手をキョーコの髪に差し入れ唇を重ねた。  
しっかりと抱きしめ身動ぎも許さずに唇を舐め、  
声を上げかけた隙に舌をキョーコの奥深くに差し入れて。  
 
本当はさっきもカメラの前でも  
演技にかこつけて貪ってしまおうか?・・・なんて冗談でも思っていた。  
ファーストキスなのだと青くなっていた君をからかう余裕まであったのに。  
 
なのに、君の悪魔殺しの微笑に呑まれてしまって一歩も動けなくなった。  
それが不破を思い浮かべた演技で、  
未だに自分自身も未緒なのだと泣くなんて・・・許せなかった。  
 
キョーコの小さな手が震えながら蓮のシャツを握り締めている。  
キョーコの艶やかな唇と甘い香り、折れそうな身体・・・  
もう、駄目だ。抑えられない・・・っ  
 
ふと唇を話した隙にキョーコが抗議の声を上げる。  
 
「・・・っや、敦賀さん!?どうして・・・っ」  
 
その抗議の声をも呑み込むように、また深く口付けて・・・  
もう止まらない。止める気も無い。逃がさない―――…  
 
キスの熱に当てられてキョーコは次第にぐったりしてきた。  
抵抗したくても腕に力が入らない。  
そして、どこかでもっとキスを欲しがってる自分がいるのが  
恐くて恐くて仕方なくて・・・  
 
嫌なのに。駄目なのに。  
もう男の人にドキドキしたりしないって決めたのに。  
どうしてこんなに身体が熱いの・・・  
敦賀さん、どうして・・・?  
 
「美月になった気持を想像してごらん?  
 これが、未緒が本当は欲しいものだよ・・・?  
 ・・・もっともっと、教えてあげるよ―――…」  
 
蓮はキョーコの首筋を軽く食んだ。  
そのもどかしい甘さにキョーコがぴくりと震える。  
感じやすいんだね?と蓮が囁くと  
いやいやとキョーコが真っ赤になって小さく首を振る。  
その全てが蓮の劣情を煽るだけ煽る・・・  
 
蓮がキョーコのセーラー服をするりと脱がせてしまうと、  
真っ白な肌が上気していた。  
下着の上から形の良い膨らみを撫でさすり、  
隙間から小さな果実をそっと指の腹で転がす。  
キョーコはその度にぴくりと跳ね、潤んだ目で蓮を見つめるけれど・・・  
 
「・・・今、美月ならどうすると思う?  
 思うようにしてごらん。今なら誰も見ていないんだよ・・・?」  
 
そう囁かれて、キョーコは理性を手放した。  
自分の両腕を蓮の背中に廻して、蓮の身体にしがみつく。  
自分に触れる人肌が暖かくて気持ちよくて・・・  
触れられる刺激で少しずつ自分の何かが目覚めていく気がして・・・  
自分がもし美月なら・・・嘉月の全てが嬉しいのだろうと。  
 
私が今このぬくもりを受け入れているのは・・・  
きっと、誰よりも尊敬しているあなただから・・・  
あなたはきっと、私を本当に傷つけたりはしないから―――…  
 
上半身を全て脱がしてしまってぷっくりと色づいた果実をそっと舌でつつく。  
唇で挟むように柔らかく潰し、手で膨らみをぎゅっと持ち上げ  
先端を丁寧に弄ると、そのうちキョーコのため息に甘い悲鳴が混ざり出した。  
 
「・・・ん・・・あっ・・・やぁ・・・」  
 
蓮は乳首を舌の上で転がしながらくすりと微笑った。  
 
「・・・嫌、じゃないだろう?ほら、こんなにココが尖ってきて・・・  
 もっと欲しい、って思ってる証拠だよ・・・?」  
 
「・・・いやぁ、敦賀さん・・・そんな事言わないで・・・っ」  
 
「・・・最上さん、そのまま横を見てごらん・・・?」  
 
キョーコが言われるままに横を向くと、そこには大きな鏡があった。  
膝立ちでキョーコを弄る蓮と、椅子に座ったまま蓮の肩に両手を掛け  
上半身裸で上気したキョーコが全て映されていて・・・  
 
「・・・嫌!?こんな、私・・・そんな・・・」  
 
思わずぎゅっと目を閉じたキョーコの瞼に蓮がそっと口付けた。  
 
「・・・これが美月になった君だよ・・・よく見て?  
 未緒のメイクのままでも・・・こんなに可愛くて色っぽいんだよ?  
 もっともっと・・・そうしてあげる」  
 
蓮は目を閉じたままのキョーコを抱き上げ奥のソファーに横たえた。  
スカートを脱がすとキョーコが腕で身体を隠す。  
その指先を静かに掴んでキスをして、  
蓮はまたキョーコの胸に愛撫を繰り返した。  
 
キョーコが胸の甘い刺激にうっとりと身を任せていると、  
下着の上に蓮の指が滑り込んできた。  
 
「あっ、そんなとこ・・・ダメです・・・」  
 
「ダメ、じゃないだろう・・・?俺に任せて、力抜いて・・・」  
 
蓮が触れたときにはもう湿り気を帯びていた。  
隙間から指を差し入れるとそこはもう熱く潤んでいて・・・  
深いキスをしながら裂け目に沿って指を這わせ、  
尖りを転がしていると奥から蜜がまた滲んでくる。  
下着をすっかり脱がしてしまい  
キツイ中に中指を探るように少しずつ差し込んでいくと、  
キョーコがくぐもったうめき声を上げた。  
 
「・・・痛い・・・?これで俺の中指が全部入ったんだよ・・・わかる?」  
 
「・・・痛くは無いんですけど・・・なんだか、ヘン、です・・・  
 なんだかそこがひどく熱くて・・・あっ・・・そんなところ、ダメっ・・・?!」  
 
蓮は入れた指を少しずつくねらせながら、  
少し先を見せた尖りに口付け舌で剥くように転がした。  
キョーコが蓮の髪を掴んでも、まるで力が入っていない。  
 
「いやぁ、敦賀さん、そんなきたないところ・・・あんっ・・・」  
 
「君にきたないところなんてないよ・・・  
 もっともっと、君が欲しい・・・俺に君をくれるね?」  
 
蓮は嘉月が美月を見る目でキョーコを見つめた。  
キョーコはその目を見て・・・静かに頷いた。  
 
今私が美月になれるのなら・・・どうぞ・・・あげます。  
あなたの目は私を欲しいと言っていて・・・私をいとおしんでいて・・・  
それが今だけでもいい。  
今だけでも、私を美月だと信じさせてくれるのなら・・・  
あなたになら、全てを奪われてもいい。敦賀さん―――…  
 
蓮は差し込む指を二本に増やし、少しずつそこを馴らしていった。  
熱く潤んで、蜜で溢れているそこ。  
蓮が自身を取り出してそっとそこに押し当てると  
キョーコの身体がびくっと跳ねる。  
 
「少し痛いかもしれない・・・俺に掴まってて?」  
 
キョーコが頷くのと同時に、蓮は自身を少しずつキョーコに沈めていった。  
 
「・・・痛・・・あっ・・・」  
 
「キョーコ・・・」  
 
痛みを紛らすように口付け、背中を手でそっと撫でさする。  
でももう止まれない・・・  
 
蓮が全てを沈めてしまうと、二人は同時に息を吐いた。  
つながったところがひどく熱い。  
動くよ、と囁きながら静かに腰を蠢かせる。  
熱く硬いものに押し入られる度にキョーコは少しずつ痛みに慣れ、  
また熱い疼きがどんどん増していくのを身体の奥に感じていた。  
 
キョーコが我慢しようとしても、どうしようもなく嬌声が上がる。  
蓮はキスでキョーコの喘ぎ声を全て受け止め、  
自分の欲望を加速させていった。  
キョーコの喘ぎが切羽詰る毎に締め付けがきつくなり、  
初めてのキョーコに対する労りも  
快感の渦に呑まれて薄れていってしまう。  
ただもうこのまま心のままに溶け合ってしまいたくなって・・・  
 
キョーコが一際強く蓮にしがみつき身体を震わせる。  
くぐもった叫び声を口内で全て受け止め、  
蓮は自身をキョーコから引き抜いて  
白い欲望をキョーコの胸に吐き出した。  
 
蓮の視線の先には脱力しきって荒い息を吐くキョーコ。  
白いものに汚された姿が誰よりも何よりも美しかった。  
愛してる、と囁いた声は届いてはいないようだったけれども―――…  
 
どこからか聞こえる携帯の着信音でキョーコは目を覚ました。  
 
「・・・わかりました、あと10分位ですね?今行きます」  
 
蓮の低い声が近くで聞こえる。  
ぼんやりと周りを見回していると、蓮がキョーコに気が付いた。  
 
「目が覚めた?・・・身体、大丈夫?」  
 
「え・・・どうして・・・あ・・・」  
 
一気に先ほどのことを思い出してキョーコはぼんっと真っ赤になった。  
 
「つっつるつ敦賀さん・・・さっきの、って・・・??!」  
 
「その話は後でゆっくり、ね・・・?俺が終わるまでここで待ってて」  
 
「え、いやそんな・・・そしたらすっかり遅くなってると思いますし  
 敦賀さんハードスケジュールなのにわざわざ送ってもらう訳には・・・」  
 
「ん?送る?とりあえず今日の行き先は俺の家だよ?  
 ゆっくり話をしよう、って言ったろ?  
 第一君、多分今真っ直ぐに歩けないよ。・・・だから、待ってて」  
 
赤くなったり青くなったりを繰り返しているキョーコに蓮は止めを刺した。  
 
「俺に君をくれるんだろう?・・・俺の、美月・・・」  
 
目を廻すキョーコにそっと触れるだけのキスをしながら蓮は思う。  
もう、返せって言っても返してなんかあげないよ―――…  
 

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