「うーん、このスカート短すぎる気が…」
渡された衣裳に着替えて鏡の前で軽くぼやくキョーコ。
確かにそのスカートは短い。そこらの女子高生よりも短いくらいだ。
「まぁかわいいからいっか♪」
鏡の前でくるくる回って一人満足そうに笑う。
今日はクリスマス特番のアシスタントの仕事なのだ。
普段のアシスタントの仕事と言えばにわとりの着ぐるみのキョーコにとってこのサンタの衣裳は嬉しいらしい。
「はっっでも年頃の女の子がこんな格好するなんてはしたない??」
今度は一人で焦り出す。一人でポーズを決めたり青くなったりと忙しいキョーコである。
「そろそろお時間でーす」
呼ばれてスタジオに行くと番組のゲストの敦賀さんと社さんがいた。
「おはようございます!今日はよろしくおねがいします」
顔をあげるとなぜか驚いた表情の鶴賀さんが…
「その格好…」
「あ、これですか?アシスタントの衣裳でサンタなんですよ〜」
無邪気に微笑むキョーコ。
―そのスカート姿で君は人目に晒されるのか…それが平気なのか…?というより…俺が嫌なのか―
「かわいいじゃない、キョーコちゃん。なぁ蓮〜」
にやにやしながら隣を見やる。
「…ああ、そうだね、似合ってるよ」
嘘つき似非紳士スマイルとキラキラフラッシュでにっこりと微笑む。
ひっと身を縮こまさせるキョーコ。
「ふぇ……っ、なっなっ、なんでですかぁ〜???」
―なんでなんでなんでぇぇぇ???―
そんなパニック状態のキョーコをそのままに収録は始まった。
「このコーナーではクリスマスに彼女、彼氏とどんな風に過ごしたいかゲストのみなさんに実演してもらいましょう〜」
アシスタントを彼女、彼氏に見立ててゲストにクリスマスの過ごし方を実演してもらおうというのだ。
(ちなみに男性アシスタントはトナカイの衣裳)
まずはブリッジロックのリーダーとである。
リーダーが希望したシチュエーションは『クリスマスツリーの下で彼女と待ち合わせ』だった。
キョーコは予めだいたいの流れは事前に知らされていた。
スタンバイする前、彼氏を待つ彼女について思いあぐねていると
「や、キョーコちゃん。よろしくね。」
とリーダーが話しかけてきた。
「なんか『きまぐれ』以外の仕事で一緒って変な感じだねぇ〜」
「そうですねぇ、坊の着ぐるみじゃない恰好でこうやって収録でお話してるなんて不思議な感じがします。」
「まぁ俺相手だし、そんなに緊張しなくていいよ」
ぽんっと背中を叩かれ
「は、はぃっ!!」
と背筋を伸ばす。
「ほらほら、リラックス!!」
と次は肩を揉まれる。
そんな二人のやりとりを蓮は声の聞こえないゲスト席から見ていた。
−なんで彼が最上さんと親しげなんだ?…いや、それよりあいつ最上さんに触り過ぎなんじゃないか!?−
すぅっと蓮の周りをダークな空気が包んでいく。
−蓮!!顔!!目がぁぁぁ!!−
収録中では声もかけられない社。
冷や汗だらだら…。
−あぁっ!!どうかこの姿が全国に流れませんようにぃぃぃ…−
ひたすらこの蓮の姿がカメラに捕らえられないことを祈るしかなかった。
ツリーのセットの下でリーダーを待つキョーコ。「まだかなぁ〜」
なんて言ったりして待ってみる。
−彼氏と待ち合わせデートなんてしたことなんてないなぁ………−
何を思い出したのか一瞬キョーコの肩から怨キョが現れたがすぐに引っ込めた。
収録中に怨キョなんて出すわけにはいかないのだ。
ちょうどその時リーダーが
「ごめんごめん、待った?」
と言いながら現れた。
「ううん、全然」
どこかお決まりなセリフでこなしていこうとすると
「うわっ!手ぇ冷えちゃってるじゃん」
キョーコの手をとりハァーっと息で温められてしまった。
−うひゃぁぁぁぁっ!?な、なにぃ!?−
思わぬリーダーの行動に上げそうになった声を飲み込んだが動揺は隠せず耳まで真っ赤に。
「じゃあ行こうか♪」
キョーコの腰に手を回しこれからいかにもデートというところでシミュレーション終了。
「リーダーやりすぎっキョーコちゃん真っ赤じゃないか〜」
真っ赤になるキョーコの様子に司会者がからかう。
「え、あっあのっ…!!」
ひたすらうろたえるキョーコ。
そんな順調な雰囲気の中普段と違った様子で眺める男が一人…普段の柔らかな物腰とは違い、更に周りを黒く染めていく…。
「なんか寒くない?」
思わず蓮の隣のゲストが身を震わす。
それはそうだろう、隣に大魔王が降臨しようとしているのだから。
と、慌てたままのキョーコがスタジオの段差に足を取られた。
「ひゃぁっ!?」
−っっ!!ちょっ…そんな衣裳でこけたら−
ダークオーラを出してたはずの蓮がはっと焦る−−−が、
「おっとぉ!!」
がしっとリーダーが抱き留められこけずにすんだ。
「危ないなぁ、気をつけなきゃ」
キョーコを抱きしめたまま微笑む。
「はわわっありがとうございます」
「いつまでカップルごっこしてるんですかぁ〜??」
すかさず司会者の冷やかしが入る。
−役得かな♪−
と小さな幸せを感じているとなにやら身につき刺さる視線と空気。
固まる体を無理矢理そっちへ向けると温厚と言われているはずの蓮からそれが発せられていた。
目付きは鋭く、冷たくて黒い炎をバックに背負っている…。
まるでその手をとっとと離せと言っているかのようにリーダーは感じる…
「ひっ?」
思わずキョーコから手を離したものの、その場にリーダーは氷像のように固まってしまった。
次々にいろんなゲストが『クリスマスの過ごし方』を披露していく。
もちろんキョーコに必要以上に触れようとした者達はどこからともなく吹き付けられる冷たい空気によって凍らされていったのだが…。
「さて、全国の女性の皆さん、お待たせしました!最後は敦賀さんでーーす!!」
わぁっと盛り上がるスタジオを余所に一人青くなり震える人物が…。
−はぁぁん!敦賀さんとなんて、なぜか怒ってたのに〜−
収録前の蓮の顔を思いだし震え上がってしまう。
ポンと肩を誰かに叩かれ
「ひゃぁっ!」
と後ろをどう見ても怯えた表情で振り返る。
−彼とは親しげだったのになんで俺には…−
「よろしくね、最上さん−−」
キラキラフラッシュで微笑む。
「は、はひ…」
ぴきぴきっと体を石化させ涙をだばーっと流しつつなんとか答えた。
そんな蓮とのシチュエーションは『お家で二人だけのクリスマスパーティー』である。
なんとか体と気持ちを通常モードに戻し挑む。
−恋人同士を演じるんだから…ってご立腹な敦賀さん相手にどうしたらいいのよぅ〜−
縮こまるキョーコの耳元に
「俺に任せて−−」
と囁かれた。蓮を見上げるとキラキラフラッシュな笑顔があった。
「「乾杯!!」」
ケーキを前に二人で仲良くソファーに腰掛ける。
「ケーキ切るね♪」
とキョーコがソファーから腰を上げようとするとぐいっと腕引っ張られた。
「えっ−−−!!」
声を上げた次の瞬間キョーコは連の膝の上に座らされていたのだ。
「な、なな、なぁ−−!?」
「ケーキなんかいいから、ここにいなさい」
ぎゅっと蓮の腕がキョーコの体に回る。
じたばたするキョーコに
「ほら、今は恋人設定なんだから暴れたらおかしいよ?」
小さな声で囁く。
−そんなぁ!−
しかし蓮の言うことももっともで、大人しくするしか道はない。
大人しくなったキョーコの様子にふっと笑う蓮。
−少し狡かったかな?でも他の男に触られるなんて耐えられないんだ−
すっと蓮の片腕、カメラの死角になる側の腕がキョーコの内ももに伸び、つうっとなぞる。
「つ、敦賀さん…!」
小さな声で抵抗をするも
「ほら、変に動くとスカートめくれちゃうよ?」
と言われてしまい、なす術がない。
「せっかく2人きりなんだから、今の時間を満喫しなきゃ」
なんてシチュエーションに合わせて言いながらキョーコの肩に顎を乗せる。
キョーコの肌の感触を楽しみつつ今度は首筋に口付ける。
−なっ、これは嫌がらせかなにかなの??−
恥ずかしさと緊張でもうなにがなんだか解らなくなりつつあるキョーコ。
でも蓮の触れている場所から感じたことのない感覚、くすぐったいような痺れるようなその感覚に戸惑ってしまう。
−っていうかカメラまわってるのに!みんな見てるのに!こんなの見られたらどうするのよぉぉぉ!!−
顔に出せず心で半泣き状態のキョーコ。
「そうだ、ケーキ食べさせて」
「は、はいっ」
これで蓮の腕から逃れられると立とうとするが
「だーめ、このままで」
と離してくれず、またぎゅっとされてしまう。仕方なくホールのままのケーキを一口分とり、蓮の口へもっていく。
「ん、おいしいなこれ」
満足そうに微笑む。
−もし君を手に入れることができたらこんな幸せを味わえるのかな−
「はい、とっても甘々な空気ありがとうございましたぁ。もぉテレビの向こうの女性のとろける姿が目に浮かびましたよ〜。」
シミュレーションの終わりを告げる司会者の声に安堵し、蓮の腕から離れようとした瞬間−−−−
蓮の腕に力が込められたように感じたのは気のせいなのかもしれない。
安堵の表情に戸惑いが浮かんで消え、じとっと蓮を見つめる。
「なんだったんですか、さっきのは!?」
「ん、さっきのって?」
何も知らないという顔でしらっとそんなことを言う。
「さっきのって…あのっ……ぅぅ…」
自分の口からはそんなことは言えないと言わんばかりに口ごもる。
赤くなった顔でじぃっと見つめられ蓮はくすっと笑う。
「なんでか知りたかったら収録終わったらうちにおいで」
「え−−−?」
「そうしたら全部教えてあげる……」