夕食後、たまたま見ていたバラエティー番組のゲストに最近人気の体育会系の若手タレントが出演していた。  
彼は自慢の肉体美を保つ秘訣を、司会のアナらに笑顔で答えている。  
『仕事でジムに通えない時もありますけど、地方ロケが入ってもトレーニングを欠かしませんよ』  
彼のシャツ越しにも分かる隆起した筋肉は、思わず触れてみたくなるほどだ。  
嫌味のない自然なセックスアピールに、画面を通して惹かれてしまう。  
キョーコの表情はいつの間にか物欲しげな表情へと変わっていた。  
「素敵な身体だわ」  
画面に釘付けのキョーコの隣には、黒いオーラを身に纏う蓮がいる。  
「……そうかな?」  
彼女が他の男を褒める。ただそれだけの事がどうしても許せないのだ。  
年上としてのメンツと余裕だけは、失いたくない。  
その一心で嫉妬する気持ちを抑えていた。  
「身体はタレントとしての商売道具だからね。どんなタレントも役者も日々の鍛練は怠らないものだと思うが?」  
「まぁ…それはそうですけど。私、あまり筋肉ムキムキって好みじゃないんですけど、あーゆー感じなら結構好きみたいです」  
この何気なく言ったキョーコの言葉を蓮は聞き逃さなかった。  
 
『私は結構好きみたい』  
 
この一言が男のプライドに火を付けた。  
「ほぅ…それは俺の鍛え方が『彼』より劣っている…と、捉えて良いのかな?」  
裏のある、満面の笑顔がまた一段と怖く見える。  
その額には、微妙に青筋が浮かんでいた。  
「いっ…いえっ!私は決してそんなつもりで言った訳ではなっ…ぁ…」  
何とか怒りを鎮めようと必死で言葉を取り繕ったが、時すでに遅し。  
「君の『男』として、身体の鍛え方なんて意味のない、ほんの些細な事で負ける訳にはいかないなぁ…」  
一気に重くなった空気に耐え兼ねて、キョーコは後片付けを理由に、キッチンへと逃げ込んだ。  
こっそり振り返って様子を窺うと、憮然とした表情で画面を見つめる蓮がいる。  
「やばいわ…アレ…本気怒り…かもぉ…」  
自分が口にした言葉を取り消せるなら取り消したい。  
いくら祈ってみても、一度言った言葉は取り消せるはずもなく、ましてや記憶力抜群の蓮が忘れてしまう事もなかった。  
 
あれから二週間。  
 
蓮の自宅には、個人宅のジム用品の域を超えるマシーンの数々が届いていた。  
「やだ…これ、どうするつもりなの…」  
「どうする…って、全て使う為に買ったんだけど?」  
「今さら鍛えなくなってちゃんと腹筋割れてるんだからもう十分じゃない!」  
 
もう金銭感覚が麻痺しているとしか思えなかった。  
キョーコの言動が全ての原因なのだが、トレーニングルームに入りきらない程買い込む必要があったのか。  
蓮にしては有り得ない突拍子もない行動に、キョーコ自身も戸惑っていた。  
「カタログにあった珍しいものを片っ端から頼んでみたらこうなっただけだが」  
「片っ端から頼んでどうするのよ?マシーンを買うにしても限度があるわ」  
蓮の言葉を軽く聞き流し、置き場所に困る大掛かりな梱包を解いてマシーンをひとつづつ確認していく。  
中には腹筋を鍛える為に座面とポールが付いた物や、バランスを感覚を養う為のボールもあった。  
「もう…すぐムキになっちゃうんだから…」  
「別にムキになんかなってないさ。より愛される為の努力だと思って欲しいな」  
数が多いだけあってゴミの量も半端ではなかった。  
かさばる段ボールを折り畳んで、指定の袋に詰め込む作業が続く。  
 
キリがない作業にも疲れ、まずは一息つこうと、キョーコは近くにあった黒い椅子に座った。  
「…椅子?」  
買ったばかりのマシーンの中に何故、椅子が紛れ込んでいたのだろうか。  
革張りの、座面は固く、座り心地も微妙だ。  
「それもトレーニングマシーンなんだよ」  
「へぇー。どんな?」  
ただの椅子にしか見えないマシーンが、一体、どんな秘密があるのだろう。  
キョーコが黒い椅子型のマシーンに興味を持った事で、蓮は妙案を思い付いた。  
「じゃあ使い方を詳しく教えてあげるから、まずはその椅子を跨いでみて」  
「…やっ…あ…」  
背中をトンと叩いて、キョーコの耳元に口を寄せた。  
囁くような声音で、思わせ振りにマシーンの説明を始める。  
「これはロデオマシーンていうんだ。海外の娯楽特集でよく見るロデオがモチーフなんだよ」  
強引に足を割り開かせ、椅子を跨がせた。  
座ったことで、あいた手の置き場に困ったキョーコは悩んだ末に仕方なく椅子の上部に手を置くことにした。  
股の間に手を挟むような恥辱的な姿勢が、とても可愛い。  
 
椅子を跨ぐという姿勢が、夜の恥ずかしい行為の延長のようだった。  
「やっ…なんか…コレ、変な感じするっ…」  
キョーコの動揺をよそに、蓮はロデオマシーンの付属のリモコンを片手に操作を開始した。  
「大丈夫。振り落とされないようにしっかりバランスを保つんだよ?」  
 
ウィーーン…。  
怪しげな機械音がしたと同時に、ロデオマシーンが前後ゆ揺れた。  
「なっ…ちょっ!!いっ…やぁあ!なにこれっ…」  
前後、左右、上下。様々な動きで揺れ始めたロデオマシーンは初めはゆっくりしていたが、次第にその速度を増していく。  
「手、離しちゃダメだよ」  
 
「いや、ぁ!あ!」  
キョーコの表情は、怯えと動揺、好奇が交互に入り交じっている。  
ロデオが激しく揺れる度に腰が跳ね上がり、太股がビクッと痙攣していた。  
「ぁ!…やっ…も…」  
 
途切れ途切れの声音は甘い。蓮の中で、ロデオの動きの激しさが、昨今の情事の際にキョーコの身体を思いのままに揺すぶった瞬間にシンクロした。  
「キョーコ…どこが気持ちいいか分かるか?」  
「いっ…ぁ…わかっ…んなぁ…ぁあっ!」  
ぼんやりした頭の片隅に、蓮の言葉が入り込んできた。  
たかがロデオ。  
トレーニングマシーンのロデオに乗っただけで、キョーコの下着がじわりと濡れる。  
 
座面に擦れる度に、意味もなく声を漏らした。  
蓮の思うツボだと分かっていても。  
ロデオに翻弄されるばかりでロクに抵抗も出来ない。  
「んっ!…れっ…蓮っ…もぉ…無理ぃ…!」  
背後から回った蓮の手が、無防備な胸を掴む。  
「もっと俺の名前を呼んで」  
着ていたキャミソールの隙間からそっと指を忍ばせブラの上から乳首を摘んだ。  
「…蓮っ…だめ…ぁ!…ッ…蓮っ…いやぁ…っ!」  
絶妙なタッチで指が蠢く。  
その指遣いに、キョーコは堪らないといった表情を浮かべながら泣いてしまう。  
ロデオを跨ぎながら快感を得ている様は、蓮しか知らない淫らで奔放なキョーコの本質を露呈しているようだ。  
「キョーコが『好き』なのは俺だろう?常に一番でありたい俺は、例え身体つきひとつでも、誰かに劣るのは許せないんだ」  
 
独占欲。  
それはキョーコと出会ってから初めて抱いた感情。それまで知らなかったその感情は、時にどうしようもない程に身の内で暴れ狂う。  
「…だから、キョーコも俺の前で他の『男』を褒めたりしないでくれ」  
お願いだから…と。祈るような気持ちで、キョーコに言い聞かせた。  
 
「わっ…わかったから!!…もっ…も…ぁあ…あぁ!!」張り詰めていた糸が切れ、身体が弛緩する。  
ロデオマシーンの電源を切った蓮は、背中から抱き抱えるようにキョーコを支えた。  
どうやら直前に達してしまったらしく、虚ろな目つきでひたすら荒く呼吸を繰り返している。  
「…ンッ…蓮…」  
下着をまさぐると、ぬめった感触が指に絡まった。  
抱き上げてみると、ロデオの座面に透明な滴が溜まっている。  
「俺のお姫様は物凄くエッチなんだな」  
胸に擦り寄るキョーコの額にキスをして、もう一度下着の中に手を忍ばせた。  
「…俺も…な」  
眠っているキョーコ相手に欲望が止まらない。  
蓮は自嘲気味に笑みを浮かべていた。  
 
―――終。  
 

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