不破松太郎。
私が好きになった男は身勝手極まりない男だった。
不破尚。
それは芸能界で生きる為に名乗った松太郎のもうひとつの名前。
私は、どっちの『ショウ』を好きになったのか。
今はもう分からなくなってしまったけど。
憎さと紙一重で好きな事は今も変わらない。
都心の一等地にあるこのマンション。
それは以前、ショータローの為にわざわざ借りたマンションよりも月々の家賃ははるかに高い。
それでも借りれるようになったのは、私が女優兼タレントとして仕事をしているからだ。
こうして今日もドラマ撮りの仕事を終えて、いつやって来るか分からない相手を待っている。
「はぁ…疲れたぁ…」
携帯の新着メールを読んで急いで帰って来たので、夕飯はまだ食べていない。
「それにしても…一体何なのよ!このメールは!」
『プリン食いに帰る。ちゃんといつもの買っとけよ』
買うもんか!
と、一度読んだメールを無視したが、仕事終わりにコンビニでプリンを買ってしまう辺りが実に情けない。
コンビニ袋から取り出したプリンをふたつ並べて眺めていると、玄関の方からガタガタと物音がした。
「来たわね」
閉めたはずのドアが開く。
鍵を持っている男が帰って来たからだ。
「おいキョーコ!玄関くらい開けとけっての!」
「うるさいわねー!いちいちアンタの為に開けとく訳ないじゃない!」
会えばまず最初に、些細な事で怒鳴り合う。
これが日課だったりする。
「外は寒ぃんだっつーの!てめぇは仕事から帰って来た俺様を黙って優しく温かく!迎え入れろよな!」
根っからの亭主関白タイプのショータローの、私に対する要求が日増しに多くなっていた。
風呂は主人が先に、食事も事前に用意しておけ…と。
ホント時代錯誤な男だ。
「もー…分かったわよ。そんなに騒ぐなら買って来たプリンあげないからね」
目の前でプリンをちらつかせると、ショータローの怒りはどこかに飛んでいった。
子供みたいに騒いでは暴れる。
「それはダメだ!早くプリンを寄越せっ」
「分かったから大人しく座っててよ」
ショータローは本当に手がかかる男だ。
プリンひとつで機嫌を直してくれるから別にいいけど。
「…あぁ、…久しぶりのプリンは最高だったなっ!」
「そっ。良かったわね」
素っ気無い返事をしてスプーンを片付けようと立ち上がると、ショータローに手を引っ張られた。
「なっ…何?」
「気分も良いし、あとはお前を食って寝るわ」
いつになく真剣な顔をして私を見つめている。
「私は食べ物じゃ…」
スローモーションで、ショータローの顔が近付いて来て、一瞬、身体が強張った。
唇が触れる時、吐息が肌に触れる感触が、した。
「ぁ…ッ…んふっ…」
歯の間から舌が侵入し、口内を自由にはい回る。
舌を甘噛みし、じわっと湧いた唾液を啜り合った。
緊張を解く為に、背中に腕を回して安定した体勢に変えてくれる。
こんなショータローでも、キスする時は優しい。
「…っ…はぁ…」
だからこそ憎くて仕方なかったショータローを許す気になった。
「お前…そんな目で俺を見るなよ…」
「…だって……」
「このままだと止まんなくなるから…俺を見るな…」
「ショー…っ」
視界がショータローの手のひらで遮られた。
もう何も見えない。
でも、妙に安心している私がいる。
「ショーの手…前よりおっきくなったね」
「いつの話をしてるんだ。ガキの頃から何年経ったと思ってんだよ」
下着に手をかけられても、抵抗はしない。
ただ、されるがまま。
「昔は平らだったのに…ちょっと乳デカくなった?」
「っ…うるさいっ!」
両手で包み込むように、胸に触れる。
感触を確かめるかのように時折、軽く掴む。
首筋に舌が這い、鎖骨を通って胸へと辿りついた。
濃いピンク色に色付いた突起に、舌が絡んだ。
「ひっ…やぁっ!…ぅ」
その行為は赤ちゃんへの授乳のようで、どうも慣れない。私の動揺など構わずにショータローは突起を唇に挟み、歯と舌を器用に使って刺激してくる。
「いや、んっ…ひァ…ぁあぁあ…ッッ…」
背が弓のように反った。
感じる快感と連動して、声もひっきりなしに漏らしてしまう。恥ずかしいのに、甘い声を止められない。
「……キョーコ…」
スカートを無造作に捲り上げ、下着の隙間から指が入ってきた。
柔らかな薄い茂みをかき分けて割れ目にショータローを感じる。
固く長い指が、ぬめりの滴るソコへ押し入った。
「力、抜けよ」
「いっ…た…ぁ」
何回シテも全然慣れない。
私の身体はいつもこう。
拒んでいる訳ではなくても、指一本で痛みを覚えてしまっている。
「…ごめ…ん…ね」
「いちいち謝んな。俺は絶対諦めねぇし」
私の葛藤を知っているショータローは、こんな時、すごく優しくしてくれる。
奥まで入れずに、浅い箇所をゆっくりと辿ってくれる。
私の痛みが治まるまで。
優しく何度も、何度も。
私が甘い声でショータローの名前を呼ぶまで。
「はぁ…ァ…ッ!ん!」
首筋に腕を回し、ショータローにしっかりと抱き付く。
もう、どんな事があっても離れないように。
「…キョーコ……」
耳に触れる吐息。
ショータローの肩口に顔を埋め、私は心地良い快感に浸っていた。
「……ごめん」
それは、私が好きになった松太郎と尚の声。
「前…さ、家政婦とか言って…悪かったよ」
何故、今更になってそんな事を言い出したのか、私には分からない。
だけど、私は嬉しかった。
「ショー…ちゃん」
ふたりの『ショウ』が私に謝ってくれた。
たった一言。
それだけで、憎むべき恋が愛しい恋へと変わったのだから。
―――終。