湖の畔に、キョーコは座っていた。
夕日が空を、湖をオレンジに染めて、夜とは違う美しい表情を見せている。
ぼんやりと、昨夜のことを思った。
強引なセックスだった。
だけど、不思議と怒る気にはなれない。
それどころか、あの今にも泣き出しそうな尚の顔が、キョーコの頭を離れない。
美しい景色とは裏腹に、キョーコは重いため息を一つ吐いた。
せっかく、尚のことを吹っ切れそうだったのに……。
「奇遇だな」
気配もなく声をかけられて、キョーコは口から心臓が飛び出しそうになった。
どぎまぎしながら恐る恐る振り向くと、怪しげな笑みを浮かべた長身の男が一人立っていた。
見覚えはある。が、すぐに誰かは思い当たらない。
「最も、昨日もここで君をみかけたけど。お取り込み中だったようだから」
…………っっっ!!!!
昨夜のことを目撃されたショックと、その人物を思い出したのとで、キョーコは勢いよく立ち上がりその場から離れようとした。
「させない」
男はキョーコの腕を掴み、自分の身体に引き寄せた。
「なっ……何すんのよ!離しなさいよ!」
「断る」
そのままキョーコの身体をがっちり抱きしめて捕まえる。
「だいたい何でアンタまでこんなとこにいんのよ!」
ばたばたと威勢よく暴れ、キョーコはその腕から逃れようとする。
「"ビーグル"!」
「……ビーグール」
呆れたように、ビーグールの超霊能力者レイノは言った。
「せっかく不破を追いつめられそうだったのに……君のおかげで台無しだ」
「何の話しよ!」
キョーコはなんとか逃れようと暴れ続けたが、レイノの腕はびくともしない。
「まあ……そのぶん君を利用すれば簡単に不破を乗っ取れそうだけど。例えば……」
レイノの右手が下がってゆき、キョーコの太股に触れる。
「こんな風に」
「………!」
―――ぞぞぞっ。
尚に触れられた時とは全く別の感覚がキョーコの身体を駆け抜けた。
……気持ち悪い!
「やっ、やめてよ!痴漢!変態!」
「酷い言われようだな……不破とは大違いだ。そんなに不破が好きか」
わざと耳元でレイノが囁く。
快感と嫌悪感の混じった寒気がキョーコの身体を浸食していく。
「なっ、なんで私が……あんなやつ……っ」
「不破より気持ちよくしてやる……」
レイノの手がゆっくりとキョーコの太股をなぞり上げる。
キョーコが悲鳴を上げようとした瞬間、何か生暖かいものを耳にねじ込まれた。
「ひぁっ……」
ゆっくりと味わうように、レイノの舌がキョーコの耳を舐め上げる。
それまでの嫌悪感がいっぺんに快感にかわり、キョーコの身体から抵抗が消えた。
もう悲鳴を上げることもできない。
何これ……!
嫌なのにっ……どうして気持ちいいの……!
ぞくぞくと快楽が押し寄せる。
レイノの指がキョーコのショーツに触れると、それだけでそこがじゅんと湿った。
「はな……してっ」
ギリギリで残っていた理性を振り絞り、キョーコが最後の抵抗をする。
「無理な話だ。俺から逃れられる女なんていない」
さも愉快なものを見るように笑いながら、レイノはキョーコのショーツに指を這わせた。
「ん……んっ!はぁっ」
すっかり脱力したキョーコの身体を支えながら、レイノは左手でキョーコの首筋をなぞった。
それだけで、なぞられた部分がキョーコにぞくぞくと強い快感を引き起こす。
何なの……これ!
触られただけなのに……何も……かんがえられな……っ
レイノの左手はそっとキョーコの左胸を包み、右手はショーツをずらして敏感な部分に触れた。
そこはもう充分すぎるほど潤って、熱くなっていた。
「んはぁっ!」
潤いを確かめるようにレイノの指が動き始めた。
敏感な部分を蠢く右手に加え、左手で服の上から乳首を責められ、キョーコはもう何も考えられなくなっていた。
ただ、押し寄せる強い快感に身を任せるしかなかった。
「ああ……あんっ、はぁんっ、んんっ!」
キョーコが感じていることにレイノは満足そうな笑みを浮かべ、いよいよその指をキョーコの中へと侵入させた。
「あぁっ!!やぁああ!!!!」
びりびりと強い刺激がキョーコの身体を駆け抜けた。
味わったことのない刺激だった。
昨夜の、生まれて初めての尚とのセックス以上に、キョーコは感じていた。
「感じているな……簡単に入る」
耳元で囁くと、レイノはその感触を確かめさせるようにゆっくり指を動かした。
驚くほど容易くレイノの指を受け入れ、キョーコのそこはいやらしい音を立てた。
「んんっ!はぁ……んっ!あぁぁ……っ!」
レイノの指がキョーコの身体を突き上げるたび、電撃が走る。
それは徐々に高まっていき、あっという間に頂点に達しようとしていた。
「あぁ……あぁっ!だめ、だめぇっ!」
「だめ? そうか……こっちがいいんだな」
レイノはびくびくと身体を震わせるキョーコから指を抜き、キョーコの右手を掴んで服の上から堅くなった自分のモノを触らせた。
正気であれば抵抗したはずだが、レイノの愛撫にすっかり翻弄されていた今のキョーコに、抗う術はなかった。
「ふぁっ……」
「安心しろ……今入れてやる」
レイノが自分のズボンに手をかけた、その時だった。
ゴスッ……。
鈍い衝撃で、レイノの身体は地面に叩きつけられた。
どうやらわき腹を蹴られたらしい。
その攻撃の主は解放されたキョーコの身体を抱き止めて、レイノの前に立ちはだかった。
「……っ!」
思ったより早いお出ましだったな……。
思って、レイノが顔を上げると、そこには予想だにしなかった人物が立って自分を見下ろしていた。
――敦賀……蓮?!
「………。」
蓮は殺意さえ窺えるほど冷酷な表情で、レイノを見下ろしていた。
驚いた……まさかこんな大物までこの子のことを……?
「……ぐっ!」
レイノのわき腹にもう一発、大魔王の蹴りが入る。
キョーコが離れたせいか、今度のは強烈だった。
「……どこの誰だか知らないが……二度とこの子に近づくな。次は容赦しない」
普段メディアで目にする敦賀蓮からは到底想像できないような、恐ろしく凶悪な態度だった。
それが蓮のキョーコに対する思い入れを物語っている。
蓮はキョーコを抱えたままその場を去ってゆき、暗くなり始めた湖にはレイノだけが残された。
「……ふっ……ははは」
どこからともなく、笑いがこみ上げてくる。
全く……本当に面白い女だ。
不破だけでなく、敦賀蓮にまで取り入っているとは。
「益々欲しくなった」
遊び道具を見つけたとでも言うような笑みを浮かべて、レイノはそう呟いた。